浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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あなたは悪魔なんですか?

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「君に少し話があるんだがね」
この話はそうやって始まった。

(何の話だろう?)
でも断りにくい相手である。
関係性はお世話になっている取引先の、ちょっと偉い人だ。

「君、彼女とかいる?」
「いませんが」
「ああ、そうか…実は良かったら、会ってもらえないかな~っていう子がね、いることにはいるんだが…」
(そういう奴か)
写真を見せられた、陽気そうな娘さんである。
「性格は写真そのままだよ」
「はぁ」
「会ってみるだけ会ってみないだろうか」
「僕にですか?」
「うん」
「はぁ」
「気乗りしない?ああ、それならばしょうがない、ごめんね、わざわざ時間を取ってもらった」
「あっ、あの!」
「ん、なんだい」
「友達からでいいですか!」
「それは彼女の方に伝えておくよ」
ただ向こうがその気がないのならばごめんということで、その時は話は終わった。


ある日通勤のために駅に向かったら、その前にアラームが来て、電車が止まってることを知った。
駅も大変混雑しているらしい。
(困ったな)
なんて思ってると。
「あの~もし」
「えっ?」
どこかで見たことある女性。
「こんにちは、初めまして、ああ、すいません、対面ではわからないですよね。先日の~」
「あっ、あの写真の」
「はい、そうです。すいません、いきなりお見合いみたいなことをオジがしてしまいまして」
「いえいえ、でもそちらも困ったんじゃありませんか?こんな僕を紹介されたんですから」
「はっ?」
彼女は驚いた後に。
「そんなに自分を否定しないでくださいよ、あなたは十分に男前ではありませんか」
(男前…)
「そんな風に言われたのは生まれてはじめてかもしれないせん」
なんだろう、この子はまとっている空気が違う気がする、取引先のちょっと偉い人もそうだが、お嬢様育ちなのかもしれない。
「それで何の用でしょうか?」
「これから通勤かと思いますが、駅が…」
「はい、いつになるか、会社に連絡は入れはしましたが、さすがに大混雑の中、並ぶのはちょっとと思っていたところです」
「それは…お急ぎになられているのならば挨拶だけにしようかと思ってましたので」
「ああ、そういうことでしたか…実は貴女との話は少し話があるとかで呼ばれて、あまり詳しくしないまま終わったようなものなので」
「オジさまはそういうところがあります」
「それはわかります」
察してくれるとうれしいな。
そんなタイプである。
「なのであなたも事情を知らないのではないかと」
「ええ、そうですね」
「それは申し訳ありません、何かお詫びをしたいのですが」
「お詫びですか…」
「はい、そのぐらいはすべきだと思っておりますよ、何かお好きなものは?お食事でもよろしいですし」
「なんかいきなり言われても思い付かないものですね」
「そうですか」
その時、彼女の目は怖いというか、引き込まれるような色を見せたような気がしていた。

