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酷暑の清涼剤
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「ストレス溜まっちゃったな…」
「へぇ~奇遇だね、お兄さん、でもこんなところ歩いちゃって…たら…」
そこで本性の目で睨まれたのだから、言葉が止まってしまった。
夜道を歩いていると、ヘッドライトで照らされる。
人の目では眩しすぎて、誰が照らしたのかわからないものだが。
「なんだい?」
「なんだい?はないだろう?せっかく迎えに来たのにさ、しかし…お前、身なりを気にしろよ、着替え持ってきて正解だったな」
そういって後部座席に着替えを取りに行く間に、ブルブルっと身を震わせていた。着替えを差し出す頃には、きれいさっぱりな姿に戻っていた。
「それ便利だな」
「そう?でも着替えはありがとう」
笑顔で答えた。
「飯でも食うか」
「お腹減ってない」
「俺が減ってんだよ」
「そっか…」
「さっきお前がキレたみたいだから、駆けつけて正解だった」
「ああ、あれね、最近はずいぶんと命が安くなったものなんだなって、そう感じたよ」
「治安はあんまり良くないからな」
「それも思うよ…」
話題を変えたいが、こういう時無難なものが思い付かないところが辛い。
「最近彼女とはどうなんだ?」
「あっ…うん、まだそういう仲ではないんだけどもね、いいとは思うよ」
こんな言い方をすると、さっきまで血泥にまみれていた男とは思えない。
「会いたい?」
「会いたいな」
「もう寝ているのか?起きているのならばメッセージでも送ったら?」
「な、なんて送ろう、なんて送ったらいいと思う?」
こういう普通のところを見ると、微笑ましくなる。
「後さ、実は彼女の父親代りみたいな人に、今度食事でもどうかなって誘われた」
「父親代り?えっ…」
名前を思い出す。
「誘われたの?」
「うん」
よく誘えたなの顔をしてたところに。
「それで何を着ていけばいいかな、こう俺としては男らしく、娘さんを守れる感じにしたい」
「そういうときは無難にしておけよ、いつもは着ないようなものをそんなときに着るとな、浮いちゃうんだよ」
「それもわかるけどもさ」
「しかし、ずいぶんと仲がいいじゃないか」
「これは運命だよね」
「運命ね…」
確かに今回の件は訳がわからない、あのタイミング以外、あそこで出会うということはなかった出会いから始まったのだから。
(それこそどっちかが五分ズレても会わないんだよな)
運命なんてものは信じないが、あの一瞬しか機会がどう考えてもないのである。
ファミレスに移動。
「このお店にした理由は?」
「俺が株主でもある」
「なるほど」
「やっぱり実際に投資するのならば、こうして店に出向いた方が発見というか、気付きがあるわけよ」
「客層とか?」
「そうそう、いい客を掴んでいるところはやっぱり伸びるからな」
「ふぅん」
「おいおい、この辺もきちんと覚えてくれよ、お前だって奉られる側に立つんだから」
「なんか好き勝手やってきただけだから、実感があんまりないな」
「それでもタイミングとして今だね」
「それはなんで?」
「他所で長らく儀式に絡んできた、経験を積んで、それで尚且つ今はフリーになった彼女がいるからな」
「理由がそこ?」
「人側の調整者も少なくて貴重だが、話がわかって、なおかつもしもの時にお前を止めには入れるという理想の形を取れるんだぞ、それにお前が気に入ったのならば、俺からは文句ないよ」
「仲良くはこれからなるけどもさ」
「お前が裏切らなきゃ大丈夫だが、お前はそういう人間ではないし」
「そうかな?」
「あっ、注文忘れてたわ」
そういっていつも食べているものと、一皿食べたことがないものを頼んだ。
「頼んだ理由は?」
「前に彼女が頼んでいたので、食べて、味の再現したいんだよね」
「本当に惚れてんだな」
「ベタ惚れだよ」
「そういうのって怖いんだよ」
「なんで?」
「いい時はいいんだ、何かあったら悪く転じる、それこそ彼女の前の男みたいにな」
ピクッ
「調査はこっちでも続行しているってところだな、ただ調査しているとわかると、銃口がこっちに向くから浅く、代わりに長くにはなるだろうが、聞くか?」
「ああ、是非とも聞きたいね」
声のトーンは冷たく。
「話の焦点としては、禁則に関しての事前の説明はどこまであったのか、そしてそれを破った場合はどうなるのかかなとまずは思ったんだけども、正直俺もなんでそれ破ったんだろ、バカじゃないの?ってしか言えなかった」
「そんなになの?」
「そんなにだな、俺も知らなかったのだが、あの辺は禁則については、破門される恐れもあるし、その業界、特に伝統を重んじる一派は確実に嫌煙するようなことだむた、だからその前の男は、各種伝統を守る一派からは距離を置かれることは決定している」
「…理解できないのが理解できた」
「だろ?これは彼女さんは厳しいは、あのタイミングで出てきて正解と言える、たぶん今なら出てくることも難しくなってたんじゃないかなって、ほら、船は沈むが竜はそこにいる」
『へぇ』
「声が変わってんぞ、そんなんでいちいち怒ってどうする?その姿を見たら、彼女は頼りなく感じるぞ」
「難しい」
「そこはな、お前ががここで本性のままになったのなら、救助隊が派遣される事態にならから勘弁してくれ、まっ、その時には俺死んでいるから、後はよろしくやっておいてくれ」
そういって炭酸水をゴクリと飲んだ。
「俺、おかわり持ってくるよ、また炭酸水でいい?」
「烏龍茶あるなら烏龍茶」
「わかった!」
ドリンクバーに向かう後ろ姿を見て、今回は止まってくれたが、ヒヤヒヤしたようで、ため息を一つついた。
「挨拶は終わりました」
「おつかれさん」
「しかし…ですね」
「どうしたの?」
「今、声をかけられている男性がいると知りましたところ、一度会わせてねと約束を取り付けることになり、どうも二人で食事をするそうです」
「…」
「なりますよね、そんな顔に!」
「なるよ、ただ者ではないとは思っていたが、まさか、そこまでの人だったとは思わなかった」
「私もですよ」
「約束を取り付けたぐらいだから、後は任せていいんじゃない?さすがに君がいたら話しにくいこともあるんじゃないの?」
「そうですね…ただ、その生きるの死ぬのだけはやめてほしい」
「そこはな、でもわからないというのが俺としても本音」
「ですよね、思った以上にいい勝負出来るんじゃない?とか浮かびますが、そんなの浮かんじゃダメですもんね」
「見てみたさもあるが、ダメだろうな」
「じゃあ、誰か仲裁を頼むことにいたします」
「話がわかる、それでいて止めれるとしたら?」
「アテがないわけではないんですよね、止めれるを重視するなら、先日の儀式で挨拶した方がそうですから、その方に聞けば、止めれる誰かを紹介してもらえると思うので…早い方がいいかな、連絡してきます」
気が重そうである。
「先日はどうも、あのすいませんが、実はご相談したいことがありまして、連絡したのですが、お時間は取れますでしょうか?とお伝えできれば」
すると少々お待ちくださいと言われて。
「はい」
そのまま代わってくれた。
「あのう、先日はどうも」
「こちらこそ、どうも、助かりました」
「そうでしたか、それは良かったです、実はですね、そちら様でなければどうにもならないような事が起きそうなので、お知恵を貸していただければと」
「なんですか?」
話を説明する。
「また豪胆な人がいたものですね」
「はい、私も少々ビックリしております」
「確かにそれはこちらに相談するのが筋というか、日取りを出来るだけ早くに教えていただいたら、止めれる相手を向かわせます」
「ありがとうございます」
「でもしかし…」
「なんでしょう」
「正直あいつが色恋沙汰となるとは思いませんでしたから、びっくりはしております。まっ、先日あなたが側にいたところでうっすらとは感じておりましたがね。あいつもいい年ですから、そろそろ落ち着いた方がいいと思ってますから、どうかよろしくお願いします」
「えっ?はっ?ああっとまだ私はそういう関係ではないのですが…役回りを任されている分ならば全ういたしますとしか言えません。今はそれでお許しください」
「わかりました、今はそれで」
好き勝手都市部で放電した奴が上空にいたので、お前マジふざけんなよと、その辺りを縄張り、または守る立場の狼に、肝臓の辺りをガブ!っとされて、好き勝手放電した奴はそのまま逃げていった。
それを遠くから見ていた彼女。
(雷、ドッカンドッカンは確かに楽しいけども、そんなことしたら、怒られるに決まっているよ)
「そしてその時、噛みきった部位がこちらです」
未だに雷のエネルギーを秘めているのだろうか、ゴロゴロ!とこの青空の下でも聞こえる。
「明らかに人間が触れないので、まず触っても大丈夫とか、そういうの確認したいんだがな」
退散させたのはうれしいが、このお土産はちょっといらない。
「でさ、困っている人たちがいるんだけども、そういうのに興味ないかな」
「気さくに頼んでくるな」
「できれば恩は売れるときに売っておきたいなって思ってて、特にうちにしかたぶんできないなっていうやつならば、特にっていうか」
「でもあれでしょ?この間の雷の」
「知ってるなら話は早いよ」
「見てたからね。あれか…一番いいのは蓄えているエネルギーっていうのかな、みんなに電気として利用してもらえればいいんだけども、触れないぐらい強いということは…送電線がもたないからな」
「電圧が強すぎるのか」
「そう、それ、そうなるとな、海に一回運んで、ポチャッと落とした方がいい気がする」
「運ぶのも大変だろ」
「それぐらいならばやるよ、ただまあ、有効資源にするのはアリな方法ではあるってことだけは伝えておくよ」
「その海に捨てた場合は、後でどうなるんだ?」
「帯電が抜ければ、たぶん使い勝手のいいものになるが、盗まれそう、狙われそう」
「あ~」
「安置して、そこで蓄えられたもの、毒気を抜くとしたらどのぐらいかかるんだろう、そこがわからないからな」
「実際に見ればわかるか?」
「私より他の人の方がいいんじゃないの?見てもわかるかどうかわからないって感じだね」
「先方にはそう伝えておくから、もしもそれでも来てくれと言われたら、行ってくれるか?」
「そりゃあ、仕事だろうからね、行くよ」
「そこまでしてくれるならば悪くはないさ」
「すまんね、交渉事は任せるよ、ただまあ、無理はしないでおくれよ、君が有能すぎるのは知ってるからね」
しっかりと釘は刺された。
(やりにくいが、それが心地よいというか)
それこそ頭脳戦というのが好きな人間にとっては、たまらないのだ。
「今、何してる?」
「さっきまでお仕事でしたよ」
「そう…なんだ」
「なんです?そちらはお仕事は?」
「やり過ぎたから休憩しろって」
「何をやったんですか」
「あ~首を取りに来たからさ」
「相変わらずですね」
「ちゃんと手加減はしたから」
「そういうこと言ってるんじゃなくて、大丈夫でしたか?」
「うん、もちろん、見る?全然怪我はしてないよ」
「ご飯食べました?」
「食べてないけども、お腹は減ってないよ」
「私はこれから食事ですが、一緒に食べますか?」
「うん!!!あっ、あのさ、俺、結構料理とかも好きなんだけども」
「そんなこと言ってましたね」
「それでさ、一回俺の料理を食べてみる気はないかな?嫌だったら、ごめんだけどもさ」
「どういうものを作るんですか?」
「色々作るよ、唐揚げとかも、むね肉から選んでくるし、魚だってさ、今の時期の山の魚って食べたことある?美味しいんだよ」
「料理が好きなんですね」
「まあね、うん」
そこで後ろから、後片付けするので、そういう話は電話ではなく、お会いして話したらどうですか?と言われる。
「あ、あ、あのさ、今はどこにいるのかな?」
「今ですか?」
ここは事務作業をするオフィス1といったところか。
「良ければすぐに行きたいんだけども」
「こちらに来ますか?」
「うん、行く~」
そういって本当にふらっと、人では無理な距離を縮めて、顔を見せた。
「お帰りなさい」
「…ただいま」
どうしよう、なんかこう、もう夫婦といっても過言ではないのでは?
このオフィスの人たち、普通にお帰りなさいは同僚には使っています。
そう、それに倣っただけなのです。
「…怪我はないみたいですね」
「あれぐらいで俺に傷つけようとするなんて、無理じゃない?」
「もう!そのままで来ましたね」
ちょっと返り血が残ってるスタイル。
「シャワーでも浴びてきたらどうですかね」
「そんなに臭うかな」
「人間には僅かに、私ならばたっぷりと」
「シャワー借りるね」
そういってシャワールームに向かい、脱衣場を閉める。
そこで急いで準備をすると。
「タオル忘れてどうするんですか?」
するとドアの隙間から、手だけソロ~と出して、受け取り。
「ありがとう」
そういってバタンとドアを閉めた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「なんかまた首狙いが出たんだって?」
「そうですね、今、シャワーに行ってますよ」
(あいつがシャワーね)
「そうなんだ」
「そんなに首を取ろうと、狙ってくる人たちが多いんですか?」
「うん、昔から」
「昔から?」
「そうだよ、ある程度以上に強いって知られているとね、どうしても狙われるんだよね、それこそ首落としをしたのは俺だって名乗りたい、そんな血の気の多い奴がいるってことで」
「大変だな」
「そっちはどうなの?」
「私は直接は来ないですね」
「でも意外と狙われそう」
「そうは思われているみたいで、不快なことは多いかな」
「不快ね」
「まあ、最近はそれにも慣れたかな、なんかそういう人たちって、人は違うけども、考えることは同じだから、似たようなことをしてくるんですもん」
「同じ人間として…」
お決まりの言葉を繋げると思ったのだが。
「もっと悪意は賢く見せてほしいね」
(この人は世の中に出していい人なのだろうか)
「あっ、来てたの?」
「ああ、まあな」
シャワー上がりの男がこっちを覗いている。
「俺が忙しくしているってことは、世の中がろくでもないことになってるってことだな」
「もう少しのんびり生きたらいいのにね」
「そうだよ、たまに血が騒ぐぐらいがちょうどいいんだよ」
「そこは同意できない」
「私もさすがに、でも大変ね、狙われるなんて」
「…もう慣れたよ」
もしも本性を出していたのならば撫でてほしいはあるのだろう。
「俺いたら、邪魔かな」
「いや、いてよ」
「だってこういうの邪魔するのもな」
「まだそういうのじゃないから」
「でもこっちはもういいかなって思ってて」
「少しはピシッとしてください」
「はい」
一応はキリっとはしてくれた。
「はい、よろしい。ええっとですね、食事会を約束したと思いますが、何かあったときのために止めれる相手を用意することにしました」
「お義父さんにはそんなことしないから」
「確かに父親代りではありますけども、それでも念には念です」
(俺には漢字まで変換されて見えているから、すれ違っているのがわかるが、しゃべっている同士は気づいてないんだろうな)
「何かあってからでは遅いので」
「そんなに心配させていた」
「正直どっちも心配なんですよね、約束をしようとした、約束しちゃったって、なんでどっちも引かなかったのかなって?一歩譲るがあの時なかった、それならば感情のままどこまで行ってもおかしくはありませんし」
「そこは俺も同意、約束をする方もする方だし、よく…したなって、こういうときは俺に相談してほしかった」
「ごめん」
「相談された場合はどう答えていたの?」
「気持ちはあるが、現実は難しい、それこそ現実は今言ったみたいに、何かあったときに止めれる相手がいないからだったんだけどもね。よく引き受けてもらったな」
「ええ」
「報酬は?」
「そういえば…」
「すぐに確認して!」
「はい!!」
すると、先方もそれはこちらでも考えてなかったと言われた。
「どうしよう」
「全員うっかりか!」
さすがに怒られた。
「今回は私用の依頼ですから、出せるものの目録を作りますよ」
「それならばあれがほしい」
「あれとは?」
「熱中症防止の加護」
「いいですよ」
「すまんな、うちの関係者が熱中症になるのを怖がっててな、あれを取り除いてやりたい」
「じゃあ、先にかけておきます?いや、今日は…」
気温を確認したあとに。
「もうかけておいてもいいですかね」
「待て待て待て、早い早い早い」
そこも止めが入った。
「ポイポイ、加護を使うんじゃない」
「でもこれだと人は熱中症になりますよね」
関係者は高温多湿、猛暑の野外でお祭りの準備している最中でした。
「あ~、う~」
思考を高速回転させて。
「もしかしたら、今回の分と加護が釣り合ってない、足りない可能性があるから、その場合は再見積りさせてもらうって感じでよろしいでしょうか?」
「ああ、それは構わないが」
(あっ、チョロいって思ってる)
電話中の顔がね。
「もしも熱中症になった、なってしまってからの治療費や期間を考えれば、それほど悪い話ではないし」
「なるほど、そういうことでしたら迅速に対応いたしますね、何しろうちの非常勤儀式アドバイザーは有能なので!」
電話が終わったあと。
「はい、これで好きにかけてきて」
「わかりました、ちょっと行ってきます」
「あっ、俺行くよ、俺がいた方が話は早いでしょ」
窓を開けて、そこから飛行機雲と黒煙が青空に線を書いていった。
熱中症とは恐ろしい状態である。
「実際にあの元気だった人が崩れ落ちるのを見たら、恐ろしくなりました」
さっきまでしゃべっていた人が、ドサッと倒れる姿は、悲鳴をあげたくなる。
「まっ、それが熱中症と熱中症が目の前で起きたときのショックみたいなもんですね」
「冷たいお茶をどうぞ」
「どうも」
「話もそこそこですが、先にかけておきます?」
「こちらとしてはいいんだが、いいのか?すまない」
頭を下げた。
「いいですよ、私で良ければね、とりあえず、今、外で頑張ってくださる人の熱を逃がしてあげましょう」
ふわっと、熱が逃げたものだから、それが加護と知らない人たちは、あれ?という顔になり。
「ちょっと気分悪いのかな」
