浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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明日の事を考えるには今日が悲惨すぎた

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「ずいぶんと浮かない顔をしているな」
「あ~ごめん、ごめん」
「話してみろ!」
「そんな大きいことではないんだけどもね、向こうの世界で、しばらくぶりに顔を出すことになったんだ。なんでも新しく仕切り直すとかでね、それこそ世代交代ってぐらいの年の差がある人が担当者になってね」
仕事と挨拶も兼ねて顔を出すと。
「お話は聞いております」
共通の知り合いが、間に入ってくれていたらしい。
「あまりそういうことをする人ではないから、ちょっとビックリしたね」
「お前の場合は、もっとそういうのは返ってきてもいいと思うがな、それだけのことはしているだろう」
「そうかな?」
「そうだ、なんだ無自覚か?」
「そういうのはさ、わかっていて、先を見て施すものではないと思うよ」
「どこの聖人だ。俺の周囲はお前も含めて人がいいのが多いな」
「そうですかね?」
「そうだ、俺ならさっさと切り上げている」
「でもさ、それではやはりダメなんだよ」
「高説はわかるが、話の続きだ」
「ええ、それでね…」
何か手土産をと思っていたところ、あの人は皮革製品を大事にしていて、手入れのための油やクリームにはうるさい。
「そしてどうもこちらの製品がお好みのようなんでね、んじゃあ、それにしようと買い物に行ったんだよ。そしたらさ、普段買わないじゃないか、だから…」
茶色系のものと、青色系のものという記載で、どっちがいいのかわからなくて、とりあえずどっちも買っていった。
「久しぶりに行ったらさ、前に来たときと本当に全然違っててさ、驚いたよ」
湖が有名で、湖のそばに城はある。
街というのは、街道を挟んだ向こう側に作られてるのだが、街道側に商人達が店を作っているので、街まで行かなくてもみな事が足りるし、行列が出来て人気の店もあったが。
「ガランとしてたね、なんでこうなったかまでは知らないが」
「なんでだよ」
「まあ、今回はその用事ではないし、私も向こう側の人では、もうないってことなんだろうな」
「そうか」
挨拶に出向いた、挨拶をして、雑談を交わして、手土産の話になったら、持っている皮革は茶色なので、茶色のものをいただくといってた。
「んで帰りだよ。以前買い物した店が閉店しててね、その店のためにちょっと遠回りになってから、帰路についていたんだけど、その店がないならそのまま帰ろうと思ったら、そこにサメがいたんだよね」
なんか木の根もとを枕にして横たわっているサメがいた。
「あぁ、サメだと思ったんだけどもさ…、私は最近こっちで見かけているし、一緒に仕事もしていたりするんだけども。河川ザメっていうのは、向こうにはいないということを思い出して」
大丈夫か、様子を見に行ったら。
「サッ…」
疲れが見えてました。
「サメというのは、犬の鼻のように乾いてはいけないんだけども、乾燥も見られたから、丈夫なサメだから疲労かって思ってさ」
食べるものと飲めるものを与えてると、食欲はあったから一安心した。
それで思い出した。
「皮革クリームの青持ってるじゃんって」
そのクリームの用途には、サメに塗ると喜ぶと書いていた。
「茶色の方には書いてなくて、サメに塗ると喜ぶってなんだろうなってさ、まあ、早速出番が来たから、せっかくだから塗ったんだ」

「サッ」
これはこれはご親切に、クリームまで塗ってもらって。
「無理はしてはいけないよ」
元気になったのを見て、サメと別れたのである。


「んで、まあ、うちの支部にもサメがいるから…」
戻ってきたら、クンカクンカされました。
「メッ」
なんた言ってるのかわからないので、同僚が通訳すると。
「会ったサメはレッドノーズらしいですよ」
「ああ、帰還の時にもお世話になったサメさん達か」
異世界転移被害者奪還にはサンタが関わっていて、屈強な任務に付き添うのが、選ばれしサメたち、その選ばれしサメにはその昔、鼻の部分には赤い線がペイントされ、そこからレッドノーズと呼ばれている。

「お前の話を聞くと、世の中には知らなかったことがたくさんあるよ」
「そうだね」
「あの時、お前がいなくなってから、俺も色々と調べたんだが、その話は出ては来なかった」
「情報はある程度以上制限されているものもあるだろうし…あっ、でもあれかな、私が話せるぐらいだから、単純に調べ方が悪かったとかじゃない?」
「俺が悪かったのか?」
「人間向き不向きはあるよ、だってこういうことはどちらかといえば人付き合い、サメ付き合いがいい人たちの方が話を聞けたりするんじゃないかな」
「お前は偏屈な奴には好かれそうだな」
「そうかな?」
「そうだよ」
「私は他の人が偏屈だから大変だよっていうような人でも、あまり大変だと感じないところはあるから…」
「それは知ってる」
「だから逆になんでそう感じるのかなって、
思ったしまうのが正直なところさ」
「ずいぶんと人が良いことで」
「そうかな?」
「そうだよ。ただ世の中にはお前みたいな人間はいなくちゃいけないんだろうな、俺には絶対に真似できない」
「でもさ」
「なんだ?」
「こういう話には付き合ってくれるよね。なんで?」
「なんでって、お前が潰れてしまわないように、バランスを取るのが俺の役目だろ」
「それはそれは、ずいぶんと変わってるな」
「いいんだよ、それで」
「ありがとう」
「お前にありがとうと言われるとはな」
「ありがとうは大事だよ」
「それはわかってるが、裏表なく、礼を口にするんだもんなったな」
「そんなに不思議かな」
「不思議だよ」
「しかしさ」
「なんだ?」
「こうして食事をしているけども、あなたはいつもこの店に来てたんじゃないの?」
「お前がいるのならば、お前と来るだろうが」
「あぁ、そういうものなの?」
「そういうものだよ」
「そうか、そういうのもわからなかったよ」
「こっちに戻ってから寂しさは感じたりはしないのか」
「あ~それは心配されてたな」
異世界転移先ではずっと生きることに夢中だったために、その緊張の糸が途切れると、体と心に不調は出ると言われていた。
「向こうに残ったあいつは、早いうちに出たみたいだからな」
「彼の場合はな、こっちに帰ってきてからが怒涛すぎたというか、聞いただけで、それは辛かっただろうにが出てしまう、長い時間組んでたから、特にね」
「情は生まれたりはしなかったのか?」
「う~ん、他のパーティーメンバーがいたからな」
彼女は異世界転移が、同じ学校の男子生徒と共になってしまった。彼が勇者で彼女はサブリーダーとして、こちらに帰還までの間は共に組んでいた仲間であった。
全部で五人、勇者だけ男。
「他の三人が、彼に惹かれているのはわかったからな、ええっとあれでモテてた、向こうにはあんまりいないタイプ、不満に思ったいた男性に対しての部分が、こっちの世界の男性にはあまり見られなくてモテてたっていうのかな」
「不満に思われている部分は?」
「場所によっては、女性は立場が良くないからね。確かにモラハラな人もこっちにはいるが、そうじゃないならモテるみたいよ」
この人は自分を大事にしてくれる。
そこがカルチャーショックですらあった。
「逆にお前は苦労したのでは?」
「私か…ほら、前にも行ったけども、厄介ごとを解決してくれる勇者一行だから、そこに従ってるうちはさ、あまり触れたりはしないんだよね。本当、振り替えれば早いものだね」
「たぶん何気なく話していれば、笑いながらドン引きするようなことも普通に、そういう感覚はおかしくなってしまいそうだな」
「ああ、それは心配されている。私にとっては普通なのに、みんなにとってはそうじゃないんだろうなって」
「だから俺にはそういうのもみんな話せよ」
「そのうちあなたの地雷を踏みそうで怖いわ」
「そこまで俺は弱くはないぞ」
「あら?本当?じゃあ、試す?」
「そうやって手斧をぶん回すのか?」
「いや、まさか、あれは……」
そこで水を一口飲んだ。
「こっちの世界じゃ薪を割るときぐらいしか使わないよ」
それでも錆び付かないように、薪を割らせてもらっている。
「ああ、そうだ。それで薪を作るから、廃材とかあったら、割るよって申請はしてたんだよね」
KCJの戦闘許可証もあるので、こういうのは通るし。
「それこそ河川ザメって、自分達の川の流木も売りに出していたりするんだよ」
これは歴史のある仕事で、人では持てないほどの重い流木も運んでくれたり、頼めば割ってもくれる。
「その元締めが川親分っても呼ばれてるんだよね」
ようやく出せる川親分の意味。
「体、ムキムキになるんじゃないのか」
「今も結構筋肉はあるよ、向こうではよく歩いたし、荷物も背負った、そこに斧まで振るってたら、そりゃあつくよ」
「今でもその感覚は?」
