浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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賭けは私の勝ちでしょ

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今回お話がでている女性というのは、大変働き者である。
そして劣勢になったからといって、持ち場を投げ出すことがない、それは間違いない人、信じてもよろしいかと…


「まだ仕事してたのかい?」
「そうですね、今日はもう終わりにします」
「お疲れ様」
そこでキスをしてくるのだが。
「何さ、その顔は…」
信じられないというか、ここでですか?と戸惑いのある表情をされてしまった。
「いえ、そのそういうものなのかもしれませんが…」
「嫌ならしないよ」
「そういうわけでは…」
「じゃあ、こういうことはたまにあるから、よろしくね」
「!?」
「ふっふっ、喉とか乾いてない?冷たいものでいい?」
「あ、ありがとうございます」
「僕も結構デスクワークする方だけども、君もなかなかというかさ、腰とか痛くならない?」
「そこは長年といいますか」
野外で使う、地面の冷たさが直接伝わらない素材で、厚みがあるものを椅子の上に使ってる。
「これ、便利なの?」
「何もないよりは本当に腰に響かないですよ、だから持ち歩いてます。あとお値段も安いですし」
「君は色んなことを知ってると思う」
「最初からわかってたら、どんなに楽か、それこそ失敗しながら、安いのから試していってるって感じですね」
「ふぅん」
「あまりこのような話は、ご興味ないのでは?」
「いや、あるよ。たぶん君が話上手なせいもあるとは思うが、僕にはその視点が抜けているからさ、君が許可を求め、僕が何気なくいいよっていったことで、みんなが笑顔になってる。それが不思議でたまらなかった。それこそ、なんで?僕は気づかないんだろうと…」
「全部わかるなんてことは、あり得ないでしょうよ」
「そうだけどもさ、一応は僕は領を任されているわけじゃん?より良くしていくのが仕事だからさ」
「そうですね、でも旦那様はよく働かれていますし、成果も出ているとは思いますよ」
「どんなところが?」
「どんなところがですか?」
この世界だと、身分はどちらかで手に入る、生れか、教育機関にしてそれなりの成績を出すか。
この領主は教育機関の出身者。
その妻はそこそこの生まれのものである。
「君のことだから、ただ何となくイメージで、僕のことがスゴーイ、キャー、最高!っていう人ではないからさ」
「褒め方が難しいってよく言われません?」
「言われないよ。そういうのはありがとうってみんな返しているし」
「その割には私には…」
「君は別だ。そういう俺を見抜いているから、そんな対応したらさ、君は俺のことを…」

