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一人で食べるには大きすぎる赤魚
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「すいません、濡島(ぬれしま)さん、隣町の方で色々あったようなので、私は手伝いにいかなければなりません。帰りもいつになるのかわからないので」
「かえちゃん!迎えに来たよ」
女性の声が呼んでいる。
「冷蔵庫や冷凍庫の方に食事も入れれるだけ入れましたし、それでも足りないようでしたら居酒屋さんにも頼んでありますので!」
そういってかえさんは行ってしまったのである。
じゅ~
かえさんの用意してくれたツミレに焼き目を入れてから、野菜の汁物に入れる。
それとパン、ちょっとだけきつね色、このぐらいが俺は好き。
(あの調子だとトラブルだろうな)
モグモグと食べる。
濡島も同業なので、あの手には理解というか、覚えがある。
おそらく儀式の強行かな…と。
人間に冠婚葬祭があるように、森羅万象にも節目には施す必要があった。
理由としてはわかりやすく、自然、森羅万象を前にして人は弱いから、何とかしようと手探りで、そこから上手くいったものを、今も繋ぐ。
ただそれが今は人手不足や、継承されなかったことで、途切れたり、足りなかったりしていた。
そうなれば、起こることは良いことでは決してなく、悪いこともどこまで悪いことなのか計算のしようがない。
「で、どこまで今回はわかっているんですか?」
「それが…」
話を聞いたかえは、言葉が止まった。
(ほとんど何もわかってないというか、これはそのままにもしてはおけない)
そんな状態だった。
「とりあえず儀式やっておけばいいと思ったみたいです」
そこで絶句した。
(一から全部調べた方が早いんじゃないかしら、でもそうなると間に合うか)
やらないことで何か起きるまでに、それが出来るかというのは、なかなかのプレッシャーがあった。
(ああ、でもやらなくちゃ)
この地域はかえの地元とは少し離れているが、全く知らないわけではないから、地域史などを見直したりもするし、さすがにそれだけだと体も強張るので現地を歩いてみる。
「すいません、いきなりの連絡で申し訳ありませんが」
濡島はどこかに電話をしていた。
「はい、確かそのような本だったと記憶しておりますので、それ以外にも何か情報がありましたら、お知らせ願えると、代わりに私ができることは引き受けますから」
「そんな安請け合いしちゃダメだよ」
「いえ、これは私にとっては安くはないので」
「そんなに大事なの」
「はい…」
「ん~まあ、いいけどもね、どうせ私に仕事を頼む奴はいない、追いかけているものはあるけども、特にそっちは急ぎはしないし」
「ではお願いできるんですか?」
「いいよ、受けても」
「そうですか、ではお願いします」
「じゃあ、代わりに約束してくれる?」
「なんですか?」
「例えどうあれ、これからは相手に言いようにされるような約束はしないこと、されそうになったら逃げること」
「はい…」
「心配しているから言ってる」
「すいません」
「かえくんの事も知らないわけじゃないし」
「えっ?そうなんですか?」
「そうだよ、知らなかった?」
「知りませんでした」
「あの子が小さいときから知ってる」
「小さいときですか…」
「可愛いかったよ、お目目ぱっちりで、おじさまって呼んでくれてたし、いつも『こんにちは』や『ありがとうございます』は完璧なレディってやつだ」
「わかります、今も、かえさんはそうですから、そうか、その頃から片鱗があったんですね」
「君は…そのかえくんの事好きなの?」
「ええ、まあ、はい」
「本人には伝えたの?」
「冗談だと思われてますね」
「彼女も色々とあったからね」
「それこそ父方の実家で大変だったとか」
「あそこはね、女性を労働力に考えるところだからね」
「それは…」
「俺はあそこ本当に嫌いなのね」
「…」
「嫌だって、そうでしょ、行ったことはあるけどもさ、あんなところは無くなってしまったほうがいいよ」
「そこまでですか」
「そこまでだよ。そうだな、これで古き良き伝統がしっかりと守られているとかならば、まだ目をつぶることも考えられるんだけどもね、科学がそれを迷信と証明してしまってね、存在の理由もわからない状態になっちゃったね」
「そこで科学の名前を出すんですか」
「出すよ。科学的に未だに解明されていないものを扱う我々だからこそ、なんていうの、あれと一緒にされたくないじゃない」
「それはわかりますね」
「でしょ?でも人間だからある程度は好き嫌いで選んでるところはあるよ、でもさ、度が越えているってことさ」
「はい」
「というか、君にも良くない相が出てたの知ってた?」
「えっ?」
「だから君を選んだところがある」
「良くない相なのに?」
「良くない相が出ても何?ってわけではないが、そういうのを回避というか、よく言うじゃない、大難を小難にするみたいなやつ、そのままいけば君に大難がガーン!と当たっていたとは思うが、君はそっちにいて正解だと思う」
「それは…俺も正解だと思う」
「でもまさか、かえくんもその良くない相に関係しているとは思わなかったけども」
「意外ですか?」
「そりゃあね、彼女も彼女で不思議なことが起きる人だからな、まっ、この業界はそういう話は多いけどもさ」
「かえさんはとても不思議というか、癒されるんですよね」
「そう…」
「はい、俺のこと、どう思っているのかは知りませんが、最近は食事も一緒に食べたりしているんですよ」
元々は食事を作るだけの契約でしたが、濡島が良かったら一緒に食べませんか?と言って、今は台所に二人で並んで、話ながら調理をしたりもしている。
「それは幸せだね」
「そうなんですよ…いや、彼女が今までいなかったわけではありませんよ、ありませんが、こう…誰かと共にいるのはいいことだなって。というか、ここで聞くのはおかしいのですが、なんでかえさんって、彼氏とか、そのご結婚はされなかったんですか?」
「かえくんって、自分の意見言うじゃない」
「はい、言いますね」
「父方の実家のある地域ではそういう女は生意気って思われるのね」
「えっ?」
「いや、まだあるのよ、そういうところは、でも一応は嫁の候補として、かえくんは出向くことになったんだけどもね」
あの女は生意気だ。儀式に関わるから、こっちも強く出れないってことを知っているからだろう!
「俺からすると、かえさんは別に生意気とかではないと思いますが」
「私もそう思うよ。でも古い考えの、あそこは若くても考え方がみんな古いんだよね、で逆に女も、外面だけを良くして、それこそ結婚してしまえばこっちのものとか思って、長続きしない結婚とか良くしているんだよ」
「うわ~」
「便利なものがあったとしても、それは都合が悪いから取り入れない、禁止するようなところは、寂れていくしかないんだよ。昔からの儀式を祭りとして、客寄せしているのにも関わらず、儀式ができる人員を揃えてない、だからこそ、儀式代行という形を取ろうとしたら、気にくわないからって反対してね、そこでかえくんは帰ってきたってわけ。本当にどうしようもないところなんだよ」
(ああ、これならなんとかなりそうかしら)
かえはようやく、解決のヒントになりそうなものを見つけて、まとめあげた。
それが終わると、ようやく一息というか、休憩をつけた。
鏡を見ると、疲れた顔の自分がいる。
(前髪も伸びてきたし、そろそろ髪をって思っていたけど、こっち来たから、ちょっとうっとうしいかもしれないな)
でも、儀式関係、こういうトラブル、アクシデントの場合は、寝ると食べるを取れるならばまだいい方なのである。
(危ないところだった、本当にゾッとする)
もしかして対処が間に合わなければ、いや、かえのところに話が来た時点で、何かが起きていてもおかしくはなかった。
(良かった、うん、最悪はない)
最悪はないが、まだ悪いことは起きがちな不安定で脆い状態である。
大気が安定しなくなるとか、かえが知ってるところの話では、雨雲が引っ掛かってしまったという土地も知っている。
雨雲が引っ掛かるはどういうことかというと、文字通り、そこはやけに雨が多く、雷も落ちやすい、昔からではなく、急になので、昔からの住宅では対処しにくいし、雷なので家電も壊れることとなる。
一度かえが所用で出向いたときは、いきなり暗くなってきた、雷も近いみたいだなで、ドン!と落ちて、道路の信号が全部消えたということが起きた。
そんなことはもちろん初めてだったので、その後どうなるのか、緊張したという。
最悪だけを回避する方法が見つかったので、かえは仮眠をし、身支度を整えてから、簡単な儀礼を行うことになる。
誓いの言葉は述べられ、こちらは粗末にするつもりなどは決してなく、今までに感謝を、そしてこれからの話に触れ、新たにまた儀式するということで終わるのであった。
無事に最後まで伝えられることで、かえは解放されるが。
(終わった)
これが気にくわなかったりすると、意見を全部言えないまま、言い出している人間が倒れるようなことはある。人の意見を聞いてもらえるだけ、優しいとも言えた。
ここからさらなる交渉にはなるが、それは住んでいる人間などが行うので、かえの出番ではない。
(美味しいご飯食べたい、ゆっくり寝たい、広いお風呂で足を伸ばしたい)
などの欲求をウマの前のニンジンのようにぶら下げて、かえは自宅に戻る。
もう何もできないのでそのまま布団に大分した。
うとうとの中で美味しい匂いに気づく。
(これは赤魚の煮付け、しかもかなり料理上手のレシピ!)
味付けの秘密はなんですか?って聞きたくなるやつであった。
(料理上手な人は羨ましいな)
かえも結構料理はできる方だと思うのだが…
(やっぱり上手な人には負けちゃうのよね)
ちょっとコンプレックスがあるようだ。
そこにメッセージが届く。
「かえさんへ、ご無事でしょうか?帰ったら連絡をくだされば幸いです」
濡島からであった。
つい、そんなメッセージを見て、微笑んでしまったが、今の自分はもう本当に酷い顔なのだ。
「もっと美人さんだったら良かったのにな」
そういいながら、メッセージを返して、スマホを置いた。そのまま、安心したのかうとうとし始めた。
赤魚は居酒屋の店長さんが、濡島さんは料理するの?と聞かれて、どのぐらいできるかまで話、そうしたらいい魚来たからと赤魚を渡された。
確かに大きく、身も良さそうなので、久しぶりに一人で台所に立つが、作れることは作れるが、やっぱりいつも作っている人の手際ではない。
そして味見。
(美味しくは出来たと思う)
鍋の中には、一人で食べるには大きすぎる赤魚。
それを見ながら、一人は寂しい…ホロリとしていた。
濡島が今住む家というのは、かえの家のそばというか、田舎の広大さはあれども、一応は隣となる。
本当は、心配で訪ねていきたい、訪ねたいが、なんか行ったら、なんで来たんですか?って言われてしまうかもしれない。
それがブレーキとなっていけないのである。
かえさんは、そんなことを言わない。
言わない。
言わないと思う。
このネガティブの三段活用というか、一度浮かぶと、悪い方に考える。
この癖は森羅万象を相手にする場合は危機管理に繋がるが、人同士ではあまり良くない方に向かう。
メロディが鳴る。
このメロディは!
そう濡島はかえからの着信は専用の音に変えている。
しかも、この曲って…二人で花火を見に行ったとかいう内容の曲として、有名な奴ですよね。
急いで濡島はメッセージを見て、そこからう~んと返信を考える。
返信の返信が欲しいからだ。
未読も既読スルーも嫌だ。
だから言葉であの人の心を打ちたい。
「美味しい赤魚の煮付けが出来たと思うのですが、味を見てもらえませんか?」
赤魚の煮付け、その写真と共に返信した。
「濡島さんは一人でも大丈夫なのでは?」
赤魚の煮付けを食べた後に、かえからの感想はこんな言葉だった。
「一人は寂しいですから」
「でも…このぐらいできるんだったら、困りませんよ」
「俺は困るんですよ」
「濡島さんは寂しがり屋さんなのね」
「そうですよ、知りませんでしたか?」
かえは帰ってきて休息をとってすぐだったため、いつもとちょっと雰囲気が違ってると思ってた。
「かえさん…その…」
「ああ、やっぱり濡島さんにはわかりましたか。今、儀式を手伝ったせいで、私から色々なものが減ってまして」
「それは戻りますよね」
「戻る分でお願いしましたよ、それでも体がしばらくダルいかな」
彼女の五分の一が侵食されているという感じ。
「これでしばらくは儀式はできませんし、ゆっくりはできるんですがね」
左肩に手でも置かれたのだろうか、そこから五分の一奪われたという感じである。
スッ
濡島もその場所に触れた。
「こういうときは、同じ人がそばにいると、早く戻るんですが」
「そうですね」
かえも手を振りほどかなかったので、そのまま濡島は抱き締めた。
「かえちゃん!迎えに来たよ」
女性の声が呼んでいる。
「冷蔵庫や冷凍庫の方に食事も入れれるだけ入れましたし、それでも足りないようでしたら居酒屋さんにも頼んでありますので!」
そういってかえさんは行ってしまったのである。
じゅ~
かえさんの用意してくれたツミレに焼き目を入れてから、野菜の汁物に入れる。
それとパン、ちょっとだけきつね色、このぐらいが俺は好き。
(あの調子だとトラブルだろうな)
モグモグと食べる。
濡島も同業なので、あの手には理解というか、覚えがある。
おそらく儀式の強行かな…と。
人間に冠婚葬祭があるように、森羅万象にも節目には施す必要があった。
理由としてはわかりやすく、自然、森羅万象を前にして人は弱いから、何とかしようと手探りで、そこから上手くいったものを、今も繋ぐ。
