51 / 60
仄暗い影 4
しおりを挟む
Wolfgangが所属する音楽事務所は、世田谷警察署から国道246号線を横断し、観音通りを日大三軒茶屋キャンパスに向かう途中の雑居ビル三階にある。世田谷署刑事の案内で、煤けたコンクリート打ちっぱなしのビル前に立った大木は、心の中で『よしっ!』と、自身に気合いを入れてから階段を上った。
「株式会社 佐山エージェンシー、此処ですね」
インターホンを鳴らし身分を名乗ると、顎の無精髭を綺麗に揃え、薄めの丸いサングラスをした短髪の中年男性がドアを開けた。
「私が佐山ですが、どのようなご用件でしょうか」
「先日の、三島市民文化会館で行われたWolfgangコンサートについてお聞きしたいことがありまして、椎名 恭平さんはこちらにいらっしゃいますか」
「恭平のことで、何か……、実はコンサートの翌日に奴がここに戻った後から、連絡が取れなくなっちまって。恭平に何かあったんですか」
「連絡が取れていない……」
大木の訝しげな表情を確認すると、佐山は周りを気にしながら、
「こちらにどうぞ」
と、二人を中に案内した。
音楽事務所とは思えない殺風景な10坪程の室内には、無機質なコンクリート壁側に段ボール箱が無造作に積まれ、中央に長テーブルと数脚のパイプ椅子、奥壁窓の前に社長用のデスクと、それに不釣り合いな豪華なリクライニングチェアーがあるだけだった。
大木が事務所内を見回していると、
「すみませんね、引っ越したばかりで片付けてないもので」
と、佐山が頭を掻いた。
「引っ越したと言うと、以前はどちらに」
「はい、私の自宅を事務所にしていましたが、本格的にコンサート活動を開始してからはここを拠点としています。三島での公演はその第一弾で」
「そうなんですね。実はコンサート当夜、鑑賞した女性が三島駅前のビルで殺害されまして、出来ればコンサートスタッフの公演後の足どりをお聞かせ願えればと」
「ああ、それなら全国ニュースで観ましたよ。私らもびっくりして……しかしなぜ、我々に関係があると……」
「捜査上、詳しいことはお伝え出来ません。社長さんも同行されたのですか」
「そうですか……。私は社長とはいえ、立ち上げたばかりの音楽事務所ですからね、ほかのスタッフ、ミュージシャンと共にローディーも兼ねているんです。ライブハウスと違い会場でのコンサートとなると、2トントラックで機材の手配から積み下ろしなど」
「コンサート終了後はどうしてましたか」
「会場の借り時間が22時迄でしたから、スタッフと一緒に大急ぎで片付け作業に追われてました。その後は現地解散で、ミュージシャン以外のスタッフは、と言っても私以外に二名ですが、トラックで一緒に帰りました。恭平以外は、コンサート用に手配した雇われミュージシャンで、こちらが用意した新幹線のチケットを使って帰ったと思いますが」
「ミュージシャンは何名ですか」
「ドラムにベース、ボーカルの3名とピアノの恭平です。恭平以外は一緒に帰った様で、品川到着後にベース担当から連絡がありました」
「恭平さんだけ、別行動だったんですね」
「あいつはいつもそうです、他の連中との馴れ合いを極端に嫌っていて。多分、車両を変えたか、別の便で帰ったか……」
「株式会社 佐山エージェンシー、此処ですね」
インターホンを鳴らし身分を名乗ると、顎の無精髭を綺麗に揃え、薄めの丸いサングラスをした短髪の中年男性がドアを開けた。
「私が佐山ですが、どのようなご用件でしょうか」
「先日の、三島市民文化会館で行われたWolfgangコンサートについてお聞きしたいことがありまして、椎名 恭平さんはこちらにいらっしゃいますか」
「恭平のことで、何か……、実はコンサートの翌日に奴がここに戻った後から、連絡が取れなくなっちまって。恭平に何かあったんですか」
「連絡が取れていない……」
大木の訝しげな表情を確認すると、佐山は周りを気にしながら、
「こちらにどうぞ」
と、二人を中に案内した。
音楽事務所とは思えない殺風景な10坪程の室内には、無機質なコンクリート壁側に段ボール箱が無造作に積まれ、中央に長テーブルと数脚のパイプ椅子、奥壁窓の前に社長用のデスクと、それに不釣り合いな豪華なリクライニングチェアーがあるだけだった。
大木が事務所内を見回していると、
「すみませんね、引っ越したばかりで片付けてないもので」
と、佐山が頭を掻いた。
「引っ越したと言うと、以前はどちらに」
「はい、私の自宅を事務所にしていましたが、本格的にコンサート活動を開始してからはここを拠点としています。三島での公演はその第一弾で」
「そうなんですね。実はコンサート当夜、鑑賞した女性が三島駅前のビルで殺害されまして、出来ればコンサートスタッフの公演後の足どりをお聞かせ願えればと」
「ああ、それなら全国ニュースで観ましたよ。私らもびっくりして……しかしなぜ、我々に関係があると……」
「捜査上、詳しいことはお伝え出来ません。社長さんも同行されたのですか」
「そうですか……。私は社長とはいえ、立ち上げたばかりの音楽事務所ですからね、ほかのスタッフ、ミュージシャンと共にローディーも兼ねているんです。ライブハウスと違い会場でのコンサートとなると、2トントラックで機材の手配から積み下ろしなど」
「コンサート終了後はどうしてましたか」
「会場の借り時間が22時迄でしたから、スタッフと一緒に大急ぎで片付け作業に追われてました。その後は現地解散で、ミュージシャン以外のスタッフは、と言っても私以外に二名ですが、トラックで一緒に帰りました。恭平以外は、コンサート用に手配した雇われミュージシャンで、こちらが用意した新幹線のチケットを使って帰ったと思いますが」
「ミュージシャンは何名ですか」
「ドラムにベース、ボーカルの3名とピアノの恭平です。恭平以外は一緒に帰った様で、品川到着後にベース担当から連絡がありました」
「恭平さんだけ、別行動だったんですね」
「あいつはいつもそうです、他の連中との馴れ合いを極端に嫌っていて。多分、車両を変えたか、別の便で帰ったか……」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
無限の迷路
葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
推理の果てに咲く恋
葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽が、日々の退屈な学校生活の中で唯一の楽しみである推理小説に没頭する様子を描く。ある日、彼の鋭い観察眼が、学校内で起こった些細な出来事に異変を感じ取る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/mystery.png?id=41ccf9169edbe4e853c8)
聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生だった。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。
尖閣~防人の末裔たち
篠塚飛樹
ミステリー
元大手新聞社の防衛担当記者だった古川は、ある団体から同行取材の依頼を受ける。行き先は尖閣諸島沖。。。
緊迫の海で彼は何を見るのか。。。
※この作品は、フィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
※無断転載を禁じます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
ミステリH
hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った
アパートのドア前のジベタ
"好きです"
礼を言わねば
恋の犯人探しが始まる
*重複投稿
小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS
Instagram・TikTok・Youtube
・ブログ
Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる