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作法教師スカーレット・デビの3本目。

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そんなガーカス伯爵令嬢であるが、彼女にはその他の能力が壊滅的にない。
才能ではなく、一般的に備わっているはずのがほぼ皆無なのである。
恐らく王太子の婚約者の何たるかを理解出来ず、当たり前のように王太子に好かれている自分が恋人と思っているのだろう。これについては側から見ている限り王太子も悪いのだが••••••

「だから、あいつはただの婚約者で、恋人じゃないんだから私の彼にベタベタするのがおかしいじゃない!!」

恐らく不敬罪レベルの暴言を諌められたのだろう。近衛騎士に何を言われたのかまでは聞こえてこないが、とんでもないことを言い出した、と皆の目が見開かれた。
それはそうだろう。貴族にとって婚約は普通のことであるし、実際、学園に入学した時点で既に婚約していることがほとんどである。
確かにガーカス伯爵令嬢に婚約者がいる、という話は誰も聞いたことはないが、だからといって、婚約者の何たるか自体を理解していないというのは、誰にとっても想定外のことだった。
(婚約者のいる相手にベタベタするのが、おかしい!!)
と皆思いながら、互いに顔を見合わせている。近衛騎士が説明をしているようではあるが、こちらまでは聞こえてこない。

「意味わかんない!!婚約者なんて親同士が決めただけでお互い好きあってるわけじゃないもの!!そうでしょ??」

(その親同士が陛下と宰相だというのに••••••)

もはやここまで不敬を極めていると、普段あまり国王陛下や宰相閣下に馴染みのない下級貴族の子息令嬢には、一周回って(勇気ある者)なのかなと思えてきているが、決してそうではない。

「あいつは私のことをいっつも妬んでいたのよ?きっと~、家族にも愛されていなかったのね!!家族にもアル様にも愛されていて、才能もある私が羨ましくて仕方なかったんだわ」

「だってあいつ、男なのに、女の格好ずっとしてアル様やみんなを騙していたなんて、おかしいでしょ?変態じゃない?」

「本当は男なのに私みたいに戦う才能もなさそうだし、アル様も仰っていたもの」



キャハハハッと、不快で耳障りな笑い声を挙げる。
「いい加減、その不敬な口を閉じろ!!」
流石に近衛騎士の声が大きくなるが、ガーカス伯爵令嬢は気にしないどころか不愉快そうに近衛騎士を睨みつけ、ペラペラと暴言を吐き続けた。

「だからぁ、捕まえるならあいつでしょ??王太子のアル様をずっと騙していたのよ?不敬罪っていうならあいつこそ不敬罪だわ!!」

最後には憤然と言い放ったガーカス伯爵令嬢の過ぎた暴言に、皆呆然とする中、

「黙って聞いておれば••••••」

下級貴族の令息が思わず「あっ」と声を上げ、隣にいた下級貴族の令嬢が「え?」と振り返ったその瞬間、

「セザール・アレマー様をこれ以上侮辱することは、罷りならぬ!!」

バキィィィッ!!!!

過去最大の音を立てて3本目が崩れ去ったその向こう側には、誰も見たことがない程、憤怒の形相をした鉄の淑女がいた。
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