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見たら呪われそう
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「何かお飲みになりますか?」
「えっ?あっ?ありがとう」
お茶でも珈琲でもというので、お茶にする。
「それで今は何を」
「アイディアを書き留めている、こういうのは学生時代はよくやっていたんだけどもさ」
「それは何故に今になりまして?」
「やっぱり余裕が出来たからじゃないかな、学生時代はお金がなくてやれなかった、今までは仕事で時間が取られていたけども、こうして考えれるのは君のお陰だよ、ありがとう」
「どういたしまして」
そう答えた後に、領主の妻はホッとした自分がいるのがよくわかったのである。
(なんでしょうね、これ)
頭で思い描いていたが、実際に変わるまでは気が抜けない、そんな状態が続いていたのが、ようやく終わった。そんなところか。
「どうしたの?」
「ああ、なんか気が抜けたんですかね」
「何か、気を使わせた?」
「旦那様は本当に仕事、仕事でしたから」
「そうだね、ひたすら走り回っていたかな」
執事親子二人がかりでサポートしているぐらいである。
「それが…」
「まず全部の仕事を見させてもらって、やる、やらない、任せる、育てる、とかもうそんな感じで割り振りさせてもらいましたよ」
「うん、ありがとう」
「これが仕事を全部こだわりたいのっていう人だったら、バットエンド決定でしたわ」
「いるよね、そういうタイプ、僕はそうではないけども、憧れるところはある」
「そっちに時間を取るとしたら、任せれる人を増やさなくてはいけません」
「そうだね、そう簡単には増えないけど」
「増えませんよ、屋敷のみなさんが協力的だからこそ、私は楽させてもらいました」
「あれが楽?」
「楽ではありませんか?」
楽とは何か?定義が揺らぐ。
「何を言っても反対、お前の意見は通さないという人に比べたら、話を聞いてもらえる、どういうことか理解をしてもらえるのはね」
「君は本当にとんでもないところにいたんだな」
「ずっといると思ってましたよ」
「それはダメだよ」
お茶を二人で飲むということ。
「ダメですか?」
「ダーメ、僕のところに嫁に来なさい」
「もう嫁ですし、まあ、実家にいたままならば旦那様とは会えてませんよ」
「いーや、そこはさ、色んなものをねじ曲げても君に会ってみせるよ、男の執念を見せてやるよ」
「その力は前向きな方に使いましょうよ、旦那様はその方があってる」
「君は僕を綺麗に扱う」
「あなたのような人は必要なんですよ、私は汚れ仕事、血生臭い方ではないけども、欲にまみれた方ならばできますから、上手く使ってくださいよ」
「やだよ、君はいつもニコニコしてくれなくちゃ」
「ニコニコですか?」
「笑顔の強制はないから、それだけはしないから」
「あ~そうですか」
彼女は実家にいたときに、愛想がないといつも注意されていた。
「笑いたくないものに頬笑む必要もないよ」
「それはそうてわすね。本当に面白くないもことをするんですよね」
「自分達のいうことは絶対?と」
「そっ、でも自分たちはそういう生き方はしてないのに、私にはそう言うんですよ」
「えっ?代々じゃないの」
「代々ではありませんよ、確認しました。なんか勝手にそういい回ってる、不思議ですね」
「モンスターじゃないか」
「に、なってましたね」
「君はその割には、いや、その」
「あぁ、その表現であってますよ、よく言われてましたから」
「ごめん」
「いえ、身内がああだから、私もそうである、ないし、距離をおこうってところでしょうから、そうなるのは、もう当たり前になってましたから」
「君の地元というところはどういうところなの?」
「閉鎖的なのか、新しいものな好きなのかよくわからないけども、変わった人間は定期的に生まれるから、そういうのの一人が私なのではないかな」
「君のような人は今まで見たことないよ」
「そうですか?でも大したことないから」
「自己肯定感が低いよね」
「低くもなりますよ、あんなところにいたらね」
「俺も君を愛するけども、君も自分を大事にするんだよ」
「できるかな」
「出来るさ、君のすごいところは自暴自棄になってないところだよ。下手するとさ、お酒とかに走るのに」
「いや~そこはね、お酒に女は逃げられない地域でもありますから」
「それは辛い…いや、俺も結構酒は飲んでたからな」
「楽しいから飲むんですか?」
「寂しくても飲むよ」
「それは体壊しやすいですよ」
「でもいい気分になれるから」
「もう…」
「君がいたら、本当に飲まなくなったんだよな」
「あまりにもひどいと、そりゃあ、怒りますよ」
「怒るね…君が怒ったところで」
「ああ、それはありますよ、怒っても怖くないというか、止まらないですね」
「それは可哀想だ」
「可哀想ですか?」
「美酒や美食は確かに楽しいけども、その先に待ってる破滅はあるから」
「ええ、それは…」
「そういうのも考えてないわけじゃなかったんだよな」
「それでもやめれなかった」
「癒しだったから?」
「そうだね、激務の支えをそれにした、失敗だよ」
「失敗なんて言わないで、経験って言いましょうよ」
「経験か、そういわれたら悪くないね。やっぱりうちの奥さんは最高だ、僕だけならばその結論で落ちこんでいただろうさ」
「大丈夫ですよ、何とか、ええっと無責任に何とかなるとは言いません、ただ次の手を急いで考えますから」
「今の僕にはこんなに頼もしいパートナーがいるんだよな」
「パートナーじゃないですよ、道具ですよ」
「なんてことをいうのさ」
「そのぐらい、割りきってくださいよ」
「嫌だよ、君をそう見たら、僕は、俺は、冷静ではいられないよ」
「なんでです?恨みませんよ」
「君は人だよ」
「知ってますよ」
「その辺にこびりついた考え方はいつか覆すからね」
「旦那様にできますか?」
「…」
「失礼しました」
「出来ないかもしれないね」
「…」
「でもさ、見て見ぬふりや、やらないという選択肢もないよ」
「本当に、苦労が多い、いえ、努力が必要になる人生ですね」
「そうね」
「旦那様は不思議な人ですね、他の人にはわからない何かがある、それはなんですか?」
「こういうとき、人ではないものを眺める目をする君は、俺の妻としての君ではないけども、これはこれで魅力があるんだよな」
吸い込まれるような、底が知らないような、焦点がいつもと違うので、表情が別人になる。
「失礼いたしました」
「嫌いではないよ、お嬢さん」
「でも気分のいいものではないでしょ?」
「そうでもない、俺をじっと見つめてくれるなんて、普段はしてくれないし、俺としてはもっと見つめてくれてもいいんじゃないかって、そう思ってて」
「あの状態に、嫌悪感を持たないとは」
「持たないよ、だって、興味で見ている訳じゃないから、興味で見ているのならば、やっぱり趣味的には合わないけども、お仕事の見積り、信頼できる人かの確認と思えばさ、君は意味のないことはしないから」
「そうですね、ごてごての装飾になりがちなのをシンプルにするから、そんなの伝統的には違うのだとか言われたりはしますね」
「そんなことも?あぁやっぱり君のことはよく知らなくてはいけないよ」
「それは藪かもしれません」
「では君が蛇か、僕はその蛇に魅入られてしまったのか」
「ばーか」
「はっはっはっ」
「本気で心配してる」
「知ってる。君はそういう人だし、だから…まあ、そこは俺の悪いところだな、こうやって試しているところがある」
「ろくでもない…」
「それはそう思う」
「それ、その私は査察とかで慣れてますけども、そんなことを何気なくやったら…」
「不快だろうね」
「じゃあなんで」
「興味」
「好奇心でやることではありませんよ…もう」
「本当ね、うん、なんか俺にはこういう部分があるんだよね」
「うわ…」
「おかしいと思わない?こう…いきなりこういう任についたわけだし」
「なんです、そういう欲求を満たせるから?」
「ちょっと遠くから、人間というものを見たかった」
「どこの宇宙人ですか」
「人間も宇宙人だよ」
「そういうことでなくて、あ~旦那様は教育機関が水に合うような人間なのはわかりました」
「あそこはあそこで楽しいのだけども、外の世界もみたくなった。そしたら君と出会っちゃったから、外の世界に興味を持つのも悪くないよね」
「今まで生き辛いと感じたことはないのですか?」
「幸い、ないんだよ。本当に、両親の愛情をたっぷりと受け、容姿が目を引く、弟の友達は未だに夢想するような姉を持ってる、そんな俺なんだけどもね」
「頭の出来は同じ年の中では上から数えた方が確実に早いと思いますが」
「でもそれって機関に入学した中での話だし、君のような、その一言で違いを見せるような人間はたくさんいると思うんだよね。そういう意味ではラッキー、でもそのせいで不安定ってところかな」
「今までよくバランス取れてましたね」
「取れてたね、前しか見てなかったから、そういう意味では、君と結婚してからじゃないの、落ち着いて、自分を見つめ直しているの。こんなに自分の愛が禍禍しいものだとは思わなかったよね」
「ご自覚がありましたか」
「あった、君もそういう俺の禍禍しい愛情を見ても、冷静なのがさらに拍車をかけたと思う」
「なんです?」
「俺を見てください」
「見てますが?」
「これからもずっとずっと見てほしい、他の男どころか、他のものに目をとられてはいけないよ」
そういって、サラリと伸びた妻の髪を撫でる。
「旦那様…」
「なんだい」
指に残る彼女の髪にキスをする。
「あなたの心が白日の物にさらされたのは、はじめての経験ではないでしょうか」
「たぶん、そうだ。こんなもの、家族にも友達にも見せれるものではないね」
「では、そのうち日の光を浴びて溶け去りますよ」
「えっ?これは溶けちゃうの?」
「気持ちとはそういうものですよ」
「やだな、えっ?本当に」
「遅れて思春期が来てる」
「ずいぶんと遅いんですけど」
「もっとちゃんと恋してきなさいよ」
「したかったよ!」
「へぇ」
「は、はい、したかったですが、勉強が第一で、そのですね。僕らが支援している生徒君もそうだけども、成績上位者をキープすることに意味がある状態、成績上位者だからこそ、相手にされているのがわかるとね、キープすることは思った以上に、いや、その時の僕らの価値はそれだけなんだよな」
「ずいぶんと幅の狭い生き方ですね」
「しょうがない、それぐらい色んなところから集められた人間が、限られた席を狙っている。ただ僕らの学年は運が良かった、一番のやつがさ、圧倒的ではあったけども、体がついていかなかった」
「喘息とかいってましたね」
「うん、だから首席が本来進むコースをどうするか問題はあった。僕はその候補からはずれてた、向いてないって思われていたから助かったぐらいだ。あいつは時折発作のために休んでた、でも当たり前のように成績は出してたからね。他の学年はそうじゃないから、成績を出すことが一番というか、そうじゃない自分には意味がないってことで、追い詰められてた生徒はいたな」
「それは…まあ、こちらでもいましたからね」
「そうか…」
「ええ、それが出来ない自分にもあるし、それが出来ない貴女には価値があるのかしら的な」
「君は言われたの?」
「これもまた複雑ですね。言われたことはありますが、その時には婦人会の方に顔をだしていたので、彼女は、私に悪口、皮肉、マウント言ってくる相手は、私のことを知らないで言ってきている、ええっと、その子は婦人会付き合いがないので」
「ないとどうなるの?」
「特に…ちょっと違うかな。その婦人会って嫁いで来た人たちの会なんで、そこに相手にされてないってことは、地元の因習に縛られている女性って感じですね」
「因習って何があるの?」
「その家にもよるんだけども、家族の男性はみんなえらいから、女性は慎ましく生きろみたいな感じはありますね」
「それは結構あちこちに聞こえるけどもさ、君のところは桜紋(おうもん)さんからも報告なかったな」
桜紋は執事長の甥に辺り、領地内外を歩き回り、色んな話を聞いて回ってる。
「これもね、色々抜け道というか、あるんですがね。女性の仕事がプロレベルっていうんですかね、他の女性に教えれる、先生に達する技能があると話は変わってくるってことですかね」
「あっ、そこまで来ると、旦那、男側は何も言えなくなるのか」
「唯一じゃないけども、女性側の残された方法の一つですかね、縫製とか、料理とか」
「じゃあ、君は?」
「私の場合は参考にならないですが、婦人会への参加ですよ」
「どういうこと」
「この地に嫁いで来た女性の集まりである婦人会に、なんでその地に生れた私がいるのかってことですよ」
「その立場がまずないことなのか」
「そうですね、ここで初めて、嫁いだ方々の霧が晴れるような、因習、風習がわかるのもありますし。話を聞いて驚くんですけども、お国言葉ってあるじゃないですか」
つまりは方言である。
「共通語がわかるのに、わざとお国言葉にお嫁さんに話す家もあるんですよ」
「何んだよ、それ」
「うちはその辺は、ええっと旦那様とは私は共通語で話しておりますが、本来生まれた地域がありますから、言葉、単語も音も違うんですよ、わからない言葉でわざわざ話、わからないんだって笑うというBBAがいます」
「それ揉めるよね」
「そこは、もう先住民の方が力が強いと言いますかね」
「パワハラってことか」
「ですが、そこに私がいた場合」
「通訳できちゃう」
「そうですね、そういう人間がいると、その手が使えなくなる」
「でもそうすると、他の嫌がらせに」
「そこは逆に嫁入りしてきたみなさんが強いと言うか、唯一わからないのが言葉で向こうはいいように動いたから、それが使えなくなると」
そんなことをこちらは知らないとは言え、言ってたの!不満があるなら、さっさと言いなさいよ。
「もう凄かったですね、我慢していたのがその日終わったみたいで、旦那さんに自分の味方をしてくれるのか、そうじゃないならば離婚をしますってことで、そうしたら、多少は平穏になりましたね」
「すごいな、それも」
「あれはいびる側が悪い、わからないのをいいことに、それは…もう…とだんだんエスカレートしていった。地方だからといって許されていたことが、今では許されなくなった。言葉の違いで今まで発散していたらしい人たちには申し訳ありませんが」
「そこは許さなくていいと思うよ、君のような人もいるじゃないか」
「私は…まあ、そんなわけで、婦人会がきっかけで、他の地域というのは別世界なんだなというのを聞いてた、正直そこから、あっ、うちの家族というのは普通じゃないんだなと」
「どの辺が」
「あれは地域の文化に守られているだけであって、こんなにあちこちと交流が求められている世の中であれば、ああいう生き方したら没落するし、仕事なんかも振られることはないんだなって、これでもまだ家族のことを考えてたのならば、それはいけない事なので、直しましょうよって言えるのですが、私はそれだけは無理だった」
「一緒に衰退する気だったの?」
「あぁ、それも…」
「それならやっぱり俺のところに来なよ、今、ここに居てくれているけどもさ、ずっと…居なよ」
「本当、ワケありの人間にも優しい旦那様で」
「違うよ、君だから俺は優しいんだよ」
「それはない」
「なんでそこになると、拒絶するのさ」
「ないものはない」
「もう俺の、君へのハートのデザイン見たでしょ?歪みに歪んだあれ」
「見たら呪われそうですよね」
「君との邪魔をしたら発動します」
「そういうことを素で言わない」
「こうしなければ荒ぶってしまいますから」
外交スマイルを浮かべた。
あぁ、これはどこかで発散、デザインノートを50冊ぐらい書かせて、気力使わせなきゃと妻は計算する。
「えっ?あっ?ありがとう」
お茶でも珈琲でもというので、お茶にする。
「それで今は何を」
「アイディアを書き留めている、こういうのは学生時代はよくやっていたんだけどもさ」
「それは何故に今になりまして?」
「やっぱり余裕が出来たからじゃないかな、学生時代はお金がなくてやれなかった、今までは仕事で時間が取られていたけども、こうして考えれるのは君のお陰だよ、ありがとう」
「どういたしまして」
そう答えた後に、領主の妻はホッとした自分がいるのがよくわかったのである。
(なんでしょうね、これ)
頭で思い描いていたが、実際に変わるまでは気が抜けない、そんな状態が続いていたのが、ようやく終わった。そんなところか。
「どうしたの?」
「ああ、なんか気が抜けたんですかね」
「何か、気を使わせた?」
「旦那様は本当に仕事、仕事でしたから」
「そうだね、ひたすら走り回っていたかな」
執事親子二人がかりでサポートしているぐらいである。
「それが…」
「まず全部の仕事を見させてもらって、やる、やらない、任せる、育てる、とかもうそんな感じで割り振りさせてもらいましたよ」
「うん、ありがとう」
「これが仕事を全部こだわりたいのっていう人だったら、バットエンド決定でしたわ」
「いるよね、そういうタイプ、僕はそうではないけども、憧れるところはある」
「そっちに時間を取るとしたら、任せれる人を増やさなくてはいけません」
「そうだね、そう簡単には増えないけど」
「増えませんよ、屋敷のみなさんが協力的だからこそ、私は楽させてもらいました」
「あれが楽?」
「楽ではありませんか?」
楽とは何か?定義が揺らぐ。
「何を言っても反対、お前の意見は通さないという人に比べたら、話を聞いてもらえる、どういうことか理解をしてもらえるのはね」
「君は本当にとんでもないところにいたんだな」
「ずっといると思ってましたよ」
「それはダメだよ」
お茶を二人で飲むということ。
「ダメですか?」
「ダーメ、僕のところに嫁に来なさい」
「もう嫁ですし、まあ、実家にいたままならば旦那様とは会えてませんよ」
「いーや、そこはさ、色んなものをねじ曲げても君に会ってみせるよ、男の執念を見せてやるよ」
「その力は前向きな方に使いましょうよ、旦那様はその方があってる」
「君は僕を綺麗に扱う」
「あなたのような人は必要なんですよ、私は汚れ仕事、血生臭い方ではないけども、欲にまみれた方ならばできますから、上手く使ってくださいよ」
「やだよ、君はいつもニコニコしてくれなくちゃ」
「ニコニコですか?」
「笑顔の強制はないから、それだけはしないから」
「あ~そうですか」
彼女は実家にいたときに、愛想がないといつも注意されていた。
「笑いたくないものに頬笑む必要もないよ」
「それはそうてわすね。本当に面白くないもことをするんですよね」
「自分達のいうことは絶対?と」
「そっ、でも自分たちはそういう生き方はしてないのに、私にはそう言うんですよ」
「えっ?代々じゃないの」
「代々ではありませんよ、確認しました。なんか勝手にそういい回ってる、不思議ですね」
「モンスターじゃないか」
「に、なってましたね」
「君はその割には、いや、その」
「あぁ、その表現であってますよ、よく言われてましたから」
「ごめん」
「いえ、身内がああだから、私もそうである、ないし、距離をおこうってところでしょうから、そうなるのは、もう当たり前になってましたから」
「君の地元というところはどういうところなの?」
「閉鎖的なのか、新しいものな好きなのかよくわからないけども、変わった人間は定期的に生まれるから、そういうのの一人が私なのではないかな」
「君のような人は今まで見たことないよ」
「そうですか?でも大したことないから」
「自己肯定感が低いよね」
「低くもなりますよ、あんなところにいたらね」
「俺も君を愛するけども、君も自分を大事にするんだよ」
「できるかな」
「出来るさ、君のすごいところは自暴自棄になってないところだよ。下手するとさ、お酒とかに走るのに」
「いや~そこはね、お酒に女は逃げられない地域でもありますから」
「それは辛い…いや、俺も結構酒は飲んでたからな」
「楽しいから飲むんですか?」
「寂しくても飲むよ」
「それは体壊しやすいですよ」
「でもいい気分になれるから」
「もう…」
「君がいたら、本当に飲まなくなったんだよな」
「あまりにもひどいと、そりゃあ、怒りますよ」
「怒るね…君が怒ったところで」
「ああ、それはありますよ、怒っても怖くないというか、止まらないですね」
「それは可哀想だ」
「可哀想ですか?」
「美酒や美食は確かに楽しいけども、その先に待ってる破滅はあるから」
「ええ、それは…」
「そういうのも考えてないわけじゃなかったんだよな」
「それでもやめれなかった」
「癒しだったから?」
「そうだね、激務の支えをそれにした、失敗だよ」
「失敗なんて言わないで、経験って言いましょうよ」
「経験か、そういわれたら悪くないね。やっぱりうちの奥さんは最高だ、僕だけならばその結論で落ちこんでいただろうさ」
「大丈夫ですよ、何とか、ええっと無責任に何とかなるとは言いません、ただ次の手を急いで考えますから」
「今の僕にはこんなに頼もしいパートナーがいるんだよな」
「パートナーじゃないですよ、道具ですよ」
「なんてことをいうのさ」
「そのぐらい、割りきってくださいよ」
「嫌だよ、君をそう見たら、僕は、俺は、冷静ではいられないよ」
「なんでです?恨みませんよ」
「君は人だよ」
「知ってますよ」
「その辺にこびりついた考え方はいつか覆すからね」
「旦那様にできますか?」
「…」
「失礼しました」
「出来ないかもしれないね」
「…」
「でもさ、見て見ぬふりや、やらないという選択肢もないよ」
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「旦那様は不思議な人ですね、他の人にはわからない何かがある、それはなんですか?」
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吸い込まれるような、底が知らないような、焦点がいつもと違うので、表情が別人になる。
「失礼いたしました」
「嫌いではないよ、お嬢さん」
「でも気分のいいものではないでしょ?」
「そうでもない、俺をじっと見つめてくれるなんて、普段はしてくれないし、俺としてはもっと見つめてくれてもいいんじゃないかって、そう思ってて」
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「そうですね、ごてごての装飾になりがちなのをシンプルにするから、そんなの伝統的には違うのだとか言われたりはしますね」
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「それは藪かもしれません」
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「でもそれって機関に入学した中での話だし、君のような、その一言で違いを見せるような人間はたくさんいると思うんだよね。そういう意味ではラッキー、でもそのせいで不安定ってところかな」
「今までよくバランス取れてましたね」
「取れてたね、前しか見てなかったから、そういう意味では、君と結婚してからじゃないの、落ち着いて、自分を見つめ直しているの。こんなに自分の愛が禍禍しいものだとは思わなかったよね」
「ご自覚がありましたか」
「あった、君もそういう俺の禍禍しい愛情を見ても、冷静なのがさらに拍車をかけたと思う」
「なんです?」
「俺を見てください」
「見てますが?」
「これからもずっとずっと見てほしい、他の男どころか、他のものに目をとられてはいけないよ」
そういって、サラリと伸びた妻の髪を撫でる。
「旦那様…」
「なんだい」
指に残る彼女の髪にキスをする。
「あなたの心が白日の物にさらされたのは、はじめての経験ではないでしょうか」
「たぶん、そうだ。こんなもの、家族にも友達にも見せれるものではないね」
「では、そのうち日の光を浴びて溶け去りますよ」
「えっ?これは溶けちゃうの?」
「気持ちとはそういうものですよ」
「やだな、えっ?本当に」
「遅れて思春期が来てる」
「ずいぶんと遅いんですけど」
「もっとちゃんと恋してきなさいよ」
「したかったよ!」
「へぇ」
「は、はい、したかったですが、勉強が第一で、そのですね。僕らが支援している生徒君もそうだけども、成績上位者をキープすることに意味がある状態、成績上位者だからこそ、相手にされているのがわかるとね、キープすることは思った以上に、いや、その時の僕らの価値はそれだけなんだよな」
「ずいぶんと幅の狭い生き方ですね」
「しょうがない、それぐらい色んなところから集められた人間が、限られた席を狙っている。ただ僕らの学年は運が良かった、一番のやつがさ、圧倒的ではあったけども、体がついていかなかった」
「喘息とかいってましたね」
「うん、だから首席が本来進むコースをどうするか問題はあった。僕はその候補からはずれてた、向いてないって思われていたから助かったぐらいだ。あいつは時折発作のために休んでた、でも当たり前のように成績は出してたからね。他の学年はそうじゃないから、成績を出すことが一番というか、そうじゃない自分には意味がないってことで、追い詰められてた生徒はいたな」
「それは…まあ、こちらでもいましたからね」
「そうか…」
「ええ、それが出来ない自分にもあるし、それが出来ない貴女には価値があるのかしら的な」
「君は言われたの?」
「これもまた複雑ですね。言われたことはありますが、その時には婦人会の方に顔をだしていたので、彼女は、私に悪口、皮肉、マウント言ってくる相手は、私のことを知らないで言ってきている、ええっと、その子は婦人会付き合いがないので」
「ないとどうなるの?」
「特に…ちょっと違うかな。その婦人会って嫁いで来た人たちの会なんで、そこに相手にされてないってことは、地元の因習に縛られている女性って感じですね」
「因習って何があるの?」
「その家にもよるんだけども、家族の男性はみんなえらいから、女性は慎ましく生きろみたいな感じはありますね」
「それは結構あちこちに聞こえるけどもさ、君のところは桜紋(おうもん)さんからも報告なかったな」
桜紋は執事長の甥に辺り、領地内外を歩き回り、色んな話を聞いて回ってる。
「これもね、色々抜け道というか、あるんですがね。女性の仕事がプロレベルっていうんですかね、他の女性に教えれる、先生に達する技能があると話は変わってくるってことですかね」
「あっ、そこまで来ると、旦那、男側は何も言えなくなるのか」
「唯一じゃないけども、女性側の残された方法の一つですかね、縫製とか、料理とか」
「じゃあ、君は?」
「私の場合は参考にならないですが、婦人会への参加ですよ」
「どういうこと」
「この地に嫁いで来た女性の集まりである婦人会に、なんでその地に生れた私がいるのかってことですよ」
「その立場がまずないことなのか」
「そうですね、ここで初めて、嫁いだ方々の霧が晴れるような、因習、風習がわかるのもありますし。話を聞いて驚くんですけども、お国言葉ってあるじゃないですか」
つまりは方言である。
「共通語がわかるのに、わざとお国言葉にお嫁さんに話す家もあるんですよ」
「何んだよ、それ」
「うちはその辺は、ええっと旦那様とは私は共通語で話しておりますが、本来生まれた地域がありますから、言葉、単語も音も違うんですよ、わからない言葉でわざわざ話、わからないんだって笑うというBBAがいます」
「それ揉めるよね」
「そこは、もう先住民の方が力が強いと言いますかね」
「パワハラってことか」
「ですが、そこに私がいた場合」
「通訳できちゃう」
「そうですね、そういう人間がいると、その手が使えなくなる」
「でもそうすると、他の嫌がらせに」
「そこは逆に嫁入りしてきたみなさんが強いと言うか、唯一わからないのが言葉で向こうはいいように動いたから、それが使えなくなると」
そんなことをこちらは知らないとは言え、言ってたの!不満があるなら、さっさと言いなさいよ。
「もう凄かったですね、我慢していたのがその日終わったみたいで、旦那さんに自分の味方をしてくれるのか、そうじゃないならば離婚をしますってことで、そうしたら、多少は平穏になりましたね」
「すごいな、それも」
「あれはいびる側が悪い、わからないのをいいことに、それは…もう…とだんだんエスカレートしていった。地方だからといって許されていたことが、今では許されなくなった。言葉の違いで今まで発散していたらしい人たちには申し訳ありませんが」
「そこは許さなくていいと思うよ、君のような人もいるじゃないか」
「私は…まあ、そんなわけで、婦人会がきっかけで、他の地域というのは別世界なんだなというのを聞いてた、正直そこから、あっ、うちの家族というのは普通じゃないんだなと」
「どの辺が」
「あれは地域の文化に守られているだけであって、こんなにあちこちと交流が求められている世の中であれば、ああいう生き方したら没落するし、仕事なんかも振られることはないんだなって、これでもまだ家族のことを考えてたのならば、それはいけない事なので、直しましょうよって言えるのですが、私はそれだけは無理だった」
「一緒に衰退する気だったの?」
「あぁ、それも…」
「それならやっぱり俺のところに来なよ、今、ここに居てくれているけどもさ、ずっと…居なよ」
「本当、ワケありの人間にも優しい旦那様で」
「違うよ、君だから俺は優しいんだよ」
「それはない」
「なんでそこになると、拒絶するのさ」
「ないものはない」
「もう俺の、君へのハートのデザイン見たでしょ?歪みに歪んだあれ」
「見たら呪われそうですよね」
「君との邪魔をしたら発動します」
「そういうことを素で言わない」
「こうしなければ荒ぶってしまいますから」
外交スマイルを浮かべた。
あぁ、これはどこかで発散、デザインノートを50冊ぐらい書かせて、気力使わせなきゃと妻は計算する。
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