『あなたの人生は少しマイナスが多い、その分転じて+にすることにいたしましょう』

クラクションが後ろで鳴った。
「何しているんだよ、こんなところで」
「あれ?先輩」
「会社行くか?ついでに乗せていくぞ、もちろん帰りもな」
「えっ?あっ?」
振り替えると彼女はいなかった。
「お前、さっきからどうしたんだよ」
「さっきまで彼女と話してて」
「彼女?お前、彼女なんていたの?」
「いや、先日、ほら取引先の」
「えっ?あの人から紹介したいって言われてた、その子といたのか?可愛いの?」
「普通の子かな」
「普通か、でもいいんじゃない?付き合うならば」
「そうなんだけどもさ」
「それともなんかあるわけ、美人と付き合いたい、旨いもの食べたい、金持ちになりたい」
「それは誰だってあるでしょ」
「そうだけどもさ、けども、お前も案外そうなんだな、そういうの持ってないような顔してさ」
「おかしいですかね?」
「いや、安心はするな、だってそういうのがわからないっぽかったし」
「それは言われました、お前は何を考えているのかわからないから、怖いよって」
「だろうな、もっと好きなものは好きだって出せば、そしたら好きなものの方からお前によってくるかもしれないよ」
「そんなものですかね」
「そんなものだよ。で、その子とはどうするんの?」
「もっと話したいかな、よくわからないままだったし、なんかこうミステリアス、不思議ちゃん?なんかその…」
「言葉も少し古いな、若いくせに」
「ほっといてくださいよ」
「はっはっ、おおっと会社様が見えてきた、俺は駐車場行くから、お前はそこの信号のところで降りてくれよな」
その時に会社にいた人は当たり前だが少なかった。
リモートの人は当然だが、ほぼ電車通勤の社員だからだ。
ただそれはこの地域の会社すべてに当てはまることであり。
「人もいないこともあって、今日の仕事は手当てがすごいことになるってよ」
先輩が顔を出した時にそういわれた。
「どういうことです?」
「どういうこともないよ、たまにあるんだよ、知らなかった?だから俺は車でこういうときに来ることにしているんだけどもさ、こんなときでも仕事は止められないから、居合わせたやつにはすんごい額払いますっていう案件が来ちゃうわけ、今日なんかすごいんじゃないか?」
同業他社の分もトラブルなので対応します。対応できる社員の皆様には…
「えっ?そんなにですか?」
「そうよ、でも、今回はいつもよりすごいな、それだけ大変なのか、それとも…ちょっと内訳見てくるから」
そういって先輩がオフィスから抜ける。
がすぐに。
「お前、サインするなら俺が話聞いた後からにしろよ」
「はい!」
そういった後に、どうしますか?と聞き取りに来た人がいて。
「すいません、もうちょっと考えさせてください」
とやんわりと断ると。
「わかりました、では決まりましたら、連絡くださいね」
といっていた。
見ると他の人はサインしているようだ。
まっ、今の条件でもかなり…いいからな。
美味しいものを食べて帰ろうぐらいの気持ちになるんじゃないだろうか。
「お前、サインしたか?」
「してないですよ、先輩が止めたじゃないですか」
「そうなんだけども、お前のことだから大変なんですよ、って言われたら、そこでしそう」
「いつもならしてましたね」
「だろ?やっぱり待って良かったと思うよ、とんでもない話になってきた」
「えっ?」
先輩が廊下に顔を出せポーズ。すると取引先のちょっとえらい人と、僕に紹介してきた女性が一緒に歩いている。
女性の方は書類を持っていた。
神妙な顔つきをして、上司にあいさつをし、会議室に消えていく。
「これはトラブル発生したな」
「やっぱりですよね」
「だからさっさとサインして、他の担当になるやつもいるんだよ」
「勝手に修羅場に投入されたりはしないんですか?」
「おいおい、そんなことやったらな、信頼がなくなっちゃうじゃないか」
「そうですが、よく聞きません?」
「いつの時代だよ、そこまでブラックだったら、この会社に俺はいたりしないよ、さっさとやめる」
調子のいいところがある先輩がいうのだから、それもそうだなといった感じ。
その時先輩と僕に連絡があった。
会議室に来てほしいという話だった。
「まずはお話だけでも、契約する前には当然ですし、守秘義務も発生します、代わりにその守秘義務順守のお支払もさせてもらいますので」
うわい、とんでもない話になっちゃったぞ。
先輩も見る。
先輩も同じような顔してた。
「またずいぶんと景気のいい話ですね」
「お陰さまで、景気不景気の波に左右されずに業績を積み上げております」
そんなに好調だとは思わなかった。
「こちらは資料でございます」
うわ~すごい、何これ、働いている人、すごいいい条件なんですが。
「うちはみんなによって支えられていますので、これぐらいは当たり前だと思われます」
その愛を僕にも分けてください。
ここに勤めている人、色んなことが勤めたときからできるんだろうな。
二週間おやすみ取れたら、世界中どこだって旅行できるし。
自分が取れたら何をする、まず一日目はよく寝る、起きたら美味しいを食べに行く、それから…いけない、幸せのボキャブラリーが貧相。思い浮かばない自分が庶民だと思いました。
「世の中景気がいいところはあるとは聞いてましたが、あるもんなんだな」
「最初からうちもそうだったわけではありませんよ、苦労をしたので、もうしない、そう決めたらこうなった」
「言葉でいうのはなんですけども、それを現実にするのは大変難しいと思うんですが」
「そうですね」
先輩の話も取引先のちょっとえらい人ではなく、付き添う彼女が答え、またちょっとえらい人もそれを否定しないのに、違和感を覚えた。
「ひょっとして、こちらのお嬢さんは想像以上に重要な人物なんですか?」
「まあ、それも守秘義務に含まれます」
「そうでしたか、いらぬ詮索をしました、申し訳ありません」
すごい、先輩がさっさと謝罪した。ということは当たりだろうな、あの先輩だもんな。鼻が利いたのだろう、僕には全然感じないのだけども。
「世間話になると、私がお節介からこの子の良き相手を探してまして、それでよく知るこちらの彼に、ちょっと話をもっていったんですよ」
「あっ、やっぱりそうだったのか」
なんとなく先輩は察していたようだが、やっぱり僕にはどうなのかがわからない。
「それでお仕事の話なのですが」
「はい、お伺いします」
話としてはよくある話だったとので、人が足りないのかな、なのだが。
「それでそちらの会社にも掛け合いまして、給与にもこちらからの払いを反映させてもらうことは了承させていただきました」
「えっ?それだと、給与+歩合みたいな感じになるんですか」
「額からいうとボーナスみたいなもんですね」
「ひゃっほー!」
先輩は飛び上がった。
何この体力。
「今回のトラブル後も、担当者になってくださるのであれば、そのまま待遇もより良くして らうつもりであって」
「えっ?そんなことして大丈夫なんですか?」
「もちろん、お金は湯水のようには使いませんよ」
「しっかりしてらっしゃる」
「本当に助かってますよ。うちはそういうしっかりしているのが若い連中ばかりなので、逆に私は叱られてます」
「あら?オジ様を叱ったことは一度もありませんわよ」
「君じゃなくてもさ、これでも注意は受けているんだよ」
「でもそれですぐに直してくださるから、みんながついていくんじゃないですかね。ダメならばやはり離れてしまいますよ」
「見放されたら私はおしまいだからね、こうして私ができること、関係者の元に赴き、頭を下げさせてもらっているというわけです。…こちらからの話は以上になります、もしもよろしければ、当方と契約していただけると大変ありがたいです」
「こちらから出せる条件は以上となりますので、一読していただき、後から…」
「あっ、僕は契約しますよ、サインはここでいいですか」
空気が凍りました。
「あのお話聞いておられましたか?一読していただいて」
「ええ、聞いた上で、ここでサインしていいかなって思いました、でサインはどこに」
「あのこの方はいつもこうなんですか?」
「いや、こんなところ始めてみました」
先輩は驚いている。
「そんなにおかしいことでしょうか?」
「契約書だぞ」
「はい、契約書ですね」
「よく見てサインしろって習っただろう?」
「習いましたね」
「なんでここで決めようとするんだよ」
それこそ一読したり、他の書類を読める人に確認してもらうものである。
「いや、いいかなって」
「この人、そのうち悪魔とかの契約も、よく考えもせずにしそうですね」
「ほら、先方もそんなことを言ってるし」
「あなたは悪魔なんですか?」
「面と向かってそういわれたのははじめてですよ」
「お前、バカ、失礼だぞ。すいません、返事は後でいたしますから、お前こっちに来い」
先輩に無理やり会議室から出された。


