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このファミレスがパワースポットになる
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儀式というのは色々ある。
分類すると様々だから、一旦それは置いておこうか。
それでだ。
「何十年かぶりの復活となりました」
そういうのを執り行う場合は、とても気を使う。
「しばらくやってないのに、何を今さらというやつだな」
そこら辺は人と変わらないというやつである。
「だから仲介が、それが今回うちに来たというやつだな」
何しろこの場には一柱一ゴンがいるのだから。
「でもあれは、本来は夫婦とかなんだよね、次からは夫婦、新婚さん辺りが勤めることになるけども」
久しぶりの開催だと、何を今さらいってんだ?感があるので、結構豪華にやるし、それこそ、代わりに勤める役が森羅万象側だったりもする。
それで一柱一ゴンが今回勤めることになったわけだが。
「お腹減ってない?」
「大丈夫だよ、慣れてる」
その勤めるに辺り、身を清める、食べるものも古典に倣うことを一ゴンの方は行っている。
「他の人たちも行わなきゃならないからね、そこも付き合うのも大事でしょ」
そういってあまり食べない、その状態で打ち合わせは進められる。
だから心配になる。
「うううう」
そういって、あまり忙しくない一柱の方は、何なら食べれるの?ということで、乳製品は食べることができると教えてもらい。
「香味野菜を利かせて、物足りなくないようにチーズを使ったスープです」
少しでも美味しいものをと思って、料理を作ってくれた。
「ありがとう」
「お口に合えばいいんだけども…」
「ああ、ネギの香りと、玉ねぎのざっくり感がいいわね、噛み応えがあるというか」
「終わったら、ラーメンでも食べに行こう」
「あっ、そうか、ラーメンか、これ、ヒントにしたの」
「玉ねぎはね、ザクザク食感は美味しいと思うんだよね」
「俺も食べていい?」
「いーよ」
「あっ、旨い、これに麺入れたら合いそう」
「それがね、合わないんだよ」
「そうなの?」
「なんかこのままのバランスで、味を調整しちゃったのが原因だと思う」
でも、しかし、ここを変えればの顔にはなっている。
「いや、待てよ」
「こうなるとこいつ長いから」
「料理はするんですね」
「そのまま食べるよりは美味しいというきとに気づいたという、わりとワイルドな理由だぞ」
「あ~」
「料理はするんですか?」
「ん~どうだろう」
「でも手伝ったりするのはみますよ」
「あれは作るのとは違うでしょ」
「どういう料理が得意なの?」
話聞いてた?の顔をしてた後。
「私はあんまり台所とか立たないから」
「そう?」
クンクン
「その割には…これは魚、いや、フュメ・ド・ポワゾン」
「フランス語、ポワゾンだから、ええっと魚の出汁か」
「朝ごはん作っただけだよ」
「自分は食べれないのに?」
「誰よ!その幸せな男は」
「えっ?いや、昨日、遅くにスーパーに行ったらさ、鯛のアラが半額だったんで、そのまま調理、下拵えだけして、スープストック作ってさ、朝出掛ける前に作って、冷蔵庫に汁ものあるんで、温めてくださいって言っただけだよ」
「十分料理出来るんじゃないか」
「くぅ~」
「あの方、家事技能一切ないから…」
「それで覚えたの?」
「全部外注してたんだよ」
「えっ?それはまた豪気な」
「ただ好きなものばっかり食べてたからな」
「それでか…」
「まあ、その辺も紆余曲折だよ」
「俺も手料理食べたい」
「自分でこうして美味しいものを作れるじゃないか?」
「それとは話が違うんだよ、こうのはさ」
「まあ、そうですね」
「ちなみに前男さんは?」
「私がいらない程度には」
「そっか…」
なんでそこでそういうことを、名前を聞いちゃうのの目。
(こういうのは情報戦でもあるからな)
「自炊出来ないダメな男が好きなのか?」
おおっと豪速球が来たぞ。
「いや、んなわけがない」
隣でそれを聞くとホッとされる。
「私の周り、そういえばあの御方ぐらいか…全く出来ないの」
「面倒みてる感じ?」
「面倒見てくれる人はいたんだが…なんでそのままくっつかなかったんだろう」
「えっ?そういう人いたの?」
「私も後から知ったんだよな、あれは…その…話聞いたら、行けよ(低音)だったわ」
「それはその、奥手とか?」
「その割には…いや、あれは奥手ではないだろう、だからなんでいないのかわからないし、たぶん向こうもその気だったんじゃないかな」
「それはまた…」
「うん、また…な話だ、女の私からすると、あれは行け、間違いなく惚れているというか、たぶんいい家庭は築けたんじゃないかな」
「で、そっちは?」
「私か、もう縁がないのでは」
「あなたの身近に気づいてない良縁があります」
「お前は縁結びとかやってないだろ」
むしろ破壊神です。
「えっ?そうなの?」
「これでまた縁切りが出来るのならば、違うんだろうが、こいつはただ破壊するとか、そういうのだから、向いてないんだよな」
「あの辺は出来ると、引く手あまただよ」
「熱中症だって負けてないさ」
「あ~」
「なんか嫌なことあったの?」
(こいつそういうの見てるな)
「ん、前に忠告した人が熱中症の恐怖に苛まれてて…」
「で?助けるの?」
「いや、助けん、真に受けなかったから、そこで助けるのもなんでありましょう」
「結構そこは線を引くのね」
「それが賢いやり方だと思うからね」
「その割には、大分尽くしたんじゃねえの?」
「その事については、ノーコメントで」
「えっ?何?何?どういうこと?」
「ちょっと色々と話が聞こえてきますのよ」
「あらやだ、そういうことは本人がいないところでお話になったら?」
女同士の張り合いのようにもなるが、一ゴンはこのような話し方を普段しないし、話に乗った担当者くんは男性である。
「どうしてもそっちの身を預かる方としては、リスクになりそうなものは徹底的に理解しなきゃならないんだよ」
「あ~そーね。まっ、あの人に関しては私の口からは勘弁してほしいところはあるけども、前に言われたわね」
君はあいつの事になると、勝算とかそういうのがどうでもいいところがある。
「うわ、情熱的、何、そんな情熱残ってたの?こんなにさっぱりしていたのに」
「あったんだよ、不思議と、なんでこっちは顔が真っ赤になってるの?」
「お子ちゃまには刺激が強い話だからな、気にしないで続けてくれよ」
「それ言われるまで、私は自分でもそんなことしているとは思わなかったからな、でもそうだね、色々と準備しているのを、それこそ処分していると、ああ、バカなことをしてたんだなと」
「そこまで自分を責めることはないさ」
