925 / 996
知りたいと嫌われたくないの板挟み
しおりを挟む
「目の前で歴史が動いているのに、架空の戦記に心は動かされたりしないものだよ。まぁ、気分転換はしなきゃならないけどもね」
「旦那様」
「あぁ、ごめん、言い過ぎたかな?」
「いえ」
執事長はいつも冷静である。
「ちょっと今日は辛辣だな」
「奥さまがお戻りまでにはしばらくかかります」
「…そうか、あ~早く会いたいね、俺のハニー、美しい人、こういうときに甘い言葉を一つ、それこそ、口説き文句を言える男は羨ましいよ、僕は本当にそんなときは…」
「旦那様、奥様がお帰りになられましたよ」
「!」
「ずいぶんと早かったじゃないか?」
「なんでも驚くほどスムーズに話が進んだとかで」
「会談をそっちのけでないのならば、それで結構だな」
「旦那様は奥様が着替える前に一目ご覧になられたらどうです?」
「えっ?何?おめかししているの?」
「ドレスコードもございましたから、ただ今回は向こうのお屋敷の方が全面的にご用意いたしましたので」
ストレスが溜まってるので、私の好きにメイクしたり、補正下着をつけて、着飾ったり出来るのならば、全部持つわ。
「着せ替え人形をそんな感じでやることになりましたからね…奥様、化けましたわ」
「ちょっと行ってくるね」
「今日の分のお仕事は終わってますから、ごゆっくり」
私室の中から物音がする。
「ねぇ、入っていい?」
外から声をかけると。
「えっ?あっ、旦那様。いいですけども、…はい、いいです」
何かが終わったようだ。
「じゃあ、失礼するよ…本当にいつもとは雰囲気違うね」
「盛ってますよね」
「可愛いじゃないか」
「でもこれはメイクはいつものに戻している状態ですから、向こうにいたときは鏡の中に別人がいましたからね。しかし、スタイル、その昔は女性は細く見せるためのコルセットをつけていた話はありますが、ウエスト見せるために今回は締めてもいました」
「そこまで、そのムチムチしているというわけでは…いや、ムチムチはしっかり残しながらという、とても理想的な」
「旦那様の理想論はわかりますが、現実にはベルトの跡がお腹なんかに残ってますから」
しかし、ベルトの跡はお腹と、太ももにもあり。
「その…非常にいいにくいのですが…」
「気づかれているとは思いますけど、そうです、さっきはずすまでつけておりましたよ」
そいつの名前はガーターベルトという。
「なんてことだ」
「なんで世界が終わったぐらいの勢いなんですか」
「この目でそれを見ることが出来ないとは、あぁ、僕は不幸せな人間なのだろうか、これ以上の不幸はたぶんない」
「疲れてますか?」
「あぁ、疲れてるよ、癒してくれるん膝枕でもいいのよ」
「そんなに好きならばご自分でお付けになったら?そうか!みたいな顔はしないでくださいよ、旦那様の方が腰回りはおそらくというか、まぁ、細いですから、ゆるゆるでしょうよ」
「こんなに寒くても綺麗なバラは咲くもんなんだな」
「さすがにそろそろそのお口を閉じませんと…」
「そうね、もう薔薇が見れなくなっちゃう」
デザインが薔薇のブーケでした。
(旦那様って、冷静な時は信じられないんだけども、こうなるとね)
こういうのをわりと早く奥様は気づいていたので、この人は気難しく、それを自分でわかってるので、周囲に合わせていたのではないか、だからこそ、これから大変になる。
そこは覚悟をしていたが、まさかこういう形で吹き出るとは思わなかった。
周囲の前評判では、本当にこういう部分は聞こえてなかった、ただまあ、ありがたいことに、止めに行こうとするとすぐにこちらを気づいて止まってくれるのだが。
(美酒や美食、美女に美声と、こういったものに弱いのは、こんなところに人間としての旦那様が出るんでしょうね)
普段は合わせているが、結構無理をしているので、ストレスがある状態だと特にこうなりやすい。
「旦那様は好きなものはなんですか?」
