浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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出来れば俺の手で討たせないでくれ

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「あっ、ちょっといいですかね」
「いいけど」
「すいませんね」
「もしかしてあの子のことか?」
「わかります?」
「わかるというか、半分は推測だけどもね」
「バレバレなんですかね」
「まっ、隠してもないでしょ?」
「ないですが…」
「その割にはあの子の前で抑えているから、それでいいんじゃないの?」
「そ、そうですかね?」
「そうだよ、ガツガツするよりはね、いいとは思う」
「そっか」
「やっぱり不安?」
「そりゃあまあ、そうですね」
「でも好きになるは止められないと思うんだよね」
「それはそうですね」
「良かったね」
「!?」
「えっ?」
「いや、その…なんというか、意外というか、はい、意外です、ビックリしました」
「なんでさ」
「わかりません、なんか驚きましたよ、そういう風に言われるとは思わなかったんで」
「そう?」
「そうですよ、その、そういう感じで言われたことなくて」
「そうなんだ、でも誰かを愛するとかはわかるんでしょ?」
「わかりますけども、なんか今回は毛色が違う感じなんですよね」
「さすがにそこまではわからないよ」
「ですね…」
「まっ、だけども、こんな感じで話が出来ていいんじゃない?」
「いいんですかね」
「そんな話が出来ない恋よりはずっといい」
「はぁ、そんなもんですか」
「そんなもんよ」
「失礼ですが、本当にどういう関係なんですか?」
「う~ん、どういう関係って言われてもな」
「距離は近いが、男女のそれでないように思います」
「これで男女の関係なら?」
「いや、それぐらいはわかりますよ、本当に全くない、でも家族でもない」
「色々あったからね」
「そう言われるのはあまり面白くないな」
「そこは向こうに教えてもらいなさいよ、俺が言うことではない」
「いや、それは…」
「頑張りなさいよ」
「…はい」
「といってもまだ向こうは他を気にかける余裕はないけどもね」
「えっ?そんなことは…」
「あれが本調子だと思ってるの?」
「…」
「あの子はもっと凄いよ」
「いいな、その凄いの見てみたいな」
「変わってるね」
「全部知りたいとまでは言いませんが、やっぱり気になるというか」
「恋に恋するとかはやめておきなさいよ、そういうのを凄く嫌がるから」
「そんなもんですか」
「そんなもんだよ」
「身近にいて彼女を魅力的に感じないんですか?」
「魅力はあるよ、ただそれだけだ」
「枯れてるな」
「余計なお世話」
「すいません」
「あの子の口から色んな話を聞くだけで満足してるからな」
「どんな話をするんです?」
「色んな話だよ、漫画とかの話もする。今は俺のおすすめで浄化してもらってる」
人というのはなんて素晴らしいんだ。
「はぁ、漫画ですか」
「意外と暗い話を見るんだよね」
「えっ?」
「あれ?知らない、暗い話目茶苦茶好きなんだよ、だから俺に勧めてくる時に、暗い漫画を持ってきてな…最高だったが」
「本当にどういう関係なんです」
「よくわかんないな、もうここまで来ると」
「なんで迎えに行ったんです?」
「わからん」
「えっ?」
「話聞いたら、迎えに行かなくちゃなって思ったんだ、でもな…なんて話せばいいのか本当にわからなくて、たから結局変な感じになった」
なんでいるんですか?って言われたぐらいである。
「でも向こうは察したからな、話が早くて助かる」
「羨ましくない関係だ」
「だろうな」
「彼女以外、身近に誰かいるという感じでもないし」
「そういや居ないな」
「寂しくないんですな?」
「何を今さら」
「それはそうでしょうが」
「寂しいときもあったさ」
「そうですか」
「ああ、お節介なのがいてな、未だに気にかけるというか、あいつはもっと自分のことを気にかければいいのにな~だから幸せになると思ったのに」
「俺が幸せにしますよ」
「それは誰にもわからん」
「…」
「悪いな、お前さんのことではないんだ」
「前男ですか」
「ああ、そうだな」
「なんで気にかけているのか、全くわかりませんが」
「それでいいんじゃないの」
「えっ?」
「無理に理解しない方がいいさ」
「それでいいんですか?」
「いいんじゃないの?ダメなの?」
「ダメというか…」
「そこは気にしなくても、世の中は回るさ」
「でも彼女の気持ちは」
「もう諦めはついている」
「それを断言しますか」
「するよ」
「あなたが代わって」
「ん?それがダメなの?」
「それはちょっと悔しい」
「なんでさ」
「こう…信頼感があって」
「君にだっているでしょ、もしくは信頼があったとか、そういうの」
「わかるからこそですよ、わかるからこそ、それを結んでいるというか、ちゃんとあるのが…ね…」
「惚れている方からするとヤキモキするってか」
「はい、そうですよ、なんかこう、俺がそういう関係になりたいのになって」
「そこら辺が恋に恋するなんだよ、話でいいなもわからくはないけど、でもまあ、今はな、精神状態があんまり安定してないのはあるから」
「そうなんですか」
「本調子からすると大分落ちてんな、話をするとわかるんだけども、思い出しててな、昨日な、あいつと俺を間違えそうになってて、謝ってたぐらいだし」
「似てないですが」
「違うんだよ、そうじゃないんだ、側にいたから、何をするにしても…って奴だ」
「そこはわかりせん」
「そっか…でも割りきったと思っていたが、そんな感じから軽傷ではないって感じ」
「長引きそうですか?」
「それはわからない、でもまあ、気長にやるさって」
「俺は何をすればいいか」
「そんなの知らん」
「えっ?」
「お前な…あの子を好きなのは誰だ?お前だろ?なら、お前が考えろよ、なんで俺が考えるんだよ」
「それはそうですか、その~ヒントぐらいは~」
「ヒント!」
「何ですか、その反応は」
「いや、まさかそんなのが欲しいとは思わなかったから、ヒントね、ヒント…あの子の今までを見ると、真面目な奴が基本的に好きだな」
「…」
「意外ではないのか」
「まあ、はい、それはわかります」
「あぁ見えて、男にとって忘れられないタイプになるからな」
「もう俺にとってはそうです」
「罪深いね」
「そうですよね」
「あの子自身はそれを意識しないでやるからな、今回のもそうだが、話を聞くと、忘れた方が確実にいいだろうなとは思った、喪失感はすごいが、まあ、覚えているよりはいいさ、幸せだ」
「聞くのが怖いな、それ」
「いや、なぁに、ただねだっただけだよ」
「何か欲しいものがあったんですか?」
指輪とか?
「自分に触れてほしいってさ」
「…」
「瞳孔開いて、本性出ちゃってるよ」
「すいません、俺、ちょっと無理かも」
「相手の男に嫉妬した?」
「いや、これ、そんなんじゃないです」
ストライクゾーンのど真ん中貫きました。
「うわ…これなんですか、こんな気持ちになれるものなんですね」
「来るよね?俺も結構来たし、お裾分け」
「ありがとうございます、?ありがとうございます?」
「いや~これを俺だけの話にするには重すぎて、もらってくれて良かった」
「そんな事されたら、男の方参りません?」
「参るね」
「ですよね、参るのに、えっ?なんで、禁則踏んだんです?」
「さあ」
「ただもんじゃないですよ、これされて、踏めるって」
「あの子は私ではブレーキにはならなかったので、しょうがないって」
「なんだろう、凄く、前男が可哀想にというか、哀れというか、不思議だ、嫉妬が引っ込む」
「ああ、そうか、そうなっちゃったか」
「なんかこう、感情に起伏が、ただその話を聞いただけなのに出来てしまう」
「そうだな」
「彼女は確かに悪女というか、そう言ってた理由がわかったかもしれない」
「ビビった?」
「はい」
「それならそれでいいよ、こんなの序の口だし」
「序の口ですか」
「最悪あいつ以外誰でもいいから、くっついてほしいと俺は思ってる」
「それもすごい酷い話だ」
「結構俺とあの子はそんな感じだよ」
「それで信頼関係が出来ているのはどうにかしている」
「だよね」
「もう少し愛するとかないんですか?」
「俺とあの子は家族じゃないんだよ」
「…」
「ただ大変なときに、心配した、バカみたいにね」
「その関係は羨ましくもある」
「どうだ、いいだろう?」
「はい、それは本当に」
「だからこそ、あの子には幸せになってほしい」
「こんなこと言うのはなんですが、ご自分の事については?」
「う~ん、俺?俺は特に」
「なんでです?」
「なんでだろうな、十分充実してるからだろうか、あっ、でもさ」
「なんです?」
「さっきも言った通り、なんで迎えに行こうかなんて思ったのかは本当にわからないんだよな。これでさ、他の誰かが行ってたのならば、俺はそのまま戻ってきただろうが、誰もいなかった、誰もな、いなかったんだよ。それってどういうことかわかる?」
「わかりません」
「たぶんあの子は泣くだろうなって」
「…」
「それは嫌だったし、本当に拙いよ、んな柄じゃないのよ、俺って、しかも俺からなんで来たのか、理由を全く言えなかったから、何しに来たんだって話で、あの子は察してくれたけども、そうでなかったら不審者だよ」
「…」
「だから大事なんだよ、ただそれだけかな」
「逆はあったんですか?」
「ああ、あるよ、欠かさずにあの漫画読みましたかっていう話になるし、ただあいつの好みは俺のと違いすぎるんだよ」
今回は人魚漫画です。
「何か嫌なことがあったのか?って聞いたら、いや、何もありませんがってぐらい、薄暗いのを持ってくるからな、面白かったんだが、どうしてこれにこれを合わせて持ってくるんだって」
その話をしているときが、一番嬉しそうな顔をしているのであった。



「ごめんください」
「はい~」
「すいません、私は濡島(ぬれしま)と申しますが」
「はいはい、こんにちは、どうぞ、今日は暑いですから、中に入ってください」
「失礼します」
でもこの地を訪れると思ったのだが、他とは気温がまるで違う気がした。
それこそ、避暑地、そんな言葉が合うし、爽やかな夏という、今では忘れ去られそうな言葉を思い出す。
「こんな田舎にようこそ、麦茶はお好きかしら?」
「あっ、いただきます」
「はいはい」
女性は急いで支度を始める。
「あの~ですね」
「はい?」
「今回、訪問するということで私の事を知っていると思いますが、前職を離れることになったので、これからどうなるかはわからないが、とりあえず今はゆっくりしようということにしたんですよ」
「それは…良いことじゃありません?たまにはそういう時があっても…ね」
「色々ありましたね、はい、色々ありました」
「はい、麦茶をどうぞ」
トン
「その時、たまたまあなたの事を聞いたときに気になったんですよ」
「気になるポイントがどこに?」
最後の人は大丈夫なんですか?
「よくぞご無事で」
「はぁ、ありがとうございます」
「あれから何かご不便はありませんか?」
「こちらに戻ってきましたら、この地に新しく奉られるということで、お祭りが始まるのですが」
「ほう、それはいいですね。良ければ一緒に行きませんか?いえ、案内をお願いできませんか?」
「あの、結構グイグイ来ますね」
「あなたの事が気になってましたから、女性かどうかはもちろん知りませんでしたが、休暇をこちらで取ろうと思っていたときも、まだ暑いときだったので」
「今は避暑地としてテレビかな、取り上げられたら、次の日から予約が出来ないかすごい大変だっていってましたよ」
「その前に予約して良かったと思います」
「それは運が良かった、あの感じではこの辺もしばらくしたら変わるんじゃないでしようかね、でもちょっと寂しいかな」
「ではいい思い出をこれからも作っていけばいいんじゃないですかね?」
「はぁ、そういうものでしょうか」
「そういうものでしょ?」
「濡島さん」
「なんでしょうか?」
「初めてお会いしましたよね」
「はい、しましたが?」
それが何か?
「何がそんなに気に入る点があるのですか?」
「なんででしょうね、話として聞いて気になったはあると思いますが…実際に休みを取るということで、こちらにお世話になる、いえ、案内を務めてもらうとなった時に、色々と世話を焼かれたときに、あ~いいもんだなと、恥ずかしながら私はこの年まで独り身なんですよ」
「それでも彼女さんはおられたでしょう?」
「大分前になります」
「…そういわれると、私も独り身ですけどもね」
「父方の方におられたと」
「はい、まあ、無償の労働力というやつですよ、あそこはその…女性をそう見るところ、地域ですから」
「それは寂れ行く一方ではないですか?」
「そうなんですよ、バス路線も廃止されたとか、…私が口を出すことではありませんがね」
「変わりたくないならば受け入れるしかありません」
「…」
「あなたは自由に生きたらいい」
「もう10年若いときにそうなっていたら…」
「そうですか?あなたの十年前もさぞかし可愛かったでしょうが、今も負けてはいないし、むしろ私は十年前を知りませんから、私は今のほうがいいな」
「あの~」
「なんですか?」
「口が上手すぎる」
「これは失敬、ついね、饒舌になってしまう、言葉が止まらなくなる魅力があなたにはある」
「これは女性に大分勘違いされたりしてきたのではないでしょうか?」
「気になる人にしかいいませんから、今のところそんなことは起きてませんかね」
「嘘だぁ」
「本当ですよ、こればかりは信じてもらわなければならない」
「さすがにそれを信じるほど若くはありませんよ」
「なんです?都合のいいことはいっておいても、いざとなったら逃げたりするんですか?」
「恋愛ではありませんが、儀礼関係でおりまして」
「えっ?」
「その~こんなに混乱起きているんだから、急いで、安寧を祈らなければっていう式典の時、いなければならない人がいなかったんですよね」
「いや~それは~まずくないですかね」
「はい、それで儀式を行うことになりましたが、その方は欠席で行いましたが…それでしばらくしてから、フラッと戻ってきまして、何食わぬ顔でそのまま…」
「ああ~それはマズイ」
「はい、かなりマズイので、さすがの私もまさかそんなことが起きるとは思いませんでした、都合のいいときは、その立場を有効活用していましたし」
「立場を有効活用というのは、綺麗ないい回しですね」
「そうですが、それ以上はご容赦ください、私もそちらとの繋がりは…いえ、もうないんですが、だからといってここで話すのはちょっとという奴です」
「わかりました、それでは次は何の話をしましょうか?」
笑顔でそんなことをいう濡島に、「えっ?」という反応が出るのは、たぶん自然なことだろう。

「お疲れ様です」
「お疲れ、あれ?炎天下走っても大丈夫なの?」
「お陰さまで、ここら辺は涼しいから、昼間でも走っても、熱中症の危険性がないですから」
「ああ、それは良かった」
「しかし、熱中症の予防の加護っていうのは思ったよりもすごいんですね」
「そう?あまりすごいと思われないんだけどもね」
「それは本当にどうかしていると思う」
「う~ん、熱中症とかについてよく知らないからじゃないの?わからないなら、勉強すればいいのに」
「…勉強ねぇ」
「私はあんまり力が強くないからね、あっ、暑くないとは言え、水分はきちんと飲みなさいよ、何飲む?」
奢ってくれるらしい。
「あ~じゃあ」
ガタン
「はい」
「ありがとうございます」
「?」
「いや、なんかこう人間みたいですねって」
「そうかな?」
「ほら、俺の最寄りの森羅万象っていうとね」
「あ~彼はね、そうだね、あんまり隠さないタイプだからな」
「そういうのってあるんですか?」
「あるよ、力強いとさ、あんまり隠す必要はないから、なんかバレても力業って感じで」
「それはわかる」
「だろ?私はそうじゃないからね、人間の方が強い場合もあるからね、そこは上手くやるか、それが出来ないなら隠れるか、逃げるか…ただ私は隠れるのも逃げるのも致命的に下手なんだよ」
「尾が見えるとか」
「白いからね、山とかいるとすんごい目立つんだよ」
なんかあそこに白いのがいるな。
「自然界だと、ホワイトタイガーみたいなもんですかね」
「白くても強くて、上手くやっていけるのはいるんだけどもね、私はそうじゃなかったんだよ」
「でもそのおかけがここでこうして話せているし、すいませんね、奢ってもらって」
「構わないさ、こういうときにお金は使うものだ」
「思ったんですけど…」
「なんだい?」
「もしかして蓄財とかもうまいんですか?」
「そりゃあね」
「いや、ほら、そういう人たちとも会話は弾んでるし」
「儀礼方面に関わっていると、あれって大多数が森羅万象と人側の約束、結びつけるために行うから、人間はお金が必要だってわかるからね、それで覚えていくだけだよ、必要ならば用意するし」
「それは狙われるわ」
「そう思うよ」
「よく無事でしたね」
「そこはほどよく隠してたというか、全力は出さなかったらいいんだろうな、チョロゴンみたいな扱いされることになったが」
「チョロゴン」
「チョロゴンだよ、あれは…でも大分下には見られたから、あの関係性は早く終わらせたかったな」
「そういうとき何を考えるんですか?」
「そりゃあ、一人でやっていくにはどうしたらいいかだよ」
「今は?」
「いや、それはないな…戻ってきたばかりだし、変な話だけども、ちょっと前まで一人生きることはしばらく考えてなかったもんだからね」
(あ~)
「俺はその人の事知らないと思いますが、どういう人だったんですか?」
「えっ、あっ…」
直球で聞かれるとは思わなかった顔。
「そうだな、その時はまだ暑い時期で、神社の日陰でちょっと休憩していたら、声をかけられたかな」
「ナンパですか?」
「その前から知ってた事は知ってたよ、でもあれだ、仕事上で知ってたかな、けどもあれか、その前の辺りから色々と聞かれてたから…」
「それは狙ってましたね」
「そうか…そうだと嬉しいけどもね」
「軽い男じゃないなら、そうでしょうね」
「でも今は軽いのか、重いのかわからなくなってきた」
「なんですか、それ」
「やっていることに軽いものが出てきた、でも中身は激重いというかな」
「それどんな男なんですか」
「真面目すぎて苦労人」
「そういう男がタイプなんですか?」
「いや、あの手は初めてというか、よくわからないな」
「俺もそこまで恋愛に詳しいって訳ではありませんが、たぶんその人はあなたに本気だったんでしょうね」
「それはね…最初はね、あの人とは兄妹、姉弟かな、名義上はなる感じだったんだよ」
「?」
「ええっとその人のお父さんの養子とか、そういう感じになろうとしてたのね」
「ああ、そういうことですか」
「それで私が冗談で『兄さん』って呼んだら、本気で怒って、それだけは嫌だ、ってことでね、まあ、でもさ、そのお義父さんとこの間挨拶だけはしてかたんだけどもね、たぶんそこは言いたかったんだと思う、もしもそれならばあの人が道を踏み外しても、私は残ったからね」
「本当に前男さんは何をしたんです?」
「色々とした」
「色々とした…ですか」
「全容が未だに見えてない」
「うわ…」
「そしてもう関係ない人がこれから危ない目に合うことは決まってる」
「えっ?」
「さっきもちょっとその話をした、私も担当者も今後起きるであろう事には、興味があってね」
「興味?」
「意外と私は趣味が悪いんだよ」
そこで笑うのである。
「その趣味と実益を兼ねてのシミュレーションという奴だね」
「どういう結果が出てますか?」
「とても悪いだ、何しろあの担当者くんが、火中の栗を拾うのが結構好きな俺も手が出しにくいと言われる始末」
「それはよっぽどですね」
「担当者くんと付き合いが長い人ほど、その言い方でわかってくれるから嬉しいよ、まっ、そんなことが起きてるんだわ。私としては自衛の手段がない人間を危険に晒してしまうことになる、これはね、あり得ない事だと思ってる」
「それに気づいているんですか?」
「たぶんまだ気づいてないよ、今はキツいお説教されているんだろうなっては思う、が…ね」
「それもまた推測に過ぎないですか」
「シミュレーションってさ、わかっている情報でしか作り上がることが出来ないなら、今わかっていることでさえも相当に悪いわけよ、何しろ問題起こした本人が返しきれないほどのことになっているのだから」
「それはやがてはどうなると…」
「何も残らないよ」
「…」
「あ~話が暗くなってしまったね、それはいけない、気分だけでも明るくするべきだ。はい、君はシャワーでも行って、さっぱりしてきたあとに、美味しいご飯でも食べなさい」
そういって彼女はスカートをひるがえして、どこかへ行ってしまった。

「モヤモヤするのか?」
「する~」
「それはなんでだ?」
「なんでだろ?」
「わかんないか」
「わかんないね」
「草津でも行くか?」
「温泉?」
「例えだよ」
「例え難しいんだよ」
「あ~そうだな、それで?」
「それでった何さ」
「それでは、それでさ」
「一喜一憂って感じ」
「四文字熟語でわかりやすいな」
「俺は悩んでるの」
「知ってるよ」
「そうか…」
「あぁ…それで?」
「ん~昨日ね、ちょっと話してきた」
「しかし、話せる相手だったとは知らなかったな」
「付き合いが悪いとは聞いてたんだけどもね」
「それは言ってたな、何回か聞いたこともあるし、だからこそ意外か」
