浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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夜は賑やかに更けていく

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前話『好きな子限定だからじゃない?』はこの話を書き直したものです。

「秋澄(あきすみ)久しぶりだね」
「いきなりの呼び出しありがとうございます、伽羅磁(きゃらじ)さん」
「こっちはいつも通りさ、組んでる、腰なんとか君も元気かな」
「元気ですよ。しかしなんです?本当に」
「あれ?美味しいもの好きじゃなかった?だからちょっと君が好みそうな店を選んでみたのに」
「何気なく話したこと、覚えていたりするんですもんね」
「そういう記憶力はいいよ」
「もっと他に使ってくださいよ」
「やだよ、ビジネスはほどほどじゃないとね」
「そうですか」
「おや?お味は口に合わなかったかな」
「いいえ、いいえ、その辺は、自力でこのお店を探し当てたかったですよ」
「そういうのは苦手じゃん」
「苦手ですね、でもなんか悔しいじゃありませんか」
「君はそういうところがある」
「というか、あなたは私が誰かと組むと、顔には出さないが面白くない気配がする」
「するよ」
「勘で聞いたのに」
「君の勘は頼もしいよね」
「そこで笑顔なのがすごく嫌だ」
「もっと仲良くしようぜ」
「お皿はお下げしても」
「お願いします」
「これでもさ、僕は君を取られたことを未だに悔しく思ってるんだよ」
「そう言われましてもね」
「男の方が嫉妬深いって知ってた?」
「男の嫉妬を一度でも味わえばよくわかりますわ」
「だよね」
伽羅磁はそんな言葉のやり取りでも嬉しそうだ。
「だから僕は吸血鬼というのが嫌いになったよ」
「まさか、それで遊び半分で組合襲撃してきたのを返り討ちにしたとか?」
「そうだよ。あ~北部は干魃で、今年の収穫はどうなるのかわからないけども、この味は維持してほしいよね」
「新しい農法が、助成金でて実験中ですよ、そちらは水の量も削減、しかし収穫量は前と同じか少し増えると」
「未来は明るいじゃないか、そうじゃなくちゃ、で、それって誰の受け売り」
「うちにはAIがいるでしょ?」
「ユメトキボウ?」
「そうです」
「外部のパートナーが決まったときに、変な名前をつけたせいで、著しく能力を落としちゃったAIね」
「はい、そうです」
ドリームアンドホープ?長いな、ドアホでいいか? 
「今は原因がわかってますからね」
「AIも人の心を理解、完璧ではないが、そのような感情を持っているがわかってくると、やりにくいことも出てくるんじゃないかね」
「でしょうね。でも家族や友人や同僚と同じように大切に接していけば、問題はないかと思います」
「君にそうやって接してもらえる人は幸せだね、僕は決してそういう扱いをしてもらえないから」
「なんですか?凹んでるんですか?」
ピタ…
手が止まって、しばらく伽羅磁はそのままだ。
「珍しい」
「僕だってそういうときはあるよ」
「役職についておられるのならば、役目以外は全て諦めたらよろしいのに」
「そんなに割りきれるもんじゃないよ、君は僕をなんだと思ってるんだよ」
「え~」
「やめて、本当のことは話さないで、たぶん落ち込んじゃうから」
「何でそんなに打たれ弱いんですか、相当そちらでは場数を、平気な顔して乗りきっていると思うのに」
「そりゃあ、心を許した君だからね、そうもなるよ」
「そういうのは冗談で言うものではないですよ」
「冗談に聞こえるの?」
「はい、あなたの言葉はみんな理由があって、裏があるでしょ?」
「君に対してはないよ」
秋澄は嘘だぁ!みたな顔をしている。
「そんなに信用がない?」
「今まで何をやったのかお考えください」
「僕はいつでもいつも通りです」
「私の代わりもいるでしょうに」
「そうね、いるね」
こう見えても秋澄さんは癒しの術の使い手です。
「いるけどもさ、君のように手際というか、痛くない人はいないんだよね」
回復魔法の上手い下手は、回復時の痛みの有無で決まったりします。下手な人は何かが逆流してくるような感覚があったり。
「体が煮えるかと思ったなんて感想もあるぐらいだ」
「あれはね~」
回復魔法の後遺症という問題はある。
「でもそれこそ、再生医療もあるでしょ?リスクがね」
「僕は吸血鬼が嫌い、君を酷いことをしたから、でも再生医療が必要な患者さんにとっては、吸血鬼はね、女性でも王子様みたいな存在だから、首筋にキスして…この苦しみから救ってほしいってね」
「患者の心理からすればそうでしょ、明日、解決するのならば、その手を取ってしまうことに、何ら不自然さはありませんよ」
「そこに漬け込むやつもいるし」
「いますね。でもそれでも結局病の苦しみよりはいいとかね、そう納得して受け入れてしまうから罪深いと思いますよ」
「だから吸血鬼のオーバンなんかは、人と関わるのを躊躇うこともあるよ」
ただ一度情けをかけたことで、その人間がとんでもないことを起こしてしまうような話はたくさんある。
「そうなると長生きな彼ら彼女らは耐えられないからね」
「信仰の大事さを見ることができますね」
「自分を許せなくなっちゃうからね、んでもって許せる誰かもいないから」
「もう少し自分に自信を持てばいいのに」
「それは君もだろ?」
「私もですか?」
「君は能力のわりには、あまり目立たないようにしているし、本来回復の使い手なんて後ろでふんぞり返っていてもおかしくないのに、現場に出るし、ああ本当に何木くんはその重要さがわかってないんだ」
「何です?自分の元に来いとでも?」
「えっ?来てくれるの?」
「行きませんけどもね」
「なんでさ、来てくれたら毎日俺が楽しいのに」
「なんであなたが喜ぶために行かなきゃならないんですか?」
「やっぱり自分が気に入った能力で構成するって、いいよね」
「能力ですか」
「何?不満?女の子扱いの方が好きかな?」
「やっぱりあなたは無茶苦茶だ」
「知っているでしょ?俺が無茶苦茶だって」
「何をしようとしているんです?」
「特に、いつも通りさ、それが役割ってことだ」
「味方でも敵でも厄介な」
「まっ、そんな俺でも敵に回したくない人はいるんだよ」
「へぇ~誰です?」
「君だよ、こういうときだけ、察しが悪いな」
ゴクリと炭酸水を一口。
「あなたの驚異になるポイントがありましたか?」
「想像しただけで嫌だ」
「はぁ、そうですか」
「そうだよ。まあ、でも君がもしも側にいたら…それはそれでお仕事にならないかな」
「本当に気に入ったものに関しては、礼儀正しい面とか消え失せますよね」
「そうね、でもそこで我慢してもね」
「まあ、そこはそうですが」
「それともさ、腰木くんのことを気に入ってるの?」
「それは恋愛感情を持ってるか、どうかですか?」
「そう」
「面白いことを聞きますね」
「君はモテるから、心配なんだよ」
「私が?」
「おや、鈍感?」
「いや、どこら辺で?」
「窮地を救ってくれる女神みたいな存在なんだ、その女神に落ちないわけがない」
「そんな風に見てたんですか?」
「女神だろ、君は、俺をこの世界に引きずり込んだ」
「そうでしたっけ」
「そうだよ、忘れたの?」
「あまりにも多くの、仕事だからな」
「それでも、勘違いはさせてほしいな」
「気持ち悪いって言われません?」
「他の人には出さないから」
「ストーカーとかと話しているとこんな気持ちなんだろうなって」
「そんなのと一緒にするなよ」
「どう考えても、日中は話せない話ですよね

夜は賑やかに更けていく。
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