「僕は楽しいことが好きだよ、領主になったら、そう出来なくなったけどもね。ただ君がこっちに来て、人となりがわかってきたら…もっと知りたくなった、変だよね」
「変ではありませんよ、そういうのは、興味を持つことは悪いことではありませんよ」
「そう?」
「そうですよ、それに旦那様はお優しいから、わからなくても、相手がびっくりしたりすると、そこで止まりますから」
「それはね、あるよ。だって嫌われたくないし、ただ、知りたいと嫌われたくないの板挟みってあるけど」
「私に何か聞きたいことあります?」
「好きな人はいますか?」
「好きな人ですか?気になる人はいますよ」
「そ、その人はどういう人なの?」
「挨拶はしたことはございましたが、最近その方のそばにいるんですよ」
「そう…幸せ…とか感じたりする?」
「幸せですか…まぁ、お仕事ですからね。でもとても良い人ですから、もう今までの、うちの家族に比べたら、世の中のほとんどの人はみんないい人に見えちゃうんですが…それでも申し訳なくなるぐらい、この人は、大事にしなければならない人ですかね」
粗末にしたら地獄に落ちるでしょう。
「この先はどうなるかはわからないけども、上手くはやっていきたい」
「それで本音をなかなか言ってくれないの?」
「本音がいつも綺麗なわけはない」
「綺麗事は大事さ、この世の中では希少だからね」
「それは別に旦那様じゃなくてもいいでしょ?」
「ここでヒーローになれるかなって思ったら、欲が出るもんじゃないかな」
「まぁ、そうですね、出ちゃいますね。出ない方がちょっと、特に階級というか、役職がある世界ならば、そこを考えないということは、ありえないでしょうね」
「そうだね。長らくチャンスがなければ人というのは努力をするのを諦めてしまうものだ」
「それはしょうがない、意欲を、意味を忘れてしまう」
「君は努力で何かを得たことはあるとは思うけども、結果に比べたら努力はとても大きくいる」
「いりますね、このぐらいならば、別にこの努力はしなくてもいいんじゃないかと、よく過る」
「そんな魔物は今日も耳元で囁く、俺の耳に囁いていいのは、うちの奥さんだけなんだけどもね」
「あら?また何か企んでいらっしゃるの?」
「愛する人のためならば、悪巧みも正義だよ」
「うわ…本当に大きな下準備しているんですね」
「そりゃあね、わかったときには、もう止められないぐらいがこういうののコツだよ」
「旦那様が今までどんな仕事をして来たのか、よくわかりますわ」
「ありがとう、笑顔で返してくれて、大抵の女性はね、表情が強張るか、目をキラキラさせてくれるんだけども、君はそのどっちでもないね!」
「すごいですね、ドン引きしているか、それに一枚噛ませてくださいの人しかいなかったのが」
「そうなんだよ」
「そうなんだよ…って、それはその御愁傷様です、やはりしっかりした相手に紹介してもらったらいいんじゃないですか?と」
「心理チェックも二重、三重にしてもらった相手が望ましい」
「あれを自分から受けるのは相当な、まあ、私は受けましたが、身の潔白を訴えるのならば一番早くて安いんですがね」
「黒が側にいたことで、類共に疑われる前に、さっさと受ける行動力は痺れるでしょ」
「そういう顔をしているの、旦那様だけですよ」
「なんでさ」
「厄介ごとそのものに関わるものではないと、さっさといなくなるものですよ」
「どこに逃げるんだろうね」
「逃げる場所はないんですがね」
「逃げる、現実逃避するぐらいならは、さっさと解決するための算段を取り付ければいいのに」
「そういいたくなる気持ちはわかりますけどもね、今日はずいぶんと辛辣ですわね」
「仕事相手に呆れているっていうのはあるよ」
「おや、何かありましたか?」
「それこそ、問題を前にして、現実を見失ったというか、見なくなってしまったのがいてね」
「あぁ、それは痛い、旦那様は大丈夫ですか?」
