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『うちの妻の方が可憐ですけども』
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執事頭の三男は同じ主人を持つ執事になりました。
「私は反対です」
「どうしてだい?」
「まだ若すぎる」
「それは…わかるけどもね」
今の領主が赴任するかも…ぐらいの辺りに、執事として仕える、志願してきたのだが、父である執事頭はこんな感じで難色を示した。
「でもね、これから誰かが領主として赴任してくれば、年は彼の方が近いんだから、今のうちに仕事に慣れてもらって、それにだ、新しい領主ともなれば、数年は挨拶に回ることになるし、全部についていける?あれはキツいということは、前領主に付き添った君ならばわかるんじゃないかな」
「それはそうですが…」
「とりあえず試してみて、ダメならば、離職を言い渡すことにはなるし、それとも、息子さんはそんないい加減な仕事を…」
「それはありません、あいつの上には兄が二人いますが、しっかりと育てたつもりです」
「じゃ、いいよね」
ニコッと微笑まれ、執事頭は、あぁしまったという顔をした。
「その際には大変奥さまにもお世話に」
「まさかそんな繋がりが」
「世間は意外と狭いもんだよ」
執事頭を言い負かしたのは、領主の奥さまが独身時代、家族との関係を知って、自分の道を歩みなさいと言ってくれた人であって。
「前のお話が破談になった時に、うちの家族よりも頭かかえてましたから」
ど…どうして…こういってはなんだけども、まず間違いは起こさないであろうと思っていたし、二人も仲は良さそうだったのに…
むしろ、こんな感じで次に行こうと考えが回らなかったぐらいであった。
「確かに私は家族には…あんまりでしたが、まさかそれではダメだからと、助けてくれる方がいるとは思いませんでしたね」
「そんな人なんですか、参ったな、お礼はしましたが、改めてお礼をしたくなってしまった」
「あの方はそういう生き方をしているから、喜ぶと思うわよ」
「すごい人格者ですね」
「そう思うよ、旦那様もそうなんだけども、大変なときほど、大変だって言わない人たちではあるわね」
「はっはっはっ」
領主は笑ってごまかした。
(なんでバレているんだろう)
(なんでバレないと思ってるんだろう)
こうした赴任や任命制度があるのには理由がある。
広い領なのだから、人もたくさん住んでいる、それならばそこから地元の人間を起用すればいいと思われるだろうが。
そう思っていた時代、その方針は間違いだとすぐにわかることになった。
理由は権力を握った人間が酔ってしまったからである。
「それこそ、こいつが上に立つことになったら、とんでもない事になる。そう思われていた人間に、権力を与えてしまったのです」
お茶の時間、愚痴だと思って聞いてほしい。
「当時のことは知らないけども、その後のことは、ある程度は聞いている。必要だからね」
「治安も悪く、夜になったら、女性や子供は外を歩けないところも多かった」
「そこまでになっていたら、何か手を打つでしょう?」
「それが…」
「なるほど」
(そこだけでわかるって相当よね)
「ならば他の地域から赴任させるという方法を取りましたが、それはそれで面白くないとね」
執事頭が先代領主についた辺りには落ち着いていたのだが。
「その頃は景気が良かったですから、ただそれはそれで問題を生みました」
「どんな時でも、上手くやっていくぐらいの手腕が求められると、でも僕にこの話が来たのは…いや、ありがたいけどもさ、何かあるんじゃないかとは思ったよな」
「それは仕方がないと思います。こちらからすると、まともな方にお願いしたい、少なくとも、権力に溺れないような」
「父さん、一番難しいやつですよ」
「そうなのだが、それでも要望は出さなければな」
「そういえば旦那様、執事頭さんにそのままお願いしましたけども」
こういった場合、就任と同時に自分の信頼できる人と交代することが多いだろう。
「どういう人かわからないはあったよ」
「それは当然ですな」
「あまり僕も人を見る目はないけどもさ」
「そこは心配でした」
えっ?そのまま執事頭として継続してほしい?
むしろ話を聞いたときに耳を疑った。
「よく働いてくれる人は切ったらダメだ。後ね、たぶん自分の最後と仕事だということで、僕に抱えている問題点を教えてくれたのは大きかったと思う」
「あ~それは…」
「そういうのを見ても、破り捨てる人は多いとはいう」
「多いですな」
「旦那様、スゴいですわね、そこをしっかりと受け止めるというだけで、他の人とは違いますよ」
「でも僕の耳に入れるということで、そっちはそっちで色々とあったでしょ?」
「ありました」
お前はどっちの味方なのか。
「ありましたが、これからを考えていった場合、どちらに分があるのかと思えば」
「その期待は応えたいものだよね」
「あの時はどちらかはわかりませんでしたが、今なら間違いはないと言えます」
「そこまで信用してくれてうれしいし、裏切りたくはないよねって感じ」
「おや、奥様?どうなさいましたか?」
「しっかりとお仕事をしているんだなって思いまして」
「あんまりそういう部分は君には見せないからね」
「それがどういう人なのか、イマイチ掴めないなって思っていた原因なのでしょうね」
「そう簡単には掴ませたらさ」
「わかりますけどもね」
「夕食の準備がありますので、私どもは一旦下がらせていただきます」
「ごめんなさいね、気を使わせてしまいました」
「何かあればお呼びください」
「そんなに僕は君にとっては不思議な存在?」
「変わった人だな…って今もよく思いますよ」
「そうか、僕はいつも通りだけどもね」
「いつも通りですか」
「いつも通りだよ、それが上手くやっていくコツだ」
そういって何かも同時に考えているようである。
「収穫祭はどうしますか?」
「結婚式ができるかなって思っていたんだけどもね、残念だな…でもさ!」
急にこっち見た。
「僕の中では壮大な式を、四季折々の花びらが舞い散る中で、天上の響きを持つ鐘がリンゴーン、リンゴーン鳴るんですよ。そこで僕は君を待ってるんだ!」
「旦那様の頭の中の世界は、みんな美化されてそう」
「美化じゃないよ、みんな美しいんだ」
「それを美化というのですよ」
「いいんじゃないか、この世の全ては美しいし、愛しい、そういうもんじゃないかな」
博愛主義者?
(でもなんか引っ掛かるんだよな)
「今の君の目にはさ、どう僕はうつってるのかな」
ほら、これだ。この人を見れば、この人はこちらを見ているのだ。
「旦那様という人は先程も申した通り、大変変わった人でございます」
「そのくだりから珍妙な事件の話でもされそうだ」
「あなた様が気づいていないだけど、もう巻き込まれているのではありませんか?」
「そうかな?どうだろう?」
「スイス~イと泳ぐのはお上手なようで」
「その言い方ならばわかる。でもさ、君が来てくれたおかげで、今まで気をつけていたことが減ったりもしているんだよね」
「何が減りましたか?」
「今まではこちらから挨拶にいっていた、時候の贈り物を忘れずにというやつだ。君がいるとそれが減る、代わりにやってくれるというよりは、向こうが逆に挨拶に来るような形でだ。本当、君もさ、色んな隠し札を持ってるよね」
「あなたにはかないませんよ」
「そういう評価は嬉しいけども、確実に僕が出来ないことを君はしているから、こうなんだろうなとは思ってるよ。これで敵対しているのならば、そこから崩されている、崩してくるんだろうなって思うと、ちょっと対策するから時間くれない?って感じ」
「任せるにしても、把握しておく、何かの時は代わりを考えれる、動かせるという点では、まあ、悪くないのかなって」
「君の採点は辛口だな」
「甘くてもいいですわよ」
「名前を書いたら満点をもらえるのは御免だな、それは確実に君の信頼を得られないじゃないか」
「おや、私の信頼いるんですか?」
「そりゃあいるさ、いらないと思ってるの?」
「機能してくれるのならば、意思は必要がないという人間は多いものですよ」
「それは嫌だな、それでは意味がないじゃないか」
「意味ですか」
「何のためにいてくれるの?」
「そりゃあ、役割を果たすため」
「役割ねぇ~決められたことしか出来ないのもなんかちょっと違う気はするんだよね」
「あなたはそういうところが理想主義者ですよ」
「理想主義者のどこが悪いんだい?」
「悪くはないですが、生きづらいですよ」
「知ってる」
「わかっててやってるんですか?」
