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流浪の運命 7
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『父さん、ごめんなさい。僕は父さんの期待には応えられそうにありません。父さんには感謝しているよ、でもね、僕の生きる場所はここでは無いんだ。わかるんだよ。このままでは父さんを失望させてしまうのは目に見えてる、それに僕も、試練の狭間に潰れてしまいそうだ。だからね父さん、僕はここから出てくよ。心配しなくても大丈夫、一人でもやって行けるから。父さんから授かったピアノの技術、これは僕にとって唯一の武器であり、宝だ。こいつを活かして生きて行くつもりさ。だから、僕を探さないで下さい。その代わりに手紙を書きます。定期的に書くから、どうか、赦して下さい』
・・・
(あれから5年か……)
「恭平、ついにオファーが来たぞ、アッシュ・ハーパーからだ。場所を聞いて驚くなよ……」
「あぁ、アッシュからか。何て言ってきたんだい」
「12月20日、場所はマンハッタン、ヴィレッジヴァンガード! ワンウィークライブだ。ゲストプレーヤーとしての参加だが、アッシュとの共演だ、話題になる」
「ヴィレッジ……ヴァンガード、本当か……」
「あぁ、本当だとも、収録も予定されている。こいつがお前の世界デビューとなる。新曲も聴いて貰った、パーフェクトだとさ!」
「ハハッ、それは良かった」
「なんだそれだけかい、もっと喜べよ。アッシュのギターとのセッションライブだぜ。しかもクリスマスウィークのナイトステージだ、ニューヨークいや、アメリカ、いやいや、世界中のアーティストが注目するぞ」
(ついに、ここまで来た……ながかった)
「いいか、日本を離れる迄はオフレコでいく。しかし、現地では噂が先行するだろうがな、へへっ、今から楽しみだ。凱旋帰国の時は覚悟しておけよ。12月に入ったら渡米する。それまでの日本スケジュールだ」
「これは……」
「あぁ、ライブハウスではない。全てコンサート会場を押さえてある。300席以上のな。心配するな、プロモーションは任せてくれ。金は掛かるが、こっちにいるうちに、少しでもお前の知名度を上げておきたいからな」
「新曲は、いつから演奏出来るんだい」
「アッシュからは、ヴィレッジヴァンガードのライブ収録のCDでお披露目したいそうだが、こっちのコンサートで演奏するのは構わんだろ。コンサートパンフレットの最終頁に新曲の歌詞を差し込むつもりだ。構成を考えといてくれ」
「それは、良かった」
「俺の目に狂いは無かったな。神楽坂のライブハウスで、初めてお前のプレーを見た時のことを今でも覚えているよ。お前の目はまるで野良犬のように鋭く、しかしその奥に、狼の如く孤高の哀しみを湛えていた」
「…………」
「容姿と雰囲気は合格だ。こんな奴が、どんなピアノを弾くのかと興味をそそられたが、実は期待はしていなかったんだ。大抵が荒削りの、基礎も出来ていないような輩ばかりだからな。勢いで誤魔化すような」
「そうかい……」
「しかしお前は、まんまと俺を出し抜いた。素晴らしかったよ。特に『Autumn Leaves』。ヒギンズの安定感と、エヴァンスの奇策とを持ち合わせた、しかも、青く静かに燃えるようなソロに、ローランド・ハナを見た気がした……全く見事な演奏だった。そうそう、いきなりのショパンには面を食らったがな」
「フフッ……確かにローランド・ハナは美しい。が、僕にとっての神は、グレン・グールドなのだが……」
(なんて日だ……最高のバースデープレゼントだぜ。生きてりゃこんな日が来るんだな)
「父さん、ニューヨークから戻ったら手紙を書くよ。すまないな、もう……三年も連絡していなかった」
「ん、恭平、なんか言ったか」
「いや、何でもない」
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『父さん、ごめんなさい。僕は父さんの期待には応えられそうにありません。父さんには感謝しているよ、でもね、僕の生きる場所はここでは無いんだ。わかるんだよ。このままでは父さんを失望させてしまうのは目に見えてる、それに僕も、試練の狭間に潰れてしまいそうだ。だからね父さん、僕はここから出てくよ。心配しなくても大丈夫、一人でもやって行けるから。父さんから授かったピアノの技術、これは僕にとって唯一の武器であり、宝だ。こいつを活かして生きて行くつもりさ。だから、僕を探さないで下さい。その代わりに手紙を書きます。定期的に書くから、どうか、赦して下さい』
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(あれから5年か……)
「恭平、ついにオファーが来たぞ、アッシュ・ハーパーからだ。場所を聞いて驚くなよ……」
「あぁ、アッシュからか。何て言ってきたんだい」
「12月20日、場所はマンハッタン、ヴィレッジヴァンガード! ワンウィークライブだ。ゲストプレーヤーとしての参加だが、アッシュとの共演だ、話題になる」
「ヴィレッジ……ヴァンガード、本当か……」
「あぁ、本当だとも、収録も予定されている。こいつがお前の世界デビューとなる。新曲も聴いて貰った、パーフェクトだとさ!」
「ハハッ、それは良かった」
「なんだそれだけかい、もっと喜べよ。アッシュのギターとのセッションライブだぜ。しかもクリスマスウィークのナイトステージだ、ニューヨークいや、アメリカ、いやいや、世界中のアーティストが注目するぞ」
(ついに、ここまで来た……ながかった)
「いいか、日本を離れる迄はオフレコでいく。しかし、現地では噂が先行するだろうがな、へへっ、今から楽しみだ。凱旋帰国の時は覚悟しておけよ。12月に入ったら渡米する。それまでの日本スケジュールだ」
「これは……」
「あぁ、ライブハウスではない。全てコンサート会場を押さえてある。300席以上のな。心配するな、プロモーションは任せてくれ。金は掛かるが、こっちにいるうちに、少しでもお前の知名度を上げておきたいからな」
「新曲は、いつから演奏出来るんだい」
「アッシュからは、ヴィレッジヴァンガードのライブ収録のCDでお披露目したいそうだが、こっちのコンサートで演奏するのは構わんだろ。コンサートパンフレットの最終頁に新曲の歌詞を差し込むつもりだ。構成を考えといてくれ」
「それは、良かった」
「俺の目に狂いは無かったな。神楽坂のライブハウスで、初めてお前のプレーを見た時のことを今でも覚えているよ。お前の目はまるで野良犬のように鋭く、しかしその奥に、狼の如く孤高の哀しみを湛えていた」
「…………」
「容姿と雰囲気は合格だ。こんな奴が、どんなピアノを弾くのかと興味をそそられたが、実は期待はしていなかったんだ。大抵が荒削りの、基礎も出来ていないような輩ばかりだからな。勢いで誤魔化すような」
「そうかい……」
「しかしお前は、まんまと俺を出し抜いた。素晴らしかったよ。特に『Autumn Leaves』。ヒギンズの安定感と、エヴァンスの奇策とを持ち合わせた、しかも、青く静かに燃えるようなソロに、ローランド・ハナを見た気がした……全く見事な演奏だった。そうそう、いきなりのショパンには面を食らったがな」
「フフッ……確かにローランド・ハナは美しい。が、僕にとっての神は、グレン・グールドなのだが……」
(なんて日だ……最高のバースデープレゼントだぜ。生きてりゃこんな日が来るんだな)
「父さん、ニューヨークから戻ったら手紙を書くよ。すまないな、もう……三年も連絡していなかった」
「ん、恭平、なんか言ったか」
「いや、何でもない」
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