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名前は藪美と名付けよう
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「どうしましたか?旦那様」
「あぁ、いや、仕事の話ではないんだけどもね」
執事長に聞いてしまう。
「彼女は僕に家族を大事にしてくださいと言うんだ」
「それは悪いことではないのではないですか?」
「でも彼女は、自分のことは入ってないんだよね」
「今に始まったことではないですが、その奥さまはそういうところがございますね」
「あるね、そういう話になったら、自分を犠牲にするように、道具として使ってくださいとか平気で言うんだもん」
「それに対して旦那様は?」
「人を道具として使ったことがないわけではないよ」
「はい、そうでしょうな。そういうのもできなければ、上になど、立場あるものにはなれない」
「ただあれは僕にはあんまり向いてなかったというか」
「旦那様は高潔でいらっしゃる」
「そうかな?」
「そうですよ。なんというか全部自分でやたがるところはありました、それは悪くはないのですが、回らなくなってしまいますし…正直ですね、その辺の、人に頼む、任せるはあまり上手ではなかった」
「ごめんね」
「いえ、今は問題なくなりましたから」
「そうなの?」
「適切に割り振れているとは思いますよ」
「彼女に叱られたからな」
なんでこんなことまで自分でやってるんですか!
「それは私も思ってました」
「そうか…」
「ただ言い出せないところでもありました」
「ごめんなさい」
「うちの…執事が付き添うようになってから、歩調は合わせてくれるようにはなりましたが、それでも移動中もこなせる仕事をするとは思ってませんでしたし」
「そのぐらいやらなけらばなって…」
「疲れませんか?」
「疲れてました」
「旦那様…」
「今は疲れてませんよ。それこそ、彼女のおかげですよ」
「存じております。奥様は…そのどうやってご実家で生き延びてきたのかよくわかりますね」
「なんで屋敷の中でサバイバル、伏魔殿的なやつじゃなくて、節約系のサバイバルをしているんだろうか」
「意外とそういった大きななんとかをお持ちの人たちは、火の車のようですよ」
「それはたまに聞くけどもね」
「特に最近は火を吹き出しているところはあちらこちらはある」
「不満は多いようだからね」
「ただこの領地は上手くやっていると言っていいのではないでしょうか」
「それこそ彼女が手を回してくれているおかげなんだよな」
収穫期に合わせて、食料が上がるとされていたので、保存食などの作り方とかを配布したりした。
ないし、余裕があるところでは保存食を作るようにしている。
「お酒用の雪氷室に出番があるとは思いませんでした」
「それは僕もだよ」
「医薬品の保管も考えているとか」
「それがね、出来る雪氷室とそうでないところがあるらしく、うちは出来るけどもね」
「ほぅ?それは何か理由が?」
「振動があるか、ないかだよ」
「そういったもので薬がダメになるものがあると」
「そう、体内で合成されるようなもの関係は弱いものが多いね、まあ、これは保存の気温もあるんだけども、そういう意味ではこの雪氷室を最初に作った人はすごいと思う、確かに当時は家電というものはないし、冬前に食料を蓄えるためには必要だったからあの広さだけどもね、あの広さがあれば色んなことを出来るんじゃないかと」
「ネズミには注意ですかね」
「最近のネズミは人の言葉を覚えているようだぞ」
「はい、そう聞いています」
「範囲としては僕ら夫婦と、屋敷に仕えてくれる君たちとその家族分を考えている」
「それはよろしいのですか?」
「あぁ、そのぐらいじゃないと、いい仕事はしてもらえないとね、そこは妻と決めた」
理想の領主とはほど遠いかもしれないが、理想の領主になろうとしているところにはやはり交換が持てる。
「そのお年で、生まれでも育ちでもない、この土地で長らく暮らすということは…」
「仕事ですからね、しっかりやりますよ」
「そうですか」
「僕はのんびりとしてるところがある」