「俺もそうなんだよな、なんかさっきと感覚が違うっていうか」
そこでざわつく作業員たちの側に、お偉いさんたちがやってきたものだから、空気がピリッとする。
「あ~どうも、みなさん」
「この女性はな…」
氏素性を軽く説明したあとに。
「熱中症予防の加護を持っているから、こうして暑い中作業をしてくれるみんなのために契約をしたのだ」
「えっ?ではこの暑さを感じない、妙な感覚は?」
「熱がこもっていたので、余分な分を排出してるって感じ、もちろん、あまり気温差があると肌寒かったりするので、そこは調整しますけども」
「それは長袖とかでいいだろう、そこまではさすがに」
「そうですか?それならば楽ですね。ただそれでも水分はきちんととってくださればいいですかね。加護はあっても夏は夏、暑さは暑さなので」
加護された方の無茶の負担を被るスタイルなので、無茶はしない方がもちろんありがたい。
「加護ってこういうことできるんだ」
「ピンポイントで役に立つ加護じゃないですか」
「うわぁぁぁい、これでコーキングで倒れるのビクビクしなくていいぞ」
熱中症予防の加護はこのように好評であった。
かけ終わってからまた話し合いの席に戻る。
「熱中症予防の加護ってあんまり利かないね」
「そうね、本当に最近じゃないの?必要とされているの、私は前からそれ出来たけども」
「とりあえず助かったし、熱中症の加護があるとわかれば…いや、むしろその加護があるとわかったら、非常勤儀式アドバイザーなんてやらずに、奉られる側になるんじゃないのか?」
「奉られるのは、今はあんまり考えてはない」
「だが、熱中症予防の加護を持っているとわかれば、奉ろうとする人間はいるんじゃないか?」
「ファンがついたジャケットやら、機能性衣類の企業にそこは任せておくよ」
「欲がないというか、なんというか、あまり知らないので申し訳ないが、彼女さんはこういう方なのか?」
「俺もそこまで長い付き合いではないども、こういうところはあるんだよね。何て言うのかな、飄々としているっていうのかな」
「飄々か、ぴったりだな、人が好きかと思えばそうでもないし、嫌いかと言われると世話を焼いているって感じだ。失礼ですが、以前はどちらに?」
「嫁に行ってました」
「嫁ですか?どのような大主の元に行っておられたのですか?」
「人ですよ」
「えっ?」
「少しばかり人の隣で嫁の真似事をしておりました」
「それでそいつ、バカみたいなことしたから、戻ってきたんだよ、戻ってきてからすぐなんでしょ?俺があったときって」
「そうですね、あっ、これから何をしようかな、もう準備してたこと、みんなやらなくていいからってうちひしがれていた時に、目が合いましたね」
「合ったね、なんでこんなところいるのかなってね」
「それはまた運命的な出会いというか」
「そう思ってくれる?俺はそう思ったよ!」
「私はあまりそうは…」
言葉に温度差を感じる。
「でもそこから非常勤儀式アドバイザーになって、忙しくしてますけども、感謝はしてますよ、だってあのままだったら、絶対にぼぉ~としてて、そこを狙われていたかもしれないし」
どうでもいいや、あぁ、この苦しみが終わるのならば、生きていることも…
「ダメだよ、それ!そんなことしたら、俺、絶対に許さないから」
「そうなると止めるのは私一人では無理そうだな」
「傷つけた奴、悲しませた奴は絶対に許さない」
「怒ると水生に住んでましたっけ?ってぐらい暴れるみたいなんですが、本当なんですか?」
長い付き合いなのでそこも知っているだろう。
「人魚ぐらい気が短いな」
「そこまでなんですか」
人魚、人間に対しては非常に気が短い、間違って釣ろうもんなら、「誰を釣ってるんだよ!」それだけで大波を起こしてくるので、漁師は大変な職業である。
「熱中症の加護の話に戻るが、我々は熱中症にはならないから、それこそ元々は人に合わせたものとお見受けしますが、それで合っておられますか?」
「はい、合ってますよ」
「そうでしたか」
「人ってあいつのため?」
「いや、父親代りのあの人達が暑い中でもスーツって大変でねって話からだね」
なんで人間は熱中症になるのに、そんな格好をするですか?
人間にはね、譲れないことがあるんだよね。
「その時はふぅんだったんですが、さすがに体調を崩されたときがあって」
それこそ、尾で溜まっている熱を吹き飛ばした。
「今の何?」
「熱がこもっていたから、一旦リセット、あ~熱がまた戻ってしてる」
尾をパタパタのふりふり。
「これでよし」
「何をしたの」
「これで熱の戻り無し!」
そこで一人だけ涼しい顔をしてるが、他の人間は夏というか、熱中症の危険を満喫しているものだから。
「どうにかならないのかな」
「いいですよ」
「助かる」
それで身近な人間には熱中症の加護は振り撒かれたのではあるが。
「前にどういうことはできますか?って聞かれたことがあるんですよ」
「何のために?」
「奉るか、奉らないかって決めていたんだと思うよ、それで熱中症予防は効果的ですっていったら、ああそうなんですか、で話は終了した、やっぱり地味だったかな。人間って派手目なのが好きじゃん、それか定番とかね」
派手なの
大金にウハウハ恵まれます。
異性にばっちりモテモテです。
定番
交通安全
家内安全
学業成就。
「なんで知る人ぞ、知るって感じだね。でも熱中症加護までは行かなくてもさ、今日はちょっと暑すぎるかなって言うときは、雲を割って、冷たい風を用意したりもしたんだよね」
ああ、なんか涼しくなってきたな。
「ホッとした顔を見たら、こちらもなんだか嬉しくなってしまうものなんだなって」
(お前どうしたんだ)
プス~と膨れている昔からの知己なんて始めてみた。
(だって今の、あいつを思い出したし)
(あ~これはそういう話しか)
「もしも良ければで構いませんから、この辺りにもたまに冷たい風を吹かせてくれませんか?私がそれができたのならばいいのでしょうが、何分その辺はあまり器用ではなく」
「そうですね、では酷暑の清涼剤のように、気まぐれに吹き抜かせることにいたしましょうか」