残ったのは取引先のちょっとえらい人と付き添いの彼女。
「悪魔なの?ってこの段階でバレたことって今まであったの?」
「いえ、さっきも言いました通りありませんね」
「面白い青年だなって思っていたが、予想以上に面白かったよ」
「そうですね、私もビックリですよ」
「君も気に入ってるんじゃないの?」
「少しばかり、ただまあ…」
「なんだい?」
「契約はあなたのように長くはできない人でしょうね」
「そうか、それは残念だ」
「面白い人ではありますが、ね」
「それはちょっと嫉妬する」
「なんでです?」
「君が女性として彼を気に入ってるからだよ。例えるならば父親の心境だ」
「その割には彼を私に勧めましてね」
「そうだね、自分でも不思議だし、彼ならばそこまで君で身を滅ぼさないんじゃないかなとは思ったんだが」
「理想としては私の能力制限がかからないが契約者がいいんですよ、あなたのような、ただまあ、そういませんし」
「そんなに難しいものかと思ったが、今までの破滅を見てくると、思ったよりも難しいものだと感じたね」
「大丈夫だろうと思った人間が、次々と欲望を破裂させていく姿は、面白くもなんともございません」
「君の心は天使のようだ、なるほど、そこからそうあいつは呼んだのかもしれないな」
「人は好き勝手に私たちを呼びますからね」
「そんなん歴史を見ればわかるでしょ」
「そこまで長くは生きてませんよ」
「そうだった、君は若かった。老成しているから、見た目とあってないだけだもんね」
「あの二人は契約しますかね?」
「先輩君はする、それは間違いない」
「なんでですか?」
「現代じゃ叶えられないものをもってるから」
「あれ?逆に、彼は…」
「ちょっとわからないな、さっきは勢いだったし、お説教されたら、こっちの世界に手を出さない気もするから」
「それはなんかわかるかもしれない」
「でしょ?それならその方がいいんじゃないの?」
「ちょっと増額した手当で満足できるなら、それはとてもいい人生ではありますからね」



「お前、さっきはどうしちゃったんだよ」
「どうって」
「なんであそこでサインしようとした」
「どうしてかな、サインした方がいい気になった」
「おいおい、どうにかしちまったか?まずはなんか食えよ、そっからゆっくり考えようぜ」
そうは言ってたが、サインをするということは僕の中で決まっていた。
心が決まりましたら、個別の返答をする。
「ではお心をお聞かせください」
「先程と変わらず、僕はこのお話を受けようと思います」
「それはちゃんと考えられましたよね、ああ申し訳ない、先程、あそこまで即答されましたから、気になった、お節介というやつです」
「今までの人生があまり良くないので、この話を受ければ何かが変わりそうな気がしたからなんですよね」
「そんなにあなたは自分の人生を、今までを否定するのですか?」
「否定というより、もっと充実させたいじゃありませんか?だからそのための一歩にしたいんです」
「その考えは身を滅ぼしますよ」
「そうですかね」
「そうです、そういうものです」
「ではどうすればいいですか?」
「どうすればですか?どうなりたいか?にもよりますが」
「僕は幸せになりたいんです、話が合う人とこれからについて語れたらいいなって思うことが、夢と言いますか」
「友達はおられないんですか?」
「いることはいるんですが、そこまでの話は、さすがに一笑されてしまうでしょ、いつまで学生気分なんだって」
「ああ、なるほど」
ほぼ僕の面接官は付き添いをする彼女であった。
「あなたは僕のそんなところを理解してくれそうだ」
「まあ、うちの会社にはそういう人たちはいますからね」
過る奴等のラインナップ。
「そのうちの一人になりたいというか、憧れてしまったというか」
「そういうのに憧れたらダメですよ」
「なんでですか、羨ましいじゃないですか」
「羨ましいで目指しちゃうと、ろくなことになりませんよ」
「夢がないな」
「そこは夢を持つものではないですよ、もっと現実を見ましょうよ」
「それは…ちょっと優しさがない」
「それも優しさですよ」
「まあまあ、で、契約はするとしても、ある程度は成果は、成果と言っても今までの君でも十分だとは思っているんだけどもさ、展望はあるの?」
「展望ですか?」
「何がしたいとかですね」
「世界中を旅行したいとか、美味しいものを食べたいとか、こう…人生を楽しみたいんですよね、御社の担当になることでそれが可能になると思いました」
「意外と俗物というか、う~ん」
「悩んじゃう感じ?」
「ええ、もっと夢が大きいのかと思ってましたからね」
「これはあれだよ、抱えている願いが達成したら、本当の欲が目に見えてくるやつ」
「あ~男性というのは難しいですね」
「そういわれると、同じ男として結構困るんだけどもね」
「結構ですか」
「ロマンは大事だよね」
「これがロマン」
「そっ、ロマンってやつよ」
「早々に結婚して家族を持つような幸せコースでいいんじゃないですか?」
「良縁は君の管轄ではないでしょ」
「それぐらいならば頼みに行きますよ、この人は危ういので」
「君は支えてはあげないの?」
「この人の好みでは私はないようですよ」
「あっ、そうなんだ、そこはうっかりしてたな、てっきり」
「上手く行くと思ってました?」
「うん、そうか、好みのタイプっていう、考えがすっかり抜けてたよ」
「あなたは父親目線ですからね、そういうのがわからないのはしょうがないですよ」
「ごめんね、君の好みとか関係なしに話を進めてしまってた」
「えっ?」
「この子の相手をあのときは、今もだけども探してるんだよね、君に話しかけたのは良さそうだったと思ったからであって、君が好きな女性のタイプとはたぶん違うかっていうのに今は気づいたわけ。うん、担当者のほうの契約はするが、あっちの話はなかったことにして」
ごめんね。

