新見啓一郎の事件簿~終天の朔~

麻生 凪

文字の大きさ
上 下
2 / 60

はじまり

しおりを挟む
 さくのよに
 ひかりはあるの
 わたしにはわかる

 しんじつだけを
 てらしだす
 みえないひかりが
 あなたをいぬき
 そこにおちるかげ

 ほのぐらい
 そのかげが

 わたしのすべて



「被害者のノートパソコンに書かれていた最後の日記です。サイトへの投稿は、確認出来ていません」

 大木からの報告を受け、新見はこの事件に底知れぬ闇を見た気がした。
 あなたと書かれた人物が真犯人だと仮定した場合、今までの捜査方針が、全く意味を持たなくなる。

「過去の日記をすべて、プリントアウトしてくれないか、これがダイイングメッセージだとしたら……」
(被害者は、犯人を擁護している)と、後に続く言葉を呑み込んだ。
 なぜそう感じたのかは解らない。只漠然と、この日記には、惻隠《そくいん》の情《じょう》があるように思えた。

『真由理』
 殺されることを覚悟して書いたもの、いや、望んでいたのか。

「ダイイングメッセージ……なんですか」
 大木は訝しげに新見を見つめた。

「それと、日記サイトに書かれた過去のコメントも合わせて調べてくれ。そのコメントから、ガイ者の人間関係が見えて来るはずだ」


 事件は三日前に起こった。
 静岡県JR三島駅南口前に建つ、地上六階建てビルの屋上で、絞殺された女性の死体が発見された。

 発見日時は、9月18日午前2時10分。
 夜間清掃員二名が、休憩をとるために屋上に上がると、フェンス角に設置された街灯の下、北西に頭を向け、右横臥位で女性が倒れているのに気が付いた。清掃員の一人が声を掛けたが反応が無い為、近づき見ると眠っている様子である。「ここで寝たら風邪をひきますよ」と、話し掛けても起きないので、左肩を揺すったその時に、死んでいるのが解ったと供述している。
     
 絞首痕があることから殺人事件と判断。検視官による現場検証及び、遺留品からの身元確認後、所轄の病院に搬送され司法解剖が行われた。
 被害者の側に落ちていた、ショルダーバッグ内の運転免許証から、市内在住、天野礼子38才、女性と判明。死亡推定時間は、発見時刻の被害者体温34.5℃、その一時間後に測った体温33.9℃、外気温20℃、生きていた時の体温が36.5℃として計算され、経過時間は3時間。即ち、前日17日の23時頃と算定された。裏付けは司法解剖の結果待ちとなる。
 死因は絞首痕から、正面から両手で首を絞められたことによる窒息死と判定。発見後間も無く三島警察署に捜査本部が設置され、直ちに捜査が開始された。
     
 三島警察署長からの要請もあり、捜査本部長に、県警の新見《にいみ》 啓一郎《けいいちろう》警部が任命され、着任迄は、副本部長に任命された、所轄の川村《かわむら》 修《おさむ》警部補が指揮をとった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

推理の果てに咲く恋

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽が、日々の退屈な学校生活の中で唯一の楽しみである推理小説に没頭する様子を描く。ある日、彼の鋭い観察眼が、学校内で起こった些細な出来事に異変を感じ取る。

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生だった。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

尖閣~防人の末裔たち

篠塚飛樹
ミステリー
 元大手新聞社の防衛担当記者だった古川は、ある団体から同行取材の依頼を受ける。行き先は尖閣諸島沖。。。  緊迫の海で彼は何を見るのか。。。 ※この作品は、フィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。 ※無断転載を禁じます。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ミステリH

hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った アパートのドア前のジベタ "好きです" 礼を言わねば 恋の犯人探しが始まる *重複投稿 小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS Instagram・TikTok・Youtube ・ブログ Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor

特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発

斑鳩陽菜
ミステリー
 K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。  遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。  そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。  遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。  臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...