ああこいつはダメなんだな。

「いや、そういう目で見られるのは、悪くはない、むしろいいんじゃないか。でもしかしさ」
「なんで一人で葛藤しているんですか」
「俺は基本的にこうなのよ」
「今までどうやって生きてきたんですか…」
「えっ?頑張って」
「頑張ってで乗り越えれるものじゃないでしょうよ」
領主を任されるぐらいなので、成績上位者になってるぐらいの人物であります。
「でもさ、君がいると、やっぱり負けたなって気分になるというか、僕はこれで絶対にうまく行くと思っていても、さらっと、それ以外の道を見つけてしまうし、そこを自分から言わないんだよね」
「言ってもね…波風立つし」
「それはそうなんだけどもさ、それでも、ビックリというか、僕の理論に穴があるんだ…ってなるよ」
「そのわりに癇癪起こしませんね」
「子供じゃあるまいし」
座りかたは子供みたいなのだが、そこは否定するようだ。
「君は僕の大変、ラブリーな奥さんですが。こういう会話相手としても大変貴重なんだよね」
「へぇ~」
「そこでまた話の腰を折る」
「折りたくもなりますよ」
「君のことを、君がどういう人かを僕が知ろうとすると、そういうことするんだから」
「いきなり間を詰められるとビックリしません」
「そうだけどもさ…」
「旦那様は、人付き合いが結構下手ではありませんかね」
「そういうことを言っちゃうの?」
「なんかこう、自然じゃないというか、いきな。感情的になってくる感じがして」
「それは君が魅力的なのが悪いんだ」
「私のせいなのですか?」
「すいません。実はこういうの本当に苦手です」
「よろしい」
「くっ、振り回されるのも悪くないと思っている自分がいる」
「気を付けてくださいね、それ利用されたら破滅しますよ」
「君はこの辺もわかってるからな、安心するよ」
「そうですかね」
「そうだよ。上手く軌道修正してくれているのがよくわかる、その辺はごめんね。俺が気が利かないばっかりに」
「あなたは人に頭を下げるというか、謝るのに躊躇わないんですね」
「謝ると敗けを認めたことになるっていう人はいるけどもさ、ああいう人はな…僕としてはあんまり」
「話にもならないってことで、強制排除されるのがオチですからね」
「そこはな…」
「あなたはそうじゃないから、驚いているんてわすよ」
「そう?」
「珍しいタイプというか、人から力を借りれるタイプなのでしょう」
「さっきも言ったけどもさ、自分じゃできないことって多いわけよ、そういうときに協力しなきゃいけない」
「あなたのそういうところは好きですよ」
「なんか初めて好きって言われたような気がする」
「そうですか?」
「そうだよ、俺のメモリーには…うん、ないな」
「そこで優秀な頭脳を使わないで」
「じゃあ、どこに使えっていうの?」
「旦那様の普段食べている食事直すとか」
「くっ」
「美味しいもの好きなのはわかりますが」
「だって、だって美味しいんだもん」
「あっ、お夜食のとろろ丼は美味しかったですか?」
「うん!」
「それは良かった」
「というか、あれは最近というか、気に入ってるんだよね」
「そうですか」
「そうだよ。酒飲んだ次の朝とか、こういう夜食に最適な食べ物だお思う」
「あれは美味しいし、私もよく実家にいたときは食べてましたよ」
「あんなに美味しいものを?よく!」
とろろは山の芋、いわゆる自然薯である。
「贅沢な逸品」
「あれ、他の地域に持っていくのが大変なだけで、割れたのは普通にお安いですからね」
センチではなく、全体がメートル越えなのに、割れやすい、割れると値段がつかない。
「そういうのを上手く使えば、旦那様や屋敷のみなさんによく食べてもらえるんですよ」
「くっ」
「今日は後、何回旦那様の『くっ』を聞くことになるのやら」
「俺は何度でも『くっ』って言いたいけどもね、自然と出てしまう『くっ』は健康にいいので」
「新しい健康法ですね」
「そんぐらいストレス溜まってるんじゃないかな、いや、溜まってたのに、気づいてなかったのかなって」
「旦那様、一人嫌いですものね」
「嫌いだよ、寂しいじゃん」
「私が来たばかりの頃はそうでもありませんでしたが」
少し体調を崩したときに、不安だったのか、話し相手になってくれないか?と言われて、驚いたのである。
「やっぱり怖いじゃん、自分が味わったことがない未知の感覚ほど、あれ?これは今、流行りの?とか、悪い考えが過ってくるし」
「そういうものですよ。弱ってるときというなは」
「君がそうやって笑うから、安心して、あの時は話すことができたんだ」
「心配な時ほど、希望のある話をするものですよ」
「いいね、それ…不安を打ち消すのはいつも希望だから」
「そうですね」
「ずっとそばにいてね」
「それはお約束できません」
「手強い」
「手強いって…自分の進退は自分で決めませんと」
「それはわかるけども、そうなったらどうするの?」
「しばらくは…まあ、一人の方が気楽なので」
「君は逃げるのが上手そうだ」
「そうですかね」
「ただまあ、君の価値を知ってる人ほど、逃がしたくはないと、まあ、僕は複雑。君にはいてほしいはさっきも言った通り、でも嫌われるのは嫌だなって感じ」
「旦那様は悪い人ではありませんよ」
「いい人扱いは慣れているよ」
「そういう意味ではありません。十分素敵な人なんですから」
「そういうことは気のない男には言わない」
「すいません」
「それはそれでショック」
「こういうときはどう言えばいいんですかね。旦那様は男性としてはとても魅力的で、いきなり近づかれると驚くんですよね、なんかこっちにきたー!みたいな」
「えっ?」
「私という人間を眼中に入れてないと思ってますので、イタズラに来てるのかなって」
「はい、ストップ」
「はい、ストップしました」
