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今日も太った芋だ!
しおりを挟むそれはドン!ではなく、コトリと静かに置かれた。
(なんだろう)
領主は瓶のラベルを見ると、栄養剤であることがわかり、自然と前に友人に言われた…
「食事とかすんごい気を使われているの?でもそういうのってさ、嫌われたら、水と栄養剤をドン!って置かれて終わりになるぜ」
その時はさすがにそれは…と思っていたが、その栄養剤を置いたのは妻であって、これは、その…
「旦那様?」
「うん…」
「お話を聞いておられましたか?」
「うん…」
これは何かおかしいと思って、まさかと思って心音を聞きに行った。
ドキドキ
ああ、君の髪の…とてもいい匂いがするよ~
「心拍数が早い」
これはまさか…
「奥様、旦那様は健康であられます」
執事頭が話に入ってきた。
ただ奥様はだったらなぜ?という顔をしているが。
「きちんと医師のチェックも受けておりますので…」
「それならば問題ないわね。もしかして…間に合わなかったかなって思ってしまったわ」
「その危惧されるような食生活をしておられましたからな。旦那さま、ドキドキされるのはわかりますが、そろそろこちら側に戻ってきてくださいませ」
「あぁ、わかった。凄くショックだったんだ、これからの食事はこれよ!って言われたのかと」
「そうでしたか、でもまあ、もしも症状が出てた場合は、そうだったかもしれません」
「怖いこと言わないでよ」
「アルコールと脂質と塩分が多い食事は、体にはあまりよろしくありませんから」
「それはわかってはいるけどもさ」
「美味しいのはわかります、付き合いなのもわかります」
「ごめんね」
「そこで謝れるから、まだ戻れるのではないかと思ってます」
「そうだったらいいね」
「そうですよ。本当ならば栄養や医学も学んでほしいのですが、そのような時間はありませんので、要点だけは覚えてほしいと思ってます」
「その方がありがたいよ」
「この栄養剤は、旦那さまの今までのお食事で足りなかったぶんのものだとお考えください」
「へぇ~そうなんだ」
「その分を食事でとっていただいているので、こうして目で見ないと実感はないかもしれませんがね」
「領主患いか」
日本語圏では江戸煩いといった方がいいだろう、あれである。
「それでなんでこれを見せたの?」
「お話しするのか迷ったんですけどもね、正直こういう話を馬鹿馬鹿しいとか一笑する方もいますから」
「僕はそういうことはしたくはないな」
「そうですか…」
「含みがあるね」
「いや、だって、本来ならば私がここで言う前に、他の方々が一言を申せばいいことでありますから」
「あっ…」
「私は、私がそばに言うので、うざがられても言いますが」
「君の話は意味があるんだよね。それがわからないのはどうかしているんじゃないの?」
妻はこの辺が自分の旦那のすごいところだと思っている。
「そう思っていただけるのですか?」
「そうだけどもさ…」
「私はお茶をご用意しますね」
「いいから、そこに座りなよ」
「はい…」
ソファーに座ると、領主も隣に座る。
「君はよくやってくれていると思うよ、さつまいもの話だってさ」
「毎日焼いてもらってますが、それが何か?」
「子供がいる者も多いからね、家に焼きいもをもって帰るとね」
今日も太った芋だ!
