23 / 64
王太子アルファーフの記憶。
しおりを挟む
最初に飛び込んだのは、セザール・アレマー公爵令息だった。
「殿下!!無事ですか?痛いところはありませんか?体調は??」
一足飛びにベッドサイドまでやってきた美しい人がアルファーフを覗き込みながら、矢継ぎ早に質問してくる。
「あ、あぁ•••大丈、ぶだ••••••」
放り込まれた飴のおかげか先程より大分声が出ていることを確認していると、その後ろから国王と宰相が姿を現した。
「目が覚めたか、馬鹿息子よ」
あまり心配している様子でもない国王の態度に、相変わらずまあまあとやっている宰相。
「父上••••••」
そうだ、と働き始めた頭で思い出す。
(婚約破棄をするなどと言って、父上がお怒りになって••••••ん?)
それで、どうしたんだったかと考えていると、目の前の美しい人が話し始めた。
「私との婚約を破棄されると仰って騒ぎを起こしたことは覚えていらっしゃいますか?」
私との?
目の前にいるのは美しい人だが、どう見ても男性だ。自分が婚約破棄しようとしたのは、婚約者のセザンヌだが••••••
「殿下?まさか、またお忘れですか?私は殿下の側近セザール・アレマーです」
それを聞いて、アルファーフはハッとその人を見る。
(そうだ、セザール。あの夢に出てきたのも彼だった)
「ああ、すまない•••まだ意識が••••••けど、君のことは思い出したよ」
セザール・アレマーが、何処かほっとしたように息を吐いた。
「では、私がセザンヌ・アレマーを名乗っていたことも思い出されましたか?」
「え?」
アルファーフは、まじまじと美しい人を見つめる。彼は既に化粧も落とし、装いも本来のものに戻しているため、どう見ても男性にしか見えない。しかし確かにセザンヌ・アレマーと重なって見えた。
「兄弟、などではなく?」
まさか男性に婚約破棄を言い渡そうとしていた、という滑稽な事実から目を背けられないかと、一縷の望みをかけて聞いてみるが
「ノーティ公爵、我が父には一人しか子がおりません」
冷たい雰囲気で、砕かれる。
「そ、そうか。悪かった••••••」
しかし、同一人物であると理解に努めたところで疑問は尽きない。
(なぜ、というかいつから、そのようなことになっていたのか思い出せない。夢が記憶なら、私は元々の彼を知っていたはずなのだが••••••)
心の声を汲んだように宰相が声をかける。
「セザール、殿下を困らせるのはやめなさい。お前も分かっているだろう?」
どことなくふてくされて見える息子を嗜めると、アルファーフに向かって微笑んだ。
「殿下、記憶に変化はございませんか?」
反射的に宰相を見つめると、彼はにこやかに続けた。
「殿下の記憶については私どもも見落としておりました。このような事態になってしまい、申し訳ございません」
そういって宰相は頭を下げる。
「侍医のエラブルの見立てによりますと、少しずつ戻るようです。そしてその中には思い出してはならないものがあるでしょう。もしそれらを思い出した場合は、すぐに陛下や私、愚息にお教え願えますか?」
何故宰相が謝るのか分からないが、少なくとも自分の記憶について何かがおかしいと思っていたことについては、やはりそうなのか、と妙に納得した。
先程のことも伝えるべきか、と思案していると国王が声をかけてきた。
「その様子では、寝ている間に何か思い出したのか?」
宰相と自分の側近らしいセザールがこちらを見る。
「いえ、記憶なのかわからないのですが、父上にお伝えしなければ、と思う箇所がありまして••••••」
アルファーフの話を聞いた国王と宰相は顔を見合わせた。
「これは••••••」
「間違い無いだろう」
「しかしらこれではまるで••••••」
宰相が言い淀む。
「うむ、その頃には既にアルファーフの洗脳は始まっていたと考えて間違いないだろうな」
自分以外が難しい表情で頷く中、アルファーフは絶句した。
「私は洗脳されているのですか?」
「殿下!!無事ですか?痛いところはありませんか?体調は??」
一足飛びにベッドサイドまでやってきた美しい人がアルファーフを覗き込みながら、矢継ぎ早に質問してくる。
「あ、あぁ•••大丈、ぶだ••••••」
放り込まれた飴のおかげか先程より大分声が出ていることを確認していると、その後ろから国王と宰相が姿を現した。
「目が覚めたか、馬鹿息子よ」
あまり心配している様子でもない国王の態度に、相変わらずまあまあとやっている宰相。
「父上••••••」
そうだ、と働き始めた頭で思い出す。
(婚約破棄をするなどと言って、父上がお怒りになって••••••ん?)