「そうかもしれないが、ただ好きとか、嫌いとかで終わるわけじゃないから、この話の厄介なところだから」
「それはな、利益が絡めば、人は豹変する、例えどんなに真面目でも、自分は悪くないと言い訳することもある」
「それは見たくない」
「それでいいんだよ、誰だった昔愛したもののそういう姿は、目に毒だと思うんだよね」
「あら?あなたもそういう経験があるの?」
「そりゃあね」
「それは俺も知らない」
「いや、こっちは上手くやってたりしたわけよ、今はいないけどもね」
「なかなかの人生ね」
「お陰さまで退屈しないのはこいつのせいで決まってるし、そこに貴女だ、もう勝ったね」
「私も別にいつまでもいるわけではないよ」
「いてもいいよ」
「あのね、そうも行かない場合もあるのよ」
「そんなことにならないようにする」
「そうなったらいいね」
(ダメだな、お子ちゃま扱いになってる)
「どうもこいつは貴女の前では子供になる」
「いつもはそうじゃないの?」
「そうですよ、仕切る時はそれなりのものですよ、そうでなければ、力で場なんて制しても、人なんてついてきませんよ」
「あなたは話がわかることが前提だもんね」
「そうです、俺はか弱いですから」
「頭はキレるけどもね」
「何の事ですか?」
「そういうのは嫌いじゃないわよ」
「それはどうも」
急に真顔になるのは、評価が思ったよりも高かったそうである。
「結構高評価なんですね」
「意外かしら?」
「意外ですね、なんというか、もっとずる賢い奴だと思われてましたから」
「そういうところもあるけども、そんなところを嫌悪するタイプを前にしては、そこを出さないでしょ」
「それをずる賢いといいません?」
「努力とか全くしてないならば、そうなんだろうなって思うけども、私はそうは思わないわ」
「あなたは本当に人に近いところで生きてきたんだなというのがよくわかる、こういっては失礼だが、俺もこいつの関係で色んな付き合いがありますから、様々な方々を見てきましたが、なんというか、あまりこちら側、人間側に歩み寄ってくれるという感じではやっぱりないですね」
「そりゃあそうよ、そういう考えがないから、気に入ったりすれば別だけどもさ」
「その気に入った人が、契約の類いをまとめあげたから、そこに人が住めたり、大雨でも被害が少なかったりするんですかね」
「さすがにその時に居合わせたわけでもないけどもね、ああ、凄い話はたくさんある、気に入られようとした話なんかはよく聞いた」
「どこからですか?」
「あれはどこからだっけか、今、思い出したやつは郷土史書からか」
「そういったものにも目をお通しになるんですか?」
「なりますよ、その…前の部屋から持ち出したあの本というか、書き付けも、そういったものを参考にしたものもございますし」
「あの書き付けか…それだけで凄い値段が付きそうだ」
「代わりに人生を無事に歩めますかね」
「それは怖い。あれって元々なんで書き付けたんですか?」
「ああ、あの人のためですよ、今後困らぬように、ほら、何があるかわからないし」
む~
(不機嫌そうな顔をしない)
「やはり前男さんは特別なんですね、そしてそんな貴女に大事なお知らせです」
「えっ?何?」
「その次の儀礼に、お客さんの中に前男さんも来られるみたいですよ」
「………えっ?」
「だから…」
これを何回か繰り返すことになったという。
「でも、顔はもちろん、体型も全部わからないような衣装な訳だから、わからないと思いますよ」
「そ、そうだね」
「それでも行きたくないなら…」
「いえ、やるよ、この儀式を来年もずっとってわけではないしさ、私がやると決めたのに、今離れたら、困るだろう?」
「それはそれだ」
「あれ?」
「こっちは何回も言ってる通り、貴女の信頼感を損ねてまではやるつもりはない、ほれに自分でも言ってるでしょ、自分は一柱ではない、いいところ一ゴンだと」
意味としてはドラゴンならば一柱として数えてもいいとは思うが、精々半分ぐらいじゃない、そっから一ゴン。
「一ドラだと、プロ野球で期待されて入団みたいになるから、ゴンの方を採用してみました」
「そこで笑いに走れるものなんだ」
「いや、この方は、意外と笑いに走っているところがある」
「そういえばそうかな…」
身近な関係になると、ひたすらどうでもいいことを話していたりするタイプ。
「一柱でもやれなくはないが、やっぱり正式には二柱で夫婦とかである方がいいとはされてはいるんだがな…」
「そこは一柱と一ゴンで、すいませんね、っていいながら、代わりにこういうのつけますんで、よろしくお願いしますよ(揉み手)で行けばいいんじゃないかな」
「それ一歩間違えると舐められるやつなんだが」
「そこは頼りにしてますよ」
微笑み。
「もちろん!」
いきなり微笑みを向けられて、ドキドキになった。
(うわ、可愛いことになってるなコイツ)
「復活の初年度だから、月の入りとか計算して、来場することになるからな」
「俺は待つだけみたいだけどもさ」
「まあ、この辺はね、次からは簡素化するけども、初年度だからきちんとやるし、豪華にやるからっていうことにすれば、なんとかってやつだよ」
分刻みに移動していくことになります。
「場内は、わからないけども、一番大変なのが月を背負っての移動だからね、ここだけはやりとげないとね」
なんて言ってましたが…
急に当日はバタバタすることになる。
「何かトラブルでも起きたのかな」
先に待っている一柱は、そのお付きに話しかける。
「ちょっと待ってください、確かめて…」
の時に連絡が来た。
「失礼します」
そういって、連絡を受けると。
「え?どういうことなんですか?許可は取って…はい、わかりました、それでは時間通りにこちらはこちらで入場しますので、そちらもどうかお気をつけください」
「何かあったの?」
と数秒後。
「何もないな」
距離とか関係なく好きな相手はわかるものなので、無事だと思うと、疑問がわいた。
「それがですね、行政に許可を取っていまのですが、全体に
連絡が回ってなかったのか…」
これは何なんだ?と、ちょっとこちらへ来てください。
身分証などはもちろん全部持っていたし、中身の確認ではないが、顔などがわかるように覆いを取って見せて、調書を簡単に取られ、すいませんでした。と謝られたが。
「あっ…月が間に合わないよ」
となりまして。
「ここから遅れて入ると不味いので、申し訳ないですが」
「わかった、決められたことだから、もちろんやりとげるとするよ」
「すいません」
「なんで謝るのさ、君は悪くないよ」
頬笑む。
この儀式の観客の女性陣は、ここで可愛い系御曹司が見せた、優しい笑顔にキュンと来てる。
えっ?この人誰?
今年は夫婦役ってことだから、独身なの?
こういう大役を任されるということはとんでもないお金持ちとか?