「って大喜びするんだってさ」
「ああ、それならば、子供がいるのでしたら、その子の分も焼いた方がいいでしょうかね」
「いいの?」
「オーブンですし」
「なんでこのような試みを?」
「栄養状態を維持していくことですかね」
「維持か…」
「私としては直したいところはたくさんあるとしても、やはりこういうのは順序だててからです。そういえば旦那さま、最近肩凝りはどうですか?」
「そういえば…辛くないな、前まではお湯に浸かりたいってなってたのに」
「それもたぶん栄養ですかね」
「うわ…栄養足りなくてこんなことになってたのか」
瓶に視線を改めておくる。
「米ぬかからビタミンを抽出した博士には感謝しかないですね」
「じゃあ、糠床とか、糠漬けでもいいってことか」
「そうですけども、あれは管理が難しいですから」
「ああ、毎日かき混ぜるとかそういうやつか」
「そうです、ああいう毎日系はね」
「何、ちょっと嫌な思い出があるの?」
「嫌がらせにダメにされるというか、ありましたので…」
「本当に君の過去と言うやつはさ」
「ろくでもないでしょ、それに比べたらあなたはちゃんと生きてきた方なので」
「こういう話をするとさ、君はとても優しい顔をするのに、悲しみも混ざっているんだよね」
手を握ると。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとう」
執事頭が、領主が妻の手を握っているのを見て。
「何かありましたら、お呼びくださいませ」
ソファーのテーブルの上で全部賄えるような準備をして、そのまま去ってしまった。
「気を使わせてしまったわね」
「まあね、それは悪いとは思ってるけどもさ、君はあんまりそういう話をしないから」
「聞いてて面白い話ではありませんよ」
「それでもさ、話してくれるのは嬉しいと思うよ、僕は君が思っているよりもずっと清濁を合わせ呑める人間だよ」
「アルコールであればなんでもいけそうですもんね」
「いや、そんなことは…若いときはそういうのもあったけどもさ」
特に成人してからの成績上位者たちは、当時の主席以外はみんな酒も飲むし、遊びを知っている。
「主席以外ですか」
「ああ、あいつは病気持っててね。だから俺らの時代は主席、次席、三席までの人間はこういう産業や役人になるってコースがあったんだけども、主席がそれでいけないからってことで、他のやつがいったりしたんだよ。最近もその話聞いたら、行き先が今は違っているから、時代が変わったんだなった思ったよ」
「病気があるとお酒は難しいでしょうからね」
「うん、体は弱いけども、とんでもなく頭がキレるやつだから、そのうち自分の病気も治したりするかもしれないね」
「それは素晴らしい」
「えっ?」
「いえ…その…自分の抱えている問題を、自分の力で解決するのは…羨ましいと思うので」
「君はそういうところあるよね」
「ありますね、これはしょうがないので」
「君とは年が違うけどもさ、君みたいな人が教育機関に来てたら、面白かったと思うよ」
「そういうのはいいですね」
「そう…思うんだけども」
思った以上に反応が良かったために逆に困った。
「私はあまり実家では話が合う人がおりませんでしたから」
きちんと話すようになったのは、最近、結婚してからと言ってもいい。
「喉を使ってないと疲れるよは、本当でした」
そういうのもあって、領主は妻と話す時間を増やそうとしていた。
「ここは君の実家ではないよ、悪い夢が終わったとは言わないけども、新しい家はここだからさ」
「そう…ですか」
「確かにうちは政略結婚だし、この間離縁したところの話聞いた?」
「えっ?どこですか?」
「ああ、まだ知らなかったか、その…結婚したのはいいけども、奥さんを使い倒すつもりだったとかで」
「使い倒す」
それを聞いたら、領主の妻は顔がひきつっている。
「俺もそんな顔した。労働力として、家名を守るための犠牲としてっていう話を、さぞ当たり前のように僕に話してきたよ。…それを僕になんでするの?ってね」