「俺って君からどう見られているの?」
「どうですか?今も言った通り、男性としては魅力的ではないかと」
「でも君の好きなタイプとは違うでしょ?」
知ってるんだからね!
「はぁ、まあ、そうですかね」
「だから逆になんで俺に、いや、優しい子なのはわかりますよ。むしろ君が優しくしないのは」
「実家の家族ぐらいかな、後は、やらかしたやつとか」
「だよね。んでもって怒るのが下手なところが、あれは俺もそうだからわかるけども、怒るよりも悲しくなっちゃって、それは見てて痛いほどわかる」
「なりません?悲しく、なんでこんなことになってるんだろうなって」
「そういう人は少数派ではあるよ。怒っても無駄とは違うんだよな」
「そうですね、それなら楽なんですよ、そうじゃないから辛くて、とても悲しい」
「そういうときさ、一人にならないでほしいんだよ。もっとさ、人を頼って」
「ああいうとき、八つ当たりしたらどうしようとか思って、一人になりたいんですよね」
「こういうのを聞くと、君は君で不器用で、精一杯やってここまで来たのがよくわかるよ」
「本当ね、偉いところまで来てしまったな~って」
なんか私、嫁になってる!
「一年に二回結婚の話が出るとは、この間、来年は隣にいる男、たぶん違う人だよって言われましたが」
「それを俺が隣にいるのに言ったことは、絶対に忘れないからな」
「あれは失礼ですよね。何をいってるのか」
「本当だよ」
一年に二回は、二回目は今の旦那さんと結婚、一回目はうまく行くかなと思われていた最初の相手のこと。
「三回も私に話が来るはずがない」
「そこ?」
「それを踏まえて、旦那さんに失礼だと思う。旦那さん、領主も務められているし、今まで関わってきた方々や地域を侮辱することなのに」
「そういうのをわからない人間は多いんだよ」
「多すぎやしませんかね」
「特に君のそばはさ~」
「ほぼそういうタイプな気がします」
「話にならないよね」
「ならないですね」
イヤになっちゃう。
「そういうところには返したくないよ」
「帰る場所ももうないですから、縛られようがない」
「でも君の心の中にはいつも故郷がある」
「気のせいですよ」
「いや、あるじゃん。その言い方、そういうのは我慢すれば我慢するほどさ、辛くなるんだから、吐き出しちゃえば」
「吐き出すと、本当に忘れてしまう」
「忘れたくないの?」
「少しね、少しですよ。思い出すと具合悪くなるやつなんですが」
「それは捨ててしまった方がいいよ」
「捨てると何もない、いや~そうではないかもしれないけど、なんかね、穴はできると思うんだ」
「その穴は…僕じゃ無理か」
「おや、見えるんですか?」
「何となくだよ、穴というか、本当に何もないんだよね。そういう空虚さが見えるから、触れようにも空を掴むばかりだ」
「それは私もビックリしているんですよ。本当に何もない、意味のない時間を過ごしてしまったと」
「そんなことないと言いたいが」
「ないにしなきゃいけないから」
「それが君の決断なのね」
「そうですね、それでいいんですよ、それでお仕舞いです」
「ただね、それは僕と結婚してないなら言える、使えるいいわけだからね」
「そうですね。それなら格好つけれたまま終われました」
「もう君はその終りはないんだよ」
「ひどい人だな」
「それは俺にいってる?」
「いってますよ」
「しょうがない、俺は君のことが好き、君が自分のことを傷つけている人間を前にして、なにもしないで、佇む姿は…不思議すぎる光景だ」
あんなにも元気だった彼女が、なんでこうなのだろうか。
「本当にどうでもいい事に興味を持つ方だ」
「俺はどうでもいいことだとは決して思わない、むしろなんで気にも止めないのかがわからないぐらいだ」
「その理由は私にもわかりませんよ、人がなんで気にしないか、私は必死に生きているだけで、それで勝手に色んな考えで、眺められている」
「僕は傍観者か?」
「いいや、それはないね。何とかしようとしているのはわかるし、できることはやろう、が、しかし…って感じですかね」
「無力感に襲われそうな結果だ」
「そういう意味では気になるくせに、直視したらメンタルに来るタイプですね」
「耳が痛い」
「そういう人はいないとダメでしょ」
「えっ?なんで?」
「そういう人にしか出来ないことはあるし、私はそれでいいと思いますよ」
「またまた上手いんだから」
「だからあなたの言葉に癒される人もいるんでしょうね、これからもあなたは、いや、意思もあるから私が願ったとしても無理ですね。出来れば人に親切に、優しく、そういうのがプラスになって、世の中を回す」
「壮大な伏線の始まりだね」
「なんです、そのためにバラまいたりしてますか?」
「…」
「いや、怖いんですけども、本当に…旦那様?何もやってはいませんよね」
「俺自身の感覚ではないかもしれないが、色々試した、己の限界がどこなのか確認したことはあるから、そういうのってさ、回り回って帰ってくるから、そこまではわからないな」
「う~ん、これはやらかしている」
「そうなったら、ごめんね」
「対処できるならばやりますけど…」
「女性関係はないから!」
「あら?本当ですか?」
「そこはクリーンにしてますよ、地縁がない土地で領主やるには、そこは見られるでしょ」
実際にはいます。実家も遠いし、うるさいのがいないから、フリーダム、フリーダム!
「寝首をかかれるのが目に見える」
「そうだよね。守ってくれる人はいないしね」
「あなたはご家族から離れられて、赴任し、色んなところから任されていることはたくさんあります、それについては…」
「俺の本音は君が知っての通りだよ」
「大変ですね」
「こうなるつもりはなかった、もっと自由に飛び回っているかと思ってた、でも仕方がないね」