「まだあるね。睡眠はやっぱり変わったな」
夜営もあるので、浅くなる。
「まあ、街中でも安心は出来ないところにもいたことがあるし、こっちに来て、安全だと思ってもなかなか、まだKCJの敷地にいるときは大丈夫なんだけどもね」
「なんでだ?他にも人がいるから?」
「いや、私なんて敵わないぐらい強い人たちやサメがいると、私が何かに気づくよりも先にあの人たちが気づくって思えるから、安心するんだよ。ほら、あの人たちでダメなら、ダメだろうっていう」
「ネガティブな安心感だな」
「そう、それ、私はなんとか戦闘許可証は取れたけども、戦闘に関してはそう才能はないんだよ、向こうに行ってしばらくしたら、あぁ、私はこれ以上は伸びないだろうなってわかったし」
「お前はどうしたいんだ?」
「どうしたいって?」
「あぁ、戦いたいのか、本当は嫌なのか」
「戦わなくてもいいなら、戦わない、でもそうじゃないからやるしかなかった。たぶんそこだかけは変わらないから、辛いんだと思うけど、それもしょうがない」
「一回気になるなら、自分の限界を試してみたらいいだろう」
「う~ん、そんなものかな」
「そんなものだ、いいからやってみろ」
「じゃあ、やってみる」
子供のような顔をした。
「そうだ、それでいい」
「しばらくはそっちに専念するよ」
「ダメだ」
「なんで?」
「俺との飯の時間はきちんと作れ」
「まあ、それならばいいけどもさ…でもこの店は凄いお店だよな」
「どういうところがだ?」
「きちんと毎日食べても体を壊さないメニューとか出してくれるんだもん」
「あぁ、それな。毎日脂っこいもの食べてもしょうがないと思うんだがな」
「その言い方は高級食材を食べなれている人がいうセリフだよね」
「お前だってなかなかのものを食べていただろう?」
「料亭料理のおこぼれいただいてたぐらいだよ」
「子供の頃からそれならば十分だ」
「まあ、それだけじゃ足りないから、自分で食べ方を覚えたってやつだしさ。KCJの食堂部もかなり助かっているけども、フルサービスでこういう店はありがたいね」
「無理はするなよ」
「するつもりはないよ」
「あっ、家事しなきゃって無理に起きる必要はない」
「頼めるときに職員向けの家事サービス頼もうとは思ってるよ」
それはサメのやつ。
子供がいない職員には空きが出たら利用できる体制。
「もう少し前だけを見ればいいのに」
「前を見るには、明日の事を考えるには今日が悲惨すぎた」
「お前な」
「忘れられない死があって、たまに思い出しては怖くなった、何か出来ないかと罪悪感を持つんだよ」
「お前が忘れられないという、いなくなったそいつらは幸せだな」
「それでも、その死はないほうがいいのさ」
「大分深くに刺さってるな」
「この話も初めてしたな」
「そうか?」
「なんで?ちょっと嬉しそうなんだよ」
「そうか?」
「そうだよ、なんかこう、いつもより高音だったし」
「細かいところ見てるな」
「いや、あれはわかりやすいって」
「どうもいかんな、お前の前では俺はそうらしい」
「なんだい?心を許してくれているのかい?」
「そうだぞ、知らなかったのか?」
「初めて知ったよ、それにしてもわかりにくいな、それじゃあ、気づかれないままだろうし、なんという不器用な」
「しょうがないだろう、そういうのがわからずに育ったんだから」
「まあ、あのご両親じゃあな、難しいだろうし」
「本音を話すような間柄では今もない、この年で、こうして、ああなるとか、人生設計を描いてはいたが、想像よりも俺は出来が良かったから、設計描いた父親の手には負えなくなったのさ」
父親が逆らえない人間から、ちょっとその扱いはどうかと思うよとか、じわりじわり責められていたったという。
「最終的にはもう何も言えないから、余計なことをするなってな、知るか!という話だ」
同じ年に、彼のライバルとなる人がいて、そっちを出世させたいから、君の息子さんはおとなしくしてもらってねで、その話を飲んだために、そこで好きな道にさっさと切り替えたという。
「あなたはそこまで意欲はなかったから、背景読んで仕掛けられた…か」
「俺が言い出しても揉めるだけだったから、いい機会だったよ」
「そう…」
「お陰でお前と飯を食う時間がこうして取れるからな、もう息子としての役割は務めたさ」
その言葉に彼女は何も言わず、しばらく沈黙の時が流れ、沈黙に気づいたスタッフは、店内のBGMの音量を少しあげた。
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