「旦那さまが嫌いそうな」
「嫌いだよ、正直…その離縁の話の後に、問題行動もあったと言うことで、降格になったわけだから、さ、もう話すこともないと思うよ」
気軽に話す関係から、話そうとするのならば事前に許可を求めなければならないため。
「絶対に許可は出さないって思ってる」
「それでデメリットは?」
「これが特にないんだよね、そのぐらい落ち目だったんでしょ?」
「しかし、そのような手合いは、ササッと片付けた方がよろしいでしょうね」
「感情的になられると困るからね、実際に困らせているみたいだよ、ごねればなんとかなるって思っているみたいよ」
「それは困りましたね」
「困っちゃうよね、まあ、それなら話しようとしたら、さっさと腕っぷしが強いやつを呼ぶさ」
「その方がよろしいかと」
「何しろ僕にはそれがないからね」
「わかっているのならば、私からは何も言う必要はありませんね」
「お茶も飲まない?せっかくだしさ」
「はい、いただきます」
領主は妻のためにお茶を注ぎ出す。
「お嬢さん、どうぞ」
「これはご親切にどうも」
こんなやり取りに笑みがこぼれてしまう。
「君は笑っている方がいいとは思う」
「そうですね、その方がいいとは思いますが…」
「何がそれをさせないの?」
「色々ですわね」
お茶に口をつける。
「色々か…」
「はい、色んなものが山積みでございます」
それを思い出すと、表情から笑みが消える。
「僕はその役にたってる?足を引っ張ってないかな」
「旦那さまは良くやられておりますよ」
「そうかな…ちょっと心配になるよ」
「そうですか?」
「君が忙しそうにしていると特にね」
「そこは…役割分担ですかね、私では旦那さまの仕事は全部はできないですから」
「休憩時間を作るために、僕の代わりに書類を見てくれるのはすんごい助かってるよ」
そのために領主の仕事はまず領主しかできないものと、奥様もできるもので分けており、取りかかる順序としては、領主が目を通さなければならないものからになっている。
「作成したものを確認するだけでいいのは、本当に楽なんだもんな」
「逆になんであの量を自力でこなせていたのかわからない」
「やらなきゃ!って思ってて」
「やらなきゃ!でできるもんなんですかね」
「やれているよね」
「こういうところなんだよな」
「逆に君にもそれを思うことはあるよ、さっきの栄養剤だってさ」
「お酒を扱うと覚えますよ」
「君に合うまで知らなかったよ」
「その昔は国民病だったんですがね。解決の方法が見つかっているのにも関わらずなる…というのはちょっと残念すぎる」
「こういうときの顔、凄く好きだよ、君の素が見えてさ」
「も、申し訳ありません」
「いいの、いいの、畏まれるのも悪くはないんだけども、どういう人なのか、心はどうなのかは、セットで知りたいんだよね」
「人の心はどうなのか、言葉では取り繕えるものですから」
「行動で見るしかないかな、そういう意味ではやはり君はすごいと思うね」
「えっ?」
「だって、僕の普段食べているものや肩こりとかから、原因を見つけてしまったんだろうからね。前までは本当にさ、湯船浸かりたいって思っていた僕がさ、シャワーでいいかにするだなんて…」
「きちんと入浴はしてくださいませ」
「そうだね、匂いが気になっちゃうものね」
「でも旦那さまは標準体型ですからね」
「ありがたいことにキープできてる」
「これが体重が増えますと、脂と参加した臭いが」
「うわ…絶対キープしてやる!」
「大丈夫ですよ、今の食事だと、体重は落ちるでしょうから。その…付き合っている食事とはいいませんが、私も落ちているので」
「そうなの」
「体重計と、実家から持ってきたワンピースのサイズを見ますとね、その…このぐらいかな」
お湯の入ってるポットの重さで教えてくれた。
「減ったのかなと、でもビックリしますよね、この量が自分の体から無くなったのかって、体重計見るまで実感があまりありません」
「健康的に痩せているんじゃないかな、お肌もカサカサってわけではないし」
