浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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北風前の菊満(きたかぜまえ の きくみつり)

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「ただいま戻りました」
裏口から入ると、そこから近い台所で奥さまとメイドが料理をしていた。
「お帰り」
「お帰りなさいませ」
「ご飯食べた?お腹空いてない?それなら今作ってるの食べてかない?」 
「えっ?」
戸惑っているうちに、炒めた麺と野菜は合流した。
「奥様、三人だとちょっと量が…」
「じゃあ、なんか作る?」
「それは私が、卵スープでも作りますよ」
「じゃあ、よろしく」
かき混ぜた熱いお出汁に、卵液を流して花が咲く。
「やっぱり上手だね」
「奥様はタイミングが悪うございます」
「同じようにやっても、ふんわりいかないんだよな、まあ、これは練習だろうね」
そういって三人で食事をすることになったのだが、やきそばの最後に白い、一口サイズの固めの豆腐がいくらか乗せられた。
食後。
「豆腐が最後にやって来るとは思いませんでした」
「ああ、あれか…あんまりないよね」
「何かきっかけでも」
「今の焼きそばはご飯を食べに行ったときのものでね」
食べたことがないのならば、慣れておきなさい。
「そういって小皿で分けてもらったんだけども、初めて食べたものだから、美味しいのだけども、味の正解がわからなくてね」
そこでこれをどうするか、なんてことを帰ってから考えてしまった。
「暇人の発想だよね。でもまあ、その時は、どうしたものかと、料理の本を見たけども、まるでわからなかったんだけども、お腹が空きましたね」
もうこんな時間だ。
軽く食べることにしよう、あっ、豆腐の日付が明日じゃん、じゃあ、豆腐にしておくか。
「で、豆腐を食べたら、これでいいんじゃないかと、まあ、どんな豆腐でもいいわけじゃないから、そういう意味では美味しい豆腐、あの焼きそばに合う豆腐の力を借りたメニューだね」
脂っこさというのが豆腐の力で消える、箸休めにも繋がる具材なのである。


「奥様は料理上手なんですね」
「そうなんだよ」
「うちの屋敷の料理人も、奥様が作ることには反対してないから、それはすごいことかと」
仕事を取られるからと嫌がる人は一定数いる。
「けども、お話も面白い、エビがないなら、海老がなくてもいいし、肉がなかったら、野菜だけ、野菜なかったら、麺だけ味付けして食べちゃえばいいよなんてね」
「…」
「どうなされました」
「その焼きそばは僕はまだ食べたことない」
「申し訳ありません」
この時の領主にいくらかの怖さを感じたので、すぐに謝罪したが。
「あぁ、いや、君は悪くないよ。ごめんね、なんか自然とこうなっちゃったよ」