「それは気になっておりました」
「頼りなく思われているんだろうなってね」
「かもしれませんが、旦那様という人を知れば、それも変わりますがね」
「変わってくれるかな?」
「変わらないのならば、どこかおかしいですよ」
「ふっふっ、そうか」
「しかし、奥様の方も」
「何かな?」
「思いきったことをいたしましたね。こちらに気をかけるということでは、私は何ら反対はしませんが。ご実家の方にかけていたそれを、全部引き上げてこちらにでも持ってきたのかなと思われるほどです」
「あ~それか、もう本当にそれに近いも思うよ」
「やはりそうなのですか」
「彼女は実家は…そう好きではない、トゥバン伯との話も出たが、今の実家はあれから変わってないというか」
言うのが難しいようだ。
「彼女は、桜紋(おうもん)さんが訪ねてきた時に、家族の支払わなかったツケに対してきちんと対応したといってたけどもさ」
桜紋は執事長の甥です。
「はい、その話はしてましたな、でもそれでは、その~奥様のご家族はその手を使い続けるのではないかと」
「実際にそう見たいよ、だから呼び出されるとろくな思い出がなかったといってた」
家族たちではなくて、そこには見知らぬ誰かが待っていて、挨拶が終わると、言い出しにくいのですが、支払いが滞っておりましてと。
額面聞いて、すぐに用意した。
申し訳ないと謝罪をして、この手を何回も使っているのでこちらも困っておりましてという話をしてから終わる。
「そうなると、向こうはその知らないからこそ、使われていたってことで、その片棒を担いでしまった独特の後味の悪さがあるらしい」
「その方々の落ち度はないですよね?」
「ないよ、それである程度綺麗にはしていたらしいんだがね、それでも全部の支払いは把握できてなかったといってた」
「なるほど、それはまともな親代わりのみなさんは、トゥバン伯辺りだと一番嫌がるところでしょうね」
「トゥバン伯を知っているの?」
「彼の刃物などの指導が、知己でございますので」
「あぁ、そういう繋がりか」
「それこそトゥバン伯は背も高いので、パーティーに来ると目立ちます、いや~羨ましいもんですな」
「やはり女性はある程度以上の身長は男性には求めるものなのかな」
「奥さまは違うようですがね」
「そうかな」
「そうなのですか?」
「意外と彼女は背の高い男は好きじゃないかな、頭もよくて、腕っぷしもあるような」
「…前の、お話出ていたかたはそうではないような」
「彼女からは今まで好きになった人とかは聞いてるんだよ」
「よくお話になってくれましたね」
「頑張って聞いた、なかなか答えてくれなかったけどもね」
「そこまでして、藪から蛇が出てきたらどうしますか?」
「可愛い蛇なんじゃないの?」
「旦那様は怖いもの知らずだ」
「そうしたら名前は藪美(やぶみ)と名付けよう、藪巳でもいいのかもしれないけども、ちょっと可愛くない」
「話は戻しますが」
「うん、やっぱり好みは気になるでしょ」
「ちなみに旦那様の好みは?」
「今は妻」
「今はですか」
「今はだよ、あんな可愛い子いないでしょ」
「これからも仲良くなさってください」
「するする、色々と約束もしているんだ、やっと頷いてくれたものもあるし、ちょっと嬉しい。あぁ、さすがにそれは教えられないよ、二人だけの秘密というやつだからね」
子供同士のやり取りのようなほんわかさが、そこにはあった。
「それでもまだ本丸は、離婚問題については片付いてはいないんだが」
離婚の話が出たら、そこで終わりですからね。
「そんな簡単に終われるわけがないじゃないか、終わらせれないよ」
「といいましてもね」
「わかってる、彼女がここにいるのならば結果を出さなければならない、それこそ結婚したからそうなりましたぐらいの良い結果だ。それは…その僕たちの間に子供が出来るということではないんだよな」
「残念ながらそうですね」
「うん、そうなんだよ、跡継ぎとかじゃない、領地に対してプラスであるということがわからなければならない、それこそ早急にね、だからこそ彼女が今まで実家周囲にしていたことを引き上げたことは、嫁いだ先に尽くすのは正しいという概念がある地域だからこそできたことでもある」
