10 / 60
川村修のこと 1
しおりを挟む
沼津市上香貫の斎藤 政志宅は、150坪程の敷地に建つ切妻屋根の二階建てで、門構えの立派な邸宅である。
自宅には予《あらかじ》め在宅確認の電話をしたが出なかった。表札を見ると斎藤と木板に行書で書かれている。門に設置してあるドアホンを鳴らすと「はい」と応答があった。
「三島警察署から参りました。恐れ入りますが政志さんはご在宅でしょうか」
「あ、あいにく留守にしております」
枯れた女性の声であった。少し慌てた様子である。
「政志さんのことで、お話を伺いたいのですが」
「……はい、少々お待ち下さい」
暫くすると老婦人が出てきた。
歳は80近くか、小綺麗な服装で髪もセットしてある。聞くと斎藤の母親だと言う。
「ここでは何ですから、玄関の方へどうぞ」
捜査員二人の警察手帳を確認すると、玄関の中に案内した。
「今日は仕事に出ております」
「お仕事はどちらですか」
「今日は多分、清水町の方だと思いますが」
「ん、と言いますと」
「飲食のお店を3軒やっておりまして。今日は沼津港で仕入れをしてから清水町の店に行くと、朝早く出かけて行きました」
「なんというお店ですか」
「アルカディアというパスタ専門店です。あの……、政志がなにか」
「いえ、ある事件で少しお話をお伺い出来ればと思いまして。お店の電話番号を教えて頂けますか」
母親から番号を聞き捜査員の一人が携帯で店に電話を入れる。もう一人の捜査員が他の2軒を母親に確認すると、三島市と沼津市に同名で喫茶店を経営していた。
パスタ店に電話をしたところ、今日は一度も見ていないと言う。ただ、斎藤が仕入れた魚介類は冷蔵庫に保冷されていたことから、仕入れ後、店に寄ったことは確かなようだ。
いつもなら社員が来るまでに定番メニューの仕込をするそうだが、今日に限ってされていなかった為、朝から厨房はてんやわんやだったと言う。
その後斎藤からの連絡も無く、店から電話をしても繋がらない状態らしい。他の2軒も同様に、斎藤との連絡がとれずにいた。
捜査員はすぐさま捜査本部に携帯で報告をした後、斎藤の写真を母親から借り、携帯で撮った数枚を署に送信した。
捜査本部では持ち込まれたコンビニの映像と、コンサート会場で映っていた男が同一人物であると確認出来た。斎藤とは違う人物であった。
その後新たな情報が入り、現場ビルの六階空きフロアには、7月まで会員制のカラオケパブ『アルカディア』が入居していたことが判明。更にコンビニ店長からの証言で、カメラに映っていた天野 礼子が、アルカディアのホステスだったことが明らかになった。仕事帰りによく買い物をしていたと言う。
カラオケパブ『アルカディア』の経営者は斎藤 政志である。
本部が一気に動いた。
川村副本部長の指示の元、重要参考人として斎藤 政志と、コンサートに同伴した男の足取り捜査に、集中的に捜査員が動員された。
時間は16時を少し回っていた。
「任意同行しか求められないが、今のところ斎藤とコンサートの男が、被疑者に一番近い存在ですな」
川村は鼻を荒くして新見に目配せすると、笑ってみせた。
「今のところ、そのようですね……」
(川村さんは変わってないな)
新見は10年前に刑事として、初めて入署した三島警察署時代の初日を思い出していた。
自宅には予《あらかじ》め在宅確認の電話をしたが出なかった。表札を見ると斎藤と木板に行書で書かれている。門に設置してあるドアホンを鳴らすと「はい」と応答があった。
「三島警察署から参りました。恐れ入りますが政志さんはご在宅でしょうか」
「あ、あいにく留守にしております」
枯れた女性の声であった。少し慌てた様子である。
「政志さんのことで、お話を伺いたいのですが」
「……はい、少々お待ち下さい」
暫くすると老婦人が出てきた。
歳は80近くか、小綺麗な服装で髪もセットしてある。聞くと斎藤の母親だと言う。
「ここでは何ですから、玄関の方へどうぞ」
捜査員二人の警察手帳を確認すると、玄関の中に案内した。
「今日は仕事に出ております」
「お仕事はどちらですか」
「今日は多分、清水町の方だと思いますが」
「ん、と言いますと」
「飲食のお店を3軒やっておりまして。今日は沼津港で仕入れをしてから清水町の店に行くと、朝早く出かけて行きました」
「なんというお店ですか」
「アルカディアというパスタ専門店です。あの……、政志がなにか」
「いえ、ある事件で少しお話をお伺い出来ればと思いまして。お店の電話番号を教えて頂けますか」
母親から番号を聞き捜査員の一人が携帯で店に電話を入れる。もう一人の捜査員が他の2軒を母親に確認すると、三島市と沼津市に同名で喫茶店を経営していた。
パスタ店に電話をしたところ、今日は一度も見ていないと言う。ただ、斎藤が仕入れた魚介類は冷蔵庫に保冷されていたことから、仕入れ後、店に寄ったことは確かなようだ。
いつもなら社員が来るまでに定番メニューの仕込をするそうだが、今日に限ってされていなかった為、朝から厨房はてんやわんやだったと言う。
その後斎藤からの連絡も無く、店から電話をしても繋がらない状態らしい。他の2軒も同様に、斎藤との連絡がとれずにいた。
捜査員はすぐさま捜査本部に携帯で報告をした後、斎藤の写真を母親から借り、携帯で撮った数枚を署に送信した。
捜査本部では持ち込まれたコンビニの映像と、コンサート会場で映っていた男が同一人物であると確認出来た。斎藤とは違う人物であった。
その後新たな情報が入り、現場ビルの六階空きフロアには、7月まで会員制のカラオケパブ『アルカディア』が入居していたことが判明。更にコンビニ店長からの証言で、カメラに映っていた天野 礼子が、アルカディアのホステスだったことが明らかになった。仕事帰りによく買い物をしていたと言う。
カラオケパブ『アルカディア』の経営者は斎藤 政志である。
本部が一気に動いた。
川村副本部長の指示の元、重要参考人として斎藤 政志と、コンサートに同伴した男の足取り捜査に、集中的に捜査員が動員された。
時間は16時を少し回っていた。
「任意同行しか求められないが、今のところ斎藤とコンサートの男が、被疑者に一番近い存在ですな」
川村は鼻を荒くして新見に目配せすると、笑ってみせた。
「今のところ、そのようですね……」
(川村さんは変わってないな)
新見は10年前に刑事として、初めて入署した三島警察署時代の初日を思い出していた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
無限の迷路
葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
推理の果てに咲く恋
葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽が、日々の退屈な学校生活の中で唯一の楽しみである推理小説に没頭する様子を描く。ある日、彼の鋭い観察眼が、学校内で起こった些細な出来事に異変を感じ取る。

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生だった。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。
尖閣~防人の末裔たち
篠塚飛樹
ミステリー
元大手新聞社の防衛担当記者だった古川は、ある団体から同行取材の依頼を受ける。行き先は尖閣諸島沖。。。
緊迫の海で彼は何を見るのか。。。
※この作品は、フィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
※無断転載を禁じます。

ミステリH
hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った
アパートのドア前のジベタ
"好きです"
礼を言わねば
恋の犯人探しが始まる
*重複投稿
小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS
Instagram・TikTok・Youtube
・ブログ
Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる