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思い出す権利
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「自分の感情に振り回されました、みなさんがいることも忘れておりましたことをお詫び申し上げます」
そういわれるとその場にいた人間たちはゾクリとするのだ。
君は僕の愛する人だけども、そういうことを口にすると、まるで別人だね。
「なんで去り際の挨拶をそうしたの」
「私はあまり言葉が上手くありませんので」
「何を言ってるのさ」
「言いたいことを言っているつもりでも、相手には伝わってないのだなと思ってしまうのですよ」
「えっ?そうだったの?」
「例えば好きだと言えたとしても、きっと一笑されて終わりですよ」
「俺はそれを笑ったことある?」
「ないですね、むしろ微笑んでたかな~」
「だよね」
二人して笑ったあとに、領主の妻はえっ?と気づいて止まり、領主はそうなんだとご機嫌になった。
「からかうのはお止めください」
「いや~いいじゃないか、ほほえましいっていうの?君という人は本当はそういう人、それがわかるときは嬉しく思うんだよな」
そこで切り込みに入る。
「君の人生に起きたことは、それこそ恨み辛みを撒き散らしてもおかしくはないのにさ、なんでそうはならなかったのだろう」
「確かに私の身に起きた物事というのは、他の方から見るととんでもなく、その…その話はしないでちょうだい、空気が悪くなるわと言われてしまったぐらいのことですが」
「あっ、そんなこと言われたんだ」
「言われましたよ、最悪ですよ、世間話の延長がそれなんですが、まあ~その、嫁に行ったわけではない当時から、実家のある地域に嫁に来た人たちと話が合うぐらいなんですよね」
「その人たちは君がいたことで救われたと思うよ」
「だといいのですが…そのうちの実家の地域のお国言葉って、いえ、お国言葉は共通語とは全く違う、似てない単語だったり表現だったりするじゃないですか、それを知らないとわかってて使うんですよね」
「いびりじゃん」
「そうなんですよね、なんでかそんな愚かな事を、私がこのような言葉なのは、それこそ、商家との付き合いがありますから、そんな言葉で話そうものならば…というやつですよ」
「わかりやすい言葉で話さなければ、伝わらないんだけども」
「まあ、そこで立場が上であれば、そんなこともわからないのかっていうね、まだ嫁入りしてきた方の実家が強いとか、旦那様が守ってくださる方ならばまだしもね」
「それは悲劇か」
「ええ、本当、でもそのような婦人会に属せない方もいますからね、婦人会って私が顔を出していたのはユルい集まりですから、その職業の奥様方のみとか、そういうものもありますが、そちらはそちらで大変みたいですね」
「こっちに来てからは」
「こちらでは新参ですからね、あいさつを交わすのがメインだし、先に仕事を、効果を出さないことにはあまりよくないでしよ?」
「そうだけどもね、それでもかなり先倒ししているんたまけども」
「その立場につかなければそれがどういうことなのかはわかりませんよ、自分でもできるっていって、出来ない話はたくさんあるでしょ?」
「あるあるだね。ただ僕としては、君には無理しないでほしい」
「わかりました、無理しては出しません」
「無理しなくても結果を出す気じゃん」
「物事というのは、初めが肝心ですわ」
「そうだけどもさ、やっぱりそういう調子の方が君はいいも思うよ、こう…なんか難しいことがあったとしても、さっさとやってやる!ぐらいの元気のよさってやつ」
「なかなかそうはなりませんね」
「大人になってから落ち着いたとか?」
「いっそグチャグチャになってしまえと」
「いいね~それ」
「旦那様は物事をきれいに片付けたいのか、それとも結末なんてどうでもいいのか」
「正直、どっちも好き!」
「悪癖ですわ」
「まあ、ね、しょうがないよね。実際に何とかしなければならないからこそ、高ストレスの中でやりとげようとしているけども、やっぱり限度ってあるでしょ」
「ダメですよ、旦那様はご自分で道を踏み外してはいけません」
「なんでさ」
「なんでもです!」
「…」
「なんですか?そのお顔は、不満ですか?」
「いや~ニヤけちゃうんだよね。君はあんまり本音をぶつけてくれないから、本当はどう思っているのか、確かめなきゃねってやつだよ」
「確かめてもね…どうしようもないでしょう」
「自分から心を傷つけてどうするのさ」
「どうもこうも」
「ダメ」
「ダメと言われても」
「どうしてさ」
「どうしてもです」
「おや?今日は悪い子じゃないか」
「子供扱いしないでくださいよ」
「そうなんだけども、俺からすると君はお嬢さんだよ。というかさ、結婚相手とかだったら、ぶっちゃけ、その前からこう…なんか特別なエピソード、運命的な何かがあるもんだと思ってたんだけども」
「普通でしたね」
「そうなんだよね」
「でも、そこまでドラマチックとかは求めてはいませんでしたがね」
「君は僕とはないけども」
「いや、旦那様こそ、私とはありませんが」
「そりゃあ、まあ、いろいろはあるよね」
「まあ、そうですね。本当にその…旦那様だとは思いませんでしたから」
「だって、その時の結婚の条件聞く限り、相当力を入れてたんだろうなって、同じ条件だとうちでは無理だし、むしろ、よくその条件で話がまとまったと思う」
「ワケアリだからじゃないですかね」
「ワケアリね、親代わりのみなさんのおかげでワケアリであったが、終止符は一度打たれているから、元ワケアリ、むしろ経歴だけ見ると、今回の結婚、離婚したあとの方が泊が付きそうだよね」
「う~ん、それはどうでしょうか、まだこちらでは私が夫人という立場で良かったという、わかりやすい指標は取れておりませんからね」
「捨てられてから、俺は心のスカスカな部分に気づくのかな、ああもん!考えただけでもダメ、今日はあたためて、帰さないんだから!」
「たまに冗談混じりになりますよね」
「面白く、または勢いでいうことで、さらっと聞いてくれることもあるよね!」
「旦那様はどうしたいのですか?」
「えっ?君を愛して、愛されて、新しい家族を作り、その子達がどういう道を歩むのかは知らないけども、幸せになってほしいな。ただね~」
「なんです?」
「娘が生まれた場合、お嫁に行くことになりましたと言われたら、まともに話を聞いてられだろうか」
「なんでもう娘の嫁ぎ話になるんですか?」
「予行練習はしておかなきゃと思って」
「そもそも子供ができるとは…わかりませんから」
「夢は見たい」
「子供のことを考えるのなら…」
「君以外の相手はノーで」
「後悔しますよ」
「そうかな」
「そうでしょうよ、私は古くさい考えの持ち主ですよ」
「意外とそうだよな、こう…概念がさ」
「ちょっと自分でもビックリする」
「でもまあ、ある程度以上は人間、そういうものには逆らえないからね。でもさ」
「なんです?」
「逆らいたくはならない?」
「なる」
「だよな、俺でさえそうなんだから、君だったら余計だろうな。僕はさ、君に新しい道を選んでほしいと思う、僕の言葉や行動がいつまで君の心に効いてくれるかはわからない、この魔法が消える前に見つけてください」
「なんか別れの挨拶みたいですね」
「別れるつもりはないさ、記憶を消されても探しに行くね!」
「それも出来そうなのが怖い」
「なんか僕にはとても素敵な奥さんがいた気がするんだよね、しっかりと支えてくれるんだけどもさ、実はすんごい頑張ってるだけで、不器用なところもあったりして、だから他の男を好きにならないでください」
たまに領主は黒いところが出ます。
「最後の一文がなければ、決まっていたのに」
「言葉を決める気はないからです、それともあれかな、キザなことを言えばいい?意外と好きだったりするけども」
「それはそれですよ、旦那様もたまにこう…頑張るとは言いませんが、やってくれようとしますが」
「そういうのより、野暮ったい、そのまんまを愛してくれるのはちょっと辛いね」
「えっ?」
「いや、ほら、男心ってやつ。だから他の男のことはわからないよ、人によってはなんでそんなことをしなきゃならないんだってのもあるし」
「まあ…一番はビックリするんですよ、そこぇ格好つけようとするんですかと」
ここで?な時ほど領主はやる場合があります。
「えっ?ダメなの?」
「あれは…その、本当に私からすると、ここで?後ではダメなんですか?本当にここなの?みたいな」
「イエーイ!」
「こういうところが、旦那様のスゴいというか、ああもちろん、悪い方ですからね、スゴいですよ」
「一応は空気は読んでいる」
「プライベートだからいいんですが、あれが執務とかならば大変ですよ」
「そこはわかってる、それが出来ないのならばやっぱりやってはいけないはあるでしょう」
普通の人はその区別もつかない。
「真似すると事故るよね」
あぁ、これはわざとはやったことはあるか。
「自分でも出来るって慢心だよな、俺は恐ろしくて出来ないな」
「それがわかっているうちは、ハマらない罠でしょうよ」
「そう思うよ、でもあまりこの手を使うと、やっぱり最後は自滅するかな」
「したいんですか?」
「いや、まさか、ただそういうことはあるから、覚悟はしながら動いているってところ」
「それならばお供はしませんから」
「えっ?」
「成功も失敗もお好きになさってください」
「いや、それは、その、さ…」
もっと言い方があるんじゃないかな。
「すいません」
「心の底からそう思ってはいませんね」
「思ってませんが謝りました」
「なんでです?」
「自分で悪いと思わずにそんなことをいって、君が怒ったから、反射的に謝罪の言葉が出れば、丸くおさまるのではないかと思い、謝罪してました」
「ここまで自分の心が的確に相手に伝えられるのに、どうして…その、ダメな方とはいいませんが、危うい方にいかれるんですか?」
「えっ?」
無自覚のようです。
「それは悲しみますよ」
「誰が?」
「誰がって…あなたは…もう、なんでそういうときに、泣かせたくない、泣いてしまいそうな人が見えないのですか」
「そうか泣くのかった思っちゃったよ」
「あなたの心は新雪のままのところがある、誰も踏み込んだことがない部分があるから、そうなのかもしれません。あなたはね、ちゃんと愛されて生まれて育ってきた人なのです、だからね、闇の部分に興味はあるかもしれないけども、そっちに行っちゃダメ」
「ダメか…」
「ダメ、まあ、ダメっていっても興味は消えないのでしょうから、今の話でもよくわかりました」
「呆れてる?」
「まさか、清廉潔白な人間になれ、あれ!と言われても、困るでしょ」
「困るね」
「そんなものですよ、そこは節度、ほどほどですよ、それとも悪徳領主って呼ばれたいんですか?」
「それは嫌だな、人から恨まれるのは御免だよ、ただまあ、本当にね、自分の中にないからだろうね、そういうのにたまに惹かれてしまうのは」
「美人にウィンクでもされましたか」
「君の口から今はそういわれると、辛い」
君のことが好きなのも本当、でもだ。
「美人なお嫁さん探したはどうです?」
「追い討ちってこういうことをいうんだね、たまに君からそういわれているけども、重ねられると心に来る」
「この世にあなたの全部を叶えてくれる人がいればよろしいですね」
「それがいたとしたら、人ではないんじゃないかな」
「でしょうね、ただ逃げられなくなってから後悔はすることでしょう」
「絶対にそのときは君のことを思い出しているよ」
「そこまでになったら、思い出すなよ」
笑顔で言われた。
「いいか?そこまでになったら、もう私との楽しかったことは全部忘れろよ、そんなもんあるかは知らねぇけどもな」
びっくりした。
「そういうのを思い出す権利があるとしたら、最後まで共にあろうとして、それでも道半ばの時だけだ、それ以外ならば触れてほしくもない」
「驚いたよ」
「でしょうね、言葉も大変荒かったと思います」
「なんというか、それはその通りだしね、君を裏切った人に、君を思い出すことも、希望も抱くことはできないと思うし、それも無くなったらか…」
「確実にそこは潰しにいきます」
「なんかさ、こういうとき自分がちょっと変わっていると思っていたけども、そこまでではなかったなって思うんだよ、言っていることがわかるから、たまにいるじゃん、そういうことがわからない人、俺はそれじゃなくて良かったなと安心はしたけども、俺ってやっぱり特別なんかじゃなくて、特別になろうとしていたんだなとか、君といるとね、そういう…さっきの新雪に初めて足跡をつけられた気持ちになるんだよね」