その後、材料を揃えれば作ってくれるのかと思ったら。
「はい」
エプロンを渡された。
奥様指導のもとで、領主が焼きそばを作る姿を執事とメイドは見るのである。



「旦那様、料理お上手」
「そう?」
「野菜の切り方、私だとこうはきれいには…」
「そこまで自分の調理に思い悩むことは…」
「料理が上手な人はね、野菜ひとつからして切り方、刻みかたが違うので…」
「君の料理は僕はとても好きだよ」
「お世辞でもうれしいわ」
「また、本音なのに…というか、豆腐、味のバランスにかけては、飛び抜けている気がする」
「お金かけずに美味しく食べないとね、節約なんて続きませんよ」
「君がどんな生活してきたのか、生き様、人生が料理に出ている気がするよ」
「面倒ならば水と栄養剤とかで終わらせたりはしますよ」
「ダメだよ、折角だしさ、食べるのが嫌なの?」
「食欲がどうしても出ないとき、後は食費が心もとない時とか?どうせ、誰かと食卓を囲むわけでもなしと、栄養剤飲んで寝ると、朝が違いますからね」
「でも僕にはそれをしないじゃん」
「旦那様は、それに耐えられます?」
「どうしてもならばしょうがないんだけどもね」
「旦那様は、美食家ですから、美味しいものを食べて人生を楽しく過ごさせるといいでしょ」
「君は?」
「私はこんなのですよ、無理に決まってる」
「こんなのね~」
「二束三文の価値しかない時に、二束三文で私を手に入れようとはしないでくださいね。それならば必死に逃げますから」
「君に嫌われるのは嫌だな、というか、君の話を聞くと、女性というのはそういうの上手く隠しているものなんだな、まるで鷹みたいに」
「鷹というよりは、やはり好きでもないというか、相手にしたくない相手には辛辣にしないと危ないとかね」
「危ないね~」
「そうですよ。あなた様は、そういう道具として私をお使いになりませんから」
「そんなのヤダヨ」
「嫌かもしれませんが、そういう側面はあるわけですからね」
「慣れてないから、決断間違うよ」
「あぁ、それは困った、ならばそうならないようにしなくては」
「そうしてよ、誰かを犠牲にするぐらいなら、常日頃から苦労をする道を、その程度で抑えられるのならば僕はそれを選択する」
「意外と不器用でいらっしゃる」
「そうかな」
「もう少し頭を柔らかくしてくださいよ、それは最後ら辺の選択肢にしまして、負担が少ないものを選んでいきましょうよ。まっ、代わりに理解はされないでしょうね」
「名将の心と生き方みたいな」
「そうですね、なんで将軍はいきなりこのようなことを言い出すのであろうかという奴ですね」
そのために従わないものも出てしまったのだが、従ったものは生きて、それこそケガなく賞与のみを持って帰ったという。そこから名将の心は決してわからないが、あの人は信じられると、その生き方はさまざまな人から、特に嫌々ながら田舎から出てきた後に出世するきっかけにもなったので、偉人扱いを後にされた。
「私も旦那様のお心は見えないところがありますから」
「結構薄暗いよ、部屋の中で膝を抱えて座っててメソメソしてるぐらい」
「そうしてたら、旦那様、ご飯ですよとか、お風呂ですよって声かけますね」
「そうしてくれると助かるな、そういうときはよろしくね」
「旦那様は一人が好きなんですか?嫌なのですか?」
「どっちもあるからな、君の方は?」
「私は一人が好きですかね、嫁いでからですよ、誰かが必ずいるような生活は」
「それは…」
「ちゃんと気を使わずに話してますよ」
「僕には気を使うのにな」
「さすがに旦那様には…」
「そうだけどもさ、こう…もっと甘えてくれてもいいんだよ」
ガタッと椅子から立ちあがり。
「旦那様、私、疲れてしまいました。お部屋に行きましょう~」
抱きついてそういった。
「って私がそういってもね」
彼女が思う、うっふ~んな感じを出してみたが、やっぱりなんか違うんじゃないかなで、すぐに元に戻るが。
「そ、そうか、ちょうど休憩時間だし」
領主はその気になったようだが。
ふぅ~と耳に吐息をかけて。
「まだ早いですよ」
そういったところ。
「…それはズルいと思うんだけども」
子供みたいな笑顔、いやイタズラな笑顔を奥さんは見せたものだから、ブレーキはかけることはできたが、それでも何ともはや。
「君はそういうことをするんだ…」
「すいません、罰はどのようでもお受けいたしますから」
「じゃあ、しばらくはこうして甘える振りでもいいから、してくれる」
「えっ?」
「本気じゃなくても、君がやってくれるということで満足できる部分ってあると思うしさ」
「はいはい、わかりましたよ」
「よろしく~」
「私にこういうことを求めるのは旦那様ぐらいだ」
「他の男性が君に興味を持ってもらっては困る」
「あまり旦那様は独占欲があるようにはみられてなかったと思いますが」
「そうだね、たぶんこの辺の話は他の人にすると、それこそ執事達が一番驚いているんじゃないかな」
職務にも付き添ってるので、外面もよく見ている。が、それでも奥様が嫁がれてきてから、旦那様は嫉妬深い、独占欲が凄いがわかるようになってきた。
この重さを妻側は、はいはいとか、わかりましたよ~とか、適度に流したり、受け入れたりするので問題にならない。
ならないが、今後領主から妻を引き剥がそうとしようものならば、確実に何かあると思われていた。
今は平和、北風前の菊満(きくみつり/冬が始まる前の秋の最中に菊が満開になるから)