それで、どうしたんだったかと考えていると、目の前の美しい人が話し始めた。
「私との婚約を破棄されると仰って騒ぎを起こしたことは覚えていらっしゃいますか?」
私との?
目の前にいるのは美しい人だが、どう見ても男性だ。自分が婚約破棄しようとしたのは、婚約者のセザンヌだが••••••
「殿下?まさか、またお忘れですか?私は殿下の側近セザール・アレマーです」
それを聞いて、アルファーフはハッとその人を見る。
(そうだ、セザール。あの夢に出てきたのも彼だった)
「ああ、すまない•••まだ意識が••••••けど、君のことは思い出したよ」
セザール・アレマーが、何処かほっとしたように息を吐いた。
「では、私がセザンヌ・アレマーを名乗っていたことも思い出されましたか?」
「え?」
アルファーフは、まじまじと美しい人を見つめる。彼は既に化粧も落とし、装いも本来のものに戻しているため、どう見ても男性にしか見えない。しかし確かにセザンヌ・アレマーと重なって見えた。
「兄弟、などではなく?」
まさか男性に婚約破棄を言い渡そうとしていた、という滑稽な事実から目を背けられないかと、一縷の望みをかけて聞いてみるが
「ノーティ公爵、我が父には一人しか子がおりません」
冷たい雰囲気で、砕かれる。
「そ、そうか。悪かった••••••」
しかし、同一人物であると理解に努めたところで疑問は尽きない。
(なぜ、というかいつから、そのようなことになっていたのか思い出せない。夢が記憶なら、私は元々の彼を知っていたはずなのだが••••••)
心の声を汲んだように宰相が声をかける。
「セザール、殿下を困らせるのはやめなさい。お前も分かっているだろう?」
どことなくふてくされて見える息子を嗜めると、アルファーフに向かって微笑んだ。
「殿下、記憶に変化はございませんか?」
反射的に宰相を見つめると、彼はにこやかに続けた。
「殿下の記憶については私どもも見落としておりました。このような事態になってしまい、申し訳ございません」
そういって宰相は頭を下げる。
「侍医のエラブルの見立てによりますと、少しずつ戻るようです。そしてその中には思い出してはならないものがあるでしょう。もしそれらを思い出した場合は、すぐに陛下や私、愚息にお教え願えますか?」
何故宰相が謝るのか分からないが、少なくとも自分の記憶について何かがおかしいと思っていたことについては、やはりそうなのか、と妙に納得した。
先程のことも伝えるべきか、と思案していると国王が声をかけてきた。
「その様子では、寝ている間に何か思い出したのか?」
宰相と自分の側近らしいセザールがこちらを見る。
「いえ、記憶なのかわからないのですが、父上にお伝えしなければ、と思う箇所がありまして••••••」
アルファーフの話を聞いた国王と宰相は顔を見合わせた。
「これは••••••」
「間違い無いだろう」
「しかしらこれではまるで••••••」
宰相が言い淀む。
「うむ、その頃には既にアルファーフの洗脳は始まっていたと考えて間違いないだろうな」
自分以外が難しい表情で頷く中、アルファーフは絶句した。
「私は洗脳されているのですか?」
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
幼馴染のために婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
新野乃花(大舟)
恋愛
クライク侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたエレーナの事を受け入れていた。しかしクライクはその後、自身の幼馴染であるシェリアの事ばかりを偏愛し、エレーナの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにクライクはエレーナのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったクライクは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる