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転職のタイミングが存在しないぞ
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「そりゃあ、すごく、すごくね、嬉しかったんだよ、だってさ、俺の言葉を覚えていて、大事に育ててくれたってことだからね。そういう人は今まで一人もいなかった、彼女だけは、秋澄(あきすみ)だけはそこを追いかけてくれたんだ。だからとても嬉しくてね」
シャドウスワローの手入れをしながら、今日も今日で彼女への愛を語るのである。
普段の彼女も好きだが、気を許してくれる、油断しているという状態の秋澄、伽羅磁(きゃらじ)のツボを抑えた秋澄、ツボ澄状態になると、さらに饒舌になる。
「いろんな人にね、俺は教えたりすることもあるし、求められたりする、これはどう言うことなんですかって、でもほとんどの人は、教えたらそこで終わるんだけどもね。秋澄だけはね、本当に違うんだ」
あのお兄さんはなんであんなことをいったのだろうか?
「秋澄は回復の魔法を使うんだけども、医学なんかでよく使われているQOL、生活の質を上げるという概念は知らなかったみたいなんだ、あの時は俺も、何気なくいったんだけどもね。まさかそっちまで勉強してくれるとは思わなかったし、やっぱり自力でそこまで来てくれるってなると、特別なものを感じちゃうよね。俺もさらに頑張らなくちゃ」
伽羅磁は秋澄がちょっとでも関わってくると、過労でも疲れが吹き飛んじゃうタイプです。
「というわけで、一般の人たちには公開されていない、地域住民の浴場というのがありまして、そのうちの一つを濡島(ぬれしま)さんに一度利用してもらったらどうかと言われまして」
この地を新しく仕切る森羅万象の御方からそんな話が出ました。
「えっ?よろしいんですか?」
「そこは区画的に関係者しか使ってませんでしたが、関係者も数は少ないですからね」
しかも建物は古いのである。
「ただお湯はいいんですよ」
「それなら行ってみます」
「ではお風呂セットの用意しませんと」
そういって「かえ」はシャンプーやトリートメント、石鹸などを用意してくれ。そこに濡島は自分で使うカミソリなどを足して、地域の浴場へ案内してもらった。
「こちらなんですよ」
温泉の匂いはもうしている。
「今はお客さんは誰もいないそうなんで、ゆっくりと浸かってきてください」
浴場を管理している人がそうおっしゃられたこともあり、濡島は浴室へ、天井も高いし、ちょっとフライングで浴室を除くと、かけ長し源泉のお湯が床に波を立ててる。
(これはいいな)
はい、こんにちは、と浴室に。全身を洗ってから、湯船に静かに足を踏み入れると…ああ、なんという素晴らしいお湯か、しかも手足を伸ばせるなんて最高である。
(ただ気を付けないと、ずっとお湯の中に居ちゃいそう)
そして起こるのは、小学生時代プールの授業終わりに体験した、いきなりの睡魔がやってくることだろう。
本当はじっくりと入りたいが、そこは我慢して、お湯から上がった。
しかしだ、さすがは温泉である。
休憩室に戻っていったところ、なんだか体がだるくなって眠くなっていく。
座布団を敷いて、枕用に半分に折ってから、ごろんと寝転ぶことにする。
あ~なんだか、転職をしようと決めてから、色々とありすぎたな。こんなに生活が変わるのならば、もっと早くに転職していれば…と遡るのだが、遡っても、あれ?転職のタイミングが存在しないぞ!となるのである。
いやいや、そんなバカな、前職のあの辛さから逃れることは俺はできないのか、それは辛すぎるじゃないか。そんなの嫌だし。
もしも良ければ、かえさんともっと早くに会いたかったなって。
かえは、こちらで生まれ育ったが、途中で父方の本家の方に出向いて、家業にまつわる仕事というか、従事してたという。
(向こうでは大変だったっていってたから)
そっちに行く前に俺が颯爽と現れて!いや、待て、そうなると、かえさんは俺のこと知らないから、きっと不審人物だと思ってくる、それは嫌だな。かえさんには、かえさんにだけはそういう目で見られたくはないのにな。
かえのことを考えると、不思議と落ち着いてきた、穏やかな気持ちになれるのだ。
「濡島さんはもう先に上がられていたのね」
かえさんの声がする。
ただ睡魔に負けつつある俺は、ちょっと起き上がれないと思う。
「もうそのまま寝たら、風邪引きますからね」
そういって、かえは寝具、薄手の掛け布団を持ってきてくれるのだが、その時に…
「かえさんもお風呂に入ってきたんですか」
飛び起きた。
「えっ?はい、他にお客さんがいないなら、私も入ろうかと」
お風呂屋上がりのかえに気づいて飛び起きたのである。
肌は赤みをさしている、化粧も普段から薄いこともあるが、今のかえはすっぴんである。
「お化粧しなくても可愛いんじゃありませんか?」
「ん~でも、しないと日焼けしちゃいますからね、後で赤くなると痛くなるし」
「それは確かにそうですね、すいません、軽々しくて」
「でも化粧しなくても可愛いって言われるのは、なんか嬉しいですね」
この時、濡島は初めて上手く誉めれたような気がした。
シャドウスワローの手入れをしながら、今日も今日で彼女への愛を語るのである。
普段の彼女も好きだが、気を許してくれる、油断しているという状態の秋澄、伽羅磁(きゃらじ)のツボを抑えた秋澄、ツボ澄状態になると、さらに饒舌になる。
「いろんな人にね、俺は教えたりすることもあるし、求められたりする、これはどう言うことなんですかって、でもほとんどの人は、教えたらそこで終わるんだけどもね。秋澄だけはね、本当に違うんだ」
あのお兄さんはなんであんなことをいったのだろうか?