「ちょっと呆れた?」
「呆れましたね、でもそういう人がいなければならないのもまたありますから」
「うん、そうだ。だから僕はやらなきゃなって思ってはいるんだけどもね」
「人生は計画通りに行かないことはたくさんありますよ」
「そういうところもお見通しなんだよな」
「何のことでしょうか」
「君はそういうところを見て、先回りして準備したり、ガッカリしたりするからな」
「保身は大事でしょ」
「君みたいな、骨を守るために肉を切らせるような保身はそういないよ」
「そういうのに合わなければ一番いいんですけどもね、残念ながら問題というのはね、起こってしまうんですよ」
「それは違いない」
「お金とかに余裕があるのならば、他の人と同時に問題が起きましたを聞けばいいのです。お金がないならばそうもいきません、少ない持ち合わせで上手くやらなければならないので」
「その考えが、上手な節約方法を生み出すんだよな、同じことをしているようで全く違うし、僕はすごいと思う、でもその話をしても、?って顔をされたときに、凄く悲しかったけどもさ」
その後、すぐに彼女は唇に人差し指を当てて、秘密にするように合図を送った。
「二人の秘密っぽくてとても良かったです」
「中身は節約の話なんですけどもね」
「あれは安くても問題なく使えるという視点は、確かに僕も苦学生時代があったから、わかる。けども、それを応用するとは思わないじゃないか」
「ああやって、改善のための資金を作るもんですよ。まあ、私のやり方ですが」
「君は本当に一体どうやって生きていたのさ」
「頑張って生きてたから、こうなったので、こうなるつもりははじめからはありませんよ。問題が起きないのであれば、その方がよろしいかと」
「それは…そうなんだけどもね。君と話していくと、世の中の見え方が少し、いや、大きく変わるんだよ。こういう世界もあったのかって感じ」
「旦那様は視野が広い方ですよ。それに私は貴方が思ってるより、失敗は多い」
「失敗も糧さ」
「そうはいいますけどもね、もっと才能があればなっては思ってます」
「さ…い…のう?」
「だってそう思いません?今抱えている悩みがすぐに解決できたらいいのになって…私は解決するために、それこそ何年もかけてしまうときがある、それは才能がないということでしょう」
「何年で普通解決出来ないことも君はしていると思うよ」
「それでもやっぱり私はダメなんですよ、こんな年齢にもなってしまいましたし」
「君はとても可憐だよ」
「ナイスジョーク」
「いや、これは先日、君のどこを間違えたのかわからないけども、君が買おうとしたものを没収した上で取引を停止しようとした商人の件にも繋がる」
「それはどこに」
「君が間違えられた人の旦那さんとは話をすることに出来たんだ」
この度は申し訳ありません。
「最初に謝罪から始まるところに好感度大なナイスガイなわけですが」
妻同士は似てないのに間違えられた話になったとき、どこを間違うんだという気持ちが高まり。
『うちの妻の方が可憐ですけども!』
両方同時に出たという。
「旦那様、なんでそんなところでそういうことを言っちゃうんですかね」
「えっ~いいじゃん、自然とラブが溢れて来ちゃったわけよ、そういうことってあるんだよ。で、俺と向こうが目を合わせて、すいませんって謝って、なんかやけに冷静になって話を聞けました」
あの商人の態度としては、それこそ自分が気にくわないから、独断と偏見で商品とお金を没収して、取引を停止にしたという話で。
「書類の方の名前が、君じゃなくてその間違えられた人だったんだ。それも証拠になったんだけども、まだ決着がつかないものがあってさ」
「どの部分です?」
「商品と金品の没収、これが本当に不味いことになりそう、ほら、君の知り合いの知り合いも居合わせたじゃない、それもあるから、こういうことをしたのは今回が初めてではないかもしれないってことさ」
没収した受付は、初めてですっていっても、もちろん信用はない。
「それこそ、利害のない第三者が、この人は無実ですと言わなければならないし、そこでも嘘偽りがあった場合は、その証明した第三者が責任を負うわけよ」
「確かその制度がありましたね、それでその第三者は見つかりましたか?」
「見つかるはずはないよ、だってメリットないもの、実質、そういうやつらを切り離す制度ではあるからさ、騙してつれてこなきゃ、ならないよ」