「そうですよね」
そこで、あれ?なんで知ってるんだ顔になる。
「そりゃあ、毎日一緒なわけですから」
「そうかもしれませんけども」
気を取り直して。
「君はさ、そういう話をするのも躊躇わないよね」
「容姿はもう諦めてますから」
「でも、綺麗になったとは思うよ」
「はぁ…」
領主の妻は実家時代は器量良くも生まれなかったとして、そういう道具にもならないと言われ、何故か彼女の母親の方が再婚するとか、そういう話になっていた。
しかし、この領に来てから痩せたことで、顔のバランスが少し変わった。
(もしも実家時代に今の容姿してたら…いや、そらはやめておこうか)
推測は当たっているだろう。
最近の容姿だと、男性陣の視線も引き始めている。
実家にもしもいたのならば、適当な家に売り払われるのがオチであろう。
(なんだろう)
領主は瓶のラベルを見ると、栄養剤であることがわかり、自然と前に友人に言われた…
「食事とかすんごい気を使われているの?でもそういうのってさ、嫌われたら、水と栄養剤をドン!って置かれて終わりになるぜ」
その時はさすがにそれは…と思っていたが、その栄養剤を置いたのは妻であって、これは、その…
「旦那様?」
「うん…」
「お話を聞いておられましたか?」
「うん…」
これは何かおかしいと思って、まさかと思って心音を聞きに行った。
ドキドキ
ああ、君の髪の…とてもいい匂いがするよ~
「心拍数が早い」
これはまさか…
「奥様、旦那様は健康であられます」
執事頭が話に入ってきた。
ただ奥様はだったらなぜ?という顔をしているが。
「きちんと医師のチェックも受けておりますので…」
「それならば問題ないわね。もしかして…間に合わなかったかなって思ってしまったわ」
「その危惧されるような食生活をしておられましたからな。旦那さま、ドキドキされるのはわかりますが、そろそろこちら側に戻ってきてくださいませ」
「あぁ、わかった。凄くショックだったんだ、これからの食事はこれよ!って言われたのかと」
「そうでしたか、でもまあ、もしも症状が出てた場合は、そうだったかもしれません」
「怖いこと言わないでよ」
「アルコールと脂質と塩分が多い食事は、体にはあまりよろしくありませんから」
「それはわかってはいるけどもさ」
「美味しいのはわかります、付き合いなのもわかります」
「ごめんね」
「そこで謝れるから、まだ戻れるのではないかと思ってます」
「そうだったらいいね」
「そうですよ。本当ならば栄養や医学も学んでほしいのですが、そのような時間はありませんので、要点だけは覚えてほしいと思ってます」
「その方がありがたいよ」
「この栄養剤は、旦那さまの今までのお食事で足りなかったぶんのものだとお考えください」
「へぇ~そうなんだ」
「その分を食事でとっていただいているので、こうして目で見ないと実感はないかもしれませんがね」
「領主患いか」
日本語圏では江戸煩いといった方がいいだろう、あれである。
「それでなんでこれを見せたの?」
「お話しするのか迷ったんですけどもね、正直こういう話を馬鹿馬鹿しいとか一笑する方もいますから」
「僕はそういうことはしたくはないな」
「そうですか…」
「含みがあるね」
「いや、だって、本来ならば私がここで言う前に、他の方々が一言を申せばいいことでありますから」
「あっ…」
「私は、私がそばに言うので、うざがられても言いますが」
「君の話は意味があるんだよね。それがわからないのはどうかしているんじゃないの?」
妻はこの辺が自分の旦那のすごいところだと思っている。
「そう思っていただけるのですか?」
「そうだけどもさ…」
「私はお茶をご用意しますね」
「いいから、そこに座りなよ」
「はい…」
ソファーに座ると、領主も隣に座る。
「君はよくやってくれていると思うよ、さつまいもの話だってさ」
「毎日焼いてもらってますが、それが何か?」
「子供がいる者も多いからね、家に焼きいもをもって帰るとね」
今日も太った芋だ!