「秋澄は回復の魔法を使うんだけども、医学なんかでよく使われているQOL、生活の質を上げるという概念は知らなかったみたいなんだ、あの時は俺も、何気なくいったんだけどもね。まさかそっちまで勉強してくれるとは思わなかったし、やっぱり自力でそこまで来てくれるってなると、特別なものを感じちゃうよね。俺もさらに頑張らなくちゃ」
伽羅磁は秋澄がちょっとでも関わってくると、過労でも疲れが吹き飛んじゃうタイプです。
「というわけで、一般の人たちには公開されていない、地域住民の浴場というのがありまして、そのうちの一つを濡島(ぬれしま)さんに一度利用してもらったらどうかと言われまして」
この地を新しく仕切る森羅万象の御方からそんな話が出ました。
「えっ?よろしいんですか?」
「そこは区画的に関係者しか使ってませんでしたが、関係者も数は少ないですからね」
しかも建物は古いのである。
「ただお湯はいいんですよ」
「それなら行ってみます」
「ではお風呂セットの用意しませんと」
そういって「かえ」はシャンプーやトリートメント、石鹸などを用意してくれ。そこに濡島は自分で使うカミソリなどを足して、地域の浴場へ案内してもらった。
「こちらなんですよ」
温泉の匂いはもうしている。
「今はお客さんは誰もいないそうなんで、ゆっくりと浸かってきてください」
浴場を管理している人がそうおっしゃられたこともあり、濡島は浴室へ、天井も高いし、ちょっとフライングで浴室を除くと、かけ長し源泉のお湯が床に波を立ててる。
(これはいいな)
はい、こんにちは、と浴室に。全身を洗ってから、湯船に静かに足を踏み入れると…ああ、なんという素晴らしいお湯か、しかも手足を伸ばせるなんて最高である。
(ただ気を付けないと、ずっとお湯の中に居ちゃいそう)
そして起こるのは、小学生時代プールの授業終わりに体験した、いきなりの睡魔がやってくることだろう。
本当はじっくりと入りたいが、そこは我慢して、お湯から上がった。
しかしだ、さすがは温泉である。
休憩室に戻っていったところ、なんだか体がだるくなって眠くなっていく。
座布団を敷いて、枕用に半分に折ってから、ごろんと寝転ぶことにする。
あ~なんだか、転職をしようと決めてから、色々とありすぎたな。こんなに生活が変わるのならば、もっと早くに転職していれば…と遡るのだが、遡っても、あれ?転職のタイミングが存在しないぞ!となるのである。
いやいや、そんなバカな、前職のあの辛さから逃れることは俺はできないのか、それは辛すぎるじゃないか。そんなの嫌だし。
もしも良ければ、かえさんともっと早くに会いたかったなって。
かえは、こちらで生まれ育ったが、途中で父方の本家の方に出向いて、家業にまつわる仕事というか、従事してたという。
(向こうでは大変だったっていってたから)
そっちに行く前に俺が颯爽と現れて!いや、待て、そうなると、かえさんは俺のこと知らないから、きっと不審人物だと思ってくる、それは嫌だな。かえさんには、かえさんにだけはそういう目で見られたくはないのにな。
かえのことを考えると、不思議と落ち着いてきた、穏やかな気持ちになれるのだ。
「濡島さんはもう先に上がられていたのね」
かえさんの声がする。
ただ睡魔に負けつつある俺は、ちょっと起き上がれないと思う。
「もうそのまま寝たら、風邪引きますからね」
そういって、かえは寝具、薄手の掛け布団を持ってきてくれるのだが、その時に…
「かえさんもお風呂に入ってきたんですか」
飛び起きた。
「えっ?はい、他にお客さんがいないなら、私も入ろうかと」
お風呂屋上がりのかえに気づいて飛び起きたのである。
肌は赤みをさしている、化粧も普段から薄いこともあるが、今のかえはすっぴんである。
「お化粧しなくても可愛いんじゃありませんか?」
「ん~でも、しないと日焼けしちゃいますからね、後で赤くなると痛くなるし」
「それは確かにそうですね、すいません、軽々しくて」
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