そんな感じで、彼女を紹介するという話だけは無くなった。
新しい担当になったことになり、確かにお給料や待遇はアップしたのだけども…
「おっ、今日も真面目だな」
「先輩、おはようございます」
先輩も一緒の担当にこうしてなった。
「なんだよ、暗い顔して」
「してますかね」
「してる、してる、葬式かよ、それにはまだ早いんじゃないか」
「ですね」
愛想笑いをする。
「そういえばお前さん、最近あの子と会ってるの?」
「あの子って」
「ほら、契約の時に」
「ああ、会えてません」
「えっ?」
「あの時先輩とお話にきたのが最後で」
「お前、あの子のことはどう思ってるの?」
「どうですか?」
「どう…面白い子ですよね」
「そんなに言うなら誘ってみたら?」
「えっ?誘っても断られるんじゃないですか?」
「そうか?」
「そうかって、なんですか、先輩はからかってるんですか?」
「からかってるつもりはないけども、向こうはそこまで悪く思ってない感じだったから」
「えっ?」
「何?鈍感なの?」
「いや、あれはあまり相手に、僕なんかより」
「おいおい、そんなこというと、何も始まらないぜ」
「それはわかりますがね…」
「まあ、相手はお偉いさん関係だから慎重になるのはわかるがな、逆玉みたいな」
「そんなのは狙ってませんよ、なんかそういうのわかる人じゃないですかね」
「それはわかる、あれはそんな環境にさらされてきたから、すぐにわかりそうだ、だからじゃないの?そういうのが全く無さそうなお前に話を持ってきたの?」
「僕も欲はありますよ」
「え~そうなの?」
「そうですよ、全くそういうのがないわけではないです」
「へぇ~意外、じゃあ、あの子のことはどう思ってるの?」
「話してみないとなんとも、ただ話していると話は不思議と長く続きそうな感じは」
「聞き上手っぽいものな」
「そうそれです。なんか僕なんかの話をきちんと聞いてくれそうな気がして」
「それは前からいってるが、お前が人見知りで、いつもちゃんと自分のことを話さないから、何を考えているのかわからない人って扱いなんだよ」
「でも人に自分の意見を話すのは難しくないですか?」
「難しいよ、でもやるんだよ。そうじゃなきゃさ、目標なんか達成はできない」
「先輩は強いな」
「おいおい、これでも俺は社会人だぜ!」
「そうなんですが、そういうノリで生きてないからな」
「平凡が好きなら、それでいいんじゃないか?そうやって生きていけるのならば幸せだろう」
「そこじゃ僕は満足できそうにない」
「やっぱりお前はうちの会社の人間だよな、こんなやつに勤まるのかなって思ってた、すぐにやめるのかなって最初感じてたやつが残ったし」
「そんなこと思ってないたんですか?」
「思ってたよ、努力は知ってるが、成果が出るまではやったことはないんじゃないかなって、お前は人生で大勝ちしたことないだろう?」
「先輩はあるんですか?」
「あれは早いうちに経験しておくべきだね」
「いいな~」
「じゃ、俺、予定あるから」
「あっ、はい」
「それじゃあ、ついでにチャンスだと思ってさ、話してみれば?」
ちょうど件の彼女が、一息いれるようだったので。
「上手くやれよ」
先輩はその一言を残したのだが、僕は全然席から立ち上がることはできなかった。
ペコ
だから彼女がこちらを見て一礼してくれた。
その時に先輩が。
「あいつはあなたと話したいみたいですよ」
といっていって去っていった。
そのためかこっちに来てくれる。
「こちらに座っても?」
「はい、よろしいです、いえ、是非ともお願いします」
「そんなに堅苦しくなくてもいいですよ」
「いえいえ、そこは」