「僕はね、ほら、仕事は君が来てからというもの出来るだけみんな前倒しだけども、必要以上の分はそこで休憩とか、ストレス解消に切り替えているからね、ゆっくりとかんがえることができる、精神的な余裕というのは素晴らしいね」
「それでも限界はありますから、無理はしないで」
「それを心配してくれる相手は、今までいなかったよ」
執事頭もよく仕事をしてくださると、特にセーブはさせてなかった。
「旦那様はよくお出来になる、でも全部を旦那様がやるわけにも、解決するわけもいきません」
「でも出来るのならばとどんどん仕事量は増えていったなと思うんだよ」
「そうですね。人手不足もありますがね、ただでさえ赴任という形で領主になっておりますのに、気心の知れた仲間や家族がいない中で、新しい人間関係を作り、それこそ骨を埋まるつもりで生きなければならないのだけでも大変なのに」
「だから今の領主業って人気ないんだよね」
「自分の時間が無くなってくるイメージがついてしまったのも痛いと思いますよ」
「そうだね、俺は君と会えて、こうして隣にいてくれるだけで、お釣りがたくさんもらえたぐらいの幸せを感じるけどもね」
「私などでは天秤に乗りませんから、もっと幸せをになって、願ってくださいよ。こう…もっと美人の奥さんとか、ゆっくりした毎日とか、どんなに酒飲んでも壊れない肝臓とか」
「お酒は、寂しいから飲んでいたはあるから」
「悪いお酒の飲み方ですね、お酒は公平であるとはいいますがね」
「逆に君は孤独に強いというか、そこが羨ましくもあり、辛いときもある」
「あっ、ドン引きしてますか?」
「それはないよ、ただ自ら責めるようにして孤独は選ばないでほしいかなって、自分は人ともにいてはいけないとか、そんなことは思わないでほしい」
「どうしてです?」
「どうしてだろうね、全く人を受け付けないなら、そうは思わないのだけど、君は人付き合いができているのに、孤独を選ぶんだよな。その言葉や行動が誰かを傷つけるとでも?」
「いや、傷つけるのは私の人生でしょうよ、私はただ生きたと思います、それ以外のいい選択肢があればどうか教えてもらいたい。そのぐらいろくな両親では、家族ではないということはね、話を聞くだけで、嫌悪感を抱かせてしまうものなのです」
「嫌悪感ね…」
「あなたは人となりを知るうちにとはいいますけども、その知れば知るうちにの最中に、どうしても受け入れられないが起きたら、自分でも知らなかったそういう自分が目覚めてしまったら、私と話すことも嫌になるでしょうね」
「それは何?」
「何なんでしょうね、おおよそ幸せな人生には無縁なものなんじゃないですかね」
「君の言葉選びには少々驚く」
「私も驚いてますよ、自分がこんなことをかんがえていたなんて、あぁなんと浅ましいのでしょうか、こんな自分が嫁ぐなんて、調査は行われ、問題はないと言われても、それを信じることがどうしても出来ない」
「自分で逆境を乗り越えてしまったからな、俺はそんな君だからこそ、頼もしくて、頑張らなくてもいいんだって思える時がある。ほら、お休みくださいとか言われても、現実的に考えてよ、代わりはいないし」
「自分の仕事の代わりができる人がいるのならば、任せまくってますよね」
「そうそう、そしたら、今日は○○に行ってさ、デートしたかったのにって。これ見てよ、話題のデートスポット、最近の若い人たちはこういうところが人気みたいで」
「旦那様、こういうのを見ているんですか」
「…参考にしたくて」
「そういうのを抑えておかないと、野暮ったいっていう女性はいますから、男の人たちは大変ですね」
「君は…そのどこかに行きたいとか、具体的なはあるの?」
「…」
「あ~やっぱりあるんだ」
「どこか、というよりは、その人が大事にしている場所や時間に行きたいかな、あっ、これは行ってもいいならですけどもね」
「それはさ、凄いズルいいい方だと思う」
「そうですか?」
「そんなことを言われただけで、君を好きになる男はいると思うよ」