すると上空から、熱を入れ換えるような風がスルッと入り込み、これはありがたいと暑さに耐える人たちは思ったという。
「へぇ~奇遇だね、お兄さん、でもこんなところ歩いちゃって…たら…」
そこで本性の目で睨まれたのだから、言葉が止まってしまった。
夜道を歩いていると、ヘッドライトで照らされる。
人の目では眩しすぎて、誰が照らしたのかわからないものだが。
「なんだい?」
「なんだい?はないだろう?せっかく迎えに来たのにさ、しかし…お前、身なりを気にしろよ、着替え持ってきて正解だったな」
そういって後部座席に着替えを取りに行く間に、ブルブルっと身を震わせていた。着替えを差し出す頃には、きれいさっぱりな姿に戻っていた。
「それ便利だな」
「そう?でも着替えはありがとう」
笑顔で答えた。
「飯でも食うか」
「お腹減ってない」
「俺が減ってんだよ」
「そっか…」
「さっきお前がキレたみたいだから、駆けつけて正解だった」
「ああ、あれね、最近はずいぶんと命が安くなったものなんだなって、そう感じたよ」
「治安はあんまり良くないからな」
「それも思うよ…」
話題を変えたいが、こういう時無難なものが思い付かないところが辛い。
「最近彼女とはどうなんだ?」
「あっ…うん、まだそういう仲ではないんだけどもね、いいとは思うよ」
こんな言い方をすると、さっきまで血泥にまみれていた男とは思えない。
「会いたい?」
「会いたいな」
「もう寝ているのか?起きているのならばメッセージでも送ったら?」
「な、なんて送ろう、なんて送ったらいいと思う?」
こういう普通のところを見ると、微笑ましくなる。
「後さ、実は彼女の父親代りみたいな人に、今度食事でもどうかなって誘われた」
「父親代り?えっ…」
名前を思い出す。
「誘われたの?」
「うん」
よく誘えたなの顔をしてたところに。
「それで何を着ていけばいいかな、こう俺としては男らしく、娘さんを守れる感じにしたい」
「そういうときは無難にしておけよ、いつもは着ないようなものをそんなときに着るとな、浮いちゃうんだよ」
「それもわかるけどもさ」
「しかし、ずいぶんと仲がいいじゃないか」
「これは運命だよね」
「運命ね…」
確かに今回の件は訳がわからない、あのタイミング以外、あそこで出会うということはなかった出会いから始まったのだから。
(それこそどっちかが五分ズレても会わないんだよな)
運命なんてものは信じないが、あの一瞬しか機会がどう考えてもないのである。
ファミレスに移動。
「このお店にした理由は?」
「俺が株主でもある」
「なるほど」
「やっぱり実際に投資するのならば、こうして店に出向いた方が発見というか、気付きがあるわけよ」
「客層とか?」
「そうそう、いい客を掴んでいるところはやっぱり伸びるからな」
「ふぅん」
「おいおい、この辺もきちんと覚えてくれよ、お前だって奉られる側に立つんだから」
「なんか好き勝手やってきただけだから、実感があんまりないな」
「それでもタイミングとして今だね」
「それはなんで?」
「他所で長らく儀式に絡んできた、経験を積んで、それで尚且つ今はフリーになった彼女がいるからな」
「理由がそこ?」
「人側の調整者も少なくて貴重だが、話がわかって、なおかつもしもの時にお前を止めには入れるという理想の形を取れるんだぞ、それにお前が気に入ったのならば、俺からは文句ないよ」
「仲良くはこれからなるけどもさ」
「お前が裏切らなきゃ大丈夫だが、お前はそういう人間ではないし」
「そうかな?」
「あっ、注文忘れてたわ」
そういっていつも食べているものと、一皿食べたことがないものを頼んだ。
「頼んだ理由は?」
「前に彼女が頼んでいたので、食べて、味の再現したいんだよね」
「本当に惚れてんだな」
「ベタ惚れだよ」
「そういうのって怖いんだよ」
「なんで?」
「いい時はいいんだ、何かあったら悪く転じる、それこそ彼女の前の男みたいにな」
ピクッ
「調査はこっちでも続行しているってところだな、ただ調査しているとわかると、銃口がこっちに向くから浅く、代わりに長くにはなるだろうが、聞くか?」
「ああ、是非とも聞きたいね」
声のトーンは冷たく。
「話の焦点としては、禁則に関しての事前の説明はどこまであったのか、そしてそれを破った場合はどうなるのかかなとまずは思ったんだけども、正直俺もなんでそれ破ったんだろ、バカじゃないの?ってしか言えなかった」
「そんなになの?」
「そんなにだな、俺も知らなかったのだが、あの辺は禁則については、破門される恐れもあるし、その業界、特に伝統を重んじる一派は確実に嫌煙するようなことだむた、だからその前の男は、各種伝統を守る一派からは距離を置かれることは決定している」
「…理解できないのが理解できた」
「だろ?これは彼女さんは厳しいは、あのタイミングで出てきて正解と言える、たぶん今なら出てくることも難しくなってたんじゃないかなって、ほら、船は沈むが竜はそこにいる」
『へぇ』
「声が変わってんぞ、そんなんでいちいち怒ってどうする?その姿を見たら、彼女は頼りなく感じるぞ」
「難しい」
「そこはな、お前ががここで本性のままになったのなら、救助隊が派遣される事態にならから勘弁してくれ、まっ、その時には俺死んでいるから、後はよろしくやっておいてくれ」
そういって炭酸水をゴクリと飲んだ。
「俺、おかわり持ってくるよ、また炭酸水でいい?」
「烏龍茶あるなら烏龍茶」
「わかった!」
ドリンクバーに向かう後ろ姿を見て、今回は止まってくれたが、ヒヤヒヤしたようで、ため息を一つついた。
「挨拶は終わりました」
「おつかれさん」
「しかし…ですね」
「どうしたの?」
「今、声をかけられている男性がいると知りましたところ、一度会わせてねと約束を取り付けることになり、どうも二人で食事をするそうです」
「…」
「なりますよね、そんな顔に!」
「なるよ、ただ者ではないとは思っていたが、まさか、そこまでの人だったとは思わなかった」
「私もですよ」