(なんか女性のお客さんが一気に増えたような)
気のせいではない、実際に近くで見ようと、ついでに写真も撮影しようとしている。
「じゃあ、時間だね、行こうか」
「畏まりました」
絵になるほどの美男が、入場する。
挨拶状を読み上げ、招いた側の代表者もそれに応え、屋内へ…
屋内には招かれたお客さん達で溢れてはいるが、そこでもやはりこの男は目を引く。
どこにこんなイケメンがいたものなのか、そんな驚きの顔をしているものもちらほらと。
ここまで読んでいる人からすると、彼ら彼女らが人に化けると、人には出せない魅力、不思議と目が離せないものがにじみ出てくるものだし、今回はさらに盛っているので、いつも以上だと思ってほしい。
(視線が集中しているのがわかるし、このお前は邪魔だ、見えないだろうが!っていうのがわかって痛い)
心の中でお付きが、背中に刺さってくる視線を感じて謝ってる。
(本当に人の目を引く容姿をしているからな)
美少年が美男になったんだろうな系である。
もちろん、そんな顔をしていたら、女の方はそれを見逃すはずもなく。
その視線の中には…
(あの方は…)
先日夜に私を助けてくれた御曹司様、ああこの大役を勤めるほどならば、もう確実に私とも釣り合いがとれる。
なんて思いを浮かべる女性もいるようだ。
(早く終わらせて、みんなでご飯を食べたいな、明日からしばらくご飯支度任せてもらおうか)
ただ本人というか、その視線を向けられている男は、自分の身内の心配しかしてないようである。
今回、自分の妻役を務めてくれた彼女は、月の入りが遅れてしまった場合は、会場入りは出来ない。
それもあってか、きちんと勤めあげよう、そんな気持ちが、神秘的な美しさに磨きをかけてしまった。
口上を述べ終えて、一礼してから、退場をする。
すると静かな場内が、遅れて、喝采が、賑やかに聞こえだした。
「お疲れ様です」
「ああ、本当だよ、邪魔だからこれ脱いでも?」
「大丈夫ですよ」
「外から失礼します」
扉の向こうからである。
「大役のお勤めお疲れ様でした、良ければこの後、会食なども…」
「俺は疲れたとか、なんか適当に誤魔化してくれる?」
「もちろんです」
お付きは窓を開けてくれると
「そしていない方が諦めてくれるかと」
「なるほど、そこまでは思い付かなかった、あとは頼む」
「お任せを」
夜の中、黒い煙は天空を行く。
「…」
「どうしたんだよ」
「ん?いや、今何か…なんでもない」
「そっか、なんでもないなら言うなよ、全く今日は招待されて良かったな、いつもは会えないお偉いさんばっかだしな」
そういってウキウキしている男の隣で、少し表情に陰がある男。
この陰を浮かべた男が、いわゆる前男なのである。
「しかし、まさかこんなことになるとは」
「しょうがないさ、でも本当にまさかだよね、最初はなんで呼び止められたのかわからなかった」
「それは俺もさ」
ええ?どういうこと?行政に許可は間違いなく取ったよね?一応書類のコピー類は持っていたのだが、それでも、先方に連絡して、確認がとれるまでは、すいませんがお待ちくださいになった。
そこから解放で、間に合わないのでもう衣装も普段着に戻っているし。
「こちらの不手際じゃないし」
現在その関係者同士でなんか言い争いになっているっぽいんですが、こちらは不備がないので。
「飯を食おう」
「そうなるよね」
「それに食ってたら、向こうからも来るだろう」
「しかしさ、本当になんなの?これ、こんなので儀式中断で、中途半端ではないけども、一人でもやれます版を行うとは思わないよ」
この場合は口上なども二人分行うので、時間は同じではあるが、負担は結構大きくもある。
「しゃーない、しゃーない、切り替えて行こう、もう好きなもの食べれるってことにしよう」
妻役のお付きは、いつもの担当、管理責任者がいた。
それはもちろん、分単位で月の入りを見ながら移動の調整する細かく、面倒くさいことをやってもらうためだ。
「この月の入りについては、どういう意味があるんだ」
「太陽と月は、それこそ暦になってたぐらいだからね、これは太陰暦をベースにしたものなんだよ」
だから来場までのいわゆる旧道も。
「毎年その日の月の入り、これに合わせたものになるから、いわゆる月に近い道を歩くんだよな。今年一回の儀式で終わらせるならば、それこそ空からこんにちはしてもいいが、来年もあるし、来年も空からこんにちはします儀式になったら、誰も出来ないよ」
「人は無理だな、ケーキとか好き?ここのは結構旨いよ」
「チョコレートか、チーズか」
「食事してからでいいんじゃないの?」
「悩ましい問題には時間が必要ね」
「そうだ、そうだ、そのぐらいでいいんだよ」
「向こうは大丈夫かしら」
「そこは大丈夫だろ、やっぱり今回の一番の難しい部分は月に合わせて、それぞれのチェックポイントを通過するだからな」
「でも便利ね、計測機器があるから、割り出せるなんて」
「高いけども、そこは専門の道具だからな」
だいたいじゃなくて、このタイミングでお願いしますが可能になった。
今回はそれを止められたので。
「三門までは歩けたから、まあ、よしとしておくか、全部が理想ではもちろんあるけどもね」
「実際に月が隠れて、月を背負えなくなった時はそこでやめたりもしているから、出来るのならばやった方がいいが、できなくてもそこまでペナルティはないとされるし、まっこんなもんだろう、ただ後で謝罪されるのが楽しみ」
「悪い顔をしている」
「嫌だってさ、こっちの不手際はない、話聞いてると、不安にはなったがな」
「不安にはなってたの?」
「なったな?でもおかしいなが途中からだし、というか、衣装脱いで、顔を見せてくれるとは思わなかった」
「えっ?なんで、その方が早くない?」
「そうかもしれないが、あり得ないよ」
「でもさ、変に疑われるよりはさ」
「疑われないようにこっちは前々から手続きしてたんだもん、言われる筋合いはないかな」
「やっぱり怖いね」
「えっ?何が?」
「あらやだ、無自覚なの?」
「こういうのをきちんとしないと舐められるから、俺はきっちりするだけだよ」
「それは賛成しておく」
「でしょ?」
「これでどうなるの?」
「謝罪、満額はもちろんもらうし、向こうが何を差し出してくれるかな?ってところ」
「う~ん」
「アイツの美形っぷりは見たでしょ?あれで女が騒いでるわけだし」
「来年もお願いしますはありそう」
「言われてはいるんじゃないかな、いわゆる眼福扱いってことで」
「大変だね、美形は…」
「その自覚はないので、言わなきゃ寝癖そのままだったりするからな」