「そうなんですかね」
「だって俺にはグサッと来たもん、二人で星や、馬とか、珍しい生き物とかを見に行くようなデートなのかなって想定してたけども、そんなんじゃないでしょ、それ」
「でも好きならば、知りたくないですか」
「知りたいよ、とってもね。けども、そういうのを分かち合うとしたら、人生を共に歩くしかないし、そういう相手にしか、男は見せないよ」
「だからこそですよ、その先上手く行くか、行かないかはわからない、でもそのぐらい好きということで」
「君は、愛というのを知らないとか、信じられないと最初は思っていた。でもそうじゃなくて、本当に俺は気を使われていたんだな、そこまで愛を持ってるのに、そんな顔しなかったもん」
「旦那様の知りたいけども、嫌われたくないよってやつですよ」
「君に恋を教えた男にありがとうっていわなくちゃ、君の思いに気づかなくて、応えていたらと思うとね、僕らは会うことはなかったし」
「そうですかね?あっ、政略結婚の話はないですね」
当たり前だが、現在付き合ってないこと、付き合っているのならば清算し、身綺麗であることがしっかりと証明しなければなりません。
「こういう時に気の利いた言葉を一つ言えなくて、すまないハニー」
「ダーリンはそのままでいいんじゃないでしょうか?」
「いつもの調子にダーリンという単語を口にしても、うれしい自分がいます」
「それはちょっと恋愛経験が少ないんじゃありませんこと?」
「いいんだよ、それで、恋というのは一度始まったらよそ見なんて出来ないんだからさ」
「旦那様の愛は、別れるとき、傷が残りそうですよね」
「愛の終わりに綺麗なものってあるの?愛したぶんだけ、思い出が残るんじゃないの」
「もう帰ってこない思い出ですか?」
「そう、でもとても鮮やかなんだよ、ふとしたことで、この階段を降りたのならば、そこには…って」
「それだけ聞いていると、いい恋愛はしてきたご様子で」
「ごめん」
「謝ることはありませんよ、私は…実際に誰かの手を取ることはありませんでした。まあ、それは旦那様もご存じでしょうけども」
「そうだね、ここにも僕の気持ちは二つある。淡い恋心ならばいいじゃない、成就してほしいということ。そしてもう一つはそれは君なんだよねってことだ」
「私ということですか」
「君の言葉には日々癒されている、疲れたときに、もっとお話してくり!って言いたくなる、頑張れるのは君のため、君は嫌かもしれないけども」
「相手の努力がわからないのは、どうかしている」
「そう思いたいが、わからない人はいるものだよ」
「それは不幸ですね」
「そう思うよ、そこには隣にいたとしてもずいぶんな距離はあると、溝は深いよ」
「嫌だな、傍にいてもそんな関係、それじゃあ傍にいる意味がない」
「俺は君に意味がない存在、時間だったとだけは言われたくないんだよね」
「おや、なんでです?」
「なんでって、時に君は、人の気持ちを、男心がわからない素振りをする」
「だって本当にわかりませんから」
「それは…正直、今でさえ、翻弄しているが許されるのは、無自覚だからだ、これが悪意に変わったら」
「嫌だな、それ、そんな自分はもっと嫌いになれますよ、心を傷つけてはいけない、弄ぶなんてもっての他でしょうに、そこがわかってない自分なんて、それならばその時は…」
「はい、ストップ、君の方がネガティブになってしまった」
「そりゃあ、ネガティブになりますよ」
「そうかもしれないけどもさ、それは選んでほしくない、そんなことをするぐらいならば僕と一曲踊ってくださいよ」
「いいですね、それ…ワルツでもいかがですか?」
「だいたい三拍子でいいなら」
「私はそのぐらいでいいと思いますよ、ぴったりじゃなくても、楽しみましょうよ」
そうしたら領主の口元は笑っていた。
「あぁ、そうだね。では一曲お相手くださいますか?」
「私でいいのでしたら」
これは誰かの目には滑稽な人生に見えるだろうか?
