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天野礼子のこと 3
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Wolfgangコンサートが開催された、三島市民文化会館小ホール会場入り口防犯カメラを調べた結果、天野 礼子らしき人物が映っていたのが確認出来た。
入場時間が混雑していた為、同伴者がいたかどうかは定かではないが、文化会館窓口でコンサート2週間前に、礼子の席と合わせ隣の席が一緒に購入されていた履歴が残っている。どのような人物が買ったかは不明であるが、全席指定の入場券の半券は2枚とも確認出来ているので、来館したことに間違いはない。
コンサート終了後の防犯カメラも同様に、混雑の為同伴者は特定出来ていない。
「会場内のカメラはどうなんでしょうか」
「前方天井から1台、後方天井から1台の計2台のカメラには、ガイ者の隣席に同伴者らしい男性が映っていました。遠目で人相がぼやけていた為、現在鑑識による解析処理が行われています」
「いろいろと進展がありましたね。ところで、ビルの防犯カメラと周辺の聞き込みはどうですか」
「はい、コンビニ入り口にカメラが設置されていますが、隣ビルとの路地は死角になっていて、確認が出来ませんでした」
「他にカメラは無いんですか」
「ビル裏手、非常階段の前が、2階に入っている警備会社の駐車場になっています。非常階段から駐車場に向けているカメラが一台ありますが、駐車場側の道路から制服を着た警備員以外、人が入った形跡は映っていませんでした」
「そうですか……」
ふたりが会話をしていると、先程まで捜査員からの電話を受けていた大木から報告が入った。
「只今、コンビニ店員への聞き込み報告がありました。ガイ者らしき人物が、男性と一緒に買い物をしている様子が、店内の防犯カメラに映っていたそうです。時間は21時35分、コンサート終了後です」
「文化会館からビルのコンビニ迄は、歩いて10分程です。コンサートの終了が21時なので時間的には合致しますな」
川村が新見に耳打ちした。
「ガイ者は買い物はせず、男性だけがレジで精算しています。ペットボトルコーヒー飲料1本、ミネラルウォーター1本と週刊紙1冊です。21時42分に店内を出て、駅方面に歩いて行く様子も、入り口のカメラに映っていました」
「至急、コンサート会場の男との照らし合わせを」
「はい、そのように指示を出しました。防犯カメラの映像を持って、署に向かっております」
「ご苦労、現在解析中の画像と確認するように」
「はい」
会話の直後 、鑑識課担当が会議室に入ると、足早に新見の前に駆け寄った。
「申し訳ございません、司法解剖にひとつ見落としがありました。天野 礼子に右の卵巣がありませんでした。随分昔に摘出された手術痕があります。左側は、早発卵巣不全でした」
(不妊症……)
新見はその報告に一瞬言葉を失った。
「そうはつ……卵巣不全とは、どんな病気なんだ」
川村が眉をひそめながら確認した。
「40歳前の早い時期に卵巣機能が低下するもので、天野 礼子の場合は早発閉経。卵胞が枯渇して、永久に月経が停止するタイプです」
「卵巣が死んでる……それじゃあ、こどもが出来ないって事なのか。いつ頃からなんでしょうなぁ」
川村は、眉間に皺を寄せたまま視線を落とした。
「一般的に片方の卵巣が失われても、もう片方が機能していれば妊娠は可能だ。早発卵巣不全であっても不妊治療の方法はある。だが……」
新見も又、川村と同じように、いつから閉経したかということに拘《こだわ》った。
入場時間が混雑していた為、同伴者がいたかどうかは定かではないが、文化会館窓口でコンサート2週間前に、礼子の席と合わせ隣の席が一緒に購入されていた履歴が残っている。どのような人物が買ったかは不明であるが、全席指定の入場券の半券は2枚とも確認出来ているので、来館したことに間違いはない。
コンサート終了後の防犯カメラも同様に、混雑の為同伴者は特定出来ていない。
「会場内のカメラはどうなんでしょうか」
「前方天井から1台、後方天井から1台の計2台のカメラには、ガイ者の隣席に同伴者らしい男性が映っていました。遠目で人相がぼやけていた為、現在鑑識による解析処理が行われています」
「いろいろと進展がありましたね。ところで、ビルの防犯カメラと周辺の聞き込みはどうですか」
「はい、コンビニ入り口にカメラが設置されていますが、隣ビルとの路地は死角になっていて、確認が出来ませんでした」
「他にカメラは無いんですか」
「ビル裏手、非常階段の前が、2階に入っている警備会社の駐車場になっています。非常階段から駐車場に向けているカメラが一台ありますが、駐車場側の道路から制服を着た警備員以外、人が入った形跡は映っていませんでした」
「そうですか……」
ふたりが会話をしていると、先程まで捜査員からの電話を受けていた大木から報告が入った。
「只今、コンビニ店員への聞き込み報告がありました。ガイ者らしき人物が、男性と一緒に買い物をしている様子が、店内の防犯カメラに映っていたそうです。時間は21時35分、コンサート終了後です」
「文化会館からビルのコンビニ迄は、歩いて10分程です。コンサートの終了が21時なので時間的には合致しますな」
川村が新見に耳打ちした。
「ガイ者は買い物はせず、男性だけがレジで精算しています。ペットボトルコーヒー飲料1本、ミネラルウォーター1本と週刊紙1冊です。21時42分に店内を出て、駅方面に歩いて行く様子も、入り口のカメラに映っていました」
「至急、コンサート会場の男との照らし合わせを」
「はい、そのように指示を出しました。防犯カメラの映像を持って、署に向かっております」
「ご苦労、現在解析中の画像と確認するように」
「はい」
会話の直後 、鑑識課担当が会議室に入ると、足早に新見の前に駆け寄った。
「申し訳ございません、司法解剖にひとつ見落としがありました。天野 礼子に右の卵巣がありませんでした。随分昔に摘出された手術痕があります。左側は、早発卵巣不全でした」
(不妊症……)
新見はその報告に一瞬言葉を失った。
「そうはつ……卵巣不全とは、どんな病気なんだ」
川村が眉をひそめながら確認した。
「40歳前の早い時期に卵巣機能が低下するもので、天野 礼子の場合は早発閉経。卵胞が枯渇して、永久に月経が停止するタイプです」
「卵巣が死んでる……それじゃあ、こどもが出来ないって事なのか。いつ頃からなんでしょうなぁ」
川村は、眉間に皺を寄せたまま視線を落とした。
「一般的に片方の卵巣が失われても、もう片方が機能していれば妊娠は可能だ。早発卵巣不全であっても不妊治療の方法はある。だが……」
新見も又、川村と同じように、いつから閉経したかということに拘《こだわ》った。
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