「なんかちょうどいい感じで、ピン!って髪が立つのよね」
「そうそう、おおっと…」
「どうしたの?」
「来場者側の知り合いからだね、そっちがどうなるのか教えてくれるかって頼んでたんだ」
「抜け目ない」
「この辺の感触は大事なポイントだと思う、ああ、やっぱり女性陣が凄かったか」
「そこは今話していた通りね」
「そうだな、あっ、夫婦役ってことで、独身って思われていたみたい」
「あ~」
「これも想定だが、なんかあの人は誰なの?って騒ぎになっているみたいだぞ」
「その辺はどうなの?」
「それこそ、ここはうちのテリトリーじゃなくて、招かれたってことだから、素性としてはうちの人間ですって話にしている。ただまあ、今回執り行った方からすると、危険なことをわざわざ引き受けてくださったっていうこともあるからな、あまり情報は外には出ないかな」
「そうだろうね、出したら危ないし、ただ詰められているんじゃない?あのイケメンは誰なんだって」
「それはそうだろう、まっ、上手く逃げてくるだろうが、そこは心得ているよ」
「信頼してますね」
「そりゃあな、下手にちょっかいだされて、機嫌が悪くなると本当に大変なんだよ」
「それはわかる」
「だろ?」
「ずいぶん楽しそう」
「あっ、噂をすれば」
「なんとやらだな」
「お疲れ様」
「うん、でもそっちこそ」
「世の中全部上手くはいかないなら、こんなこともあるさ」
「でも本当は上手く行ってほしかったくせに」
「そりゃあね」
「俺も会えるのを待ってたんだ」
「そっか、ごめんね」
「こう…さ、着付けのお化粧が終わったよっていう写真もらったじゃん」
「うん」
「お嫁さんみたいで可愛かった」
「そう、ありがとう」
「うん…とってもいいと思うよ」
「ありがとう」
(初々しいね)
「あっ、俺ちょっとトイレね」
「うん」
「そっちはどうだったの?」
「ちゃんと出来たよ、君の分まで頑張らなきゃって思ったし、ここで務めあげるのが俺の責任かなって」
「悪いね、行けなかったわ」
「君が悪くないよ」
「まさか止められるとは思わなかったな、あの時さ、一緒にいたみんなの方が顔がね、引きつってたんだ…」
「守ってくれたんだね」
「そりゃあね、そこは守るでしょ」
だから早く確認が終わるように衣装を脱いだ。
「正直、この儀式よりかは、みんなの方が大事だし」
「ありがとう、『うちの頭領を守ってくださり、この度はありがとうございました』」
『こちらこそ、あなたの大事なもののために力を貸せたことがとても喜ばしい』
「お前ら、何やってんの?」
いわゆる本性の時に発声する言葉、真言をファミレスで交わしたので、そりゃあ怒られる。
「お言葉が来ちゃったのでつい」
「お礼は大事でしょ」
「手を洗っている最中にやけにビリビリするなって思ったら、これだし」
「むっ、まだまだ修行不足」
「本当だよ」
「私もだわ、つい応えてしまった」
「俺から説教をするのはなんだけどもさ、聞き慣れない声に返事をしたらダメでしょうが」
「すいません」
「そんなに怒らないでよ、今回のは俺も悪いんだし」
「内容としてはまともだからいいけどもさ」
「はい、すいません」
「ごめんなさい」
「でも今ので、この辺で悪さしようとしている奴はいなくなったかもな」
「あ~」
ちょっと虚空を見て。
「いるみたいだね」
「やっぱりいるのか」
「それこそ典型的な、知らない何かから声をかけられる奴で、?」
「ああ、それね」
彼女は?の理由を知っているようである。
「それが増えたのが、そのあの人のせいだったりするから」
「えっ?なんだよ、それ」
そこでようやくシートに座る。
「そういう声に乗ってしまったら、まあ、向こうもしつこくとは言わないけども、声をかければ人は乗るんだろうなって思ってしまったわけよ、これが自衛手段を持たない人間がこれから危険な目に合うだろうという理由の一つだね」
「それは怖いな」
「まあ、細かい想定聞かなきゃわからないと思うわ、それこそ対等ぐらいの力を持っている人間に話しかけてくる奴はまともよ、だって何か変なことをしたら、斬られたりするわけじゃない?声に応えてくれなくても、力押しでどうにかなってしまうであろう人間に声をかけてくるのは、その~さ」
「ろくなことにならないね」
「そうなんだよ、それがね、今後増える可能性がある、いや可能性じゃないわね、もうウキウキしてるのよ」
上手く行くかわからないけども、チャンスがないわけじゃないんだね。
それなら…
「とか思ってるよ」
「それを考えると前男…かなり危ないというか、何してんだって言えるよな」
「それが原因で増えるってバレてるの?」
「人間側はそうでもないっぽいんだけども、今の私が説明したら、わかるでしょ?どういうことが起きているか」
「うん、それは凄く、いや、凄まじい怖さだ」
「そういうのから、スパムみたいに話しかけたら、それだけで病むかもしれないし、それでもって返事したら逃げにくくなるし、今はたまたま真言で応対したから、それでビビって、それこそ力の差を感じたんでしょ?…ああそうね、儀式なんかよりも今の応対の方がたぶん効果があるんじゃない?特にこのファミレスは」
朗報、このファミレスがパワースポットになる。
「丁度いいんじゃない?赤字FCだし…って待て、すぐに経営者を調べんな」
「いや~つい自然と手が動いて」
「このぐらいじゃないと務まらないとは思うが、ここはやめておけ」
「なんでか聞いても大丈夫?」
「ここであなたが利益取ると、揉めるぞ」
「なるほど、それは手を出さない方がよさそうだ」
「悪いね」
「代わりは期待できるの?」
「今回はないよ」
「わかった、次は期待する」
「う~ん」
「やっぱりダメか」
「ガメツイキャラを出すのならば、最後まで通しなさいよ」
「そこが良いところなんだよ」
「何のことやら」
「ね、こういう感じなの」
「短い付き合いなのに、なんかこの人がわかったわ」
最近まで起きていた変なこと、それこそなんか不気味な声に話しかけられていたのだけども、ある時からピタッと止んだ。
その時にたまたまお祭りの記事が目に入ったんだけども、たぶんこの写真の人がなんとかしてくれたんだと思う。
なんかその…守れている気がするの。
この日の記事を巻頭にした新聞は、問い合わせが来て凄く売れたそうだ。
「それはいいが、うちには問い合わせがきても、そこは全部断るからな」
『は~い』
当事者以外がみんな返事をした。
その当事者は何をしているかというと、夕食の仕込みである。
台所は人が涙を我慢できないほど玉ねぎのアレ!アイツが空間を支配していた。
分類すると様々だから、一旦それは置いておこうか。