僕らはその上で躍り続ける。
「旦那様」
「あぁ、ごめん、言い過ぎたかな?」
「いえ」
執事長はいつも冷静である。
「ちょっと今日は辛辣だな」
「奥さまがお戻りまでにはしばらくかかります」
「…そうか、あ~早く会いたいね、俺のハニー、美しい人、こういうときに甘い言葉を一つ、それこそ、口説き文句を言える男は羨ましいよ、僕は本当にそんなときは…」
「旦那様、奥様がお帰りになられましたよ」
「!」
「ずいぶんと早かったじゃないか?」
「なんでも驚くほどスムーズに話が進んだとかで」
「会談をそっちのけでないのならば、それで結構だな」
「旦那様は奥様が着替える前に一目ご覧になられたらどうです?」
「えっ?何?おめかししているの?」
「ドレスコードもございましたから、ただ今回は向こうのお屋敷の方が全面的にご用意いたしましたので」
ストレスが溜まってるので、私の好きにメイクしたり、補正下着をつけて、着飾ったり出来るのならば、全部持つわ。
「着せ替え人形をそんな感じでやることになりましたからね…奥様、化けましたわ」
「ちょっと行ってくるね」
「今日の分のお仕事は終わってますから、ごゆっくり」
私室の中から物音がする。
「ねぇ、入っていい?」
外から声をかけると。
「えっ?あっ、旦那様。いいですけども、…はい、いいです」
何かが終わったようだ。
「じゃあ、失礼するよ…本当にいつもとは雰囲気違うね」
「盛ってますよね」
「可愛いじゃないか」
「でもこれはメイクはいつものに戻している状態ですから、向こうにいたときは鏡の中に別人がいましたからね。しかし、スタイル、その昔は女性は細く見せるためのコルセットをつけていた話はありますが、ウエスト見せるために今回は締めてもいました」
「そこまで、そのムチムチしているというわけでは…いや、ムチムチはしっかり残しながらという、とても理想的な」
「旦那様の理想論はわかりますが、現実にはベルトの跡がお腹なんかに残ってますから」
しかし、ベルトの跡はお腹と、太ももにもあり。
「その…非常にいいにくいのですが…」
「気づかれているとは思いますけど、そうです、さっきはずすまでつけておりましたよ」
そいつの名前はガーターベルトという。
「なんてことだ」
「なんで世界が終わったぐらいの勢いなんですか」
「この目でそれを見ることが出来ないとは、あぁ、僕は不幸せな人間なのだろうか、これ以上の不幸はたぶんない」
「疲れてますか?」
「あぁ、疲れてるよ、癒してくれるん膝枕でもいいのよ」
「そんなに好きならばご自分でお付けになったら?そうか!みたいな顔はしないでくださいよ、旦那様の方が腰回りはおそらくというか、まぁ、細いですから、ゆるゆるでしょうよ」
「こんなに寒くても綺麗なバラは咲くもんなんだな」
「さすがにそろそろそのお口を閉じませんと…」
「そうね、もう薔薇が見れなくなっちゃう」
デザインが薔薇のブーケでした。
(旦那様って、冷静な時は信じられないんだけども、こうなるとね)
こういうのをわりと早く奥様は気づいていたので、この人は気難しく、それを自分でわかってるので、周囲に合わせていたのではないか、だからこそ、これから大変になる。
そこは覚悟をしていたが、まさかこういう形で吹き出るとは思わなかった。
周囲の前評判では、本当にこういう部分は聞こえてなかった、ただまあ、ありがたいことに、止めに行こうとするとすぐにこちらを気づいて止まってくれるのだが。
(美酒や美食、美女に美声と、こういったものに弱いのは、こんなところに人間としての旦那様が出るんでしょうね)
普段は合わせているが、結構無理をしているので、ストレスがある状態だと特にこうなりやすい。
「旦那様は好きなものはなんですか?」
「僕は楽しいことが好きだよ、領主になったら、そう出来なくなったけどもね。ただ君がこっちに来て、人となりがわかってきたら…もっと知りたくなった、変だよね」