『遠慮しなくても見えてますから』

「あっ、はい。そうですね、あなたには何でもお見通しのようだ」
「見るつもりはありませんでしたが、そこは申し訳なく思います」
「でも見られて光栄かなっても」
「あなたは少し変わってる」
「そうでしょうか」
「そうですよ」
「そうなのか…」
「ご自分で自覚はないとか」
「ありますけど…やっぱりそういうのが優しさですかね」
「あ…あなたは人生、損をするタイプだと思いますよ」
「そうですかね」
「羽振りが良くなったことは守秘義務を盾にしてかわし続けた方がいいですよ」
「それは感謝してます、ただ先輩は車買っちゃいましたから、必然に」
「あの方はね…それでも上手くやるんじゃないですかね」
「そうだと思います、さらに自分の待遇について交渉もあったとか」
「逆にあなたはしなかったからな」
「あれってしても良かったんですか?」
「特には…まあ、こちらの用意したものの範囲でしたら通るかなぐらいな」
「御社はすごいですね」
「でも関係者を幸せにするとはいいませんが、そういうのが目的ですから、どうしてもお金や待遇は他よりは良くなりますよ」
先輩はその限度に挑戦したようなものだ。
「その限度内フルを求めても、あなた方は痛くも痒くも、ああすいません」
「まっ、そこはね。ただそれで安く決まったからといっても何もしないもうちはないですから」
「えっ?」
「まっ、少ししゃべりすぎたかな、では戻りますよ」
「あの…」
「なんです?」
「またお話しませんか?」
「あら?私なんかの話じゃ堅苦しいのでは?」
「そんなことはありませんし、それはあなたもよく知ってるのでは?」
「その返しはちょっとズルい」
「僕がどんな人物か、言葉を覗いたのだからこれぐらいは」
「あれは調査だからですよ、今は他でもやってます」
「それなら僕はあなたの目から見て、どのように写りましたか?」
「偏屈な人かな」
「偏屈ですか」
「うん、もう少しわがまま言える相手を見つけなさいよ」
「そんなのいない」
「気持ちを出すのがかなり下手」
「それは自覚あります」
「だから誤解されて真面目に見える」
「そういうものなんですかね」
「ふっふっ」
「なんですか?その笑みは」
「いえいえ、少しばかり面白くて」
「面白いところは何かありましたか?」
「私のツボみたいなもんですよ」
「あなたは色んな人間を見てきたと思いますが」
「ええ、まあ、お金関係ならば人はよく見ることになるでしょ」
「まあ、ここまで待遇がよければ、その待遇にしがみついたり、強気に出たりはありそうだ」
「それが許されればね、楽しくてしょうがないのでしょうね」
怖くて美しい顔をした。
「締めるところは締めるものですよ。…あら?どうしました?」
「いえ、はい、あ…」
「もっとシャキッとしてください」
「すいません、見とれてました」
「どこに見とれるポイントが?」
「全部です!」
「やはりあなたは変わってる」
「そちらが本性なのですか?」
「私の本性などあなたに何ら関係はない」
「ありますよ、長く付き合いたいと思ってるから、人間だってそうでしょ、これはいいけど、こっちはダメ、そういうことって、それがわからないと、長いこと続かないものですよ」
「へぇ~。でもダメ」
「えっ?」
「あなたは幸せが似合ってる、ドキドキハラハラな人生なんて願わない方がいい」
「そんな~」
「お話はこれぐらいでよろしいですか?」
「できればもうちょっとしたい」
「ふ~ん」
「次のお休みはいつですか?俺はもちろん空いているんですけど」
「なんです?急に」
「あなたと話をしたいんです」
「はあ」
「あなたと、話をするのが楽しくて、自分が見えてくるというか、なんというか、こんなのはじめてって言いますかね」
「困った人ですね」
「そうなんです、困った人なんですよ」
「私と話したい人なんてそういませんよ」
「え~なんでもったいない」
「しかし、スゴいわ」
「なんです?」
「私と会話を続けるとそれだけで結構ストレスになるのに」
「知的な会話なんですかね、前回お話したあとに、普段は食べない甘いものを食べたくなりました」
「えっ?それぐらいで済んだの?」
「あっ、甘いものって好きですか?一緒に食べにいきませんか?」
「え?えっ?」
何故か彼女の方が困惑していた。

「つまりなんだね、彼は破滅の危険性はあるけども、他の人よりはローリスクで君と付き合える人間ってことか」
「ああいう人はいるんですね」
「おもしろいじゃないか」
「でも破滅の危険性はあるんですよ、それならば推奨はできませんよ」
「ローリスクってどのぐらいローリスクなの?」
「個人差はあるんですが、契約してない場合ってとても疲れるって事があります、それこそくたくたというか、それが続くと倒れるとか体にダメージがあるもんですが、またそういうものだと私も教えられました。が、あの方に関しては、なんか甘いものが食べたいなぐらいで済みますから、契約はしなくても、話し相手としては最高というか」
「う~ん」
「どうしましたか?」
「羨ましいなって、君を話し相手にできるって、私でさえもそんなに長く話せないし」
「それは申し訳ない」
「体がついていかないんだもん、君が謝ることではないよ」
「しかし、どうしますかね?契約者の候補を探すところが、こんなことになりましたが」
「まずはお友だちからがそのまま言葉通りになったか」
「はい、これはなるかなって感じ」
「君は彼のことをどう思ってるの?」
「魅力的では?」
「あっ、そう感じてるのか?」
「魅力的ではない人間はいるんですか?」
「そのニュアンスは吸血鬼の美味しそうとか、それに近いよ」
「そんなつもりはないですよ、一緒にしないでくださいよ、調査の関係でプライベートを覗いてしまいましたから、どういう人かは見えましたし、でも、本当はそういのを見たくはなかったかな」
「それは何故」
「プライベートな言動は誰かが本来見るものではないでしょ、だからあの人には仕事とはいえ、申し訳ない気分ですよ」
「じゃあ、代わりに君の心を彼に覗かせてみる?」
「何をいってるんですか」
「そこまで罪悪感を持つのならば、それもまたいいんじゃないかってね」

