浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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七味おにぎり

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成績上位の人間ともなれば、将来有望、是非ともうちに来てほしいと、学生時代から様々なところから贈り物や支援を受けることにもなるが。
それはあくまで上澄みの上澄みであり、それ以外の付き合いというのは、軽くて浅いものである。


「お荷物が届いてますよ?」
「えっ?はい、わかりました」
この青年はその知らせで受け取りに行くが、荷物を送ってきたのが、パンセ・リヴィエルとある。ついこの間、自分に学業のために支援したと申し出てくれた奇特な方で、その荷物はどうやら食べ物らしい。
手紙もついてた。


「寒くなってきたと思います、この時期にはあたたかいものがほしくなるんじゃないかなと考えて、色々と送らせていただきました。今回はこちらで準備をしましたが、良ければ君の好きなもの、苦手なもの。送ったものなどで美味しかったなどを聞かせてくれるととても嬉しいです。風邪を引かないこと、何日か体が戻らないのならばすぐに連絡を、医者の手配もしますよ、では勉強頑張って」

首席ならばまだしも、そうでない自分に給付金を出してくれたわ、寒くなり、勉強するにも金がかかる時期にこれはもう、ありがたくて、ありがたくて。箱の中身はおかずがほとんどであり、食堂でご飯だけ頼めばそれだけでいいんじゃないか?と思えるほどである。
中におにぎりもあった、それぞれメニューにはこれは○○ですのような紹介がついているのだが、先程のパンセ・リヴィエル氏とは別の、おそらく女性の字であろう。
『七味おにぎり』
ちょい辛なものは好きでしょうか?うちで使っている七味のおにぎりです、そのまんまですね。これに卵を落として、卵かけご飯にしても美味しいです。
早速あたためて食べたところ。
(確かに、ちょっと辛いけども、このぐらいなら、旨いな…)
で食べきってしまったという。