それでだ。
「何十年かぶりの復活となりました」
そういうのを執り行う場合は、とても気を使う。
「しばらくやってないのに、何を今さらというやつだな」
そこら辺は人と変わらないというやつである。
「だから仲介が、それが今回うちに来たというやつだな」
何しろこの場には一柱一ゴンがいるのだから。
「でもあれは、本来は夫婦とかなんだよね、次からは夫婦、新婚さん辺りが勤めることになるけども」
久しぶりの開催だと、何を今さらいってんだ?感があるので、結構豪華にやるし、それこそ、代わりに勤める役が森羅万象側だったりもする。
それで一柱一ゴンが今回勤めることになったわけだが。
「お腹減ってない?」
「大丈夫だよ、慣れてる」
その勤めるに辺り、身を清める、食べるものも古典に倣うことを一ゴンの方は行っている。
「他の人たちも行わなきゃならないからね、そこも付き合うのも大事でしょ」
そういってあまり食べない、その状態で打ち合わせは進められる。
だから心配になる。
「うううう」
そういって、あまり忙しくない一柱の方は、何なら食べれるの?ということで、乳製品は食べることができると教えてもらい。
「香味野菜を利かせて、物足りなくないようにチーズを使ったスープです」
少しでも美味しいものをと思って、料理を作ってくれた。
「ありがとう」
「お口に合えばいいんだけども…」
「ああ、ネギの香りと、玉ねぎのざっくり感がいいわね、噛み応えがあるというか」
「終わったら、ラーメンでも食べに行こう」
「あっ、そうか、ラーメンか、これ、ヒントにしたの」
「玉ねぎはね、ザクザク食感は美味しいと思うんだよね」
「俺も食べていい?」
「いーよ」
「あっ、旨い、これに麺入れたら合いそう」
「それがね、合わないんだよ」
「そうなの?」
「なんかこのままのバランスで、味を調整しちゃったのが原因だと思う」
でも、しかし、ここを変えればの顔にはなっている。
「いや、待てよ」
「こうなるとこいつ長いから」
「料理はするんですね」
「そのまま食べるよりは美味しいというきとに気づいたという、わりとワイルドな理由だぞ」
「あ~」
「料理はするんですか?」
「ん~どうだろう」
「でも手伝ったりするのはみますよ」
「あれは作るのとは違うでしょ」
「どういう料理が得意なの?」
話聞いてた?の顔をしてた後。
「私はあんまり台所とか立たないから」
「そう?」
クンクン
「その割には…これは魚、いや、フュメ・ド・ポワゾン」
「フランス語、ポワゾンだから、ええっと魚の出汁か」
「朝ごはん作っただけだよ」
「自分は食べれないのに?」
「誰よ!その幸せな男は」
「えっ?いや、昨日、遅くにスーパーに行ったらさ、鯛のアラが半額だったんで、そのまま調理、下拵えだけして、スープストック作ってさ、朝出掛ける前に作って、冷蔵庫に汁ものあるんで、温めてくださいって言っただけだよ」
「十分料理出来るんじゃないか」
「くぅ~」
「あの方、家事技能一切ないから…」
「それで覚えたの?」
「全部外注してたんだよ」
「えっ?それはまた豪気な」
「ただ好きなものばっかり食べてたからな」
「それでか…」
「まあ、その辺も紆余曲折だよ」
「俺も手料理食べたい」
「自分でこうして美味しいものを作れるじゃないか?」
「それとは話が違うんだよ、こうのはさ」
「まあ、そうですね」
「ちなみに前男さんは?」
「私がいらない程度には」
「そっか…」
なんでそこでそういうことを、名前を聞いちゃうのの目。
(こういうのは情報戦でもあるからな)
「自炊出来ないダメな男が好きなのか?」
おおっと豪速球が来たぞ。
「いや、んなわけがない」
隣でそれを聞くとホッとされる。
「私の周り、そういえばあの御方ぐらいか…全く出来ないの」
「面倒みてる感じ?」
「面倒見てくれる人はいたんだが…なんでそのままくっつかなかったんだろう」
「えっ?そういう人いたの?」
「私も後から知ったんだよな、あれは…その…話聞いたら、行けよ(低音)だったわ」
「それはその、奥手とか?」
「その割には…いや、あれは奥手ではないだろう、だからなんでいないのかわからないし、たぶん向こうもその気だったんじゃないかな」
「それはまた…」
「うん、また…な話だ、女の私からすると、あれは行け、間違いなく惚れているというか、たぶんいい家庭は築けたんじゃないかな」
「で、そっちは?」
「私か、もう縁がないのでは」
「あなたの身近に気づいてない良縁があります」
「お前は縁結びとかやってないだろ」
むしろ破壊神です。
「えっ?そうなの?」
「これでまた縁切りが出来るのならば、違うんだろうが、こいつはただ破壊するとか、そういうのだから、向いてないんだよな」
「あの辺は出来ると、引く手あまただよ」
「熱中症だって負けてないさ」
「あ~」
「なんか嫌なことあったの?」
(こいつそういうの見てるな)
「ん、前に忠告した人が熱中症の恐怖に苛まれてて…」
「で?助けるの?」
「いや、助けん、真に受けなかったから、そこで助けるのもなんでありましょう」
「結構そこは線を引くのね」
「それが賢いやり方だと思うからね」
「その割には、大分尽くしたんじゃねえの?」
「その事については、ノーコメントで」
「えっ?何?何?どういうこと?」
「ちょっと色々と話が聞こえてきますのよ」
「あらやだ、そういうことは本人がいないところでお話になったら?」
女同士の張り合いのようにもなるが、一ゴンはこのような話し方を普段しないし、話に乗った担当者くんは男性である。
「どうしてもそっちの身を預かる方としては、リスクになりそうなものは徹底的に理解しなきゃならないんだよ」
「あ~そーね。まっ、あの人に関しては私の口からは勘弁してほしいところはあるけども、前に言われたわね」
君はあいつの事になると、勝算とかそういうのがどうでもいいところがある。
「うわ、情熱的、何、そんな情熱残ってたの?こんなにさっぱりしていたのに」
「あったんだよ、不思議と、なんでこっちは顔が真っ赤になってるの?」
「お子ちゃまには刺激が強い話だからな、気にしないで続けてくれよ」
「それ言われるまで、私は自分でもそんなことしているとは思わなかったからな、でもそうだね、色々と準備しているのを、それこそ処分していると、ああ、バカなことをしてたんだなと」
「そこまで自分を責めることはないさ」
「そうかもしれないが、ただ好きとか、嫌いとかで終わるわけじゃないから、この話の厄介なところだから」
「それはな、利益が絡めば、人は豹変する、例えどんなに真面目でも、自分は悪くないと言い訳することもある」