「意外だよ、話してみると、大人といいますかね、不思議な気分になる」
「それ術中にはまってないか?大丈夫なの?」
「それは大丈夫、本当にただの言葉なんだ、俺にも理解しやすいというか、よく響く」
「そういうのは天性のものなんだろうかね、羨ましい」
「ん~でもあれは努力を知らないってわけではないよ、そこも好感は持てるんだよ」
「えっ?なんで?」
「力があったとしてもさ、上手く行くわけではないじゃん」
「まあ、そうだな」
「その時どうするかってこと、その点俺はな」
止められない衝動がある。
「そーね」
「それを考えると、大きな力を持っていても振り回されない上手さはあると思う、それは俺にはないからさ」
「力の配分は彼女も上手いからな、余計な力を使ってないが、かなり力量さがあるであろうお前とかとも肩を並べられるというか、安定している強さがある」
「やっぱり彼女は魅力的だ」
「いいんじゃないの?」
「そうだよね、俺の事好きになってくれないかな」
「おいおい、それはここで言うんじゃなくて」
「勇気がないの!」
「それもわかるけどもさ」
あんなに山河を荒らしまくった存在が、恋によって骨抜きにされたといってもいい。
「どうやったら、どうやったら仲良くなれるのかまるでわからない、ただ好きではいけないのがもどかしい」
(そこがわかってるのならばいいんだが)
一方的ならばさすがになにかの手段が必要かなと思ってました。
「ゆっくりやることだよ」
「これで他の奴とか来ません?それか前男がもう一回やり直そうとかいいません?」
「前者も後者もまず起きないよ」
「なんで?」
「説明いる?前者の場合、今は非常勤儀式アドバイザーという立場なので、ナンパとかそういうので声をかけた場合、うちら以外の、それこそ儀式として関わっているところなんかも止めにはいるぞ」
途中で加護が途切れることになったら大変だから。
「実際にそれはあるの?」
「あったはずだ、ええっと、ああこれだな」
男が口車に乗せて、そんな奴等を守ることはない、今度からは俺を守れと、加護を引き上げさせろという、その時は言うこと聞いた森羅万象側の娘が、引き上げてしまいました。
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「まっ、オチもそういうやつだからな」
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「そういう場合も確かにあるよ」
惚れさせることで引き剥がすパターンがあります。
「ただな女の好みはな、千差万別というか、その…彼女を見ればわかるだろう、彼女はあまり男の顔では惹かれないというか」
「強い男は好きらしいよ!」
「う~ん、強いというよりかは」
真面目で、誠実で、しっかりしたタイプな好きなんじゃないかとは思うし。
(申し訳ないが、こいつとは見た目がまずな、違うんだよな)
力の関係で、人になると、力が強いと、外見も魅力的な見た目になります。そのせいで可愛い系好青年、ただし中身はグルルル状態。
(んでもって物怖じせずに喋れるタイプがいいのかなっては思ってる)
周囲の関係性を見てる限り、会話が弾まないと長く付き合うのは難しいのではないかという感じ。
(ただまあ、この辺も要トレーニングだな)
「話は戻すぞ、それでだ、女を最悪討つことになった男というのは山に行った、こっそりな、それこそ相手にばれないように」
「それでどうなったの?」
「女慣れしている男だったから、上手くやったさ、それこそ決めては、俺はそういうことを頼まれて、様子を見るために山に来たが、出来れば俺の手で討たせないでくれっていったら、『はい』っていってな」
「うわ~」
「引き剥がせた、もちろんその女はその辺りにはいられなくなったが、でもそれではダメだろう?代わりに雨を降らせ、土地を実らせることができる、そんな存在がいなきゃダメだが、そこも繋ぎをつけたんで、土地は安泰」
「そういえば金を請求した男はどうなったの?」
「途中から出なくなるんだ」
「えっ?」
「それこそ、付き合っていた女が陥落させられてから、まっ、威を借るなんとかだから、後ろ楯がなくなったらさ」
「生きていたとしても急いで逃げるしかないものね」
「そうそう、そういう意味でも彼女を本当に愛してなかったんだろうな、愛してたら、そっちに怒るでしょ」
「そりゃあね、俺なら…いや俺ならそんな恋愛したくない」
「そこはさ、誰だってそうだろうよ」

まだ心に何かが刺さっているうちは、終わってもいないし、始まらない。      
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