ただそれが今は人手不足や、継承されなかったことで、途切れたり、足りなかったりしていた。
そうなれば、起こることは良いことでは決してなく、悪いこともどこまで悪いことなのか計算のしようがない。
「で、どこまで今回はわかっているんですか?」
「それが…」
話を聞いたかえは、言葉が止まった。
(ほとんど何もわかってないというか、これはそのままにもしてはおけない)
そんな状態だった。
「とりあえず儀式やっておけばいいと思ったみたいです」
そこで絶句した。
(一から全部調べた方が早いんじゃないかしら、でもそうなると間に合うか)
やらないことで何か起きるまでに、それが出来るかというのは、なかなかのプレッシャーがあった。
(ああ、でもやらなくちゃ)
この地域はかえの地元とは少し離れているが、全く知らないわけではないから、地域史などを見直したりもするし、さすがにそれだけだと体も強張るので現地を歩いてみる。
「すいません、いきなりの連絡で申し訳ありませんが」
濡島はどこかに電話をしていた。
「はい、確かそのような本だったと記憶しておりますので、それ以外にも何か情報がありましたら、お知らせ願えると、代わりに私ができることは引き受けますから」
「そんな安請け合いしちゃダメだよ」
「いえ、これは私にとっては安くはないので」
「そんなに大事なの」
「はい…」
「ん~まあ、いいけどもね、どうせ私に仕事を頼む奴はいない、追いかけているものはあるけども、特にそっちは急ぎはしないし」
「ではお願いできるんですか?」
「いいよ、受けても」
「そうですか、ではお願いします」
「じゃあ、代わりに約束してくれる?」
「なんですか?」
「例えどうあれ、これからは相手に言いようにされるような約束はしないこと、されそうになったら逃げること」
「はい…」
「心配しているから言ってる」
「すいません」
「かえくんの事も知らないわけじゃないし」
「えっ?そうなんですか?」
「そうだよ、知らなかった?」
「知りませんでした」
「あの子が小さいときから知ってる」
「小さいときですか…」
「可愛いかったよ、お目目ぱっちりで、おじさまって呼んでくれてたし、いつも『こんにちは』や『ありがとうございます』は完璧なレディってやつだ」
「わかります、今も、かえさんはそうですから、そうか、その頃から片鱗があったんですね」
「君は…そのかえくんの事好きなの?」
「ええ、まあ、はい」
「本人には伝えたの?」
「冗談だと思われてますね」
「彼女も色々とあったからね」
「それこそ父方の実家で大変だったとか」
「あそこはね、女性を労働力に考えるところだからね」
「それは…」
「俺はあそこ本当に嫌いなのね」
「…」
「嫌だって、そうでしょ、行ったことはあるけどもさ、あんなところは無くなってしまったほうがいいよ」
「そこまでですか」
「そこまでだよ。そうだな、これで古き良き伝統がしっかりと守られているとかならば、まだ目をつぶることも考えられるんだけどもね、科学がそれを迷信と証明してしまってね、存在の理由もわからない状態になっちゃったね」
「そこで科学の名前を出すんですか」
「出すよ。科学的に未だに解明されていないものを扱う我々だからこそ、なんていうの、あれと一緒にされたくないじゃない」
「それはわかりますね」
「でしょ?でも人間だからある程度は好き嫌いで選んでるところはあるよ、でもさ、度が越えているってことさ」
「はい」
「というか、君にも良くない相が出てたの知ってた?」
「えっ?」
「だから君を選んだところがある」
「良くない相なのに?」
「良くない相が出ても何?ってわけではないが、そういうのを回避というか、よく言うじゃない、大難を小難にするみたいなやつ、そのままいけば君に大難がガーン!と当たっていたとは思うが、君はそっちにいて正解だと思う」
「それは…俺も正解だと思う」
「でもまさか、かえくんもその良くない相に関係しているとは思わなかったけども」
「意外ですか?」
「そりゃあね、彼女も彼女で不思議なことが起きる人だからな、まっ、この業界はそういう話は多いけどもさ」
「かえさんはとても不思議というか、癒されるんですよね」
