浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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寒い夢

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奥様は料理の本を見ている。
「何を見ているのかな?」
「これは、旦那様」
一礼をした後に。
「料理の勉強ですね」
「君はなかなか料理の素養はあるというのに、勉強熱心だね」
「私はあまり食事に関しては…どちらかといえば食べられればいいかなと」
「うわ~闇が出てる」
ブシュー!ブシュー! 
「寒いところであたたかいものを食べれたら、まあ、贅沢なお話ですよ」
「昔は今じゃない」
「そうなんですが、いつそうなってもいいように、今のうちに、そうなったとき用のサバイバル術を一新させておきたいのもあります」
「それって僕は隣には?」
「いないかもしれませんね」
「くっ」
「もう、生き残るって大事ですよ」
「そうだけど、そうなんだけどもね!この辺は僕には見えないからな」
「旦那様はお金がなくなったら、食べないとか普通にやりそう」
「やってたな」
「ダメですよ、体を壊します」
「その辺に関しては僕はなにも言えないんだよな」
むしろお世話になっている。
「そこまで難しいことでもありますまい、食品の保存技術も発達してますからね」
「そうなんだけども」
「もし困ったら水と栄養剤ですかね」
安いよ!栄養剤!
「あれを飲んだとか、人類はこれでいいんじゃないかと」
「人類とか大きな話になってるよ。でもさ、そういうことをいう割には、ご飯を美味しく用意するよね」
「美味しい方がいいじゃありませんか?」
「そういうの…好き!」
「あっ、美味しいなはちょっと大事にしたいかな、節約でお金はそんなになかったとしても、本当ね、世の中の料理上手にはかなわないんですよね、なんでこんなレシピを思い付くのか」
「でも君が見ている本って、よくある料理本とかじゃないよね」
「それこそ食品保存の歴史とかですね」
「うちの領の特産物がとれる時期だと、見学に行きたいんじゃないの?」
「ちょっと見てみたいですよね」
白衣と帽子をかぶって、見学。
「白衣は僕のだと…」
「ちょっと狭いですね、申し訳ない」
ボタンがですね。
「いや、いいのよ、うん。ぴったりのサイズにしなさいよ」
「そうさせてもらいますが、まずは白衣を安く探しておきませんと」
「なかなか高いからね、僕も実習の時大変だった、購買で安いのもあるんだけども、やはりメーカー品だと、仕立てがね」
「ああ、それは、ああいうのを内職している地域がうちの実家のそばにありましたからね」
「えっ?そうなの?」
「実家や嫁ぎ先が火の車でも外には働きにいけないところの婦人などは、そういう仕事してたりするんですよね」
「そういった需要があるのか」
「代々伝わる食器なんかも抵当に入れられたりして」
「そういうのってすごい逸品がありそう」
「あると思いますよ、旦那様はそういったものはお好きで?」
「そりゃあね、パンセ・リヴィエルお墨付きさ」
パンセ・リヴィエルは領主の文化的活動をしている際のペンネームである。
「そういう美術などを眺めながら暮らしていくのは楽しいとは思いますよ」
「結構君も好きだものね」
「好きですね、ただまあ、現実が私にはありますから」
「世知辛い話だよね」
「たまにそういうのがお好きな方は、現実世界から目を背ける方もおられるようですが」
「いる、家督を継げなかったり、お前が継ぐの?って言われるようなやつね、下手に継ぐと、どこまで悪くするかわからないけども、そういう家督がないと芸術的な趣味というのはね、維持できないからね」
「あ~」
覚えがある。
「そこまで夢中になるものなんですかね」
「その質問はダメだよ、愚問だ」
「失礼いたしました」
「あぁ、怒っているわけではないよ、ただね、捨てれるわけではないので」
「上手く付き合っていくしかないってやつですね」
「そう、でもなかなかね」
「旦那様はどう折り合いをつけているんですか?」
「僕か…」
色々と考えてみるが。
「折り合い…ついているのかな?」
「良かったですね、今、踏みとどまることができて」
「そ、そうかもしれない。これ以上ストレスが増えてたらどうしていたかと、本当に僕は運がいいのかもしれないな」
「そうです…かね?」
「なんで疑問系?君が僕のところに嫁いでこなかったら、検診の数値は改善しなかったのではないかと」
「あれは…たまたまじゃないですかね」
「たまたまで近年ずっと黄信号の検診結果は改善しないのでは?」
「調べたりすると、旦那様は美味しいものが好きだから」
「それはしょうがない」
「はっはっはっ、そこから数値が反映されているんですよ」
「でもね、美味しいものはやめられないよね」
「今は?」
「やめれてはいない、でも数値は改善されている?」
「旦那様がギリギリ許せる美味しいで、レシピを大分変えて見ているんですよ、最近は普通の食事に戻してますが、カレーはもうちょっと改善しなきゃな」
「えっ?あのカレーは美味しかったよ」
「脂質はなんとかなってるの、塩分なんですよ、あのカレーの改善点は!」
トマト缶を追加するか考えちゅう。
「0.5グラム、減らしたいなって」
「ごめんね、僕のせいで」
「これは挑戦ですよ、白い手袋を叩きつけられたようなものなので」
「決闘じゃん」
「これで美味しいと塩分を控えたら、より完璧に近づける」
「君さ、なんかそういうところあるよね」
「そういうところとは?」
「変な方向にたいしては行動力が溢れている、それをさ、本当は改善しなきゃならないものに使ってさ」
「私を自由にしてください、今までの分の支払いよろしくっていっても納得してくれる相手ではなかったですよ」
「それ実際にいったことはあるの?」
「もうどうにでもなればいいのになっていう時はいいました」
「それで?」
「そこでいなくなっては困るから、必死にご機嫌とられましたが、まあ、その裏では準備してました。でもね、決定的に自分では、私では変えれなかったんですよ、そこが敗北です」
「僕と結婚してそこから逃げれたことがコンプレックスになってる?」
「ずるいって言われそう」
「誰に?」
「私の今までを知っている人たちに」
「それならいうね、だって君がそんな目にあっても助けたりしなかったわけだし、そんな君が救われた?許せるはずがないよ」
「うわ、なんですか、その人間関係は、なんて世界にいるんだ、滅びる日は遠いのか?遠いならば近づけるにはどうしたらいいんだ」
「ラッパでも吹くかい?」
「そういう状態になっている私ならば、肺活量の限界まで吹き込みそう」
「う~ん」
「なんです?」
「あんまり君が何かを恨んでいる姿はみたくはない」
「そんなことを言われても、私はこんなですよ」
「そうかもしれないけどもね、そういうのは見たくないものだよ」
「じゃあ、お別れします?」
「イーヤー」
「私はいつか復讐に生きることを選んでしまうかもしれない」
「やっぱりよぎるの?」
「過りますよ。苦しみはね、返さなきゃって、ダメなのに、それがね、過ってしまう」
「ふ~ん」
「なんです?」
「それは僕とどっちが大事?」
「旦那様」
「へぇ、そこで俺を選んでくれるんだ」
「あれに比べたら、いや、あれは、選択肢に出たら選んではいけない、ただそれしかない時があるからすごく嫌で」
「大変だね」
「そうですね、いつか悲しみは、苦しみは消えるのか、それともずっと持ち続けてしまうのか」
「心というのは面白いもので、言葉にすると削れてしまうものだよ」
「削れますかね」
「どんな才能がある人間でさえも、それを越えた八津はいない」
「越えれたら、達成感は凄そう」
「試す?」
「ちょっと怖いかな、心の中にそういうのが占めすぎていた場合って、それが無くなったらどうなるんでしょうね」
「どうね…あんまりいいことではないよね」
「私もそう思いますよ、こう、無感動になるかな」
「それは人生損してる、どうせならば俺と一緒に踊りましょうよ」
「もっとお綺麗な方をお誘いください」
「…」
「何ですか?」
「俺が誘ったらダメなの?」
「本当は綺麗な方と踊りたいのでしょう?」
「そこは…まあ、否定はしないけどもさ」
「ほら、やっぱり、そこは正直になりなさいよ」
にゃははは。
「でも君と、その踊りたいんだよね」
「あぁ、それならばお受けしますわ」
「この辺のニュアンス、俺じゃ全然わからないんだけども、どうして冗談だと思われたりするの?」
「なんででしょうね。気軽に誘うものではありませんよってことかな」
「あっ、それはすいません、でも気軽ではないけどもさ」
「個人的だけども、あなたの素はとても好きですよ」
「それは個人的をつけなくても良くないかな?」
「えっ?個人的ですからな、つけた方がいいんじゃないですかね?」
「俺はさ…」
「なんですか?」
「君のことがとても好きだよ」
「ありがとうございます」
「その言葉を振り絞るだけで精一杯というかさ、付き合うとか、結婚してとか、そういうのは考えられないけどもさ」
「政略結婚はしているので、書類上では夫婦ですからね」
「そう、でも仲良くはなりたいんだよね」
「背中を預ける間柄みたいなやつですか?」
「どっちかっていうと、君を守りたいんだよね。わかってます、わかってます、そういう実力は本当にないんだけどもさ」
「旦那様って、私がそういう身体能力持っている男性に惹かれると、複雑な顔してますよね」
参考、奥様の前婚約者。
「何しろ僕が出来ないことをしているわけじゃん、だからそこに目が行くのであるのならば、どうしようもないというか」
「でも旦那様にしかたぶん出来ないこともたくさんあるんですがね」
「例えば?」
「お優しいでしょ?」
「そうかな」
「たぶん」
「たぶんって何さ」
「博愛ではない優しさなんですよね、難しい言い回しですが、それこそ気難しさが優しさにも出ているんじゃないかなって」
「気難しさが優しさも出ている」
「意外ですか?」
「意外だね、僕はそんな風には…」
「そうですか?旦那様は気難しい人ですよ、こだわりは捨てないから、そこはどうしてもってやつだけども、それでいいんですよ」
「ありがとう。なんか君はそういうサークルの姫とか出来そう」
「…」
「あれ、まさか呼ばれたことは」
「私になんで姫っていうんですかね」
「うちの奥さんは姫だった」
「そんな大袈裟な、私はいつもの調子でやっているだけですから」
「そうやって接してくれる人っていうのはなかなかいないものなんだよな」
僕らという世界にはね… 
「そうなんですか?」
「そうですよ、俺らに優しいギャルなんていないんですよ」
「ギャル?ギャルが好きなんですか?」
「すいません、学生時代のノリでした」
「でもいたら?」
「アリだと思います」
「正直でよろしい」
「はっ!なんでも仰ってください、正直に何でも吐きます」
「なんでそうなんですか、そういう…ええっと嗜好に関しては、私は何かいうつもりはありませんよ」
「そうなの?」
「そういうのはあなたのお好きにしてくださいよ」
「最近は俺に寄り添ってくれる、裏切らない系の年下女性が好みになりまして」
「あぁ、そうなんですか」
「はい、たまりませんよね、劣勢でも側にいてくれるの、やっぱり大変な状態になると、いなくなる人っているからさ」
「それはね、しょうがないですよ。共に出来ないと決めたのだから」
「後で責任はとってもらうことになるのに、意外とそういう人たちってさ、ダメだよね」
「そうですね、そこは、本当にそう思います。知っててやったのではないところがね、ポイントは低い」
「ポイント制なんだ」
「10点ぐらいとられたら、攻守交代でいいんじゃないですかね」
「ルールがどんどん複雑になるね」
「やっぱりそうじゃないと、一方的な展開になってしまいますからね」
「それは見ている方も飽きてくるね」
「そうそう」
何の話をしているのだろうか。
ノリでここまで話してるようだ。
 「何の話をしているんでしょうか」
「君と話していると、脱線はよくあることだよ」
「面白いのはいいんですが、本線からはずれるのはよろしくはないです」
「そこが俺たちのいいところでもあり、味でもあるから」
うちはずっとこの味だよ!
「ラーメン屋みたいですね」
「親父の味を継いでる名店だと思う」
「名店~」
「鶏ガラ醤油はやっぱり一番出るね、毎日の仕込みは確かに大変なんだけども、お客さんの笑顔が見たくてね、寒い日でも頑張ってます」
「本当にラーメン屋店長のインタビューじゃないですか」
「ああいうのっていいよね、ずっと見てられる」
「旦那様そういうの好きだもんな」
「地域の人たちに愛されているとか、家族の絆とか大好き」
「それはいいことだと思いますよ」
「君は?」
「私には縁がないので、見ても遠くて、実感があまりでないかな」
「そうか」
「でも旦那様を見ていると、最近はわかってきたかな」
「ふぅ~ん」
「どうしました?」
「いや、別に」
奥様は寒いのか首もとにストールを巻いている。
「俺は王子ではないけども、俺のキスとかじゃ呪いは解けてはくれないのかな」
「また…急に…」
「その辺はどうなの?」
「悪い夢は見なくはなってますね」
「えっ?それは本当に」
「気のせいかもしれませんけども…」
寒い夢を見る時がある。
いつもならばそこから悪夢が始まるはずなのに、 自分の首もとに熱さや、薬指に絡まる違和感があると、夢が書きかえが始まりだす。
「俺スゲー」
「気のせいです」
気のせいに決まってる。
今までずっと苦しんだひとつが、いきなり解決したとしても、気のせいに決まってるのだ。
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