浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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結婚して良かったと思うたくさんの理由

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「旦那…様、まだお仕事でしたか…」
「あぁ、もう少ししたら、終わる…いや、ちゃっとこっちに来てよ」
「はい、わかりました」
すると執務室の椅子に座る領主、その膝の上というかなんというか。
「なんで膝の上に乗ってくれないの?」
「私は重うございますので」
「でもここはさ」
「さすがにそれはお許しを」
それでも距離は近いのだけども。
「どうしましたか?旦那様」
「なんだい?」
「少し顔が曇っております」
「そういうのも見抜かれるから、俺の奥さんは本当に敏いな」
「無理には聞きませんよ」
「どうして僕は選ばれなかったんだろうというやつさ」
「おやおや、面白いですね」
「ほら、僕って欲張りだから、みんな欲しいってやつさ」
「それは…悪くはありませんけども、ね~」
「いつもはこういうのは、一人ごろんと暗闇で、ダメだったか、なんて弱音吐くんだけどもさ、結婚したら弱音の吐き方忘れてた」
椅子を持ってきて、領主の側に妻は座った。
「誰かといることで感じる寂しさもありますからね、その寂しさも大事にすればいいんじゃないですかね」
「面白いことをいうね」
「旦那様は感受性が高い方でもありますから、そこが気難しいと感じる理由でございます」
「僕って君からはそう見られているの?」
「そうですね…話を聞くと、あぁ、これは支えるのは大変な相手だなと」
「奥さんなのか、執事なのかわからないいい方だ」
「あなたを支えるという意味ならば変わらないでしょうよ」
「そういうのチョットいや」
「なんです?無条件で愛されたいんですか?」
「愛されたいね、君が愛を傾けるものを見ると、羨ましくなるぐらいだからさ」
「そうなんですか?」
「そうだよ、君はその時の表情は違うからな」
屋敷に仕えるもののお子さん相手にするときとか、猫や犬、馬などへは素の表情を見せる。
「そこがとてもいいんだよ、立場とかあるからさ、自分を出さない、それもあるし、自分がない場合もある」
「いますね、自分がない方、話してみると、全ての基準が自分ではない、お父様が、お母様がというんですよ」
「それは僕もね、会ったことはあるよ。まあ、領主ではない時代だし、そんな僕は相手にもされないが、それにだ、そういう人間というのは見る目がないものだよ」
「すんごいわかる、なんというか、時代の機微がわかってない感じですかね」
「そうそう、古くさいのは僕も好き、でもそこに固執している、それしかないは何か違うでしょ」
「もしもそういう人ならば、旦那様に領主の話は来ないでしょうね」
「無理だろうね、解説なしで難しい文面を短時間で読めることが求められるし」
「しかも旦那様は字もおキレイなんですよね」
「共通のフォントで文章作る時間が惜しいときがあったから、そうなったのさ」
「私はそちらには自信がありませんよ」
「でも君は言葉が早いからね、頭の回転と勤勉であることには感謝しているよ」
「滅相もございません」
「固いな、というかさ」
「はい、なんですか?」
「今の僕は、君によって、疲労回復のための食生活になってるわけじゃん」
「してますね、よくぞ食事制限に付き合ってくださるかと思ってますよ」
「あれって食事制限っていうの?美味しいものばっかりなんだよな」
「だっておいしくなきゃ食べてくれないでしょ?」
「そんなことは…」
「でも美味しかったら?」
「気にしないね、任せる。そのおかげで外回りに出ているときに、昼食とか好きなもの食べれるからな」
「そのメニューを聞いて、メニューは調整しているんですけどもね」
「ええ、そうなの?」
「ですよ。ああ、美味しいもの食べられましたねって」
「ごめん」
「まあ、今はバランスが取れてますから、そうでなくなったら…わかりませんが」
「僕は戻れるかどうかの分水嶺に立っている」
「どちらがいいのか、私からは何も申し上げませんよ」