「約束を取り付けたぐらいだから、後は任せていいんじゃない?さすがに君がいたら話しにくいこともあるんじゃないの?」
「そうですね…ただ、その生きるの死ぬのだけはやめてほしい」
「そこはな、でもわからないというのが俺としても本音」
「ですよね、思った以上にいい勝負出来るんじゃない?とか浮かびますが、そんなの浮かんじゃダメですもんね」
「見てみたさもあるが、ダメだろうな」
「じゃあ、誰か仲裁を頼むことにいたします」
「話がわかる、それでいて止めれるとしたら?」
「アテがないわけではないんですよね、止めれるを重視するなら、先日の儀式で挨拶した方がそうですから、その方に聞けば、止めれる誰かを紹介してもらえると思うので…早い方がいいかな、連絡してきます」
気が重そうである。
「先日はどうも、あのすいませんが、実はご相談したいことがありまして、連絡したのですが、お時間は取れますでしょうか?とお伝えできれば」
すると少々お待ちくださいと言われて。
「はい」
そのまま代わってくれた。
「あのう、先日はどうも」
「こちらこそ、どうも、助かりました」
「そうでしたか、それは良かったです、実はですね、そちら様でなければどうにもならないような事が起きそうなので、お知恵を貸していただければと」
「なんですか?」
話を説明する。
「また豪胆な人がいたものですね」
「はい、私も少々ビックリしております」
「確かにそれはこちらに相談するのが筋というか、日取りを出来るだけ早くに教えていただいたら、止めれる相手を向かわせます」
「ありがとうございます」
「でもしかし…」
「なんでしょう」
「正直あいつが色恋沙汰となるとは思いませんでしたから、びっくりはしております。まっ、先日あなたが側にいたところでうっすらとは感じておりましたがね。あいつもいい年ですから、そろそろ落ち着いた方がいいと思ってますから、どうかよろしくお願いします」
「えっ?はっ?ああっとまだ私はそういう関係ではないのですが…役回りを任されている分ならば全ういたしますとしか言えません。今はそれでお許しください」
「わかりました、今はそれで」
好き勝手都市部で放電した奴が上空にいたので、お前マジふざけんなよと、その辺りを縄張り、または守る立場の狼に、肝臓の辺りをガブ!っとされて、好き勝手放電した奴はそのまま逃げていった。
それを遠くから見ていた彼女。
(雷、ドッカンドッカンは確かに楽しいけども、そんなことしたら、怒られるに決まっているよ)
「そしてその時、噛みきった部位がこちらです」
未だに雷のエネルギーを秘めているのだろうか、ゴロゴロ!とこの青空の下でも聞こえる。
「明らかに人間が触れないので、まず触っても大丈夫とか、そういうの確認したいんだがな」
退散させたのはうれしいが、このお土産はちょっといらない。
「でさ、困っている人たちがいるんだけども、そういうのに興味ないかな」
「気さくに頼んでくるな」
「できれば恩は売れるときに売っておきたいなって思ってて、特にうちにしかたぶんできないなっていうやつならば、特にっていうか」
「でもあれでしょ?この間の雷の」
「知ってるなら話は早いよ」
「見てたからね。あれか…一番いいのは蓄えているエネルギーっていうのかな、みんなに電気として利用してもらえればいいんだけども、触れないぐらい強いということは…送電線がもたないからな」
「電圧が強すぎるのか」
「そう、それ、そうなるとな、海に一回運んで、ポチャッと落とした方がいい気がする」
「運ぶのも大変だろ」
「それぐらいならばやるよ、ただまあ、有効資源にするのはアリな方法ではあるってことだけは伝えておくよ」
「その海に捨てた場合は、後でどうなるんだ?」
「帯電が抜ければ、たぶん使い勝手のいいものになるが、盗まれそう、狙われそう」
「あ~」
「安置して、そこで蓄えられたもの、毒気を抜くとしたらどのぐらいかかるんだろう、そこがわからないからな」
「実際に見ればわかるか?」
「私より他の人の方がいいんじゃないの?見てもわかるかどうかわからないって感じだね」
「先方にはそう伝えておくから、もしもそれでも来てくれと言われたら、行ってくれるか?」
「そりゃあ、仕事だろうからね、行くよ」
「そこまでしてくれるならば悪くはないさ」
「すまんね、交渉事は任せるよ、ただまあ、無理はしないでおくれよ、君が有能すぎるのは知ってるからね」
しっかりと釘は刺された。
(やりにくいが、それが心地よいというか)
それこそ頭脳戦というのが好きな人間にとっては、たまらないのだ。
「今、何してる?」
「さっきまでお仕事でしたよ」
「そう…なんだ」
「なんです?そちらはお仕事は?」
「やり過ぎたから休憩しろって」
「何をやったんですか」
「あ~首を取りに来たからさ」
「相変わらずですね」
「ちゃんと手加減はしたから」
「そういうこと言ってるんじゃなくて、大丈夫でしたか?」
「うん、もちろん、見る?全然怪我はしてないよ」
「ご飯食べました?」
「食べてないけども、お腹は減ってないよ」
「私はこれから食事ですが、一緒に食べますか?」
「うん!!!あっ、あのさ、俺、結構料理とかも好きなんだけども」
「そんなこと言ってましたね」
「それでさ、一回俺の料理を食べてみる気はないかな?嫌だったら、ごめんだけどもさ」
「どういうものを作るんですか?」
「色々作るよ、唐揚げとかも、むね肉から選んでくるし、魚だってさ、今の時期の山の魚って食べたことある?美味しいんだよ」
「料理が好きなんですね」
「まあね、うん」
そこで後ろから、後片付けするので、そういう話は電話ではなく、お会いして話したらどうですか?と言われる。
「あ、あ、あのさ、今はどこにいるのかな?」
「今ですか?」
ここは事務作業をするオフィス1といったところか。
「良ければすぐに行きたいんだけども」
「こちらに来ますか?」
「うん、行く~」
そういって本当にふらっと、人では無理な距離を縮めて、顔を見せた。
「お帰りなさい」
「…ただいま」
どうしよう、なんかこう、もう夫婦といっても過言ではないのでは?