「って大喜びするんだってさ」
「ああ、それならば、子供がいるのでしたら、その子の分も焼いた方がいいでしょうかね」
「いいの?」
「オーブンですし」
「なんでこのような試みを?」
「栄養状態を維持していくことですかね」
「維持か…」
「私としては直したいところはたくさんあるとしても、やはりこういうのは順序だててからです。そういえば旦那さま、最近肩凝りはどうですか?」
「そういえば…辛くないな、前まではお湯に浸かりたいってなってたのに」
「それもたぶん栄養ですかね」
「うわ…栄養足りなくてこんなことになってたのか」
瓶に視線を改めておくる。
「米ぬかからビタミンを抽出した博士には感謝しかないですね」
「じゃあ、糠床とか、糠漬けでもいいってことか」
「そうですけども、あれは管理が難しいですから」
「ああ、毎日かき混ぜるとかそういうやつか」
「そうです、ああいう毎日系はね」
「何、ちょっと嫌な思い出があるの?」
「嫌がらせにダメにされるというか、ありましたので…」
「本当に君の過去と言うやつはさ」
「ろくでもないでしょ、それに比べたらあなたはちゃんと生きてきた方なので」
「こういう話をするとさ、君はとても優しい顔をするのに、悲しみも混ざっているんだよね」
手を握ると。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとう」
執事頭が、領主が妻の手を握っているのを見て。
「何かありましたら、お呼びくださいませ」
ソファーのテーブルの上で全部賄えるような準備をして、そのまま去ってしまった。
「気を使わせてしまったわね」
「まあね、それは悪いとは思ってるけどもさ、君はあんまりそういう話をしないから」
「聞いてて面白い話ではありませんよ」
「それでもさ、話してくれるのは嬉しいと思うよ、僕は君が思っているよりもずっと清濁を合わせ呑める人間だよ」
「アルコールであればなんでもいけそうですもんね」
「いや、そんなことは…若いときはそういうのもあったけどもさ」
特に成人してからの成績上位者たちは、当時の主席以外はみんな酒も飲むし、遊びを知っている。
「主席以外ですか」
「ああ、あいつは病気持っててね。だから俺らの時代は主席、次席、三席までの人間はこういう産業や役人になるってコースがあったんだけども、主席がそれでいけないからってことで、他のやつがいったりしたんだよ。最近もその話聞いたら、行き先が今は違っているから、時代が変わったんだなった思ったよ」
「病気があるとお酒は難しいでしょうからね」
「うん、体は弱いけども、とんでもなく頭がキレるやつだから、そのうち自分の病気も治したりするかもしれないね」
「それは素晴らしい」
「えっ?」
「いえ…その…自分の抱えている問題を、自分の力で解決するのは…羨ましいと思うので」
「君はそういうところあるよね」
「ありますね、これはしょうがないので」
「君とは年が違うけどもさ、君みたいな人が教育機関に来てたら、面白かったと思うよ」
「そういうのはいいですね」
「そう…思うんだけども」
思った以上に反応が良かったために逆に困った。
「私はあまり実家では話が合う人がおりませんでしたから」
きちんと話すようになったのは、最近、結婚してからと言ってもいい。
「喉を使ってないと疲れるよは、本当でした」
そういうのもあって、領主は妻と話す時間を増やそうとしていた。
「ここは君の実家ではないよ、悪い夢が終わったとは言わないけども、新しい家はここだからさ」
「そう…ですか」
「確かにうちは政略結婚だし、この間離縁したところの話聞いた?」
「えっ?どこですか?」
「ああ、まだ知らなかったか、その…結婚したのはいいけども、奥さんを使い倒すつもりだったとかで」
「使い倒す」
それを聞いたら、領主の妻は顔がひきつっている。
「俺もそんな顔した。労働力として、家名を守るための犠牲としてっていう話を、さぞ当たり前のように僕に話してきたよ。…それを僕になんでするの?ってね」
「旦那さまが嫌いそうな」
「嫌いだよ、正直…その離縁の話の後に、問題行動もあったと言うことで、降格になったわけだから、さ、もう話すこともないと思うよ」
気軽に話す関係から、話そうとするのならば事前に許可を求めなければならないため。
「絶対に許可は出さないって思ってる」
「それでデメリットは?」
「これが特にないんだよね、そのぐらい落ち目だったんでしょ?」