「そこまで強くないと聞いてはおりましたが」
「貧困というのは、ルールを自分のために歪めたり、言い訳を用意させたりするものだよ」
「なるほど、最近またマイルールにしようとしたという節があると」
「あるよ、それこそ嫁いでないうちは…ってやつね、そして今は、僕にもとは考えさせようとしていたらしい、さすがにそこまでやると、親代わりのみなさんが黙ってはいないだろうね」
「嘆かわしいですな、奥さまは、そんな家族でも家族として接しているところがあるというのに」
「そうだね、じゃなければ支払いを応じ、切り詰めて上手く…ただ彼女のすごいところは節約上手すぎたってことだろうか、普通はあの規模で、請求書を定期的に回されたら、当たり前のように破綻するが、彼女自身はできるだけ支払ってきたから、案外綺麗なものだね、ちょっとビックリする」
「そこまで娘にやってもらって、他は何を…」
「僕も言いにくいが、好きなだけ食べて、飲んでって、それでいながらに、必要なものは払わなかったらしい、だから請求書をやってくる」
「それは、その」
「飽食とは言わないけどもね、ただその飽食には彼女は誘われてないんだよ、たぶん誘われると、支払いは最後に彼女に向かうし、そうしたら酒を飲むのも、付き合いに出るのも止められるからね」
口うるさくはいってたが、それでも止まらなかった。
「それは自業自得、身から出た錆というやつですな」
「そういうのも対処しながら、ただああいう家族だとまともではないとなるだろう、でもいいことはあって、彼女は彼女で評価されていく、し払っていたり、婦人会に出入りしてたからね、それでも家に縛り付けられているようなものだから」
「逃げる…わけにもいかないですからね」
「それはどこに?そこまで逞しいならさっさと逃げているでしょ、これで教育機関にでも来ていたら、認めてくれた人間はいるだろうけどもね」
婦人会の経由で、ご実家から親族が遊びに来たりする際にも世話を焼いていた。
「あの子も年頃なのだけども、こちらでは良い縁談が難しいの、縁談は難しくても、ご実家と距離を置いてくれたらいいのにね」
というのが婦人会に属しているお嫁さんたちが、自分の実家の人間に紹介する時の愚痴である。
「あの土地で親切にしてくれるのは裏があるのではないか、まあ、そういうところもあるが、あそこはよそ者だからといって、最初から法外な額はつけない、ただまあ、地元値段は存在するみたいだからさ」
そこを上手く使って、屋敷で食べる自然薯などは確保している。
「正直、全国統一の貨幣経済というのはもう浸透しているものだと思ってたよ」
「というと?」
「山ではお金の価値が変わるみたいだった」
最初自然薯を食べていると、こんなに高いものをと思って、噛み締めるように食べていた。
「あれは私もいただいておりますが、美味しいです、疲れたときは、帰ってからすぐに食べても消化にも優しい」
「そうだよね、なんか粘りとか違うし、出汁で食べるのも好きなんだけども、味は濃いよね。こちらで買うと当たり前のように高いのだけども、なんでほぼ送料みたいな値段なんだろうなって」
「これは奥様の人徳ではありませんかね」
「そう思う」
お金は無くても自然薯を食べていたという彼女に、どうして?と聞いてみると、山の方に行くと、野菜ぐらいの値段で売っているから、そこで定期的に買っていたそうである。
「見た目普通の芋なので、家族に黙って、ばれませんでした」
これと栄養剤などを併用して、生き延びていた。
「本当によく生きてましたね、話を聞くと、労力は労力で求められていたようなので、呼びつけられるとすぐに赴かなければならなかったとか、その…娘ではない扱いですよね」
「そういう時間はどうしてもとられるから、食べること、寝ること、それ以外も無駄にはならないと、勉強してたりしたらしいよ」
「それは…今はここにいるからいいですけども、先が見えないのに、そこまでやるとなると」
「痛々しいでしょ?」
「はい、それを見ても何も感じないのであれば、やはりそれは…」
「だから先におかしいと気づいたのは、婦人会とか、そちらの実家のみなさんなんだよ」
何を実の娘にさせているのだ。