このオフィスの人たち、普通にお帰りなさいは同僚には使っています。
そう、それに倣っただけなのです。
「…怪我はないみたいですね」
「あれぐらいで俺に傷つけようとするなんて、無理じゃない?」
「もう!そのままで来ましたね」
ちょっと返り血が残ってるスタイル。
「シャワーでも浴びてきたらどうですかね」
「そんなに臭うかな」
「人間には僅かに、私ならばたっぷりと」
「シャワー借りるね」
そういってシャワールームに向かい、脱衣場を閉める。
そこで急いで準備をすると。
「タオル忘れてどうするんですか?」
するとドアの隙間から、手だけソロ~と出して、受け取り。
「ありがとう」
そういってバタンとドアを閉めた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「なんかまた首狙いが出たんだって?」
「そうですね、今、シャワーに行ってますよ」
(あいつがシャワーね)
「そうなんだ」
「そんなに首を取ろうと、狙ってくる人たちが多いんですか?」
「うん、昔から」
「昔から?」
「そうだよ、ある程度以上に強いって知られているとね、どうしても狙われるんだよね、それこそ首落としをしたのは俺だって名乗りたい、そんな血の気の多い奴がいるってことで」
「大変だな」
「そっちはどうなの?」
「私は直接は来ないですね」
「でも意外と狙われそう」
「そうは思われているみたいで、不快なことは多いかな」
「不快ね」
「まあ、最近はそれにも慣れたかな、なんかそういう人たちって、人は違うけども、考えることは同じだから、似たようなことをしてくるんですもん」
「同じ人間として…」
お決まりの言葉を繋げると思ったのだが。
「もっと悪意は賢く見せてほしいね」
(この人は世の中に出していい人なのだろうか)
「あっ、来てたの?」
「ああ、まあな」
シャワー上がりの男がこっちを覗いている。
「俺が忙しくしているってことは、世の中がろくでもないことになってるってことだな」
「もう少しのんびり生きたらいいのにね」
「そうだよ、たまに血が騒ぐぐらいがちょうどいいんだよ」
「そこは同意できない」
「私もさすがに、でも大変ね、狙われるなんて」
「…もう慣れたよ」
もしも本性を出していたのならば撫でてほしいはあるのだろう。
「俺いたら、邪魔かな」
「いや、いてよ」
「だってこういうの邪魔するのもな」
「まだそういうのじゃないから」
「でもこっちはもういいかなって思ってて」
「少しはピシッとしてください」
「はい」
一応はキリっとはしてくれた。
「はい、よろしい。ええっとですね、食事会を約束したと思いますが、何かあったときのために止めれる相手を用意することにしました」
「お義父さんにはそんなことしないから」
「確かに父親代りではありますけども、それでも念には念です」
(俺には漢字まで変換されて見えているから、すれ違っているのがわかるが、しゃべっている同士は気づいてないんだろうな)
「何かあってからでは遅いので」
「そんなに心配させていた」
「正直どっちも心配なんですよね、約束をしようとした、約束しちゃったって、なんでどっちも引かなかったのかなって?一歩譲るがあの時なかった、それならば感情のままどこまで行ってもおかしくはありませんし」
「そこは俺も同意、約束をする方もする方だし、よく…したなって、こういうときは俺に相談してほしかった」
「ごめん」
「相談された場合はどう答えていたの?」
「気持ちはあるが、現実は難しい、それこそ現実は今言ったみたいに、何かあったときに止めれる相手がいないからだったんだけどもね。よく引き受けてもらったな」
「ええ」
「報酬は?」
「そういえば…」
「すぐに確認して!」
「はい!!」
すると、先方もそれはこちらでも考えてなかったと言われた。
「どうしよう」
「全員うっかりか!」
さすがに怒られた。
「今回は私用の依頼ですから、出せるものの目録を作りますよ」
「それならばあれがほしい」
「あれとは?」
「熱中症防止の加護」
「いいですよ」
「すまんな、うちの関係者が熱中症になるのを怖がっててな、あれを取り除いてやりたい」
「じゃあ、先にかけておきます?いや、今日は…」
気温を確認したあとに。
「もうかけておいてもいいですかね」
「待て待て待て、早い早い早い」
そこも止めが入った。
「ポイポイ、加護を使うんじゃない」
「でもこれだと人は熱中症になりますよね」
関係者は高温多湿、猛暑の野外でお祭りの準備している最中でした。
「あ~、う~」
思考を高速回転させて。
「もしかしたら、今回の分と加護が釣り合ってない、足りない可能性があるから、その場合は再見積りさせてもらうって感じでよろしいでしょうか?」
「ああ、それは構わないが」
(あっ、チョロいって思ってる)
電話中の顔がね。
「もしも熱中症になった、なってしまってからの治療費や期間を考えれば、それほど悪い話ではないし」
「なるほど、そういうことでしたら迅速に対応いたしますね、何しろうちの非常勤儀式アドバイザーは有能なので!」
電話が終わったあと。
「はい、これで好きにかけてきて」
「わかりました、ちょっと行ってきます」
「あっ、俺行くよ、俺がいた方が話は早いでしょ」
窓を開けて、そこから飛行機雲と黒煙が青空に線を書いていった。
熱中症とは恐ろしい状態である。
「実際にあの元気だった人が崩れ落ちるのを見たら、恐ろしくなりました」
さっきまでしゃべっていた人が、ドサッと倒れる姿は、悲鳴をあげたくなる。
「まっ、それが熱中症と熱中症が目の前で起きたときのショックみたいなもんですね」
「冷たいお茶をどうぞ」
「どうも」
「話もそこそこですが、先にかけておきます?」
「こちらとしてはいいんだが、いいのか?すまない」
頭を下げた。
「いいですよ、私で良ければね、とりあえず、今、外で頑張ってくださる人の熱を逃がしてあげましょう」
ふわっと、熱が逃げたものだから、それが加護と知らない人たちは、あれ?という顔になり。
「ちょっと気分悪いのかな」
「俺もそうなんだよな、なんかさっきと感覚が違うっていうか」
そこでざわつく作業員たちの側に、お偉いさんたちがやってきたものだから、空気がピリッとする。