「大変ですね」
「そうだね、大変だよ。でもまあ、しょうがない、普通の人よりもお金を得ている、権力があるところだからさ、そういう追求には誠実に対応しなければならないよ」
「それは理想的ではありますが」
「そうだね、本当に理想だ。上手く行かないことはいっぱいある」
ソファーにごろんと寝転がり。
「僕も才能がないからな、こんなにも問題は山積みになってる中で、まだ新しい問題が起きるんだもん」
「そんなことないですよ」
「あるよ。しかも、結構君が僕の代わりに解いちゃったものもあるんだぜ。どう考えても、僕じゃたどり着けないのをササッと解かれた」
「それは…」
「嫌じゃない、むしろ斬新な痛み、刺激、痒み、これは何?愛?みたいな」
「その表現が本当に独特だな」
「あえて言葉にするとそうなった、深い意味はなく、そんな言葉を並べさせる君はすごいってことさ」
「これですごいって初めて言われたかも」
「なんで?」
「言われたことはないな、なんでこんなことも出来ないのとか、怒鳴られていたばかりだ」
「怒鳴るね~怒鳴っても何も始まらないのに、何かしら、イライラしてたのかな」
「あ~その時は付き合っていた方と上手くいかなかった見たいですけどもな」
「それ誰のこと」
「母ですが」
「すごいね、君のお母さん」
「そうですね、自慢は出来ませんが、私が不出来なので、自分が再婚すればまだどうにかなると思ってましたよ」
「いくつの頃?」
「…私が適齢期になるぐらいかな」
「それは…」
「どうしたかったんですかね」
「何が欲しかったかにもよるんじゃない?家名を守りたいのか、お金がほしいのか、愛されたいのか」
「全部じゃないですか?」
「全部を与えられる男っているのかな?」
「さあ、私は見たことはありませんけども」
「どれか一つを選んだとしても、上手く行かないこともあるのにね」
「結婚に夢持っちゃダメですよ」
「それ、僕の前で君がいうの?」
「政略結婚ですよ、私たち」
「そうかもしれないけどもさ~それでも上手く行くんじゃないかって信じたいじゃん」
「もう少し若かったら、信じれた」
「今だって若いじゃん、お肌とかさ」
「でもこれから私は若返るわけではありませんよ」
「それなら僕だってそうだよ」
「もう少しお呼びするのは待ちますか」
「そうしてやってくれ」
思った以上に問題は山積みにはなってはきているが、自暴自棄にならず、あのように夫婦の会話で前向きになってくださるなら、このぐらいの気は使った方がいい。
「私は反対です」
「どうしてだい?」
「まだ若すぎる」
「それは…わかるけどもね」
今の領主が赴任するかも…ぐらいの辺りに、執事として仕える、志願してきたのだが、父である執事頭はこんな感じで難色を示した。
「でもね、これから誰かが領主として赴任してくれば、年は彼の方が近いんだから、今のうちに仕事に慣れてもらって、それにだ、新しい領主ともなれば、数年は挨拶に回ることになるし、全部についていける?あれはキツいということは、前領主に付き添った君ならばわかるんじゃないかな」
「それはそうですが…」
「とりあえず試してみて、ダメならば、離職を言い渡すことにはなるし、それとも、息子さんはそんないい加減な仕事を…」
「それはありません、あいつの上には兄が二人いますが、しっかりと育てたつもりです」
「じゃ、いいよね」
ニコッと微笑まれ、執事頭は、あぁしまったという顔をした。
「その際には大変奥さまにもお世話に」
「まさかそんな繋がりが」
「世間は意外と狭いもんだよ」
執事頭を言い負かしたのは、領主の奥さまが独身時代、家族との関係を知って、自分の道を歩みなさいと言ってくれた人であって。
「前のお話が破談になった時に、うちの家族よりも頭かかえてましたから」
ど…どうして…こういってはなんだけども、まず間違いは起こさないであろうと思っていたし、二人も仲は良さそうだったのに…
むしろ、こんな感じで次に行こうと考えが回らなかったぐらいであった。
「確かに私は家族には…あんまりでしたが、まさかそれではダメだからと、助けてくれる方がいるとは思いませんでしたね」
「そんな人なんですか、参ったな、お礼はしましたが、改めてお礼をしたくなってしまった」
「あの方はそういう生き方をしているから、喜ぶと思うわよ」