「やぁ、元気」
「お疲れ様です」
「そんなに堅苦しくならないでよ」
「いえいえ、そんなわけには」
「うちの子とは上手くやってる?」
「この間も誘ったんですが、断られてしまいましたから、脈はないようです」
「え~そうなの?」
「そうですよ、彼女は人気ある人なんですね、この間もなんか誘われていたようですが」
「でもそれってさ、彼女自身に興味があって?」
「いや、そうじゃなかったかもしれませんね、御社の人間だからとか、そういう」
「そういう誘いは本当に多いんだよ、まずその話ができる人じゃなかったら、スタートラインにもいないから」
「そういうものですか?まあ、大事なお嬢さんですもんね」
「そうそう、うちの大事なお嬢様なんで、君のように大事にしてくれるぐらいじゃないとね」
「僕は大事にできてますかね」
「自信はないの?」
「世間話も楽しいのは僕だけかなって思っちゃう」
「ああ、それね、でも君も話すのは楽しいみたいだよ、君の話を最近はしてくるし」
「えっ?」
「まっ、頑張ってね」
「ありがとうございます、頑張ります」


「オジ様、何か変なことを焚き付けませんでしたか?」
「さあ、何の事かな」
「焚き付けましたわね」
「何?誘われた?」
「そういうお誘いはいただきますが、なんか最近はちょっとまた違うような」
「へぇ~そうなんだ、珍しいこともあるものだね」
「失敗とかしなきゃいいけども」
心配をする姿は寂しそうでもあった。
「そしたら助けてあげればいい」
「それを宛にされても困るんですが」
「まあ、そこはそれ、その時に君が決めなさい」