うちの妹が大変お世話になったのに。
婚家でもないんでしょ?それならばそこまで…
何人かなまず話し合ったようだ。
「縁談が来るのは理想だが、すぐには来ないだろう。ただこのままはあまりよろしくないが、どうだろうか?実家とは距離を置かないか?」
それで仕事をするという話で、実家から出ることになる。
「ご家族は反対はされなかったんですか?」
「何故かそこまで揉めなかったんだよね」
「えっ?」
「何でかなって思ったんだけども、普通さ、そこまで支払いを任せていた家族がいなくなったら、もう遊べなくなるって思わない?」
「思いますね、こう、慌てるとか」
「慌ててもいないんだよな、う~ん、不思議なんだけどもさ」
「新しいターゲットとして旦那様を選んでる?」
「俺にも来てないの」
「えっ?それはそれで」
「ただまあ、今までの支払ったぶんとか聞くけども、彼女が出ていくときに押し付けられた分は断ったわけ」
ついでにお前は上手く行かないと呪いのようにぶつけられたらひい。
「その時の支払いは分割で、かなり少額で払っているみたいだけども、支払い先が…とんでもないところなんだよな」
「えっ?というと」
「これ…」
見せられて、名前に驚く。
「彼女の家族はその名前を裏切った、先方は非常に悲しんでいると思いますよ、親身になって対応すると有名なところですし、人に裏切られて苦しんだだろう人間が、人を裏切るようになってはおしまいですよね」
「これは…ここまでですか」
「はい、そうです。彼女は実家では選択肢があるとしたら、家族のようにそうなるか、そんな中でもきちんと生きようとするか、ただその生活は長くなってしまったせいで、あんなに自己肯定感が低くなってしまいましたよ。ただあれはあれで可愛いと思ってますが」
夫に関してはだんだん冷静な顔して、自分の心を隠して接するのが出来なくなってるようだ。
「彼女のおかげで僕は体力を取り戻したようなものですから、おっさんだから疲れは取れなくなっちゃったかと思ったら、全然、はっはっ、夕方まで書類仕事しても、目が痛くならないのがおかしいと思ったらさ」
そんな感じで疲労状態が毎日なくなったので、体力は回復するし、布団から出たくないなと思っていたのに、ガバッと!起きれるようになった。
「仕事もそこで分類されて、前倒ししているから、今までと同じように仕事をこなせていて、時間があるある」
「ここら辺はここ以外ではお話はなりませんように」
「そうだね、仕事の量を増やされても困るし」
「押し付けようとしてくる相手がご近所におられますし」
「あそこはそのうち大きなトラブル起こして、自滅するだろうからさ、その時うちは被害を受けることは決定しているから、被害者面の練習でもしておきますかね」
「確実に向こうからむしりとってくださいませ」
「わかってるさ」
領地の忠臣は、この件に関しては煮え湯を飲まされてきた。その心情を加味して動くのは領主としては当たり前である。
「あぁ、いや、仕事の話ではないんだけどもね」
執事長に聞いてしまう。
「彼女は僕に家族を大事にしてくださいと言うんだ」
「それは悪いことではないのではないですか?」
「でも彼女は、自分のことは入ってないんだよね」
「今に始まったことではないですが、その奥さまはそういうところがございますね」
「あるね、そういう話になったら、自分を犠牲にするように、道具として使ってくださいとか平気で言うんだもん」
「それに対して旦那様は?」
「人を道具として使ったことがないわけではないよ」
「はい、そうでしょうな。そういうのもできなければ、上になど、立場あるものにはなれない」
「ただあれは僕にはあんまり向いてなかったというか」
「旦那様は高潔でいらっしゃる」
「そうかな?」
「そうですよ。なんというか全部自分でやたがるところはありました、それは悪くはないのですが、回らなくなってしまいますし…正直ですね、その辺の、人に頼む、任せるはあまり上手ではなかった」
「ごめんね」
「いえ、今は問題なくなりましたから」
「そうなの?」
「適切に割り振れているとは思いますよ」
「彼女に叱られたからな」
なんでこんなことまで自分でやってるんですか!
