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近衛騎士ライオ・コーエンの忠誠。

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そうこうしているうちに、馬車は郊外の森へと進んでいった。
王都の郊外にあるとはいえ、貴族が立ち入ることはほとんどないような場所である。
この森はどういうわけが迷いやすく、森の手前に住んでいる地元地域の者達でさえ、どうしてもの時以外は奥へ踏み込まないようにしていた。
その森の、ライオ・コーエンの体感的にはかなり中程まで進んでいるように思われるが、獣道をガタンゴトンと平素感じることのない揺れに身を任せながら馬車は進んでいく。

(本当に大丈夫なのか?)

不安になり、隣のセザール・アレマーを何度か横目で伺うが、彼は平然としている様子だった。
それにしても、とライオ・コーエンは向かい側に視線を向ける。

相変わらず微動だにせず、平素より数段青白い肌で、微かな胸の上下が辛うじて生きている証のような王太子殿下の状態は、普通ではないとライオ・コーエンにも分かっていたが、当時現場を見ていたにも関わらず、何故このような事態になっているのかは分からなかった。

(確かに取り押さえられていたが、後ろ手を掴んでいただけだったよな••••••)

意識を失う瞬間もライオ・コーエンはそのすぐ傍にいたが、王太子殿下の様子が目に見えて変わったのは、セザール・アレマーという名前を聞いた直後だった。
それはまるで、
(夢から醒めたみたいな••••••洗脳が解けたみたいな••••••いや、殿下は今朝方も普通でいらしたよな)
セザール・アレマー公爵令息が関係していることは間違いないだろうが、しかし彼は決して王太子を害する人物ではないと、ライオ・コーエンは考えていた。

と、突然馬車から見える景色が変わり、鬱蒼としていたところからひらけた場所に出た。見渡しても遠くに木々が見えることから、森を抜けたわけではないことは分かる。
「ついたぞ」

突然声をかけられて振り返ると同時に、馬車が停車した。
外からドアが開く。
そこに立っていたのは••••••
「父上?!」
そこには、ライオ・コーエンとレフォ・コーエンの父親にして、元近衛騎士団長セオ・コーエンが立っていた。

「セザール様、お待ちしておりました」
セオ・コーエンは驚く息子を無視して、にこやかな笑みをセザール・アレマーに向ける。

「お手伝いはいりましょうか?」
「いや、結構だ」
「畏まりました。では、中へ」

短いやり取りの後、セザール・アレマーは王太子殿下を抱え上げ、さっさと降り、メイドらしき女性について行ってしまった。
残されたライオ・コーエンも慌てて後を追いかけようとしたが、馬車を降りたところで、その肩を父親に掴まれる。
「久しぶりだな、ライオ」
相変わらず好々爺然とした笑みを浮かべているが、肩を掴む手が痛い。
「レフォはどうした?」
ライオは、くるりと振り返って父親を睨む。
「久しぶりに姿を表したと思ったらそれですか、父上」
睨んだところで効果がないことはライオ自身分かっているが、それでも碌に家にも帰らず、何をしているかも知らせず、常に母の心労の元となっている父親が、彼は嫌いだったし、このような非常事態でもなければ殴り飛ばしたいところだった。手が届くのであれば。
「ライオは陛下と共にいるはずです。セザール様のおっしゃる通りであれば、追ってこちらに来るはずですが」

「そうか。それで、お前はどこまで知っている?」

肩を掴む手が痛い。
ライオとて、知ることができるなら知りたいが、何も知らない。
「何も。セザール様が何もお話になりませんので」
想定外だったのだろう。肩を掴む力がほんの少し緩む。その隙にパンッと手を振り払うが、それでもセオの威圧感がライオを解放してくれない。
「ライオ」
セオはその鋭い眼光で息子を捉える。
「お主の忠誠は、どこにある?」

その問いに、ライオ・コーエンは応えた。

「我が忠誠、我が国家、我が国王陛下、その先に生ける国主とその庇護下にある臣民に捧ぐ」
一息で言い切り、ふっと息を吐く。
「父上、それは変わりませんよ」

国へ捧げる忠誠。
いくら父を嫌おうとも、かつて近衛騎士団長として国を護った英雄、セオ・コーエンに対する憧れと尊敬は消えない。
何かが起こっている。
何かに巻き込まれるのだろう。
それでも、その時、選ぶものを自分は間違えない。
それを近衛騎士ライオ・コーエンとして、元近衛騎士団長、現近衛騎士団最高相談役セオ・コーエンに表明した。
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