「そう…」
「はい、俺のこと、どう思っているのかは知りませんが、最近は食事も一緒に食べたりしているんですよ」
元々は食事を作るだけの契約でしたが、濡島が良かったら一緒に食べませんか?と言って、今は台所に二人で並んで、話ながら調理をしたりもしている。
「それは幸せだね」
「そうなんですよ…いや、彼女が今までいなかったわけではありませんよ、ありませんが、こう…誰かと共にいるのはいいことだなって。というか、ここで聞くのはおかしいのですが、なんでかえさんって、彼氏とか、そのご結婚はされなかったんですか?」
「かえくんって、自分の意見言うじゃない」
「はい、言いますね」
「父方の実家のある地域ではそういう女は生意気って思われるのね」
「えっ?」
「いや、まだあるのよ、そういうところは、でも一応は嫁の候補として、かえくんは出向くことになったんだけどもね」
あの女は生意気だ。儀式に関わるから、こっちも強く出れないってことを知っているからだろう!
「俺からすると、かえさんは別に生意気とかではないと思いますが」
「私もそう思うよ。でも古い考えの、あそこは若くても考え方がみんな古いんだよね、で逆に女も、外面だけを良くして、それこそ結婚してしまえばこっちのものとか思って、長続きしない結婚とか良くしているんだよ」
「うわ~」
「便利なものがあったとしても、それは都合が悪いから取り入れない、禁止するようなところは、寂れていくしかないんだよ。昔からの儀式を祭りとして、客寄せしているのにも関わらず、儀式ができる人員を揃えてない、だからこそ、儀式代行という形を取ろうとしたら、気にくわないからって反対してね、そこでかえくんは帰ってきたってわけ。本当にどうしようもないところなんだよ」
(ああ、これならなんとかなりそうかしら)
かえはようやく、解決のヒントになりそうなものを見つけて、まとめあげた。
それが終わると、ようやく一息というか、休憩をつけた。
鏡を見ると、疲れた顔の自分がいる。
(前髪も伸びてきたし、そろそろ髪をって思っていたけど、こっち来たから、ちょっとうっとうしいかもしれないな)
でも、儀式関係、こういうトラブル、アクシデントの場合は、寝ると食べるを取れるならばまだいい方なのである。
(危ないところだった、本当にゾッとする)
もしかして対処が間に合わなければ、いや、かえのところに話が来た時点で、何かが起きていてもおかしくはなかった。
(良かった、うん、最悪はない)
最悪はないが、まだ悪いことは起きがちな不安定で脆い状態である。
大気が安定しなくなるとか、かえが知ってるところの話では、雨雲が引っ掛かってしまったという土地も知っている。
雨雲が引っ掛かるはどういうことかというと、文字通り、そこはやけに雨が多く、雷も落ちやすい、昔からではなく、急になので、昔からの住宅では対処しにくいし、雷なので家電も壊れることとなる。
一度かえが所用で出向いたときは、いきなり暗くなってきた、雷も近いみたいだなで、ドン!と落ちて、道路の信号が全部消えたということが起きた。
そんなことはもちろん初めてだったので、その後どうなるのか、緊張したという。
最悪だけを回避する方法が見つかったので、かえは仮眠をし、身支度を整えてから、簡単な儀礼を行うことになる。
誓いの言葉は述べられ、こちらは粗末にするつもりなどは決してなく、今までに感謝を、そしてこれからの話に触れ、新たにまた儀式するということで終わるのであった。
無事に最後まで伝えられることで、かえは解放されるが。
(終わった)
これが気にくわなかったりすると、意見を全部言えないまま、言い出している人間が倒れるようなことはある。人の意見を聞いてもらえるだけ、優しいとも言えた。
ここからさらなる交渉にはなるが、それは住んでいる人間などが行うので、かえの出番ではない。
(美味しいご飯食べたい、ゆっくり寝たい、広いお風呂で足を伸ばしたい)
などの欲求をウマの前のニンジンのようにぶら下げて、かえは自宅に戻る。
もう何もできないのでそのまま布団に大分した。
うとうとの中で美味しい匂いに気づく。
(これは赤魚の煮付け、しかもかなり料理上手のレシピ!)