「僕はあなたのことが好きなのですが、あなたはどう思われているのでしょうか?」
告白は突然された。
「いきなりですね」
「ずいぶん前から決めていたのですが、やっと決心がついたので」
「そうですか、ありがとうございます」
「…僕のことはどう思ってるのですか?」
「優しい人かしらね」
「それだけですか?」
「なんです?実は偏屈な人だってこういうときいってほしいんですか?」
「ちょっとだけ」
「あなたはやっぱり変ですよ」
「そうですかね、でもあなたとこういう話をずっとしたくなるので、変なのかもしれません」
「私もあなたとの話は面白いとは思ってますよ」
「彼氏とか作らないんですか?」
「作れると思いますか?」
「作ろうと思えばいけるでしょ?」
「欲に身を滅ぼす人を量産するだけですよ」
「なんです?そういう工場なんですか?」
「そんなもんですよ」
「え~それは見る目がない、そんなものよりもあなたの話の方が価値があるのに」
「それはそれで変わっている」
「僕は僕なので、そうは思いませんよ」
「その辺が偏屈というか、頑固というか、あまり人には見せない部分ですよね」
「そうですね、こういうのを見せると、上手くは行かないんだろうなとは思います」
「世渡り上手」
「それに比べたらあなたは下手なのでしょうか、でも好感はすごくもてる、足並みを揃えて歩いてくれる、寄り添うような、あなたに寄り添われたいですね」
「私はそんなに優しくはありませんので」
「優しくない人が、トラブルがあったときに、心配して駆けつけてくれるとかはしないと思いますよ」
「あれは社交辞令です」
「社交辞令にしては世話を焼いてくれるというか、なんというか、母性があるというかですね」
「私はあなたのお母さんではありませんよ」
「そうなんですけどもね、あの母性はですね、甘えたくなるんですよね。そりゃあもう自然と、疲れていると特に、あなたに甘えたくなる」
「それは仕事しすぎですよ」
「楽しくてしょうがないのですが」
「ちょっとセーブしましょうね」
「ええ…」
「なんか楽しいことしないんですか?」
「あなたといることが楽しい、だからこうして仕事しちゃう」
「もっと違う楽しいこと見つけましょうよ」
「…」
考えてはくれているようだ。
「ほら、よく思い出しましょ、そしたら忘れている何かにも気づくし、ただ今のは気の迷いなのだから」
「確かにあなたは僕が今まで好きになって来た人とは違うタイプなんですよね。あなたの価値は言葉にあるというか、話していると、色んなものが僕の心に生まれるんですよ、それが楽しくて、嬉しくて、時間があっという間に過ぎるんです、幸せというのはこういうのなのかなってわかるぐらいにね。だからこそ、拒絶が辛い」
あまり一気にしゃべるタイプではないから、少し呼吸を直した後に続ける。
「確かに始まりは紹介ですが、その紹介で知り合いになれたあなたはとても素敵だと思う」
「まあ、お上手ね」
「僕はこういう言葉は下手くそだ、どこかで聞いたことある、いい言葉をあなたに当てはめるぐらいのことをしてしまうぐらいにセンスはたぶんない」
「あなたが真剣に考えたのならば、それは素敵ではないですかね」
「それではあなたの心に届かないじゃないですか、僕はね、あなたの心に僕の気持ちを届けたいんですよ、そしたらわかってくれるかなって、あなたはその前に拒絶してるところがあるから」
「そうですね、あまり自分の心に何かを入れないようにはしてます」
「僕のこれからの楽しいと幸せを分かち合いません?」
「ご自分が何をいってるかわかってますか?」
「あっ。すいません、すいません、本当にすいません」
言葉としては告白よりもプロボーズみたいなものだったから、それに気づいたらしい。
「そういう言葉を遊び半分では使わないというのはわかりますがね、さすがにいきなり言われるとは思わなかった」
「もうね、我慢できなかったんですよね。日に日に思いが募るといいますかね、なんでしょうね、自分の心の中には収まらなくなっていった」
「そこは抑えましょうよ」
「そうすると嫉妬が生まれちゃうんで」
「人間の心難しい」
「それは僕にも難しい」
「あなたの心は調査の関係で少し見てしまいました」
「どうでしたか?」
「どう?って」
その反応も予想外である。
「あなたにとって僕はどんな人間に見えましたか?」
「えっ?普通」
「普通か~残念だな、なんかこう、もっと…」
「なんて言われたいんですか」
「そりゃあもう、ドキドキするような言葉をあなたには言われたいかな」
「最初にあなたには男前と伝えてますが?」
「あれって、本気だったんですか?」
「嘘だと思われたんですか?」
「そんなことをいう人は誰もいないから、お世辞かなみたいな」
「ああ、そうだったんですね」
「すいません、すいません、そんな顔しないでください、僕が悪いんです、すいません」
「いえ、誤解をされるようなことを言った私か悪いので」
「あなたに誉められるのは悪い気は、いえ、もちろんそんなのはありません、天にも昇る気持ちになれます、今日は1日幸せに過ごせるというか、あなたのことを思い出せればそりゃあもうってやつですよ」
「単純すぎたりはしませんか?」
「それぐらいが人生を楽しく過ごせるコツではありませんか」
「そうですけど、それはね、う~ん、けどもな…」
「どうしました?」
「あなたは薄々気づいているんでしょ?私の正体」
「はい、僕が人と合うわけがありませんから、もしかして、ひょっとしたらというやつですね」
「そこまでわかってるのならば…」
「あなたの側にいることは光栄なことなんで、天使さん」
「いえ、悪魔ですが」
「悪魔にしては、こういう悪魔もいるんですか?」
「分類学的にはそっちです、契約ありの、内容も人にとって魅力的なものってことで」
「へぇ~そんな分類が、知らなかったし、世の中は広いものです。僕に色々とあなたのことを教えてもらえませんか」
「身を滅ぼしますわよ」
「加減はしてくれますよね」
「あの~」
「なんですか?」
「もしかして心許してます?」
「はい、もちろんですよ」
「いつものあなたと全然違う」
「こういう男はダメですかね」
「なんでいきなり距離感が」
「そりゃあもうずっと詰めたくて詰めたくてしょうがなかったから、今がチャンスかなって」
「バカじゃないの?」
「もう離しませんよ」
手とかしっかり握られる。
「あなたもこれからを楽しんでくださいよ、僕も楽しみますから」
「あのね」
「僕のこと嫌いですか?」
「嫌いっていうわけないでしょ」
「へぇ」
そこまでいうと彼女はしまったという顔をした。
「あはっ」
「何です?」
「好かれているとは思わなかったので」
「へぇ~」
冷たい目をされた。
「すいません、疑うわけでは、平に平にご容赦を」
「気持ちは伝えました、それで満足してくたまさる?」
「えっ?嫌ですけど」
「諦めなさい」
「嫌だ、せっかくあなたが好きっていってくれたのならば、記念にタワーを立てるぐらいのことをしなきゃヤダ」
「わがまま!」
「だって、だって、本当に好きになってしまったんだもん」
「えっ?でも好みは違いますよね」
「そことは別~わからないけども、目で追ったり、気になってたし」
ゴロンゴロン
「初恋じゃあるまいし」
「それはごめんなさい」
「心に新しい情報が来たから、それを価値があるって感じているだけ、時間が来れば落ち着くわよ」
「忘れたくない、この気持ちを永遠に」
「そんなん誰も出来んわ!」
「石に刻みたい」
「それなら何千年ぐらいは持つかな」
「じゃあ、そうします」
「待って、待って、落ち着いて」
「君がダメだとたぶん僕はずっと一人だと思う」
「いえ、他にあなたを好きになってる、気になってる人はいましたが?」
気持ちの方向も人より見える。
「そちらの方に声をかけた方が成功率は高いんじゃないんですか?」
「でも、僕が好きになってるわけではない」
「好きな方に好かれたい?」
「イエス!」
「あ~それは難易度が高い」
「かもしれないが、成就していく時の多幸感はないよ、僕は君の気持ち聞いてから、さっきからふわふわしているし、このまま人生のイベント進めてもいいかなって思ってしまってる」
「へぇ」
「その人間って本当に欲深いはねの目、すんごい痺れる、その目でずっと見てほしい」
「なんで息が荒いんですか」
「ちょっと未知と遭遇してるから」
「未知と遭遇にあなたは向いてはいない」
「どうして、こっちはwelcomeなのよ」
「無理はしない、そこまでの適性はないよ」
「やはり筋肉かな、もう少し筋肉をつけるべきか」
「とりあえず今日はこの辺でいいかな」
「えっ?」
「気持ちを知れば満足でしょ?」
「そしたらその先に進みたくならない?」
「やだな、私は人と違うんだからさ、そんなものに惑わされるはずはないだろう」
「誕生日はいつ?」
「えっ?誕生日は…」
「その日はデートしましょう」
「はい?」
「約束してもらえますか?」
「あなたは誰かとの距離感があまり上手くないように思います」
「知ってます」
「大失敗はしませんように」
「その時はフォローしてください」
「なんで私が?」
「君が一番僕を上手く使える」
「あら、そんなこと言いますと掌で転がしますよ」
「あなたはそんなに酷いことはいつもしませんから、信じてますよ」
「そんなことをいうと、そのうちひどい目に合いますよ」
「そんなにあなたは怖いんでしたっけ?」
「怖いでしょ?」
「僕はそうは思わない」
「それはあなたが見えてないだけよ」
「結構見えている、見てると思いますよ」
「それでも側にいるのだとしたら、あなたはやっぱり変なのだ」
「雨に濡れて、びしょびしょになって戻ったときに、タオルは持ってきたが、服を脱いでいる僕を見て、真っ赤になってるところとかすんごい可愛くて好きですがね」
「あれはそうなりますよ」
「他にもそういう好きなところがたくさんありますから」
それが効果的とわかったら、そのまま僕があなたの好きなところの話をして。
「さすがに今日はもう勘弁してください」
「えっ?まだ行けますが、だったらしょうがないな」
なんて言う男と。
「そりゃあ、あなたはこれだったら人とは合いいにくい話ですね」
とか呆れる女。