「あ~どうも、みなさん」
「この女性はな…」
氏素性を軽く説明したあとに。
「熱中症予防の加護を持っているから、こうして暑い中作業をしてくれるみんなのために契約をしたのだ」
「えっ?ではこの暑さを感じない、妙な感覚は?」
「熱がこもっていたので、余分な分を排出してるって感じ、もちろん、あまり気温差があると肌寒かったりするので、そこは調整しますけども」
「それは長袖とかでいいだろう、そこまではさすがに」
「そうですか?それならば楽ですね。ただそれでも水分はきちんととってくださればいいですかね。加護はあっても夏は夏、暑さは暑さなので」
加護された方の無茶の負担を被るスタイルなので、無茶はしない方がもちろんありがたい。
「加護ってこういうことできるんだ」
「ピンポイントで役に立つ加護じゃないですか」
「うわぁぁぁい、これでコーキングで倒れるのビクビクしなくていいぞ」
熱中症予防の加護はこのように好評であった。
かけ終わってからまた話し合いの席に戻る。
「熱中症予防の加護ってあんまり利かないね」
「そうね、本当に最近じゃないの?必要とされているの、私は前からそれ出来たけども」
「とりあえず助かったし、熱中症の加護があるとわかれば…いや、むしろその加護があるとわかったら、非常勤儀式アドバイザーなんてやらずに、奉られる側になるんじゃないのか?」
「奉られるのは、今はあんまり考えてはない」
「だが、熱中症予防の加護を持っているとわかれば、奉ろうとする人間はいるんじゃないか?」
「ファンがついたジャケットやら、機能性衣類の企業にそこは任せておくよ」
「欲がないというか、なんというか、あまり知らないので申し訳ないが、彼女さんはこういう方なのか?」
「俺もそこまで長い付き合いではないども、こういうところはあるんだよね。何て言うのかな、飄々としているっていうのかな」
「飄々か、ぴったりだな、人が好きかと思えばそうでもないし、嫌いかと言われると世話を焼いているって感じだ。失礼ですが、以前はどちらに?」
「嫁に行ってました」
「嫁ですか?どのような大主の元に行っておられたのですか?」
「人ですよ」
「えっ?」
「少しばかり人の隣で嫁の真似事をしておりました」
「それでそいつ、バカみたいなことしたから、戻ってきたんだよ、戻ってきてからすぐなんでしょ?俺があったときって」
「そうですね、あっ、これから何をしようかな、もう準備してたこと、みんなやらなくていいからってうちひしがれていた時に、目が合いましたね」
「合ったね、なんでこんなところいるのかなってね」
「それはまた運命的な出会いというか」
「そう思ってくれる?俺はそう思ったよ!」
「私はあまりそうは…」
言葉に温度差を感じる。
「でもそこから非常勤儀式アドバイザーになって、忙しくしてますけども、感謝はしてますよ、だってあのままだったら、絶対にぼぉ~としてて、そこを狙われていたかもしれないし」
どうでもいいや、あぁ、この苦しみが終わるのならば、生きていることも…
「ダメだよ、それ!そんなことしたら、俺、絶対に許さないから」
「そうなると止めるのは私一人では無理そうだな」
「傷つけた奴、悲しませた奴は絶対に許さない」
「怒ると水生に住んでましたっけ?ってぐらい暴れるみたいなんですが、本当なんですか?」
長い付き合いなのでそこも知っているだろう。
「人魚ぐらい気が短いな」
「そこまでなんですか」
人魚、人間に対しては非常に気が短い、間違って釣ろうもんなら、「誰を釣ってるんだよ!」それだけで大波を起こしてくるので、漁師は大変な職業である。
「熱中症の加護の話に戻るが、我々は熱中症にはならないから、それこそ元々は人に合わせたものとお見受けしますが、それで合っておられますか?」
「はい、合ってますよ」
「そうでしたか」
「人ってあいつのため?」
「いや、父親代りのあの人達が暑い中でもスーツって大変でねって話からだね」
なんで人間は熱中症になるのに、そんな格好をするですか?
人間にはね、譲れないことがあるんだよね。
「その時はふぅんだったんですが、さすがに体調を崩されたときがあって」
それこそ、尾で溜まっている熱を吹き飛ばした。
「今の何?」
「熱がこもっていたから、一旦リセット、あ~熱がまた戻ってしてる」
尾をパタパタのふりふり。
「これでよし」
「何をしたの」
「これで熱の戻り無し!」
そこで一人だけ涼しい顔をしてるが、他の人間は夏というか、熱中症の危険を満喫しているものだから。
「どうにかならないのかな」
「いいですよ」
「助かる」
それで身近な人間には熱中症の加護は振り撒かれたのではあるが。
「前にどういうことはできますか?って聞かれたことがあるんですよ」
「何のために?」
「奉るか、奉らないかって決めていたんだと思うよ、それで熱中症予防は効果的ですっていったら、ああそうなんですか、で話は終了した、やっぱり地味だったかな。人間って派手目なのが好きじゃん、それか定番とかね」
派手なの
大金にウハウハ恵まれます。
異性にばっちりモテモテです。
定番
交通安全
家内安全
学業成就。
「なんで知る人ぞ、知るって感じだね。でも熱中症加護までは行かなくてもさ、今日はちょっと暑すぎるかなって言うときは、雲を割って、冷たい風を用意したりもしたんだよね」
ああ、なんか涼しくなってきたな。
「ホッとした顔を見たら、こちらもなんだか嬉しくなってしまうものなんだなって」
(お前どうしたんだ)
プス~と膨れている昔からの知己なんて始めてみた。
(だって今の、あいつを思い出したし)
(あ~これはそういう話しか)
「もしも良ければで構いませんから、この辺りにもたまに冷たい風を吹かせてくれませんか?私がそれができたのならばいいのでしょうが、何分その辺はあまり器用ではなく」
「そうですね、では酷暑の清涼剤のように、気まぐれに吹き抜かせることにいたしましょうか」
すると上空から、熱を入れ換えるような風がスルッと入り込み、これはありがたいと暑さに耐える人たちは思ったという。
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