「変ではありませんよ、そういうのは、興味を持つことは悪いことではありませんよ」
「そう?」
「そうですよ、それに旦那様はお優しいから、わからなくても、相手がびっくりしたりすると、そこで止まりますから」
「それはね、あるよ。だって嫌われたくないし、ただ、知りたいと嫌われたくないの板挟みってあるけど」
「私に何か聞きたいことあります?」
「好きな人はいますか?」
「好きな人ですか?気になる人はいますよ」
「そ、その人はどういう人なの?」
「挨拶はしたことはございましたが、最近その方のそばにいるんですよ」
「そう…幸せ…とか感じたりする?」
「幸せですか…まぁ、お仕事ですからね。でもとても良い人ですから、もう今までの、うちの家族に比べたら、世の中のほとんどの人はみんないい人に見えちゃうんですが…それでも申し訳なくなるぐらい、この人は、大事にしなければならない人ですかね」
粗末にしたら地獄に落ちるでしょう。
「この先はどうなるかはわからないけども、上手くはやっていきたい」
「それで本音をなかなか言ってくれないの?」
「本音がいつも綺麗なわけはない」
「綺麗事は大事さ、この世の中では希少だからね」
「それは別に旦那様じゃなくてもいいでしょ?」
「ここでヒーローになれるかなって思ったら、欲が出るもんじゃないかな」
「まぁ、そうですね、出ちゃいますね。出ない方がちょっと、特に階級というか、役職がある世界ならば、そこを考えないということは、ありえないでしょうね」
「そうだね。長らくチャンスがなければ人というのは努力をするのを諦めてしまうものだ」
「それはしょうがない、意欲を、意味を忘れてしまう」
「君は努力で何かを得たことはあるとは思うけども、結果に比べたら努力はとても大きくいる」
「いりますね、このぐらいならば、別にこの努力はしなくてもいいんじゃないかと、よく過る」
「そんな魔物は今日も耳元で囁く、俺の耳に囁いていいのは、うちの奥さんだけなんだけどもね」
「あら?また何か企んでいらっしゃるの?」
「愛する人のためならば、悪巧みも正義だよ」
「うわ…本当に大きな下準備しているんですね」
「そりゃあね、わかったときには、もう止められないぐらいがこういうののコツだよ」
「旦那様が今までどんな仕事をして来たのか、よくわかりますわ」
「ありがとう、笑顔で返してくれて、大抵の女性はね、表情が強張るか、目をキラキラさせてくれるんだけども、君はそのどっちでもないね!」
「すごいですね、ドン引きしているか、それに一枚噛ませてくださいの人しかいなかったのが」
「そうなんだよ」
「そうなんだよ…って、それはその御愁傷様です、やはりしっかりした相手に紹介してもらったらいいんじゃないですか?と」
「心理チェックも二重、三重にしてもらった相手が望ましい」
「あれを自分から受けるのは相当な、まあ、私は受けましたが、身の潔白を訴えるのならば一番早くて安いんですがね」
「黒が側にいたことで、類共に疑われる前に、さっさと受ける行動力は痺れるでしょ」
「そういう顔をしているの、旦那様だけですよ」
「なんでさ」
「厄介ごとそのものに関わるものではないと、さっさといなくなるものですよ」
「どこに逃げるんだろうね」
「逃げる場所はないんですがね」
「逃げる、現実逃避するぐらいならは、さっさと解決するための算段を取り付ければいいのに」
「そういいたくなる気持ちはわかりますけどもね、今日はずいぶんと辛辣ですわね」
「仕事相手に呆れているっていうのはあるよ」
「おや、何かありましたか?」
「それこそ、問題を前にして、現実を見失ったというか、見なくなってしまったのがいてね」
「あぁ、それは痛い、旦那様は大丈夫ですか?」
「僕はね、ほら、仕事は君が来てからというもの出来るだけみんな前倒しだけども、必要以上の分はそこで休憩とか、ストレス解消に切り替えているからね、ゆっくりとかんがえることができる、精神的な余裕というのは素晴らしいね」