「しかし、そのような手合いは、ササッと片付けた方がよろしいでしょうね」
「感情的になられると困るからね、実際に困らせているみたいだよ、ごねればなんとかなるって思っているみたいよ」
「それは困りましたね」
「困っちゃうよね、まあ、それなら話しようとしたら、さっさと腕っぷしが強いやつを呼ぶさ」
「その方がよろしいかと」
「何しろ僕にはそれがないからね」
「わかっているのならば、私からは何も言う必要はありませんね」
「お茶も飲まない?せっかくだしさ」
「はい、いただきます」
領主は妻のためにお茶を注ぎ出す。
「お嬢さん、どうぞ」
「これはご親切にどうも」
こんなやり取りに笑みがこぼれてしまう。
「君は笑っている方がいいとは思う」
「そうですね、その方がいいとは思いますが…」
「何がそれをさせないの?」
「色々ですわね」
お茶に口をつける。
「色々か…」
「はい、色んなものが山積みでございます」
それを思い出すと、表情から笑みが消える。
「僕はその役にたってる?足を引っ張ってないかな」
「旦那さまは良くやられておりますよ」
「そうかな…ちょっと心配になるよ」
「そうですか?」
「君が忙しそうにしていると特にね」
「そこは…役割分担ですかね、私では旦那さまの仕事は全部はできないですから」
「休憩時間を作るために、僕の代わりに書類を見てくれるのはすんごい助かってるよ」
そのために領主の仕事はまず領主しかできないものと、奥様もできるもので分けており、取りかかる順序としては、領主が目を通さなければならないものからになっている。
「作成したものを確認するだけでいいのは、本当に楽なんだもんな」
「逆になんであの量を自力でこなせていたのかわからない」
「やらなきゃ!って思ってて」
「やらなきゃ!でできるもんなんですかね」
「やれているよね」
「こういうところなんだよな」
「逆に君にもそれを思うことはあるよ、さっきの栄養剤だってさ」
「お酒を扱うと覚えますよ」
「君に合うまで知らなかったよ」
「その昔は国民病だったんですがね。解決の方法が見つかっているのにも関わらずなる…というのはちょっと残念すぎる」
「こういうときの顔、凄く好きだよ、君の素が見えてさ」
「も、申し訳ありません」
「いいの、いいの、畏まれるのも悪くはないんだけども、どういう人なのか、心はどうなのかは、セットで知りたいんだよね」
「人の心はどうなのか、言葉では取り繕えるものですから」
「行動で見るしかないかな、そういう意味ではやはり君はすごいと思うね」
「えっ?」
「だって、僕の普段食べているものや肩こりとかから、原因を見つけてしまったんだろうからね。前までは本当にさ、湯船浸かりたいって思っていた僕がさ、シャワーでいいかにするだなんて…」
「きちんと入浴はしてくださいませ」
「そうだね、匂いが気になっちゃうものね」
「でも旦那さまは標準体型ですからね」
「ありがたいことにキープできてる」
「これが体重が増えますと、脂と参加した臭いが」
「うわ…絶対キープしてやる!」
「大丈夫ですよ、今の食事だと、体重は落ちるでしょうから。その…付き合っている食事とはいいませんが、私も落ちているので」
「そうなの」
「体重計と、実家から持ってきたワンピースのサイズを見ますとね、その…このぐらいかな」
お湯の入ってるポットの重さで教えてくれた。
「減ったのかなと、でもビックリしますよね、この量が自分の体から無くなったのかって、体重計見るまで実感があまりありません」
「健康的に痩せているんじゃないかな、お肌もカサカサってわけではないし」
「そうですよね」
そこで、あれ?なんで知ってるんだ顔になる。
「そりゃあ、毎日一緒なわけですから」
「そうかもしれませんけども」
気を取り直して。
「君はさ、そういう話をするのも躊躇わないよね」
「容姿はもう諦めてますから」
「でも、綺麗になったとは思うよ」
「はぁ…」
領主の妻は実家時代は器量良くも生まれなかったとして、そういう道具にもならないと言われ、何故か彼女の母親の方が再婚するとか、そういう話になっていた。
しかし、この領に来てから痩せたことで、顔のバランスが少し変わった。
(もしも実家時代に今の容姿してたら…いや、そらはやめておこうか)
推測は当たっているだろう。
最近の容姿だと、男性陣の視線も引き始めている。
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