次の日である。
「どうも」
「あなたは…」
奥様は屋敷の中で旦那様と話していた男に挨拶をされた。
「桜…紋(おうもん)さん、えっ?なんでここに」
理由としてはこの男に会ったことがあるのは、実家にいたときで。

「親御さんには気を付けた方がいい」

先ほど自分の親がやらかした始末のために、頭を下げていた。その時の謝罪の相手がこの人、桜紋で。
「急な呼びつけの後にキャンセルですか、まあ、夕食にする気だったからいいですが」
それでドタキャンのためにかかるお金を請求せずに戻っていくときに。
「桜紋です、次もお呼びください」
しっかりと売り込んでいったのだが。
「あれから呼べずに本当に申し訳ない」
彼女はそのことをまず謝罪した。
「いいんですよ、あれからというか、まあ、こうして見ての通り、本業は別にあるので」
「調査が本職ですか」
「そんなところですね」
「あの時はうちを調査していたと」
「あなたのご実家ではなく、対象者はあなたですね。実はこちらの旦那様とは多少は長い付き合いで、こちらの土地には私自身の親族もいるという間柄なんですよ」
「いいんですか?私にその話をしても」
「構いませんよ、むしろ今がいうタイミングではありませんか?言わなかったら、あなたの信頼を損ねる可能性があります」
「それはそうですけども…」
「ほら、旦那様、賭けは私の勝ちでしょ。調査されていると知っても、それは当たり前のものだからって顔をする。育ちの段階から違うんですよ」
「それはそうなんだけどもさ」
「だからといって頭が固いわけではないから、本当にちょうどいいバランスで、よくぞここまで咲いて見せたと」
「そこは毎晩誉めてるよ」
「そっちには逆に私も驚いているんですが…えっ?」
「そりゃあ夫婦なんだから、共通で話せる事柄はいくらでもほしいよね」
「…奥様、この人、奥様にどのような話をしているんですか?」
「えっ?経済とか、今後の展望とか?そういう話も混ざるから聞かないわけには…」
「もっと色っぽい話をしなさいよ」
「それもしているつもりなんだけどもね」
「まあ、仲がいいから、あなた方はそれでいいのかもしれませんが、女性が喜ぶ話もできませんとね」
「そういうのは苦手なんだよな」
「愛想をつかされてからでは遅いですよ」
「!?」
今、気づいたらしい。
そして顔が慌て出す、奥さんを何回も見ている。
あれは、どうしよう、どうしよう、どうしたら…の顔で。
「そんなことぐらいでは私は別に怒ったりはしませんよ」
「ずいぶんとお優しいですね」
「そうですか?歯の浮くセリフとはいいませんが、そういうのを覚えられてもね、どこで使うんですかね」
「そりゃあ、使うところといったらね」
モジモジ
「他の女性は、そういうものも欲しいと、言えない相手を物足りないというのでしょうが、私はいりません」
「ほう!でも奥様、それは逆に男の頑張りを否定する」
「そこはそこでしょ、女を口説くことを覚えている暇があったら、目の前の社会問題の一つも論じてほしいわ、そしたら私は楽できる」
「理由が楽ですか」
「あら?いけません?その言葉で楽しい時間を過ごすよりは、私は憂いなくゆっくりとした時間を楽しみたいの、言葉が終われば、面倒な現実が待ってるのって嫌じゃありません?」
「これは私には耳が痛く…」
苦笑しながら。
「ねえ、旦那、助けてくださいよ。この娘さん、正論を唱えてくる」
「はっはっ、素敵だろ、そういうところが最高なんだ」
「あっ、桜紋さん」
「なんです?」
「あなたはお酒をお飲みに?」
「嗜む程度には」
「僕と飲むぐらいには飲めるよ」