「送った食べ物は、事細かくこれが美味しかったですと返してくれた、なんでも友達も腹を空かせていたから、半分分けましたとかいているから、もう少し頻度をあげて、量を増やしてもいいかもしれないね」
「学生さんはよく食べますね」
「そりゃあね、僕もよく…いや、お金はなかったけどもさ、たまの贅沢で大盛りご飯にして食べてたさ」
「今はそんなに量はお食べになりませんね、ご飯の量ぐらいでしたら、増やしても構いませんのに」
「そうかもしれないけども、君がせっかく僕のために苦心してくれるのならば、それに応えたいっていうのはあるんだよ」
「そうでしたか、それは気づかずに申し訳ありません」
「いいさ、僕が美味しいものに弱いのは本当だからね」
「美味しいものが楽しいのは悪いことではないんですけどもね」
「姉さんがお怒りになってるのもあるから」
「お姉さんとは年が離れているといっておられましたが?」
「うん、美人な、今も美人な人だよ、友達が遊びに来たら、姉さんが挨拶してくれたんだよね、そこから友達は姉さんのことばっかりで…そいつはね、今もそうなんだよな」
「うわ…」
「はっはっはっ、悪いやつではないんだけどもさ、そこで姉さんの話するか…って感じで」
「それはご友人であっても辛いですね、友人だからこそですね」
「そうそう、あれ?僕と遊んでいるわけじゃないのかな?って、まあ、視線も姉さんの方を追ってたからな。その思い出が大きすぎるんだよ」
「私は義姉さまからは何と見られているんですか?」
「かなり印象はいいみたい、僕視点ではなく、執事の方からも話は聞いているし、間違いはないだろう」
執事頭の長男が、領主の姉とは仕える人が同じである。
「お酒を一本つけておきますかね」
「お願い、結構長男さんもお酒が好きみたいだからね」
「元々は実家の近隣のお酒のみが詳しいぐらいでしたが、世にはお酒というものは本当にあるんですねってことはよくわかります」
「そのわりには飲まないよね、飲まないとわからないよねなんて…」
「それはうちの家族の手でございました」
「…ごめん」
「気にしないでください、ああいうのしか見てないときは、世の中の人間は、生きていても報われもせずに、酒に逃げるしかないと思ってましたが…」
「そうではなかったと」
「はい、うちの親代わりのみなさんは、本当に私なぞの親代わりを務めるには、立派すぎて、それこそ何もないところから一代で身をたてたなどを見ますとね…うちの、あいつらは何をやってるんだろうなと」
今まではそういうものだも思っていたのだが、それこそ親と同世代だったりすると、だ。
「えっ?そんなこと言ってるの?確かに当時は大変だったけどもさ…それでも僕には楽しかったし、あれ?事前にこれからのことを考えて説明があったり、口を酸っぱくしてた人たちはいたんだけども」
その時の証人であり、現在の成功者なわけだ。
「でもそれはそれで辛かった、だって自分の家族がダメな人間ってことなんで、自分の家族がダメな人間なんだっていうショックが凄かった」
「出来れば尊敬したいものね」
「そうですね、良いところ探してみるんだけどもね」
思い出すのは…
「自分達の遊興費の支払いをこちらに回してきた、請求書を私宛にしたところで、あっ、もうねーなって」
「へぇ…そんなことしたんだ」
「しました、最後の方は私ならば払ってくれるからってことで、申し訳ありませんがご家族ですよね?ってね」
「逃げれて良かったね」
「逃げれてますかね」
「心は囚われているね」
「ですよね。まだ追ってきそうで…」
「本当にダメな人たちだな、俺の大事な人に何をしてくれているのかな」
「まあ、あなたとの結婚を知ってそれならばと、お金を出してもらうはさすがにないですが」
「あったら…そりゃあね…」
「離婚、いえ、そもそもその危険性があるのならば、結婚は決まってませんわね」
「そうじゃなくて、君のお父さんやお母さんたちが許さないよ」
「そうでしょうなね」
「そうだよ、うん、まあ、そうだと思いたいねはあるけども、先日お会いしたトゥバン伯なんかは真っ先に動く気がする、ほら、あそこは鼻が利くし、他のお父さんやお母さん方が忙しくしても、トゥバン伯は極力そうはしないのを好むから、そういう人はとんでもない益を得るものだよ」
「忙しいと、手が埋まり、お金かけてもできる人を探しますからね、いい条件から話が始まるはありますよ」
「そこがトゥバン伯は巧みではないかな、抜け目のない、名前通りかな」
トゥバンは蛇頭という意味がある。
「私もそのぐらい抜け目なく、有能になりたいものですわ」
「えっ?何言ってるの?」
「えっ?」
「君は十分できるんだよね、これ以上出来たらどうするの?はあるけども、意欲があるのはいいことでもある」
「私のこれはおかしな事なのでしょうか?」
「いいや、ただね、焦ってるのが気になるよ」
「そうは言っても焦りません?」
「そこもわかるけどもさ、なるようにしかならないというか、優先順位を考えるべきだよ、君は自分の傷を何とかすることを、いや、それは大事だ、大事だけども、よく考えて、まずは何からすればいい?」
「現状の把握」
「そうそう、それで」
「悪いこと起きそうならば予防して、そうでないなら、さっさとやるべき事を終わらせて、これからの事を育てる」
「それでいいのに、なんで、痛い、苦しいからなんとかしなくちゃって、わかるけどもさ、そ痛みは何?」
「また家族が変なことをしなきゃいいなって」
「しそうなの?」
「何回もやめてほしい、こんなことはしないでほしいと伝えても止まらなかったし、こうすれば逃げられないんだなっていうことを平気でしてくるんですよね、だから…」
「それで?」
「まだ一人ならば私の犠牲で済みますが、そうでないならば、誰かが、私は旦那様に家族がバカなことをしないといいなと、希望ですが、いや、あいつらは絶対するかな?」
「信頼感抜群じゃん」
「あいつらってそうなんですよ、良いことしか言わない、それで何気なく話したら」
えっ?それだと縛られることになるんだけども、なんでその話はしてないの?
「話している相手の方が気づくんで、心配されて…大変でしたね」
「その後は?」
「心配した相手がいることに、余計なことを教えて、もう付き合いをやめろ!って家族がいってきて、でもその頃には、それって向こうの婦人会なんですけどもね、そういう付き合いがなくてはうちの実家は成り立たなくなっていた、弱体化してたというかね、冠婚葬祭が賄えるだけのお金がなかったってやつですよ」
「辛いね」
「本当にね…どうやったら支払いが滞ることはないのかとか、そんなことばっかり考えてましたからね」
「ただ君がすごいのが、その辺のやりくりが並みの人間を越えているところなんだよな」
「買い物上手じゃないと生きていけないんですよね」
「だから今回の成績上位者くんへの食事の予算も取ることができたからね」
「食材は確保しても調理技術が私にはありませんから、お屋敷の料理人にまとめて調理してもらえたので、楽させてもらえましたよ」
「君がいなければそもそもその予算で収まらないんだけどもさ」
「そこは練習ですよ、旦那さま」
トマト煮も小分けにしたが、全部でキロになった。
「もううちの実家の食卓を守ることに比べたら、楽で楽でしょうがない…食後にゼリー何かもつけれちゃう」
「葡萄のゼリーは美味しかったです」
「あれいいですよね」
「硬めのゼリー入りの二種類になってるから、ちょっと驚くやつなんだけども」
「前にゼリーを食べたときに、そうやって食感にも驚かせていただきましたので、真似しましたね」
「こういうことをしちゃうんだもんな」
「味も確かに大事なんですけども、ちょっとしたことを付け加えるがあるともっと楽しいんですよ」
「その葡萄のゼリーも次の荷物には入れてあげたいよね」
「美味しいっていってくれたらいいかな」
こういうときに彼女から愛情を感じる。
「それは僕が保証するよ」
「反抗期とかだったら、こんなもの食えるか!とか言われるんでしょうか」
「いやいや、そこは考えすぎだって」
夫からすると年の離れた弟、妻からすると弟ぐらいの年齢の生徒である。
「反抗期はな…」
「私は自分と家族の関係がこうですからね、口汚い言葉を我ながら使ってると思うのですが、人がそのような言葉を使うとショックという、二面性はあります」
「それのどこが悪いの?」
「えっ?」
「だって君の場合は明らかに自分を傷つけた人に対してしか、そんな扱いしないし、そうじゃない人間には優しすぎるからな、でも君のそういうところは俺は凄く好きで、癒されるっていうのかな、頑張ろうって思えちゃう」
「私は悪い人間ですよ」
「それは誰が言ったの?」
「でなければ、あんなことなどされないし、長らくその状態でしたからね、もうずっとそういうものかと思ってました」
「なんで逃げなかったの?逃げる場所がないから?」
「追ってくるでしょ?あれは」
「だろうね、便利にお金出してもらえるものね、怒鳴れば逆らわないし」
「そう…ですね」
「でも人をそういう扱いした人間は、はたして人間だろうか?いや、人間をどう見ているのかなってやつ」
「たぶんもう以前のようには無理でしょうね、いけるか、いけないかで判断するとか?」
「それはあるんじゃないかな、実際そうでしょ?」
「ああなるほど、でもそれだと最後は一人になるというか、誰かと一緒にはいられない」
「その孤独は見てみたいな」
「旦那様のそういうところはすごいと思う」
「人が耐えきれないほどの孤独、悲壮感、絶望、そういう言葉が似合う状態、それは人から見えるだけなのか、それとも実は何かあるのか」
「趣味を持ってる人は強そう」
「猫飼ってる人もいけそう」
「猫好きは強いでしょうね」
「私も人と話してない時期は長かったからな…」
「そんなときは何をしてたの?」
「もう定期的に家族は問題を起こしてたから、起きて説教してしばらくはおとなしいから、その間に次は何をしようか考えてたかな」
「そのときは未来を信じてるのに、そこからせっかく逃げてきた今は、なんで過去を思い出しているの?」
「なんででしょうね…過去は懐かしくなんかないのに、もう二度と訪れてほしくはないのに」
「その時の君に会ってみたかったな」
「やめてくださいよ、そういうの、本当にろくなものじゃないんですから」
「そうはいうかもしれないけどもね…」
「もしもそこで旦那様の目に止まるのならば、他の人にとっくの昔に助けられてますよ、何も出来ない私にはみんな興味がないんですよ」
その割には彼女は、人の…何も出来ない部分を拒絶はしない。あぁ、それならばこうしましょうと希望を見いだそうとする。
「そういう意味では俺も本当に酷いよな、そん部分を頼りにしているんだからさ」
感じたものを言葉にしようとせず、自分の答えだけ彼女に伝えた。
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