「というか、旦那様ってこういうのがお好きなんですか?」
「ドキドキするよね」
「意外と女性から行くのが…」
「いいよね」
「へぇ~」
「君は?」
「好きならばその人しか見えないものですよ」
「僕と出会う前に恋とか愛とかを知ってるんだものな」
「一目惚れしたことあるぐらいですよ」
「それは…わかるんだけども、俺からすらと複雑なんだよね」
その頃の君が、どういう人に惹かれて、恋する夢を見たのか、愛すると決めたのか。
「でも現実の前にはそういうの脆いですから、家計がアッチチになったら、なんでお腹が空くんだろうか、もう少し我慢してくれとかね、本当に慣れるまでが大変だったし、よく慣れたなとね」
「もし君が子供に、そういうのを教えるのならば?」
「えっ?両親兄弟姉妹家族は、良好の時はいいけども、そうじゃないときもあるから、わりと早くに料理とか、食料確保、体力あるならキノコ採りや栽培は教えるかもしれませんね」
「それはいいね~」
「旦那様は何を教えるのですか?」
ここで妻の方は、領内の子供教育のことなんだろうなと思っているようだが、もちろんその意味ではない。
「僕か、僕は色んなことを教えてあげたいかな、一番に教えたいのは僕と君がどれだけ愛してるのか、だろうか」
(僕と君?)
「いや、これ僕と君との間に子供が出来た場合ってことね」
「えっ?あっ、そういうことですか」
そういうこととして答えたわけではなかったようだ。
「僕と君は自分の子供を愛さないというのはあまり考えられないけども、君が君が生き抜いてきた技を教えるのは大賛成だ。もしかしたら僕と同じように教育機関に行くこともあるかと思うが、そこで君仕込みの料理というか、たまに作ったら、寮生には確実に受けるんじゃないかな」
「そこまで要領よくは無理ですよ、あくまで自分の食べるぶんだけですよ。それ以上になると重すぎる」
「君が同じ年で、教育機関に来ていたら、間違いなく僕は胃袋を捕まれてしまってる」
「掴んだつもりはないから、力加減わからない真似をしますよ」
「君は好感度が低いとそうだからな、その時は俺が頑張るしかないね」
「想像してほしいんでしょうが、想像は全くできませんね」
「結構いい関係が築けると思うんだよ」
「旦那様は気難しいし、変わった人だからな」
「えっ?そういう男、嫌い?」
「好みのタイプかっていうとそうじゃないかも」
「そうなの?」
「私が気難しいから、も、あるかな、婦女子の平均からすると、ね~」
「君は取り繕うのは結構上手いからね」
「そうですね。いや~うちの家族は楽しくない時に、笑顔を浮かべてろ、愛想をよくしろなんていうんですもん。本当にうちの母がこんな娘より再婚して自分が!って思ってくれて良かった、そうじゃなかったら危なかったよ」
「ちなみに話に出たもしたら?具体的にはあったの?」
「20才ぐらいかな、離れている。結婚してないから、結婚させてみたいという男性が…」
「はい、アウトね」
「アウトですよね」
「アウトでしょ、それ」
「それを知りました親代わりの人たちの、私に年齢が近い娘や姉妹がいる方々は、ふざけてんのかって怒ってましたね」
「そりゃあ怒るよね」
「この世の中にはまともな人たちはいるものだなと初めて知りました、ただそういう人たちは私の周囲にはいなかっだけであり」
「冷静だな」
「あそこまで行くとね、冷静になるんですよ。さすがに全部を、この世のすべてが悪いとは思ってはいませんが、どうして私はこうなのだろうかは、やはりありますからね、それがその時、分けて考えることが出来たと」
「僕も年上だけど、年上は好きかな?」
「旦那様は年齢を感じさせないところがある、その話し方、内容、素振りで、気を使わせることがないといいますかね。そこは凄い人だなと」
「年上は好きかな」
「憧れはしますよ」
「そう?」
「でも私は好きになるのは、ほぼ同じ年の人ばっかりだしな」
「それで年下は?」
「年下はないんじゃないかな?」
領主が何気なくそんなことを聞いたのには訳がある。
領主の妻である彼女が独身時代、同じく独身の男性で彼女に好印象を抱いていたものたちがいたのは、以前に少しだけでたと思う。
結婚の話を聞いたら、ショックや泣いた男性陣、あそこら辺だ。
あそこら辺がみんな年下。
彼女はお姉さんぶるというよりは、人手が足りないときに手伝いや教えることもしていたので、そういうこともあって世話を焼いていた。そこでクラっと来ちゃったらしい。
ただ婚姻話としては、基本的に上から話が決まっていく、上は年齢もだが立場とかの意味もある。
上で決まってないのならば焦って、無理とは言わないが、結構ゴテゴテに有利な条件をつけて結ぼうとする。領主の妻の前の婚姻相手はそのパターンで、そこまでゴテゴテに有利な条件ともなると、さすがにあれは…と思って、彼女への夢想も内に秘めるぐらいで終わるのだが。
この領主との結婚は、あれ?あの時自分が勇気を出せば、もしかしたらが見えるので、ショックも大きいというやつなのだ。
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