「なんでさ、ダメー!って泣き叫んではくれないの?」
「泣き叫んで止まるような人ですか?」
「それはそうなんだけどもさ」
「それなら、ご自分の人生、責任はお取りなさいな」
「今日は辛辣」
「今日もでは?」
「でも言われる理由はわかってるし、注意しなきゃならない状態ってことなんだろうしさ」
「まあ、そうですね、そういう状態かな」
「だったら、気を付けなきゃいけないし、それにさ…」
「なんです?」
「君も食事は同じもの食べてるから」
「ああ、それですか、そこもお気になさらず、食べれるだけましというもの、温かい食事って美味しいですねってやつですよ」
「君は一体どういう生き方を…」
「あまり話として面白いもんじゃないですよ。ただ大事にされていた時期とそうじゃない時期を知ってますからね」
「それでも粗野に、自暴自棄もエレガントなんだよな」
「なんですか、それは」
「いや、普通ならば諦めるじゃん、もう努力なんて無駄だって思うようなところでも、君は平気で軽やかに振る舞うんだよね」
「そこを失ったら終わりでしょうよ」
「生まれも育ちも君はやはりいいんだよ、空腹でも矜持を忘れないのだから」
「空腹は辛いですよ」
「それは知ってる」
「まあ、栄養剤使うと、結構時間は稼げますからね」
「稼いでいたのか」
「稼げたと思いますよ、少なくともここにこうして私がいるのだから」
「じゃあ、僕は間に合ったってこと?」
「かもしれませんが、逆に旦那様は私に捕まってしまったのかも」
「君に捕まるのは大歓迎だよ」
「ダメです、そんなことを言ってはいけません」
「なんで怒るのさ」
「そういう甘いことを言うと、隙をつかれますよ」
「でもさ、四六時中、気を張るのも疲れちゃうじゃない?」
「そうかもしれませんが、私が味方だとも限りませんよ」
「君は僕の味方だし、俺は君を守りたいよ」
「今まで何人にそのような台詞を口にしたんですか?」
「モテたいと思う時期ならば、そういう言葉は練習するものさ」
「えっ?そうなんですか?」
「あるんだよ、そういうときがさ、彼女欲しいなって」
「なんで作らなかったんですか?」
「痛いことを聞くね」
「すいません、でも女性とは上手く行くような方なのでは?」
「はっはっはっ、もしもそれならばお見合いとかは頼んじゃいないぞ」
「えっ?それは立場のための結婚と、恋愛する相手は違うとかじゃなくて?」
「どの情報なのさ、それは…」
「意外とそういう方はおられるので」
「それさ、家庭も、立場の人間関係もボロボロになるんだけども」
「そうなんですか?」
「あいつはそういう人を裏切るのはなんてこともない奴だとか思われるのは、何かあったらすぐに狙われるんだよね」
「まあ、隙ですわね」
「そうそう、そういう人間は味方も少ないからさ、狙われやすくなっちゃうし、僕はそういうのは嫌だな」
「だから愛想はよくしておけと?」
「そうじゃないさ、ちゃんと付き合える気骨がある人間はいるものだよ」
「それはうらやましいかもしれません」
「そう?」
「ええ、そうですよ、なんかこう、そういう人間が家族にはいなかったせいでしょうか、たまにそういう人、今の旦那様みたいな話を聞くと、ああ、実際にこんな人がいるのかってなるんですよ」
「まだ俺は君にとって遠い人?」
「少し」
「少しか、大分仲良くなれたと思ってるのに、もうちょっと頑張らなきゃならないね」
「旦那様は頑張りすぎなんですよ、やりたいことがあるのはわかりますが…」
「そこは本当に失敗、結婚して良かったと思うたくさんの理由のうちの一つだよね」
領主の妻がいると代行してくれる、割り振りを負担ないものに変えてくれる、事前に準備をしまくってくれるので、前に比べたらゆっくり眠れる時間が増えたし、少し前に話した栄養状態がよくなってるので疲れなくなってる。
「学生時代に君もあっていたら、人生変わっていただろうなってこれからも何度でも思うんだろうなって」
「おや、何か違いがわかりましたか?」
「書き物し続けていると、手が痛いなってあるじゃん、いわゆる使いすぎってやつ」
「ありますね」
「もうそろそろ起き出すから、その前にセーブしてたりするんだけども…」
あれ?なんか手の痛さが全く出ないぞ?