「それは見たくない」
「それでいいんだよ、誰だった昔愛したもののそういう姿は、目に毒だと思うんだよね」
「あら?あなたもそういう経験があるの?」
「そりゃあね」
「それは俺も知らない」
「いや、こっちは上手くやってたりしたわけよ、今はいないけどもね」
「なかなかの人生ね」
「お陰さまで退屈しないのはこいつのせいで決まってるし、そこに貴女だ、もう勝ったね」
「私も別にいつまでもいるわけではないよ」
「いてもいいよ」
「あのね、そうも行かない場合もあるのよ」
「そんなことにならないようにする」
「そうなったらいいね」
(ダメだな、お子ちゃま扱いになってる)
「どうもこいつは貴女の前では子供になる」
「いつもはそうじゃないの?」
「そうですよ、仕切る時はそれなりのものですよ、そうでなければ、力で場なんて制しても、人なんてついてきませんよ」
「あなたは話がわかることが前提だもんね」
「そうです、俺はか弱いですから」
「頭はキレるけどもね」
「何の事ですか?」
「そういうのは嫌いじゃないわよ」
「それはどうも」
急に真顔になるのは、評価が思ったよりも高かったそうである。
「結構高評価なんですね」
「意外かしら?」
「意外ですね、なんというか、もっとずる賢い奴だと思われてましたから」
「そういうところもあるけども、そんなところを嫌悪するタイプを前にしては、そこを出さないでしょ」
「それをずる賢いといいません?」
「努力とか全くしてないならば、そうなんだろうなって思うけども、私はそうは思わないわ」
「あなたは本当に人に近いところで生きてきたんだなというのがよくわかる、こういっては失礼だが、俺もこいつの関係で色んな付き合いがありますから、様々な方々を見てきましたが、なんというか、あまりこちら側、人間側に歩み寄ってくれるという感じではやっぱりないですね」
「そりゃあそうよ、そういう考えがないから、気に入ったりすれば別だけどもさ」
「その気に入った人が、契約の類いをまとめあげたから、そこに人が住めたり、大雨でも被害が少なかったりするんですかね」
「さすがにその時に居合わせたわけでもないけどもね、ああ、凄い話はたくさんある、気に入られようとした話なんかはよく聞いた」
「どこからですか?」
「あれはどこからだっけか、今、思い出したやつは郷土史書からか」
「そういったものにも目をお通しになるんですか?」
「なりますよ、その…前の部屋から持ち出したあの本というか、書き付けも、そういったものを参考にしたものもございますし」
「あの書き付けか…それだけで凄い値段が付きそうだ」
「代わりに人生を無事に歩めますかね」
「それは怖い。あれって元々なんで書き付けたんですか?」
「ああ、あの人のためですよ、今後困らぬように、ほら、何があるかわからないし」
む~
(不機嫌そうな顔をしない)
「やはり前男さんは特別なんですね、そしてそんな貴女に大事なお知らせです」
「えっ?何?」
「その次の儀礼に、お客さんの中に前男さんも来られるみたいですよ」
「………えっ?」
「だから…」
これを何回か繰り返すことになったという。
「でも、顔はもちろん、体型も全部わからないような衣装な訳だから、わからないと思いますよ」
「そ、そうだね」
「それでも行きたくないなら…」
「いえ、やるよ、この儀式を来年もずっとってわけではないしさ、私がやると決めたのに、今離れたら、困るだろう?」
「それはそれだ」
「あれ?」
「こっちは何回も言ってる通り、貴女の信頼感を損ねてまではやるつもりはない、ほれに自分でも言ってるでしょ、自分は一柱ではない、いいところ一ゴンだと」
意味としてはドラゴンならば一柱として数えてもいいとは思うが、精々半分ぐらいじゃない、そっから一ゴン。
「一ドラだと、プロ野球で期待されて入団みたいになるから、ゴンの方を採用してみました」
「そこで笑いに走れるものなんだ」
「いや、この方は、意外と笑いに走っているところがある」
「そういえばそうかな…」
身近な関係になると、ひたすらどうでもいいことを話していたりするタイプ。
「一柱でもやれなくはないが、やっぱり正式には二柱で夫婦とかである方がいいとはされてはいるんだがな…」
「そこは一柱と一ゴンで、すいませんね、っていいながら、代わりにこういうのつけますんで、よろしくお願いしますよ(揉み手)で行けばいいんじゃないかな」
「それ一歩間違えると舐められるやつなんだが」
「そこは頼りにしてますよ」
微笑み。
「もちろん!」
いきなり微笑みを向けられて、ドキドキになった。
(うわ、可愛いことになってるなコイツ)
「復活の初年度だから、月の入りとか計算して、来場することになるからな」
「俺は待つだけみたいだけどもさ」
「まあ、この辺はね、次からは簡素化するけども、初年度だからきちんとやるし、豪華にやるからっていうことにすれば、なんとかってやつだよ」
分刻みに移動していくことになります。
「場内は、わからないけども、一番大変なのが月を背負っての移動だからね、ここだけはやりとげないとね」
なんて言ってましたが…
急に当日はバタバタすることになる。
「何かトラブルでも起きたのかな」
先に待っている一柱は、そのお付きに話しかける。
「ちょっと待ってください、確かめて…」
の時に連絡が来た。
「失礼します」
そういって、連絡を受けると。
「え?どういうことなんですか?許可は取って…はい、わかりました、それでは時間通りにこちらはこちらで入場しますので、そちらもどうかお気をつけください」
「何かあったの?」
と数秒後。
「何もないな」
距離とか関係なく好きな相手はわかるものなので、無事だと思うと、疑問がわいた。
「それがですね、行政に許可を取っていまのですが、全体に
連絡が回ってなかったのか…」
これは何なんだ?と、ちょっとこちらへ来てください。
身分証などはもちろん全部持っていたし、中身の確認ではないが、顔などがわかるように覆いを取って見せて、調書を簡単に取られ、すいませんでした。と謝られたが。
「あっ…月が間に合わないよ」
となりまして。
「ここから遅れて入ると不味いので、申し訳ないですが」
「わかった、決められたことだから、もちろんやりとげるとするよ」
「すいません」
「なんで謝るのさ、君は悪くないよ」
頬笑む。
この儀式の観客の女性陣は、ここで可愛い系御曹司が見せた、優しい笑顔にキュンと来てる。
えっ?この人誰?
今年は夫婦役ってことだから、独身なの?
こういう大役を任されるということはとんでもないお金持ちとか?