「それでも限界はありますから、無理はしないで」
「それを心配してくれる相手は、今までいなかったよ」
執事頭もよく仕事をしてくださると、特にセーブはさせてなかった。
「旦那様はよくお出来になる、でも全部を旦那様がやるわけにも、解決するわけもいきません」
「でも出来るのならばとどんどん仕事量は増えていったなと思うんだよ」
「そうですね。人手不足もありますがね、ただでさえ赴任という形で領主になっておりますのに、気心の知れた仲間や家族がいない中で、新しい人間関係を作り、それこそ骨を埋まるつもりで生きなければならないのだけでも大変なのに」
「だから今の領主業って人気ないんだよね」
「自分の時間が無くなってくるイメージがついてしまったのも痛いと思いますよ」
「そうだね、俺は君と会えて、こうして隣にいてくれるだけで、お釣りがたくさんもらえたぐらいの幸せを感じるけどもね」
「私などでは天秤に乗りませんから、もっと幸せをになって、願ってくださいよ。こう…もっと美人の奥さんとか、ゆっくりした毎日とか、どんなに酒飲んでも壊れない肝臓とか」
「お酒は、寂しいから飲んでいたはあるから」
「悪いお酒の飲み方ですね、お酒は公平であるとはいいますがね」
「逆に君は孤独に強いというか、そこが羨ましくもあり、辛いときもある」
「あっ、ドン引きしてますか?」
「それはないよ、ただ自ら責めるようにして孤独は選ばないでほしいかなって、自分は人ともにいてはいけないとか、そんなことは思わないでほしい」
「どうしてです?」
「どうしてだろうね、全く人を受け付けないなら、そうは思わないのだけど、君は人付き合いができているのに、孤独を選ぶんだよな。その言葉や行動が誰かを傷つけるとでも?」
「いや、傷つけるのは私の人生でしょうよ、私はただ生きたと思います、それ以外のいい選択肢があればどうか教えてもらいたい。そのぐらいろくな両親では、家族ではないということはね、話を聞くだけで、嫌悪感を抱かせてしまうものなのです」
「嫌悪感ね…」
「あなたは人となりを知るうちにとはいいますけども、その知れば知るうちにの最中に、どうしても受け入れられないが起きたら、自分でも知らなかったそういう自分が目覚めてしまったら、私と話すことも嫌になるでしょうね」
「それは何?」
「何なんでしょうね、おおよそ幸せな人生には無縁なものなんじゃないですかね」
「君の言葉選びには少々驚く」
「私も驚いてますよ、自分がこんなことをかんがえていたなんて、あぁなんと浅ましいのでしょうか、こんな自分が嫁ぐなんて、調査は行われ、問題はないと言われても、それを信じることがどうしても出来ない」
「自分で逆境を乗り越えてしまったからな、俺はそんな君だからこそ、頼もしくて、頑張らなくてもいいんだって思える時がある。ほら、お休みくださいとか言われても、現実的に考えてよ、代わりはいないし」
「自分の仕事の代わりができる人がいるのならば、任せまくってますよね」
「そうそう、そしたら、今日は○○に行ってさ、デートしたかったのにって。これ見てよ、話題のデートスポット、最近の若い人たちはこういうところが人気みたいで」
「旦那様、こういうのを見ているんですか」
「…参考にしたくて」
「そういうのを抑えておかないと、野暮ったいっていう女性はいますから、男の人たちは大変ですね」
「君は…そのどこかに行きたいとか、具体的なはあるの?」
「…」
「あ~やっぱりあるんだ」
「どこか、というよりは、その人が大事にしている場所や時間に行きたいかな、あっ、これは行ってもいいならですけどもね」
「それはさ、凄いズルいいい方だと思う」
「そうですか?」
「そんなことを言われただけで、君を好きになる男はいると思うよ」
「そうなんですかね」
「だって俺にはグサッと来たもん、二人で星や、馬とか、珍しい生き物とかを見に行くようなデートなのかなって想定してたけども、そんなんじゃないでしょ、それ」