そこが心地よくてもどかしい。
初恋とかともまた違う、彼女としか出来ない恋というやつなのだ。
そういわれるとその場にいた人間たちはゾクリとするのだ。
君は僕の愛する人だけども、そういうことを口にすると、まるで別人だね。
「なんで去り際の挨拶をそうしたの」
「私はあまり言葉が上手くありませんので」
「何を言ってるのさ」
「言いたいことを言っているつもりでも、相手には伝わってないのだなと思ってしまうのですよ」
「えっ?そうだったの?」
「例えば好きだと言えたとしても、きっと一笑されて終わりですよ」
「俺はそれを笑ったことある?」
「ないですね、むしろ微笑んでたかな~」
「だよね」
二人して笑ったあとに、領主の妻はえっ?と気づいて止まり、領主はそうなんだとご機嫌になった。
「からかうのはお止めください」
「いや~いいじゃないか、ほほえましいっていうの?君という人は本当はそういう人、それがわかるときは嬉しく思うんだよな」
そこで切り込みに入る。
「君の人生に起きたことは、それこそ恨み辛みを撒き散らしてもおかしくはないのにさ、なんでそうはならなかったのだろう」
「確かに私の身に起きた物事というのは、他の方から見るととんでもなく、その…その話はしないでちょうだい、空気が悪くなるわと言われてしまったぐらいのことですが」
「あっ、そんなこと言われたんだ」
「言われましたよ、最悪ですよ、世間話の延長がそれなんですが、まあ~その、嫁に行ったわけではない当時から、実家のある地域に嫁に来た人たちと話が合うぐらいなんですよね」
「その人たちは君がいたことで救われたと思うよ」
「だといいのですが…そのうちの実家の地域のお国言葉って、いえ、お国言葉は共通語とは全く違う、似てない単語だったり表現だったりするじゃないですか、それを知らないとわかってて使うんですよね」
「いびりじゃん」
「そうなんですよね、なんでかそんな愚かな事を、私がこのような言葉なのは、それこそ、商家との付き合いがありますから、そんな言葉で話そうものならば…というやつですよ」
「わかりやすい言葉で話さなければ、伝わらないんだけども」
「まあ、そこで立場が上であれば、そんなこともわからないのかっていうね、まだ嫁入りしてきた方の実家が強いとか、旦那様が守ってくださる方ならばまだしもね」
「それは悲劇か」
「ええ、本当、でもそのような婦人会に属せない方もいますからね、婦人会って私が顔を出していたのはユルい集まりですから、その職業の奥様方のみとか、そういうものもありますが、そちらはそちらで大変みたいですね」
「こっちに来てからは」
「こちらでは新参ですからね、あいさつを交わすのがメインだし、先に仕事を、効果を出さないことにはあまりよくないでしよ?」
「そうだけどもね、それでもかなり先倒ししているんたまけども」
「その立場につかなければそれがどういうことなのかはわかりませんよ、自分でもできるっていって、出来ない話はたくさんあるでしょ?」
「あるあるだね。ただ僕としては、君には無理しないでほしい」
「わかりました、無理しては出しません」
「無理しなくても結果を出す気じゃん」
「物事というのは、初めが肝心ですわ」
「そうだけどもさ、やっぱりそういう調子の方が君はいいも思うよ、こう…なんか難しいことがあったとしても、さっさとやってやる!ぐらいの元気のよさってやつ」
「なかなかそうはなりませんね」
「大人になってから落ち着いたとか?」
「いっそグチャグチャになってしまえと」
「いいね~それ」
「旦那様は物事をきれいに片付けたいのか、それとも結末なんてどうでもいいのか」
「正直、どっちも好き!」
「悪癖ですわ」
「まあ、ね、しょうがないよね。実際に何とかしなければならないからこそ、高ストレスの中でやりとげようとしているけども、やっぱり限度ってあるでしょ」
「ダメですよ、旦那様はご自分で道を踏み外してはいけません」
「なんでさ」
「なんでもです!」
「…」
「なんですか?そのお顔は、不満ですか?」
「いや~ニヤけちゃうんだよね。君はあんまり本音をぶつけてくれないから、本当はどう思っているのか、確かめなきゃねってやつだよ」
「確かめてもね…どうしようもないでしょう」
「自分から心を傷つけてどうするのさ」
「どうもこうも」
「ダメ」
「ダメと言われても」
「どうしてさ」
「どうしてもです」
「おや?今日は悪い子じゃないか」
「子供扱いしないでくださいよ」
「そうなんだけども、俺からすると君はお嬢さんだよ。というかさ、結婚相手とかだったら、ぶっちゃけ、その前からこう…なんか特別なエピソード、運命的な何かがあるもんだと思ってたんだけども」
「普通でしたね」
「そうなんだよね」
「でも、そこまでドラマチックとかは求めてはいませんでしたがね」
「君は僕とはないけども」
「いや、旦那様こそ、私とはありませんが」
「そりゃあ、まあ、いろいろはあるよね」
「まあ、そうですね。本当にその…旦那様だとは思いませんでしたから」
「だって、その時の結婚の条件聞く限り、相当力を入れてたんだろうなって、同じ条件だとうちでは無理だし、むしろ、よくその条件で話がまとまったと思う」
「ワケアリだからじゃないですかね」
「ワケアリね、親代わりのみなさんのおかげでワケアリであったが、終止符は一度打たれているから、元ワケアリ、むしろ経歴だけ見ると、今回の結婚、離婚したあとの方が泊が付きそうだよね」
「う~ん、それはどうでしょうか、まだこちらでは私が夫人という立場で良かったという、わかりやすい指標は取れておりませんからね」
「捨てられてから、俺は心のスカスカな部分に気づくのかな、ああもん!考えただけでもダメ、今日はあたためて、帰さないんだから!」
「たまに冗談混じりになりますよね」
「面白く、または勢いでいうことで、さらっと聞いてくれることもあるよね!」
「旦那様はどうしたいのですか?」
「えっ?君を愛して、愛されて、新しい家族を作り、その子達がどういう道を歩むのかは知らないけども、幸せになってほしいな。ただね~」
「なんです?」
「娘が生まれた場合、お嫁に行くことになりましたと言われたら、まともに話を聞いてられだろうか」
「なんでもう娘の嫁ぎ話になるんですか?」
「予行練習はしておかなきゃと思って」
「そもそも子供ができるとは…わかりませんから」
「夢は見たい」
「子供のことを考えるのなら…」
「君以外の相手はノーで」
「後悔しますよ」
「そうかな」
「そうでしょうよ、私は古くさい考えの持ち主ですよ」
「意外とそうだよな、こう…概念がさ」
「ちょっと自分でもビックリする」
「でもまあ、ある程度以上は人間、そういうものには逆らえないからね。でもさ」
「なんです?」
「逆らいたくはならない?」
「なる」
「だよな、俺でさえそうなんだから、君だったら余計だろうな。僕はさ、君に新しい道を選んでほしいと思う、僕の言葉や行動がいつまで君の心に効いてくれるかはわからない、この魔法が消える前に見つけてください」
「なんか別れの挨拶みたいですね」
「別れるつもりはないさ、記憶を消されても探しに行くね!」
「それも出来そうなのが怖い」
「なんか僕にはとても素敵な奥さんがいた気がするんだよね、しっかりと支えてくれるんだけどもさ、実はすんごい頑張ってるだけで、不器用なところもあったりして、だから他の男を好きにならないでください」
たまに領主は黒いところが出ます。
「最後の一文がなければ、決まっていたのに」
「言葉を決める気はないからです、それともあれかな、キザなことを言えばいい?意外と好きだったりするけども」
「それはそれですよ、旦那様もたまにこう…頑張るとは言いませんが、やってくれようとしますが」
「そういうのより、野暮ったい、そのまんまを愛してくれるのはちょっと辛いね」
「えっ?」
「いや、ほら、男心ってやつ。だから他の男のことはわからないよ、人によってはなんでそんなことをしなきゃならないんだってのもあるし」
「まあ…一番はビックリするんですよ、そこぇ格好つけようとするんですかと」
ここで?な時ほど領主はやる場合があります。
「えっ?ダメなの?」
「あれは…その、本当に私からすると、ここで?後ではダメなんですか?本当にここなの?みたいな」
「イエーイ!」