「それは私も思ってました」
「そうか…」
「ただ言い出せないところでもありました」
「ごめんなさい」
「うちの…執事が付き添うようになってから、歩調は合わせてくれるようにはなりましたが、それでも移動中もこなせる仕事をするとは思ってませんでしたし」
「そのぐらいやらなけらばなって…」
「疲れませんか?」
「疲れてました」
「旦那様…」
「今は疲れてませんよ。それこそ、彼女のおかげですよ」
「存じております。奥様は…そのどうやってご実家で生き延びてきたのかよくわかりますね」
「なんで屋敷の中でサバイバル、伏魔殿的なやつじゃなくて、節約系のサバイバルをしているんだろうか」
「意外とそういった大きななんとかをお持ちの人たちは、火の車のようですよ」
「それはたまに聞くけどもね」
「特に最近は火を吹き出しているところはあちらこちらはある」
「不満は多いようだからね」
「ただこの領地は上手くやっていると言っていいのではないでしょうか」
「それこそ彼女が手を回してくれているおかげなんだよな」
収穫期に合わせて、食料が上がるとされていたので、保存食などの作り方とかを配布したりした。
ないし、余裕があるところでは保存食を作るようにしている。
「お酒用の雪氷室に出番があるとは思いませんでした」
「それは僕もだよ」
「医薬品の保管も考えているとか」
「それがね、出来る雪氷室とそうでないところがあるらしく、うちは出来るけどもね」
「ほぅ?それは何か理由が?」
「振動があるか、ないかだよ」
「そういったもので薬がダメになるものがあると」
「そう、体内で合成されるようなもの関係は弱いものが多いね、まあ、これは保存の気温もあるんだけども、そういう意味ではこの雪氷室を最初に作った人はすごいと思う、確かに当時は家電というものはないし、冬前に食料を蓄えるためには必要だったからあの広さだけどもね、あの広さがあれば色んなことを出来るんじゃないかと」
「ネズミには注意ですかね」
「最近のネズミは人の言葉を覚えているようだぞ」
「はい、そう聞いています」
「範囲としては僕ら夫婦と、屋敷に仕えてくれる君たちとその家族分を考えている」
「それはよろしいのですか?」
「あぁ、そのぐらいじゃないと、いい仕事はしてもらえないとね、そこは妻と決めた」
理想の領主とはほど遠いかもしれないが、理想の領主になろうとしているところにはやはり交換が持てる。
「そのお年で、生まれでも育ちでもない、この土地で長らく暮らすということは…」
「仕事ですからね、しっかりやりますよ」
「そうですか」
「僕はのんびりとしてるところがある」
「それは気になっておりました」
「頼りなく思われているんだろうなってね」
「かもしれませんが、旦那様という人を知れば、それも変わりますがね」
「変わってくれるかな?」
「変わらないのならば、どこかおかしいですよ」
「ふっふっ、そうか」
「しかし、奥様の方も」
「何かな?」
「思いきったことをいたしましたね。こちらに気をかけるということでは、私は何ら反対はしませんが。ご実家の方にかけていたそれを、全部引き上げてこちらにでも持ってきたのかなと思われるほどです」
「あ~それか、もう本当にそれに近いも思うよ」
「やはりそうなのですか」
「彼女は実家は…そう好きではない、トゥバン伯との話も出たが、今の実家はあれから変わってないというか」
言うのが難しいようだ。
「彼女は、桜紋(おうもん)さんが訪ねてきた時に、家族の支払わなかったツケに対してきちんと対応したといってたけどもさ」
桜紋は執事長の甥です。
「はい、その話はしてましたな、でもそれでは、その~奥様のご家族はその手を使い続けるのではないかと」
「実際にそう見たいよ、だから呼び出されるとろくな思い出がなかったといってた」
家族たちではなくて、そこには見知らぬ誰かが待っていて、挨拶が終わると、言い出しにくいのですが、支払いが滞っておりましてと。
額面聞いて、すぐに用意した。
申し訳ないと謝罪をして、この手を何回も使っているのでこちらも困っておりましてという話をしてから終わる。
「そうなると、向こうはその知らないからこそ、使われていたってことで、その片棒を担いでしまった独特の後味の悪さがあるらしい」
「その方々の落ち度はないですよね?」
「ないよ、それである程度綺麗にはしていたらしいんだがね、それでも全部の支払いは把握できてなかったといってた」
「なるほど、それはまともな親代わりのみなさんは、トゥバン伯辺りだと一番嫌がるところでしょうね」
「トゥバン伯を知っているの?」
「彼の刃物などの指導が、知己でございますので」
「あぁ、そういう繋がりか」