味付けの秘密はなんですか?って聞きたくなるやつであった。
(料理上手な人は羨ましいな)
かえも結構料理はできる方だと思うのだが…
(やっぱり上手な人には負けちゃうのよね)
ちょっとコンプレックスがあるようだ。
そこにメッセージが届く。
「かえさんへ、ご無事でしょうか?帰ったら連絡をくだされば幸いです」
濡島からであった。
つい、そんなメッセージを見て、微笑んでしまったが、今の自分はもう本当に酷い顔なのだ。
「もっと美人さんだったら良かったのにな」
そういいながら、メッセージを返して、スマホを置いた。そのまま、安心したのかうとうとし始めた。
赤魚は居酒屋の店長さんが、濡島さんは料理するの?と聞かれて、どのぐらいできるかまで話、そうしたらいい魚来たからと赤魚を渡された。
確かに大きく、身も良さそうなので、久しぶりに一人で台所に立つが、作れることは作れるが、やっぱりいつも作っている人の手際ではない。
そして味見。
(美味しくは出来たと思う)
鍋の中には、一人で食べるには大きすぎる赤魚。
それを見ながら、一人は寂しい…ホロリとしていた。
濡島が今住む家というのは、かえの家のそばというか、田舎の広大さはあれども、一応は隣となる。
本当は、心配で訪ねていきたい、訪ねたいが、なんか行ったら、なんで来たんですか?って言われてしまうかもしれない。
それがブレーキとなっていけないのである。
かえさんは、そんなことを言わない。
言わない。
言わないと思う。
このネガティブの三段活用というか、一度浮かぶと、悪い方に考える。
この癖は森羅万象を相手にする場合は危機管理に繋がるが、人同士ではあまり良くない方に向かう。
メロディが鳴る。
このメロディは!
そう濡島はかえからの着信は専用の音に変えている。
しかも、この曲って…二人で花火を見に行ったとかいう内容の曲として、有名な奴ですよね。
急いで濡島はメッセージを見て、そこからう~んと返信を考える。
返信の返信が欲しいからだ。
未読も既読スルーも嫌だ。
だから言葉であの人の心を打ちたい。
「美味しい赤魚の煮付けが出来たと思うのですが、味を見てもらえませんか?」
赤魚の煮付け、その写真と共に返信した。
「濡島さんは一人でも大丈夫なのでは?」
赤魚の煮付けを食べた後に、かえからの感想はこんな言葉だった。
「一人は寂しいですから」
「でも…このぐらいできるんだったら、困りませんよ」
「俺は困るんですよ」
「濡島さんは寂しがり屋さんなのね」
「そうですよ、知りませんでしたか?」
かえは帰ってきて休息をとってすぐだったため、いつもとちょっと雰囲気が違ってると思ってた。
「かえさん…その…」
「ああ、やっぱり濡島さんにはわかりましたか。今、儀式を手伝ったせいで、私から色々なものが減ってまして」
「それは戻りますよね」
「戻る分でお願いしましたよ、それでも体がしばらくダルいかな」
彼女の五分の一が侵食されているという感じ。
「これでしばらくは儀式はできませんし、ゆっくりはできるんですがね」
左肩に手でも置かれたのだろうか、そこから五分の一奪われたという感じである。
スッ
濡島もその場所に触れた。
「こういうときは、同じ人がそばにいると、早く戻るんですが」
「そうですね」
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