「もうペンを握りたくないっていう感じにもなったりするんだけども、それが…今のところ、少なくとも栄養、疲労回復の食事制限してからは全くでなくて、今まで辛かったあれは…疲労からだったのかなと」
未だに起きてないそうです。
「申し訳ありません、旦那様の世の中を変える何かの可能性を潰してしまいまして」
「それは君は悪くないから、今まで誰も気づかないわけだし、むしろここで会えなきゃ僕はずっと知らないままだったよ」
勉強にあんまり力を入れたくなかった理由の一つがこれもある。
「苦学している生徒へ奨励したくもなるよ」
「それはな~」
「どうして?」
「バイトに力いれそう」
「あっ」
「わかりますけどもね、それ。本来は勉強して欲しいんだけども、寒かったり、お腹減ってたりするとね、そうもいかないし、難しいバランスですよ」
「悩ましいね」
「私はこの辺は意見を出しにくいんです、家族がサポートしてくれたわけではありませんから」
「自力で見つけちゃってるものな」
「そうなるとね、自分の中に冷たい気持ちがあるのもわかるんですよ、それがちょっとイヤ。でもね、甘くしてもね、それじゃあ越えられない何かは人生にやってる時があって、そこて躓いて、諦めてしまう」
「君は何を夢見てきたの?お嫁さんとか?」
「それはないです、むしろ、私には一番縁遠い、愛した人が出来たとしても、隣にいることはたぶんないと思ってましたからね」
「今、それ…誰を思い浮かべたの?」
「そりゃあ、当時好きだった人」
「なんかそういう話をすると、モヤモヤするね」
「申し訳ありません」
「そうじゃなくて、僕が自信を無くしそう」
「あら?どうしてですか?」
「どうしてって…君のいい人は僕とは違うタイプじゃないか」
「う~ん、確かにその時はそうですけども」
「ほらね」
「旦那様はそれを凌駕する何かがあるからな」
「それは何?」
「なんでしょうね、たまにじっと見つめてくれているとき、そういう何かは感じますね」
「僕はそんな目をしてた?」
「えっ?してますよ、なんかこう、視線を感じるなって」
「そういえばこっち見るよね…あれ?もしかして僕のそういうの気づいてる?」
「好みの女性なんだろうなっていう方とか来るとわかりますね」
「…」
「あれ?おわかりにはならなかったんですか?それで旦那様は女好きとは思いませんが、ご自身で言われるように、ストライクゾーンが広いのではないかと、だから私のようなものも大丈夫なのかなで納得はしました」
「確かに年々広くなっているんだけどもさ」
改めて言うと照れませんか?
「君の方は逆に安心するんだよね」
「?」
「イケメン見てるのかなって思ったら、猫見てたから」
「えっ?猫の方が良くないですか?」
女性がキャーキャーいうような男性がいた、集まりにそういう男性がいたら、視線を浚うものではあるが。
「うちの奥さんもやっぱりイケメンの方が好きなのかって思っていたら、一人だけみてる場所が違った」
正確には猫(本体)ではなく、猫自慢の写真を見ていた。
「ある時から、人間にあまり興味を持てなくなった感じになってましたからね」
「その割には君は人ともに生きようとする」
「外面さえ作って、身近に人がいなければいけますから」
「でも君は、俺に気を許しちゃったよね」
「そうですね、自分でも弱い部分があってビックリしました」
「そこなの?そういう言い方じゃなくて…」
「昔は家族が、友人とかもいたはずなんですがね、家計が大変になると、そういう当たり前が失われていく」
「そっか」
「今はいつ終わるかはわからないけども、そうなっても切り替えていこうって感じですかね」
「わかった、君はもう満足しているから、望めないんだね」
「望めないですね、望んでも、どうしようもないから」
「自分が世界一の美人で、お金持ちでとかになったらどうするのさ」
「それはないでしょうよ」
「ないかもしれない?でも考えてみてよ、そうしたら何をする?」
「何しますかね?…ああそうだ、その時は旦那様を私からデートに誘いますよ、世界一の美人ならば旦那様は断らないでしょうし」
「今の君が誘ってよ、俺はデートの日取りをきちんと決めるけどもね」
「言葉ではそういっておいて、実際になったら違う人では、旦那様は違うけども、やっぱりそれには抵抗があるんですよ」
「本当に君の家族は何を君にしたのかな」
梯子をはずされたことがあるのだろう、落ちた痛みが彼女をこうさせる。

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