「ああ、それではお帰りの際にお酒をお持ち帰りになって」
「それは僕の分もあるよね?」
「あるけど、そこは抑えようね」
「旦那さんはそういうところありますから」
「うちの実家方面の珍しいお酒一本と、知酒(しりざけ)セレクトのものから一本お好きなものを選んでね」
知酒、色んなお酒、ワインや日本酒、焼酎やウイスキーなどの責任役職、そこから酒屋の資格のこと 
「いいんですか?」
知酒ともなると、それこそパーティーやら、接待やらのお酒も見繕うので、その名前を関してものはハズレはないとされる。
「奥様の調査言ったときに、結構飲んだんですが、あっちの酒は美味しかったな」
有名どころの名前を口にするが。
「やはり飲んだことありませんか、まあ、売ってるところ限られているし」
「そんなに珍しいんですか、楽しみだな」
執事頭案内で、奥様から実家近くのお酒を渡され、そしてもう一本知酒の酒を選ぶことになったが。
「全部飲んでみたい、こんなになんで種類があるんですか」
「最初はここまでにするつもりはなかったんだけどもね」
「勧められるがままにではありませんね」
「このお屋敷、お酒を保管する場所やけに広くて」
チラッ
桜紋は旦那を見ている。
旦那はそれは僕が絡んでない顔。
「それはこちらのお酒の保管する場所は、旧邸宅の名残があるからですよ」
冷蔵技術がそれほど発展してない時代に使われていたもので。
「新しい屋敷を不便だから建てるときに、こちらも無くなるつもりでしたが、災害が起こりまして、この保管庫にあった食料や飲み物に大変助けられた、という逸話があるのです」
「なるほど」
「だから知酒の人に保管が圧迫しているって言われたときに、貸せたりもするのよね」
もしもの時はお願いします。
「後は旦那様にはお酒を買う段階から関わらせないようにしてますから、何をどう、保管しているのかは、こうして誰かと足を運ばない限り、知ることはありません」
「旦那さん、執事にまでこう言われるって、相当ですよ」
「これは私も驚いたのよね」
「お体のためですし、その奥様には言いにくい飲み方も」
「ごめん」
「忠告で止まったので不問です」
「旦那様、想像以上に酒でやらかすって思われていたのね」


「お手をどうぞ、お嬢さん」
「これはご親切に」
暗くて足場が悪い保管庫から夫婦は先に出ていった。
その後ろで…
「で、今はそこんところどうなんですか?酒に溺れることは…叔父上」
桜紋が執事頭をそう呼ぶと。
「ご結婚されてからは、その危険性は皆無ではありますが、ただ奥様がいなくなると…」
「なるほど可能性がありか…」
「旦那様にとってはいい奥様ではあられる」
「領地にとっては?」
「まだわからない、旦那様もそういう見方されかた、そのままだしな」
「でも二人ともいい御人なんだけどもな」
「それで上手くやれるとは限らない、まあ、やってほしいがな」
「一応は認めておられるんですね、良かった」
「そりゃあね。ただ私としては…」
「なんです?」
「政略結婚をせずに幸せの道を探してほしかったんだがな…旦那様は出来るのはわかるが、奥様の方はそこは考え方が古くさい」
「でもいい旦那が嫁としての格を決めるのよ!タイプじゃないから」
「それだからいいんだよ、そんな女がこの領に足を踏み入れたらと思うとゾッとするよ」
「じゃあ、旦那さんが領主を勤めている限り、次の再婚相手は見つかりそうもないね」
「申し訳ないがそうなるだろう」
そうして執事頭はがっちりと固い鍵を保管庫にかけた。


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