「すごい人格者ですね」
「そう思うよ、旦那様もそうなんだけども、大変なときほど、大変だって言わない人たちではあるわね」
「はっはっはっ」
領主は笑ってごまかした。
(なんでバレているんだろう)
(なんでバレないと思ってるんだろう)
こうした赴任や任命制度があるのには理由がある。
広い領なのだから、人もたくさん住んでいる、それならばそこから地元の人間を起用すればいいと思われるだろうが。
そう思っていた時代、その方針は間違いだとすぐにわかることになった。
理由は権力を握った人間が酔ってしまったからである。
「それこそ、こいつが上に立つことになったら、とんでもない事になる。そう思われていた人間に、権力を与えてしまったのです」
お茶の時間、愚痴だと思って聞いてほしい。
「当時のことは知らないけども、その後のことは、ある程度は聞いている。必要だからね」
「治安も悪く、夜になったら、女性や子供は外を歩けないところも多かった」
「そこまでになっていたら、何か手を打つでしょう?」
「それが…」
「なるほど」
(そこだけでわかるって相当よね)
「ならば他の地域から赴任させるという方法を取りましたが、それはそれで面白くないとね」
執事頭が先代領主についた辺りには落ち着いていたのだが。
「その頃は景気が良かったですから、ただそれはそれで問題を生みました」
「どんな時でも、上手くやっていくぐらいの手腕が求められると、でも僕にこの話が来たのは…いや、ありがたいけどもさ、何かあるんじゃないかとは思ったよな」
「それは仕方がないと思います。こちらからすると、まともな方にお願いしたい、少なくとも、権力に溺れないような」
「父さん、一番難しいやつですよ」
「そうなのだが、それでも要望は出さなければな」
「そういえば旦那様、執事頭さんにそのままお願いしましたけども」
こういった場合、就任と同時に自分の信頼できる人と交代することが多いだろう。
「どういう人かわからないはあったよ」
「それは当然ですな」
「あまり僕も人を見る目はないけどもさ」
「そこは心配でした」
えっ?そのまま執事頭として継続してほしい?
むしろ話を聞いたときに耳を疑った。
「よく働いてくれる人は切ったらダメだ。後ね、たぶん自分の最後と仕事だということで、僕に抱えている問題点を教えてくれたのは大きかったと思う」
「あ~それは…」
「そういうのを見ても、破り捨てる人は多いとはいう」
「多いですな」
「旦那様、スゴいですわね、そこをしっかりと受け止めるというだけで、他の人とは違いますよ」
「でも僕の耳に入れるということで、そっちはそっちで色々とあったでしょ?」
「ありました」
お前はどっちの味方なのか。
「ありましたが、これからを考えていった場合、どちらに分があるのかと思えば」
「その期待は応えたいものだよね」
「あの時はどちらかはわかりませんでしたが、今なら間違いはないと言えます」
「そこまで信用してくれてうれしいし、裏切りたくはないよねって感じ」
「おや、奥様?どうなさいましたか?」
「しっかりとお仕事をしているんだなって思いまして」
「あんまりそういう部分は君には見せないからね」
「それがどういう人なのか、イマイチ掴めないなって思っていた原因なのでしょうね」
「そう簡単には掴ませたらさ」
「わかりますけどもね」
「夕食の準備がありますので、私どもは一旦下がらせていただきます」
「ごめんなさいね、気を使わせてしまいました」
「何かあればお呼びください」
「そんなに僕は君にとっては不思議な存在?」
「変わった人だな…って今もよく思いますよ」
「そうか、僕はいつも通りだけどもね」
「いつも通りですか」
「いつも通りだよ、それが上手くやっていくコツだ」
そういって何かも同時に考えているようである。
「収穫祭はどうしますか?」
「結婚式ができるかなって思っていたんだけどもね、残念だな…でもさ!」
急にこっち見た。
「僕の中では壮大な式を、四季折々の花びらが舞い散る中で、天上の響きを持つ鐘がリンゴーン、リンゴーン鳴るんですよ。そこで僕は君を待ってるんだ!」
「旦那様の頭の中の世界は、みんな美化されてそう」
「美化じゃないよ、みんな美しいんだ」
「それを美化というのですよ」
「いいんじゃないか、この世の全ては美しいし、愛しい、そういうもんじゃないかな」
博愛主義者?
(でもなんか引っ掛かるんだよな)
「今の君の目にはさ、どう僕はうつってるのかな」
ほら、これだ。この人を見れば、この人はこちらを見ているのだ。
「旦那様という人は先程も申した通り、大変変わった人でございます」
「そのくだりから珍妙な事件の話でもされそうだ」
「あなた様が気づいていないだけど、もう巻き込まれているのではありませんか?」
「そうかな?どうだろう?」
「スイス~イと泳ぐのはお上手なようで」
「その言い方ならばわかる。でもさ、君が来てくれたおかげで、今まで気をつけていたことが減ったりもしているんだよね」
「何が減りましたか?」
「今まではこちらから挨拶にいっていた、時候の贈り物を忘れずにというやつだ。君がいるとそれが減る、代わりにやってくれるというよりは、向こうが逆に挨拶に来るような形でだ。本当、君もさ、色んな隠し札を持ってるよね」
「あなたにはかないませんよ」
「そういう評価は嬉しいけども、確実に僕が出来ないことを君はしているから、こうなんだろうなとは思ってるよ。これで敵対しているのならば、そこから崩されている、崩してくるんだろうなって思うと、ちょっと対策するから時間くれない?って感じ」
「任せるにしても、把握しておく、何かの時は代わりを考えれる、動かせるという点では、まあ、悪くないのかなって」
「君の採点は辛口だな」
「甘くてもいいですわよ」
「名前を書いたら満点をもらえるのは御免だな、それは確実に君の信頼を得られないじゃないか」
「おや、私の信頼いるんですか?」
「そりゃあいるさ、いらないと思ってるの?」
「機能してくれるのならば、意思は必要がないという人間は多いものですよ」
「それは嫌だな、それでは意味がないじゃないか」
「意味ですか」
「何のためにいてくれるの?」
「そりゃあ、役割を果たすため」
「役割ねぇ~決められたことしか出来ないのもなんかちょっと違う気はするんだよね」
「あなたはそういうところが理想主義者ですよ」
「理想主義者のどこが悪いんだい?」
「悪くはないですが、生きづらいですよ」
「知ってる」
「わかっててやってるんですか?」
「ちょっと呆れた?」
「呆れましたね、でもそういう人がいなければならないのもまたありますから」
「うん、そうだ。だから僕はやらなきゃなって思ってはいるんだけどもね」
「人生は計画通りに行かないことはたくさんありますよ」
「そういうところもお見通しなんだよな」
「何のことでしょうか」
「君はそういうところを見て、先回りして準備したり、ガッカリしたりするからな」
「保身は大事でしょ」
「君みたいな、骨を守るために肉を切らせるような保身はそういないよ」
「そういうのに合わなければ一番いいんですけどもね、残念ながら問題というのはね、起こってしまうんですよ」
「それは違いない」
「お金とかに余裕があるのならば、他の人と同時に問題が起きましたを聞けばいいのです。お金がないならばそうもいきません、少ない持ち合わせで上手くやらなければならないので」
「その考えが、上手な節約方法を生み出すんだよな、同じことをしているようで全く違うし、僕はすごいと思う、でもその話をしても、?って顔をされたときに、凄く悲しかったけどもさ」
その後、すぐに彼女は唇に人差し指を当てて、秘密にするように合図を送った。
「二人の秘密っぽくてとても良かったです」
「中身は節約の話なんですけどもね」
「あれは安くても問題なく使えるという視点は、確かに僕も苦学生時代があったから、わかる。けども、それを応用するとは思わないじゃないか」
「ああやって、改善のための資金を作るもんですよ。まあ、私のやり方ですが」
「君は本当に一体どうやって生きていたのさ」
「頑張って生きてたから、こうなったので、こうなるつもりははじめからはありませんよ。問題が起きないのであれば、その方がよろしいかと」
「それは…そうなんだけどもね。君と話していくと、世の中の見え方が少し、いや、大きく変わるんだよ。こういう世界もあったのかって感じ」
「旦那様は視野が広い方ですよ。それに私は貴方が思ってるより、失敗は多い」
「失敗も糧さ」
「そうはいいますけどもね、もっと才能があればなっては思ってます」
「さ…い…のう?」
「だってそう思いません?今抱えている悩みがすぐに解決できたらいいのになって…私は解決するために、それこそ何年もかけてしまうときがある、それは才能がないということでしょう」
「何年で普通解決出来ないことも君はしていると思うよ」
「それでもやっぱり私はダメなんですよ、こんな年齢にもなってしまいましたし」