「こういうところが、旦那様のスゴいというか、ああもちろん、悪い方ですからね、スゴいですよ」
「一応は空気は読んでいる」
「プライベートだからいいんですが、あれが執務とかならば大変ですよ」
「そこはわかってる、それが出来ないのならばやっぱりやってはいけないはあるでしょう」
普通の人はその区別もつかない。
「真似すると事故るよね」
あぁ、これはわざとはやったことはあるか。
「自分でも出来るって慢心だよな、俺は恐ろしくて出来ないな」
「それがわかっているうちは、ハマらない罠でしょうよ」
「そう思うよ、でもあまりこの手を使うと、やっぱり最後は自滅するかな」
「したいんですか?」
「いや、まさか、ただそういうことはあるから、覚悟はしながら動いているってところ」
「それならばお供はしませんから」
「えっ?」
「成功も失敗もお好きになさってください」
「いや、それは、その、さ…」
もっと言い方があるんじゃないかな。
「すいません」
「心の底からそう思ってはいませんね」
「思ってませんが謝りました」
「なんでです?」
「自分で悪いと思わずにそんなことをいって、君が怒ったから、反射的に謝罪の言葉が出れば、丸くおさまるのではないかと思い、謝罪してました」
「ここまで自分の心が的確に相手に伝えられるのに、どうして…その、ダメな方とはいいませんが、危うい方にいかれるんですか?」
「えっ?」
無自覚のようです。
「それは悲しみますよ」
「誰が?」
「誰がって…あなたは…もう、なんでそういうときに、泣かせたくない、泣いてしまいそうな人が見えないのですか」
「そうか泣くのかった思っちゃったよ」
「あなたの心は新雪のままのところがある、誰も踏み込んだことがない部分があるから、そうなのかもしれません。あなたはね、ちゃんと愛されて生まれて育ってきた人なのです、だからね、闇の部分に興味はあるかもしれないけども、そっちに行っちゃダメ」
「ダメか…」
「ダメ、まあ、ダメっていっても興味は消えないのでしょうから、今の話でもよくわかりました」
「呆れてる?」
「まさか、清廉潔白な人間になれ、あれ!と言われても、困るでしょ」
「困るね」
「そんなものですよ、そこは節度、ほどほどですよ、それとも悪徳領主って呼ばれたいんですか?」
「それは嫌だな、人から恨まれるのは御免だよ、ただまあ、本当にね、自分の中にないからだろうね、そういうのにたまに惹かれてしまうのは」
「美人にウィンクでもされましたか」
「君の口から今はそういわれると、辛い」
君のことが好きなのも本当、でもだ。
「美人なお嫁さん探したはどうです?」
「追い討ちってこういうことをいうんだね、たまに君からそういわれているけども、重ねられると心に来る」
「この世にあなたの全部を叶えてくれる人がいればよろしいですね」
「それがいたとしたら、人ではないんじゃないかな」
「でしょうね、ただ逃げられなくなってから後悔はすることでしょう」
「絶対にそのときは君のことを思い出しているよ」
「そこまでになったら、思い出すなよ」
笑顔で言われた。
「いいか?そこまでになったら、もう私との楽しかったことは全部忘れろよ、そんなもんあるかは知らねぇけどもな」
びっくりした。
「そういうのを思い出す権利があるとしたら、最後まで共にあろうとして、それでも道半ばの時だけだ、それ以外ならば触れてほしくもない」
「驚いたよ」
「でしょうね、言葉も大変荒かったと思います」
「なんというか、それはその通りだしね、君を裏切った人に、君を思い出すことも、希望も抱くことはできないと思うし、それも無くなったらか…」
「確実にそこは潰しにいきます」
「なんかさ、こういうとき自分がちょっと変わっていると思っていたけども、そこまでではなかったなって思うんだよ、言っていることがわかるから、たまにいるじゃん、そういうことがわからない人、俺はそれじゃなくて良かったなと安心はしたけども、俺ってやっぱり特別なんかじゃなくて、特別になろうとしていたんだなとか、君といるとね、そういう…さっきの新雪に初めて足跡をつけられた気持ちになるんだよね」
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