「でも好きならば、知りたくないですか」
「知りたいよ、とってもね。けども、そういうのを分かち合うとしたら、人生を共に歩くしかないし、そういう相手にしか、男は見せないよ」
「だからこそですよ、その先上手く行くか、行かないかはわからない、でもそのぐらい好きということで」
「君は、愛というのを知らないとか、信じられないと最初は思っていた。でもそうじゃなくて、本当に俺は気を使われていたんだな、そこまで愛を持ってるのに、そんな顔しなかったもん」
「旦那様の知りたいけども、嫌われたくないよってやつですよ」
「君に恋を教えた男にありがとうっていわなくちゃ、君の思いに気づかなくて、応えていたらと思うとね、僕らは会うことはなかったし」
「そうですかね?あっ、政略結婚の話はないですね」
当たり前だが、現在付き合ってないこと、付き合っているのならば清算し、身綺麗であることがしっかりと証明しなければなりません。
「こういう時に気の利いた言葉を一つ言えなくて、すまないハニー」
「ダーリンはそのままでいいんじゃないでしょうか?」
「いつもの調子にダーリンという単語を口にしても、うれしい自分がいます」
「それはちょっと恋愛経験が少ないんじゃありませんこと?」
「いいんだよ、それで、恋というのは一度始まったらよそ見なんて出来ないんだからさ」
「旦那様の愛は、別れるとき、傷が残りそうですよね」
「愛の終わりに綺麗なものってあるの?愛したぶんだけ、思い出が残るんじゃないの」
「もう帰ってこない思い出ですか?」
「そう、でもとても鮮やかなんだよ、ふとしたことで、この階段を降りたのならば、そこには…って」
「それだけ聞いていると、いい恋愛はしてきたご様子で」
「ごめん」
「謝ることはありませんよ、私は…実際に誰かの手を取ることはありませんでした。まあ、それは旦那様もご存じでしょうけども」
「そうだね、ここにも僕の気持ちは二つある。淡い恋心ならばいいじゃない、成就してほしいということ。そしてもう一つはそれは君なんだよねってことだ」
「私ということですか」
「君の言葉には日々癒されている、疲れたときに、もっとお話してくり!って言いたくなる、頑張れるのは君のため、君は嫌かもしれないけども」
「相手の努力がわからないのは、どうかしている」
「そう思いたいが、わからない人はいるものだよ」
「それは不幸ですね」
「そう思うよ、そこには隣にいたとしてもずいぶんな距離はあると、溝は深いよ」
「嫌だな、傍にいてもそんな関係、それじゃあ傍にいる意味がない」
「俺は君に意味がない存在、時間だったとだけは言われたくないんだよね」
「おや、なんでです?」
「なんでって、時に君は、人の気持ちを、男心がわからない素振りをする」
「だって本当にわかりませんから」
「それは…正直、今でさえ、翻弄しているが許されるのは、無自覚だからだ、これが悪意に変わったら」
「嫌だな、それ、そんな自分はもっと嫌いになれますよ、心を傷つけてはいけない、弄ぶなんてもっての他でしょうに、そこがわかってない自分なんて、それならばその時は…」
「はい、ストップ、君の方がネガティブになってしまった」
「そりゃあ、ネガティブになりますよ」
「そうかもしれないけどもさ、それは選んでほしくない、そんなことをするぐらいならば僕と一曲踊ってくださいよ」
「いいですね、それ…ワルツでもいかがですか?」
「だいたい三拍子でいいなら」
「私はそのぐらいでいいと思いますよ、ぴったりじゃなくても、楽しみましょうよ」
そうしたら領主の口元は笑っていた。
「あぁ、そうだね。では一曲お相手くださいますか?」
「私でいいのでしたら」
これは誰かの目には滑稽な人生に見えるだろうか?
僕らはその上で躍り続ける。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる