浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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そういう人は裏切りません

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「ただいま帰ったよ」
「お帰りなさいませ」
「あれ?まだ起きてたの」
「ええ…そうですが」
「どうしたのさ、なんか元気がないね」

領主は赴任した際に賜った家紋証が見える礼装のまま帰ってきた。
この家紋証は、その領にどんな季節にやって来たのか、そこはどういう場所で、こんな生き物や植物があるよがベースになっている。
だからこの領主、いわゆる金継ぎ夫の紋は、左上に根元から右下斜めに置かれた白鷺の羽根、その上に色づいた桜の葉、右上から左下に交差で置かれているもの。
これは実際に落ち葉の上に混じっていた白鷺の羽根を見て、いいんじゃないかと、領主になることは決まっていたが、紋が決まってないときに、自分から意匠を提出して採用されたものであった。
「試しに出したら通ったんだよね」
「旦那さまは博識でいらっしゃる」
「自然には敵わないよ、それを観察してみてわかることなんてたくさんある、僕の偉大なる先生たちさ」
「それを読み取れる人はそういますまい」
「そうみたいだね、残念だよ、とても面白いのに、あ~疲れた、明日も色々とあるけども、午後からだからゆっくりはできる」
「どうなされますか?」
「まずは着替えさせて」
「わかりました」
礼装は脱いでも、すぐに出番があるため、そのまま家のものに持ってかれる。
「しかしさ」
「なんですか?」
私室で夫婦だけとなる。
「やっぱり疲れ知らずというか、明らかに同じことしても体力が残るんだよね」
「それは良かったですね」
「君のお陰だね、食べ物でそこまで違うのかと思ったけども、同じことをしているのならばよくわかるよ、明らかに僕の体力が残っているし、変わったことは何か?食事だからね。しかし…そうか」
「どうしました」
「僕にはそちらの知識が足りなかったのかと」
「イメージと実際が違うのは仕方がないですし、旦那さまのこれは、それこそ、知られてない時代は領主患いと呼ばれた病の前兆ですから」
「疲れやすいのその先に待っているとは思わないよ、ただなんかこう、最近年かなって思っていたのに、なんで…その体力が残っているんだよ」
「その言い方だと、残っていては悪いような…」
「ああ、ごめん、君は悪くない、悪くないんだけどもね、こっちに座らない?そこでずっと立っていたら寒いし疲れるよ」
「そう…ですか」
「怖がらせてしまったかい?」
「…」
「言葉を気を付けなくてごめんなさい」
頭を下げる。
「いいえ、適当な言葉がそれであるのならば、正解ではあるのです」
「でも短慮軽率で、もう少し考えてから話せよっていう奴だからね」
「そういうことは人間誰しもあります」
「ここに帰ってくるときに、話していたんだけどもね」
話し相手は三男執事である。
「君のことを聞かれたんだ」
「私のことですか?」
「そう…なんか、聞かれると恥ずかしいながらも、そういうことを自分でも思っていたんだなって、驚きもある」
「自分の知らない自分と出会うということですか」
「そうそう、そういうのって大事なんじゃないか、ただその大事を共有できる人が、年々少なくなるというだけであって…」
「旦那さまは面白い方です」
「そう?」
「そうですよ、そこまで思慮が及ぶ方は少ないのではありませんかね」
「そうか…」
「そうですよ」
「こういうのって堅苦しいって言われない?思わないの?」
「それが旦那さまの素直なものならば、それはそれでいいんじゃないんですかね」
「君も不思議な人だ、なんでそこまで寛容になれるのかな…」
「旦那さまは悪い人ではない、それだけで、個性というものがあるのならば、直さなくてもいいのかなって思うんですがね」
「ふぅん」
「おかしいですかね」
「面白い考えだなって、大抵は矯正することを望むからさ。その人らしさをある程度以上残しつつ、上手く色んなものと噛み合わせるのは理想ではあるけどもね。なかなか上手く行くものではないよ」
「知っております」
「君はそういうの合わせるの上手いんだよな、これは僕には出来ないことだからさ」
「そうでしょうか」
「そうだよ、すごいことをサラッとするんだもん、栄養の話はそうさ、ここまでつかれないならば、それこそまだ仕事ができるじゃん、残っている書類に目を通すか、はたまた自分の好きな時間を過ごすのもいいだろう、それは画期的なことだよ。毎日一時間、時間が増えたようなものだから」
「そうしたら、旦那さまは何に使われるのですか?」
「何にね、1日一時間だろう…意外と使い道は見つからない、思い付かないものだな」
「まあ、まさかここで体力が残って、一時間毎日余裕ができるとは私も思いませんでしたが、そこまで違うものなんですか?」
「違うね、ビックリしちゃう、そんなに体力がある方では…いや、ほら、武術とかやっている人たちという上を見ればキリがないわけだしさ」
「それでも旦那さまってぎりぎりまでお仕事いれてましたよね」
「いれてたね、それでも間に合わないから、工夫して対応して」
「その状態で、体力も残るのならば、そりゃあ時間も余りますよ。でもだからといって仕事は無理しないでくださいね」
「おすすめは何?」
「おすすめですか?」
「そう、こういう時の時間の使い方」
「好きなことにと言いたいところですが、そうではないということですね」
「そうそう、何かこう、意義のある使い方をしなきゃならないし、もしかしたら…これが今後のキーポイントになるかもしれないと思うとね、絶賛アイデアを募集中ってやつ」
「もうちょっと未来に関して力は入れてほしいかなっては思います」
「どんな感じに?」
「二、三年先に大輪を咲かせるような」
「ええっと…」
「旦那さまはだいたい一年ぐらいで結果を出せるようにと動いているのですが、ここはもうちょぅと先を見てみませんかってことですよ」
「するとどういうことをすればいいのかな」
「これは最終的には旦那さまが決めるとしても、もう少し像が見えてなければなりませんね。これは解決したいけども、時間やお金が足りないから無理だろって思うことはありますか」
「結構あるね」
「そういうのの一つを選んで、解決はしないかとしれないけども、真剣に取り組んでみるとよろしいかもしれません、それでネックが何か、何が原因でそれはできないのかっていうやつですね、技術的なことなのか、けれどもこれも、ふとしたことで解けるかもしれませんし」
「面白い考えだね」
「そうですかね」
「こういう考えはどこから来たの?」
「そうやって始めておくと、全容が見えても、もう邪魔はされないとかありますからね」
「まさかの生活の知恵からだとは思わなかったな」
「そういうのって大事ですよ、敵が多かったりしてもね、意外となんとかなるというか、こっちに気づいてないのならば、抜くのは簡単だったりします」
「そういう思考で戦えということか」
「特に今、ここで体力が毎日+一時間となると、新しい技術書を読むのもいいでしょうし、旦那さまの言う観察して、それを綴るのも悪くはないですよ」
「君と話す時間にしてはダメ?」
「私とはもうたくさんお話になってますから、せっかくのチャンスですから、こういうときに頑張ってみると」
「個人的には君との時間を増やしたいとは思ったんだけども、それがダメなのは残念だよ」
「いえいえ、私なぞに旦那さまの貴重なお時間を使ってはいけませんよ」
「何をいってるのさ、もう…でもさ、ありがとう、その意見も、視点も必要なものだから」
「何を望みますか?」
「過程で?それとも結果で?」
「1日一時間はどちらもあなたが得られるようにしてくれるとは思います」
「なら、さっさと面白い結果を出したら、その分君との時間を一分でも一秒でも増やせないかなっては思う」
「それは何故です?」
「この会話がとても楽しいからさ、ここまで話せる人間は僕にはいないからね、自分の思考とは違う考えを、見せられると言うのはいい刺激になるし、そこは選びたいな」
「はぁ…」
「そんなに意外かい?」
「意外ですよ」
「でも残念なことに僕に毎日一時間という時間をくれたのは君で、他の人はその出来事を考えもつかないんだ、早い者勝ちで君が仕掛けて、結果を得ているのならば、少しは悩んで決めるけども。君という人間がこういうことをしているというなは、他人からはわからないし、君が善意で教えてくれなかったら、どんなことが今起きてて、それは偶然ではなく、ずっとこれからもであるということには気づかないと思うよ」
なんか最近体力がめちゃくちゃあるなは喜べるが、何をしてそうなったのか、意味がわからないと、不安にはなる。
「えっ?もしかして病気?とかネガティブ、ネガティブになっていくわけなんですよ」
「そうですね、だからこいつは意味不明なことを言い出したなって思われても、説明はする必要はあります」
「僕には理解できたが、理解しづらいような内容だとは思う、少なくとも万人に理解してもらうには言葉を言い換える必要はあるとは思うが…そこが重要だと思う、気づく人間は何人いるだろうかっていう話」