「それこそトゥバン伯は背も高いので、パーティーに来ると目立ちます、いや~羨ましいもんですな」
「やはり女性はある程度以上の身長は男性には求めるものなのかな」
「奥さまは違うようですがね」
「そうかな」
「そうなのですか?」
「意外と彼女は背の高い男は好きじゃないかな、頭もよくて、腕っぷしもあるような」
「…前の、お話出ていたかたはそうではないような」
「彼女からは今まで好きになった人とかは聞いてるんだよ」
「よくお話になってくれましたね」
「頑張って聞いた、なかなか答えてくれなかったけどもね」
「そこまでして、藪から蛇が出てきたらどうしますか?」
「可愛い蛇なんじゃないの?」
「旦那様は怖いもの知らずだ」
「そうしたら名前は藪美(やぶみ)と名付けよう、藪巳でもいいのかもしれないけども、ちょっと可愛くない」
「話は戻しますが」
「うん、やっぱり好みは気になるでしょ」
「ちなみに旦那様の好みは?」
「今は妻」
「今はですか」
「今はだよ、あんな可愛い子いないでしょ」
「これからも仲良くなさってください」
「するする、色々と約束もしているんだ、やっと頷いてくれたものもあるし、ちょっと嬉しい。あぁ、さすがにそれは教えられないよ、二人だけの秘密というやつだからね」
子供同士のやり取りのようなほんわかさが、そこにはあった。
「それでもまだ本丸は、離婚問題については片付いてはいないんだが」
離婚の話が出たら、そこで終わりですからね。
「そんな簡単に終われるわけがないじゃないか、終わらせれないよ」
「といいましてもね」
「わかってる、彼女がここにいるのならば結果を出さなければならない、それこそ結婚したからそうなりましたぐらいの良い結果だ。それは…その僕たちの間に子供が出来るということではないんだよな」
「残念ながらそうですね」
「うん、そうなんだよ、跡継ぎとかじゃない、領地に対してプラスであるということがわからなければならない、それこそ早急にね、だからこそ彼女が今まで実家周囲にしていたことを引き上げたことは、嫁いだ先に尽くすのは正しいという概念がある地域だからこそできたことでもある」
「そこまで強くないと聞いてはおりましたが」
「貧困というのは、ルールを自分のために歪めたり、言い訳を用意させたりするものだよ」
「なるほど、最近またマイルールにしようとしたという節があると」
「あるよ、それこそ嫁いでないうちは…ってやつね、そして今は、僕にもとは考えさせようとしていたらしい、さすがにそこまでやると、親代わりのみなさんが黙ってはいないだろうね」
「嘆かわしいですな、奥さまは、そんな家族でも家族として接しているところがあるというのに」
「そうだね、じゃなければ支払いを応じ、切り詰めて上手く…ただ彼女のすごいところは節約上手すぎたってことだろうか、普通はあの規模で、請求書を定期的に回されたら、当たり前のように破綻するが、彼女自身はできるだけ支払ってきたから、案外綺麗なものだね、ちょっとビックリする」
「そこまで娘にやってもらって、他は何を…」
「僕も言いにくいが、好きなだけ食べて、飲んでって、それでいながらに、必要なものは払わなかったらしい、だから請求書をやってくる」
「それは、その」
「飽食とは言わないけどもね、ただその飽食には彼女は誘われてないんだよ、たぶん誘われると、支払いは最後に彼女に向かうし、そうしたら酒を飲むのも、付き合いに出るのも止められるからね」
口うるさくはいってたが、それでも止まらなかった。
「それは自業自得、身から出た錆というやつですな」
「そういうのも対処しながら、ただああいう家族だとまともではないとなるだろう、でもいいことはあって、彼女は彼女で評価されていく、し払っていたり、婦人会に出入りしてたからね、それでも家に縛り付けられているようなものだから」
「逃げる…わけにもいかないですからね」
「それはどこに?そこまで逞しいならさっさと逃げているでしょ、これで教育機関にでも来ていたら、認めてくれた人間はいるだろうけどもね」
婦人会の経由で、ご実家から親族が遊びに来たりする際にも世話を焼いていた。
「あの子も年頃なのだけども、こちらでは良い縁談が難しいの、縁談は難しくても、ご実家と距離を置いてくれたらいいのにね」
というのが婦人会に属しているお嫁さんたちが、自分の実家の人間に紹介する時の愚痴である。
「あの土地で親切にしてくれるのは裏があるのではないか、まあ、そういうところもあるが、あそこはよそ者だからといって、最初から法外な額はつけない、ただまあ、地元値段は存在するみたいだからさ」
そこを上手く使って、屋敷で食べる自然薯などは確保している。
「正直、全国統一の貨幣経済というのはもう浸透しているものだと思ってたよ」
「というと?」
「山ではお金の価値が変わるみたいだった」
最初自然薯を食べていると、こんなに高いものをと思って、噛み締めるように食べていた。
「あれは私もいただいておりますが、美味しいです、疲れたときは、帰ってからすぐに食べても消化にも優しい」
「そうだよね、なんか粘りとか違うし、出汁で食べるのも好きなんだけども、味は濃いよね。こちらで買うと当たり前のように高いのだけども、なんでほぼ送料みたいな値段なんだろうなって」
「これは奥様の人徳ではありませんかね」
「そう思う」
お金は無くても自然薯を食べていたという彼女に、どうして?と聞いてみると、山の方に行くと、野菜ぐらいの値段で売っているから、そこで定期的に買っていたそうである。
「見た目普通の芋なので、家族に黙って、ばれませんでした」
これと栄養剤などを併用して、生き延びていた。
「本当によく生きてましたね、話を聞くと、労力は労力で求められていたようなので、呼びつけられるとすぐに赴かなければならなかったとか、その…娘ではない扱いですよね」
「そういう時間はどうしてもとられるから、食べること、寝ること、それ以外も無駄にはならないと、勉強してたりしたらしいよ」
「それは…今はここにいるからいいですけども、先が見えないのに、そこまでやるとなると」
「痛々しいでしょ?」
「はい、それを見ても何も感じないのであれば、やはりそれは…」
「だから先におかしいと気づいたのは、婦人会とか、そちらの実家のみなさんなんだよ」
何を実の娘にさせているのだ。
うちの妹が大変お世話になったのに。
婚家でもないんでしょ?それならばそこまで…
何人かなまず話し合ったようだ。
「縁談が来るのは理想だが、すぐには来ないだろう。ただこのままはあまりよろしくないが、どうだろうか?実家とは距離を置かないか?」
それで仕事をするという話で、実家から出ることになる。
「ご家族は反対はされなかったんですか?」
「何故かそこまで揉めなかったんだよね」
「えっ?」
「何でかなって思ったんだけども、普通さ、そこまで支払いを任せていた家族がいなくなったら、もう遊べなくなるって思わない?」
「思いますね、こう、慌てるとか」
「慌ててもいないんだよな、う~ん、不思議なんだけどもさ」
「新しいターゲットとして旦那様を選んでる?」
「俺にも来てないの」
「えっ?それはそれで」
「ただまあ、今までの支払ったぶんとか聞くけども、彼女が出ていくときに押し付けられた分は断ったわけ」
ついでにお前は上手く行かないと呪いのようにぶつけられたらひい。
「その時の支払いは分割で、かなり少額で払っているみたいだけども、支払い先が…とんでもないところなんだよな」
「えっ?というと」
「これ…」
見せられて、名前に驚く。
「彼女の家族はその名前を裏切った、先方は非常に悲しんでいると思いますよ、親身になって対応すると有名なところですし、人に裏切られて苦しんだだろう人間が、人を裏切るようになってはおしまいですよね」
「これは…ここまでですか」
「はい、そうです。彼女は実家では選択肢があるとしたら、家族のようにそうなるか、そんな中でもきちんと生きようとするか、ただその生活は長くなってしまったせいで、あんなに自己肯定感が低くなってしまいましたよ。ただあれはあれで可愛いと思ってますが」
夫に関してはだんだん冷静な顔して、自分の心を隠して接するのが出来なくなってるようだ。
「彼女のおかげで僕は体力を取り戻したようなものですから、おっさんだから疲れは取れなくなっちゃったかと思ったら、全然、はっはっ、夕方まで書類仕事しても、目が痛くならないのがおかしいと思ったらさ」
そんな感じで疲労状態が毎日なくなったので、体力は回復するし、布団から出たくないなと思っていたのに、ガバッと!起きれるようになった。
「仕事もそこで分類されて、前倒ししているから、今までと同じように仕事をこなせていて、時間があるある」
「ここら辺はここ以外ではお話はなりませんように」
「そうだね、仕事の量を増やされても困るし」
「押し付けようとしてくる相手がご近所におられますし」
「あそこはそのうち大きなトラブル起こして、自滅するだろうからさ、その時うちは被害を受けることは決定しているから、被害者面の練習でもしておきますかね」
「確実に向こうからむしりとってくださいませ」
「わかってるさ」
領地の忠臣は、この件に関しては煮え湯を飲まされてきた。その心情を加味して動くのは領主としては当たり前である。
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