「で、結局どうなったの?」
「私が根負けしてますね」
「そうなんだ…えっ?君が根負け?」
耳を疑い聞き返した。
「しましたよ、まあ、こういうのは勝負とかではありませんが、見事に勝ち取って見せたんじゃないでしょうかね」
「そうか…」
う~んと頭を抱えてしまったようだ、予想外だったのだろう。
その後で当事者のもう一人が呼ばれた。
「忙しいところ申し訳ない」
「構いませんよ、実は僕からも伝えなければならないことがありまして」
「それはなんだい?」
「娘さんをご紹介していただきましてありがとうございました」
「えっ?」
「あのお話で知り合うことが出来ましたので」
「そうか…」
「はい、共に時を重ねていけたらとかは大げさではなく、考えておりまして…まあ、こんなことを言いましたら、彼女には睨まれるとは思いますが、僕としてはその…そういうことも前提にといいますか…」
「彼女の氏素性は聞いたよね」
「はい、それが何か?」
「いや、そこは大きな問題ではあると思うんだが、気にはならないの?」
「そんな小さいことを気にしていたら、僕は誰かと生きていけないので」
「え?」
「そう思いましたよ。彼女の代わりはそのぐらい誰にも出来ないので」
「それはどっちの意味でだい?」
「ああ、それは…そうですね」
う~んと考えた後に。
「僕は欲張りですね、彼女をまるごとほしいから、彼女にも僕をまるごとっていいと思うんですよ」
顔がにやけてしまったので、咳をして顔を作り直す。
「もちろん彼女が僕を欲しければですよ。でもいらないかな?こんな僕だからな~」
そこで優柔不断の「う~」が出てくる。
「君ってそんな人だったんだ、それは私も見抜けなかったよ」
「へっ?」
「危惧していたことがないならば、特に反対もすることは…と思ったんだけどさ、今度は親代わりとして聞くよ、娘はどうなの?」
「素敵な人ですよ。正直惚れてますから、もう僕にとっては弱味です」
「私からすると君は誠実そうだが、苦難があったときに折れてしまいそうな弱さは感じてた」
「それは…否定しません、僕はとても弱い人間です。だからこそ、共に生きていける相手がいるんだなとわかったときに、ちょっとビックリした。僕は一人ではないのかもしれないと」
「彼女は人ではないよ」
「だからかもしれません、やけに心地がよいのは」
「悪魔の囁きは真に受けてはいけない」
「残念ながら囁かれたことはないんですよね、頼りなく思っているのか、心配されているのか、そこは少し悲しい」
「君はあの子にとって特別なのはわかったよ。あ~こんな日が来るとは思わなかったな」
「えっ?大丈夫ですか?」
「お父さんマインドが傷ついているだけなんで」
「お父さんマインド!?」
「君もわかるよ、娘の彼氏と話す日がくれば」
「それはちょっと嫌だな」
「嫌でもそんな日は向こうから来ちゃうの!君はそんなやつだとは思わないけども、よっぽどの事がなければ私は娘の味方だからね」
「それは当然でしょうね」
「君がもう少し悪いやつならば心も楽だったんだろうけどもね」
「そういうものですか」
「そういうものだよ、で、ちゃんと付き合うのね」
「はい!」
「話はわかった」
これはこの後も、長い話にはなるのだが、序盤の一区切りというのがここになる。


「報告は僕の方からしてきたよ」
「そうですか」
「上役がね、君との話を聞いたらショック受けてね」
「大丈夫なんですか?それは」
「あ~なんでも娘の彼氏と話す特有のショックみたいなやつなんで」
「それは…」
「で、上役から君も娘の彼氏と話したときに今の私の気持ちがわかるって言われたんだよね。まるで君との間に娘が生まれるみたいにいうんだよ」
はっはっと笑いながら言ったのだが、君はこの時とても変な顔をしていた。
僕の人生は人よりもマイナスが多いらしい、それが彼女の力によってプラスに転じることになった。
そのプラスは今では僕の周囲にも影響を及ぼしているそうだ。
だから本当に未来で娘の彼氏と話すお父さんマインドのショックを経験する幸せも有るんじゃなかと僕は思ってる。
ごめんね、すごく長い話になってしまった。こんなに長く話すつもりはなかったんだけどもさ。

「病人の見舞いには長すぎる話ね」
「でも希望がある話だろ」
「けど本当に信じてるの?後輩君がそうなってるから、私たちにも影響があるって」
「そうだよ」
「あなたってそんなにロマンチストだったの?」
「男はみんなそういうところがある」
「でも本当にそうだったら…」
そこに件の後輩からの連絡。
「どうしたの?」
「はい、これ」
そこで記事を見ると。
「…嘘でしょ」
「これで君も治療に泣き言を言えなくなったね」
「なんで治るのよ」
「なんでそこで嘆くんだよ」
「一生付き合っていくものだと、諦めていたのよ」
「やっぱりそうなんだ」
「そうよ、そういうものじゃない、それなのに…」
「賭けは俺の勝ちだった」
「そうね、私の負けね」
患者は泣き出し、見舞いの男は優しく抱き締めたのである。


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