新見啓一郎の事件簿~終天の朔~

麻生 凪

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天野礼子のこと 2

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 午後から捜査本部に新しい捜査報告が入った。

 アパートの大家兼管理人からの情報によると、天野  礼子は最近3ヶ月程アパートを留守にしがちだと言う。
 大家の家はアパートの直ぐ裏手にあり、ほぼ毎日アパート前の駐車場のはき掃除や、花壇の手入れをしているので、住人との挨拶などコミュニケーションはよくとれている。 礼子とは週に何回か挨拶を交わしていたが、ここ3ヶ月の間は3~4度しか見かけておらず、最近会ったのは1週間以上前になる。

「家賃は口座引き落としになっていますが今まで滞納はありません。202号室の室内は、生活感が無い程よく片付けられています。 ポストに郵便物が残されていないことから、帰って来ているのは確かなようです」

「室内から指紋は採取出来ましたか?」
 新見が川村に尋ねた。

「本人以外のものは検出されていません。大家の証言では、来客は見たことが無いと」

「携帯電話はありましたか?」

「ありませんでした。部屋を調べましたが、電話会社からの請求書は見当たりません。口座からの引き落としの履歴も確認出来ませんでした」

(コンビニ払いか……、請求書を処分したのか……)

「大手3社にはガイ者との契約が無かったか調べているところです」


 就業先スーパー大川での報告。
 仕事は加工食品や菓子の品だし担当で、月曜日から金曜日の9時から16時迄勤務し、途中1時間の休憩をとっている。勤務態度は真面目で、欠勤、遅刻、早退は一度もない。
 職場での人間関係は良好であるが、口数は少なく、同僚に対して積極的に自分から話し掛ける方ではなかったようだ。入社して3ヶ月程だが、プライベートで交流のある同僚は居ない。
 入社時の履歴書から、前職は接客業とあるが詳しい企業名は記載されておらず、面接官がメモしたような斜め書きで、『アルカディア』とボールペンで書かれていた。

「理想郷ですか……」

「採用担当に確認すると、三島市内の飲み屋と言うだけで、調べると市内にアルカディアという店は2軒あり、1軒は喫茶店で礼子の就業記録はありません。もう1軒は会員制のカラオケパブですが、7月に閉店していた為、現在詳細を確認しております」

    
 16日に利用した、沼津市下香貫のリラクゼーション施設楽もみの報告では、パソコンの顧客管理情報から、21時から22時の施術利用が確認出来た。男の同伴者がおり、ペア予約を、当日19時頃同伴者の携帯電話からされている。
 履歴によると1年程前から二人で来店するようになり、過去10回の利用が確認出来た。顧客管理名簿には住所の記載は無く、氏名、生年月日、携帯電話番号のみ記されていた。男は斎藤 政志52歳。施術担当の指名は無く、その時その時で、空いているスタッフが担当している。
 施術をしたスタッフの話では、身長170cm以上で筋肉質のがっちりした体格。施術中は寝てしまう為、会話は殆んど無かった。礼子とは親しい様子であったと言うが、ふたりとも店内では寡黙で、スタッフとは、体のコリ具合程度の話しかしていなかったと言う。
 レジ真上、天井にカメラが設置されているが、これはスタッフの不正防犯用のもので店内は撮られていない。レジ精算は客の待つテーブルで行われていたので、カメラに映っているのは金銭の出し入れと、レジ周辺を往来するスタッフの行動だけであった。

「携帯番号から住所は」

「はい、沼津市在住です。現在捜査員二名が斎藤の自宅に向かっております」
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