「君はとても可憐だよ」
「ナイスジョーク」
「いや、これは先日、君のどこを間違えたのかわからないけども、君が買おうとしたものを没収した上で取引を停止しようとした商人の件にも繋がる」
「それはどこに」
「君が間違えられた人の旦那さんとは話をすることに出来たんだ」
この度は申し訳ありません。
「最初に謝罪から始まるところに好感度大なナイスガイなわけですが」
妻同士は似てないのに間違えられた話になったとき、どこを間違うんだという気持ちが高まり。
『うちの妻の方が可憐ですけども!』
両方同時に出たという。
「旦那様、なんでそんなところでそういうことを言っちゃうんですかね」
「えっ~いいじゃん、自然とラブが溢れて来ちゃったわけよ、そういうことってあるんだよ。で、俺と向こうが目を合わせて、すいませんって謝って、なんかやけに冷静になって話を聞けました」
あの商人の態度としては、それこそ自分が気にくわないから、独断と偏見で商品とお金を没収して、取引を停止にしたという話で。
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「どの部分です?」
「商品と金品の没収、これが本当に不味いことになりそう、ほら、君の知り合いの知り合いも居合わせたじゃない、それもあるから、こういうことをしたのは今回が初めてではないかもしれないってことさ」
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「それこそ、利害のない第三者が、この人は無実ですと言わなければならないし、そこでも嘘偽りがあった場合は、その証明した第三者が責任を負うわけよ」
「確かその制度がありましたね、それでその第三者は見つかりましたか?」
「見つかるはずはないよ、だってメリットないもの、実質、そういうやつらを切り離す制度ではあるからさ、騙してつれてこなきゃ、ならないよ」
「大変ですね」
「そうだね、大変だよ。でもまあ、しょうがない、普通の人よりもお金を得ている、権力があるところだからさ、そういう追求には誠実に対応しなければならないよ」
「それは理想的ではありますが」
「そうだね、本当に理想だ。上手く行かないことはいっぱいある」
ソファーにごろんと寝転がり。
「僕も才能がないからな、こんなにも問題は山積みになってる中で、まだ新しい問題が起きるんだもん」
「そんなことないですよ」
「あるよ。しかも、結構君が僕の代わりに解いちゃったものもあるんだぜ。どう考えても、僕じゃたどり着けないのをササッと解かれた」
「それは…」
「嫌じゃない、むしろ斬新な痛み、刺激、痒み、これは何?愛?みたいな」
「その表現が本当に独特だな」
「あえて言葉にするとそうなった、深い意味はなく、そんな言葉を並べさせる君はすごいってことさ」
「これですごいって初めて言われたかも」
「なんで?」
「言われたことはないな、なんでこんなことも出来ないのとか、怒鳴られていたばかりだ」
「怒鳴るね~怒鳴っても何も始まらないのに、何かしら、イライラしてたのかな」
「あ~その時は付き合っていた方と上手くいかなかった見たいですけどもな」
「それ誰のこと」
「母ですが」
「すごいね、君のお母さん」
「そうですね、自慢は出来ませんが、私が不出来なので、自分が再婚すればまだどうにかなると思ってましたよ」
「いくつの頃?」
「…私が適齢期になるぐらいかな」
「それは…」
「どうしたかったんですかね」
「何が欲しかったかにもよるんじゃない?家名を守りたいのか、お金がほしいのか、愛されたいのか」
「全部じゃないですか?」
「全部を与えられる男っているのかな?」
「さあ、私は見たことはありませんけども」
「どれか一つを選んだとしても、上手く行かないこともあるのにね」
「結婚に夢持っちゃダメですよ」
「それ、僕の前で君がいうの?」
「政略結婚ですよ、私たち」
「そうかもしれないけどもさ~それでも上手く行くんじゃないかって信じたいじゃん」
「もう少し若かったら、信じれた」
「今だって若いじゃん、お肌とかさ」
「でもこれから私は若返るわけではありませんよ」
「それなら僕だってそうだよ」
「もう少しお呼びするのは待ちますか」
「そうしてやってくれ」
思った以上に問題は山積みにはなってはきているが、自暴自棄にならず、あのように夫婦の会話で前向きになってくださるなら、このぐらいの気は使った方がいい。
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