(なんか女性のお客さんが一気に増えたような)
気のせいではない、実際に近くで見ようと、ついでに写真も撮影しようとしている。
「じゃあ、時間だね、行こうか」
「畏まりました」
絵になるほどの美男が、入場する。
挨拶状を読み上げ、招いた側の代表者もそれに応え、屋内へ…
屋内には招かれたお客さん達で溢れてはいるが、そこでもやはりこの男は目を引く。
どこにこんなイケメンがいたものなのか、そんな驚きの顔をしているものもちらほらと。
ここまで読んでいる人からすると、彼ら彼女らが人に化けると、人には出せない魅力、不思議と目が離せないものがにじみ出てくるものだし、今回はさらに盛っているので、いつも以上だと思ってほしい。
(視線が集中しているのがわかるし、このお前は邪魔だ、見えないだろうが!っていうのがわかって痛い)
心の中でお付きが、背中に刺さってくる視線を感じて謝ってる。
(本当に人の目を引く容姿をしているからな)
美少年が美男になったんだろうな系である。
もちろん、そんな顔をしていたら、女の方はそれを見逃すはずもなく。
その視線の中には…
(あの方は…)
先日夜に私を助けてくれた御曹司様、ああこの大役を勤めるほどならば、もう確実に私とも釣り合いがとれる。
なんて思いを浮かべる女性もいるようだ。
(早く終わらせて、みんなでご飯を食べたいな、明日からしばらくご飯支度任せてもらおうか)
ただ本人というか、その視線を向けられている男は、自分の身内の心配しかしてないようである。
今回、自分の妻役を務めてくれた彼女は、月の入りが遅れてしまった場合は、会場入りは出来ない。
それもあってか、きちんと勤めあげよう、そんな気持ちが、神秘的な美しさに磨きをかけてしまった。
口上を述べ終えて、一礼してから、退場をする。
すると静かな場内が、遅れて、喝采が、賑やかに聞こえだした。
「お疲れ様です」
「ああ、本当だよ、邪魔だからこれ脱いでも?」
「大丈夫ですよ」
「外から失礼します」
扉の向こうからである。
「大役のお勤めお疲れ様でした、良ければこの後、会食なども…」
「俺は疲れたとか、なんか適当に誤魔化してくれる?」
「もちろんです」
お付きは窓を開けてくれると
「そしていない方が諦めてくれるかと」
「なるほど、そこまでは思い付かなかった、あとは頼む」
「お任せを」
夜の中、黒い煙は天空を行く。
「…」
「どうしたんだよ」
「ん?いや、今何か…なんでもない」
「そっか、なんでもないなら言うなよ、全く今日は招待されて良かったな、いつもは会えないお偉いさんばっかだしな」
そういってウキウキしている男の隣で、少し表情に陰がある男。
この陰を浮かべた男が、いわゆる前男なのである。
「しかし、まさかこんなことになるとは」
「しょうがないさ、でも本当にまさかだよね、最初はなんで呼び止められたのかわからなかった」
「それは俺もさ」
ええ?どういうこと?行政に許可は間違いなく取ったよね?一応書類のコピー類は持っていたのだが、それでも、先方に連絡して、確認がとれるまでは、すいませんがお待ちくださいになった。
そこから解放で、間に合わないのでもう衣装も普段着に戻っているし。
「こちらの不手際じゃないし」
現在その関係者同士でなんか言い争いになっているっぽいんですが、こちらは不備がないので。
「飯を食おう」
「そうなるよね」
「それに食ってたら、向こうからも来るだろう」
「しかしさ、本当になんなの?これ、こんなので儀式中断で、中途半端ではないけども、一人でもやれます版を行うとは思わないよ」
この場合は口上なども二人分行うので、時間は同じではあるが、負担は結構大きくもある。
「しゃーない、しゃーない、切り替えて行こう、もう好きなもの食べれるってことにしよう」
妻役のお付きは、いつもの担当、管理責任者がいた。
それはもちろん、分単位で月の入りを見ながら移動の調整する細かく、面倒くさいことをやってもらうためだ。
「この月の入りについては、どういう意味があるんだ」
「太陽と月は、それこそ暦になってたぐらいだからね、これは太陰暦をベースにしたものなんだよ」
だから来場までのいわゆる旧道も。
「毎年その日の月の入り、これに合わせたものになるから、いわゆる月に近い道を歩くんだよな。今年一回の儀式で終わらせるならば、それこそ空からこんにちはしてもいいが、来年もあるし、来年も空からこんにちはします儀式になったら、誰も出来ないよ」
「人は無理だな、ケーキとか好き?ここのは結構旨いよ」
「チョコレートか、チーズか」
「食事してからでいいんじゃないの?」
「悩ましい問題には時間が必要ね」
「そうだ、そうだ、そのぐらいでいいんだよ」
「向こうは大丈夫かしら」
「そこは大丈夫だろ、やっぱり今回の一番の難しい部分は月に合わせて、それぞれのチェックポイントを通過するだからな」
「でも便利ね、計測機器があるから、割り出せるなんて」
「高いけども、そこは専門の道具だからな」
だいたいじゃなくて、このタイミングでお願いしますが可能になった。
今回はそれを止められたので。
「三門までは歩けたから、まあ、よしとしておくか、全部が理想ではもちろんあるけどもね」
「実際に月が隠れて、月を背負えなくなった時はそこでやめたりもしているから、出来るのならばやった方がいいが、できなくてもそこまでペナルティはないとされるし、まっこんなもんだろう、ただ後で謝罪されるのが楽しみ」
「悪い顔をしている」
「嫌だってさ、こっちの不手際はない、話聞いてると、不安にはなったがな」
「不安にはなってたの?」
「なったな?でもおかしいなが途中からだし、というか、衣装脱いで、顔を見せてくれるとは思わなかった」
「えっ?なんで、その方が早くない?」
「そうかもしれないが、あり得ないよ」
「でもさ、変に疑われるよりはさ」
「疑われないようにこっちは前々から手続きしてたんだもん、言われる筋合いはないかな」
「やっぱり怖いね」
「えっ?何が?」
「あらやだ、無自覚なの?」
「こういうのをきちんとしないと舐められるから、俺はきっちりするだけだよ」
「それは賛成しておく」
「でしょ?」
「これでどうなるの?」
「謝罪、満額はもちろんもらうし、向こうが何を差し出してくれるかな?ってところ」
「う~ん」
「アイツの美形っぷりは見たでしょ?あれで女が騒いでるわけだし」
「来年もお願いしますはありそう」
「言われてはいるんじゃないかな、いわゆる眼福扱いってことで」
「大変だね、美形は…」
「その自覚はないので、言わなきゃ寝癖そのままだったりするからな」
「なんかちょうどいい感じで、ピン!って髪が立つのよね」