「あまりいませんね」
「でしょ?そうだよ、これさ、そういう話なんだよね。今まで諦めていたことがありました、それが直されましたってことだし。僕の場合は一番は体力か、これから領主患いになりますと、宣告されてもなったことないからわからないし、なってからでは遅いしね。それに比べたら、体力は最近体力がないなって思っていたら、栄養状態の改善だけで、あれ?になっているわけよ、それが大きいのさ」
「でもその状態は私が狙って出せるわけではありませんからね」
「それは…そうなんだけどもね。そういわれちゃうとな」
頭をかきながら。
「正直、新しい自分に戸惑ってるってこと」
「まあ、いつもと違うのでしたら、やっぱり慣れるまでは難しいのかな」
「けども慢心はしたくはない、君に嫌われちゃうからね」
「…」
「あっ、やっぱりそういうタイプは嫌いなんだね」
「嫌い、苦手かな」
「なんかそんな気がしたんだ。何かに向かい努力している姿勢を愛しているような気がしてさ」
「そういう人は裏切りませんから」
「それは…そうだけどもさ」
「ただ頭がとても固くなるんで」
「そこはわかる気がする」
「そのやり方でしか認めないようになると、それはそれで大変なんですよね」
「職人さんとかはそういう人多いよね」
「職人さんはいいんですよ、己の仕事を貫けるから、そうじゃない部分で融通がきかなくなるのはちょっと、それこそ話にならなくなる」
「会話が成立しないのは困るか」
「辛いです」
「そうだね、会話ができる、その前提で成り立っていることなんてたくさんあるわけだからさ、それができないとなると、二の足、三の足は踏みまくるか、そこ嫌だな」
「でしょ?」
「でもそれも、今まで頭を悩ませ、心を不安にさせたものを魔法のようにスッキリとさせてしまえるかだよ。大抵は予防しか無理だからね、ならないのが一番いいという考え方できているから、なってから元に戻すとなると、根気もいる、自信を喪失しそうになるとか、当初考えていたものよりも何倍も、作業が増えることになって、そうなると人間は弱さが出るよ」
「それをどうするかですね」
「考えてないわけじゃないのね」
「ないですよ、ないですけども」
「難があるとか、人によってははまるけども、失敗することも多いみたいな、方法が限られてくるってことか」
「旦那さま、今日は饒舌といいますか」
「結構僕はこうだよ。ただしゃべるのも疲れることだからさ、必要最低限には最近はしてたけどもね。そのぐらい体力があるってことさ」
「今まで本調子ではなかったと」
「なかった、なかった、間違いなくなかった。だからいきなり回復したものだから、このまま書類仕事をしたいぐらいだって気分になる。今ならば難問に挑めそうだ」
なんて笑っていうので。
「じゃあ、それにしたらいいんじゃないですかね」
「えっ?」
「解いてみたい問題があるんでしょ?」
「手間はかかるだろうなってのはね、でもな…」
「こういう時じゃないとやれない、挑めないは、大事な気持ちですよ。そういうのがあるときは、やっぱり調子がいいというか、勢いに乗れるというやつですよ」
「僕はやれるかな?」
「もちろん!」
「そうか…」
ああ、今ならばなんでも出来そうだ。
「ただその気持ちも途切れそうになったりするかもしれないから、前より時間とってお話してくれる?」
「私がですか?」
「君じゃなかったら誰がするのさ」
「著名な教師から習うとか」
「僕にとっては、信頼できる人間とそこは話すことを選びたい、それがこれからのことを考えるためには大事なことで…」
ここで言葉を探す、出来れば妻がおぉと感嘆するようなやつ。
ダメだ、なんか見つからない。
「どうしましたか?」
「いや~ここで格好よく決められたのならばいいのだろうが、やっぱり僕の限界はここまでみたいだからね、それなら、そこをわかった上で、色々と策を練りたいし、君はたぶん僕の話を聞いて、提案はしてくれると思うんだ」
「まあ、よろしければってやつですね」
「そのよろしければの、力を僕は得たい、なにしろ自分ではできないものだからね」
「あぁ、それでしたらお付き合いいたしますよ」
「手は僕がいいっていうまで、話しちゃダメだからね」
「子供だな~」
「体力があっても、気持ちは疲れているから…」
「すいません」
「今日も大変だった、明日も頑張るから」
「今夜は暖かくしましょうか」
「布団から出れなくなるぐらい暖めてほしい」
疲れているんからそんなことをいうんだろうなという妻だが、まあ、この言葉はそういうことだ。
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