「そうそう、おおっと…」
「どうしたの?」
「来場者側の知り合いからだね、そっちがどうなるのか教えてくれるかって頼んでたんだ」
「抜け目ない」
「この辺の感触は大事なポイントだと思う、ああ、やっぱり女性陣が凄かったか」
「そこは今話していた通りね」
「そうだな、あっ、夫婦役ってことで、独身って思われていたみたい」
「あ~」
「これも想定だが、なんかあの人は誰なの?って騒ぎになっているみたいだぞ」
「その辺はどうなの?」
「それこそ、ここはうちのテリトリーじゃなくて、招かれたってことだから、素性としてはうちの人間ですって話にしている。ただまあ、今回執り行った方からすると、危険なことをわざわざ引き受けてくださったっていうこともあるからな、あまり情報は外には出ないかな」
「そうだろうね、出したら危ないし、ただ詰められているんじゃない?あのイケメンは誰なんだって」
「それはそうだろう、まっ、上手く逃げてくるだろうが、そこは心得ているよ」
「信頼してますね」
「そりゃあな、下手にちょっかいだされて、機嫌が悪くなると本当に大変なんだよ」
「それはわかる」
「だろ?」
「ずいぶん楽しそう」
「あっ、噂をすれば」
「なんとやらだな」
「お疲れ様」
「うん、でもそっちこそ」
「世の中全部上手くはいかないなら、こんなこともあるさ」
「でも本当は上手く行ってほしかったくせに」
「そりゃあね」
「俺も会えるのを待ってたんだ」
「そっか、ごめんね」
「こう…さ、着付けのお化粧が終わったよっていう写真もらったじゃん」
「うん」
「お嫁さんみたいで可愛かった」
「そう、ありがとう」
「うん…とってもいいと思うよ」
「ありがとう」
(初々しいね)
「あっ、俺ちょっとトイレね」
「うん」
「そっちはどうだったの?」
「ちゃんと出来たよ、君の分まで頑張らなきゃって思ったし、ここで務めあげるのが俺の責任かなって」
「悪いね、行けなかったわ」
「君が悪くないよ」
「まさか止められるとは思わなかったな、あの時さ、一緒にいたみんなの方が顔がね、引きつってたんだ…」
「守ってくれたんだね」
「そりゃあね、そこは守るでしょ」
だから早く確認が終わるように衣装を脱いだ。
「正直、この儀式よりかは、みんなの方が大事だし」
「ありがとう、『うちの頭領を守ってくださり、この度はありがとうございました』」
『こちらこそ、あなたの大事なもののために力を貸せたことがとても喜ばしい』
「お前ら、何やってんの?」
いわゆる本性の時に発声する言葉、真言をファミレスで交わしたので、そりゃあ怒られる。
「お言葉が来ちゃったのでつい」
「お礼は大事でしょ」
「手を洗っている最中にやけにビリビリするなって思ったら、これだし」
「むっ、まだまだ修行不足」
「本当だよ」
「私もだわ、つい応えてしまった」
「俺から説教をするのはなんだけどもさ、聞き慣れない声に返事をしたらダメでしょうが」
「すいません」
「そんなに怒らないでよ、今回のは俺も悪いんだし」
「内容としてはまともだからいいけどもさ」
「はい、すいません」
「ごめんなさい」
「でも今ので、この辺で悪さしようとしている奴はいなくなったかもな」
「あ~」
ちょっと虚空を見て。
「いるみたいだね」
「やっぱりいるのか」
「それこそ典型的な、知らない何かから声をかけられる奴で、?」
「ああ、それね」
彼女は?の理由を知っているようである。
「それが増えたのが、そのあの人のせいだったりするから」
「えっ?なんだよ、それ」
そこでようやくシートに座る。
「そういう声に乗ってしまったら、まあ、向こうもしつこくとは言わないけども、声をかければ人は乗るんだろうなって思ってしまったわけよ、これが自衛手段を持たない人間がこれから危険な目に合うだろうという理由の一つだね」
「それは怖いな」
「まあ、細かい想定聞かなきゃわからないと思うわ、それこそ対等ぐらいの力を持っている人間に話しかけてくる奴はまともよ、だって何か変なことをしたら、斬られたりするわけじゃない?声に応えてくれなくても、力押しでどうにかなってしまうであろう人間に声をかけてくるのは、その~さ」
「ろくなことにならないね」
「そうなんだよ、それがね、今後増える可能性がある、いや可能性じゃないわね、もうウキウキしてるのよ」
上手く行くかわからないけども、チャンスがないわけじゃないんだね。
それなら…
「とか思ってるよ」
「それを考えると前男…かなり危ないというか、何してんだって言えるよな」
「それが原因で増えるってバレてるの?」
「人間側はそうでもないっぽいんだけども、今の私が説明したら、わかるでしょ?どういうことが起きているか」
「うん、それは凄く、いや、凄まじい怖さだ」
「そういうのから、スパムみたいに話しかけたら、それだけで病むかもしれないし、それでもって返事したら逃げにくくなるし、今はたまたま真言で応対したから、それでビビって、それこそ力の差を感じたんでしょ?…ああそうね、儀式なんかよりも今の応対の方がたぶん効果があるんじゃない?特にこのファミレスは」
朗報、このファミレスがパワースポットになる。
「丁度いいんじゃない?赤字FCだし…って待て、すぐに経営者を調べんな」
「いや~つい自然と手が動いて」
「このぐらいじゃないと務まらないとは思うが、ここはやめておけ」
「なんでか聞いても大丈夫?」
「ここであなたが利益取ると、揉めるぞ」
「なるほど、それは手を出さない方がよさそうだ」
「悪いね」
「代わりは期待できるの?」
「今回はないよ」
「わかった、次は期待する」
「う~ん」
「やっぱりダメか」
「ガメツイキャラを出すのならば、最後まで通しなさいよ」
「そこが良いところなんだよ」
「何のことやら」
「ね、こういう感じなの」
「短い付き合いなのに、なんかこの人がわかったわ」
最近まで起きていた変なこと、それこそなんか不気味な声に話しかけられていたのだけども、ある時からピタッと止んだ。
その時にたまたまお祭りの記事が目に入ったんだけども、たぶんこの写真の人がなんとかしてくれたんだと思う。
なんかその…守れている気がするの。
この日の記事を巻頭にした新聞は、問い合わせが来て凄く売れたそうだ。
「それはいいが、うちには問い合わせがきても、そこは全部断るからな」
『は~い』
当事者以外がみんな返事をした。
その当事者は何をしているかというと、夕食の仕込みである。
台所は人が涙を我慢できないほど玉ねぎのアレ!アイツが空間を支配していた。
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