浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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悲恋は俺の趣味じゃない

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「前に言ってたじゃないですか?」
「なんて言ったっけ?」
「挨拶は早めに終わらせておけと」
「そうだな」
「残ったぶん、やって来ますね」
「そうか…そうじゃなかったら、こっち宛に文句が来てもおかしくはなかった」
「私に直接渡せないのならば、そうでしょうから、一気に済ませてきますよ」
「そこは時間をかけても」
「そうなると決心が鈍りますから」
悲しく笑う。
「そうか、帰ってきたら旨いものでも食いに行くか」
「もう少し食べるもの気を付けてくださいよ」


「すまねえ、すまねえ」
高齢の男はうなされているようである。
「大丈夫ですか?」
声をかけると、男は急いでおきて、そこにある姿を見ると。
「帰ってきた…わけじゃねえな」
「さすがにそれは無理ですね」
「すまない、すまない、あの時あの話にも一利はあるなと思ってしまったんだ、そうでなければ」
「その時は私もそれもそうかって思ってましたから」
「そうなんだけどもよ」
「お体の方は?」
「この暑さが堪える」
「ちゃんとお薬は飲んでますか?血圧は?」
「看護師さんみてえだな、ああ、ちゃんと飲んでいるし、そっちの方も気を回してくれたままみたいだな、契約が終わるかと思ってたんだが、その話は出てないみたいだから聞いてみた」
「さすがにそれは…」
「年寄りのわがままを通させちまった」
「気を病むことではありませんよ、むしろ急に離れることになりましたし、こんな形で挨拶するのをお許しください」
「ここは家の中じゃないな、どこだい」
「夢枕ですね」
「そうか…」
「さすがに実際にお会いするわけにも行きませんし」
「…」
「とりあえず、訪問医療は今までの通りと、何かあったらの法律事務所も契約しておいたので、なんかあったらそっちの方に、それと…」
「その気持ちはうれしいがよ、娘を金で換算するのはあまりいい気分ではないのよ」
「…」
「そこまで堕ちちゃいねえわ、ただまあ、そうは言っても頼ることにはなりそうだから、格好悪いな」
「この世の荒れようを何とかできる人の方がマレですよ」
マジレスした。
「これで困ることは…たぶんないかな」
「寂しくなる」
「ずっとここにいるのかなと私も思ってました」
そこで続けて、男をその名前を呼んだので。
(もうお義父さんじゃない…か)
呼び方が変わっていることに気づいて、ショックを受けたのである。

「お時間ですが、大丈夫でしょうか?」
「ええ、こちらはかまいませんよ」
よっこいしょとベランダからやってきた。
ここは高層階である。
「相変わらず自由な」
「まさかここからやって来るとは思わなかったでしょ?」
「インターホンという物を使ってこないし、また遅れるという連絡もない、時間をきちんと守るあなたが来ないはずもないですから、まさか空から?と思ってましたが、ベランダからだとは」
「このぐらいならば何とかはなるのだけども、さすがにそういうことをしちゃうとなるとね、非常識扱いされるっていうか」
「そこは気にするんですね」
「まあ、そうね、気にするね」
「相変わらず独特の感性の持ち主だな」
「よく言われます」
「で、俺で何番目で、残り何人です」
「四人目の残り二人か」
「二人の方は誰かわかります」
「こっちに来たときと、順番が逆になった感じだね」
「ああ、なるほど、あの二人には私みたいに先に連絡したんですか」
「したよ、最後の四人にはこちらからしたんだ」
「それは…また度胸がある」
「昨日から口の中が酸っぱい」
「それ食道炎では」
「喉が焼ける系の奴だからそうだろうね」
「もう相変わらず体弱いな」
「これでも良くなった方だよ…不思議とこちらにいたときは調子が良かったぐらいだし、長年割れていた爪も治ってきた」
「いつも手袋してましたけども、それ、そんな理由だったんですか?」
「人の目から見ていて、不自然な割れ方だったからね、ああ、その話もさっきいい忘れてたわ、しないと怒られるかな」
「大変ですね」
「しょうがないよ。あっという間だったが楽しかった、これはあのお二人にもいうけども、かかっている加護の方は倍ぐらいは延長しておくから、加護がいらない場合は手続きヨロ!」
「はぁ…でもまあ、ありがたくは頂戴はしますが、複雑な」
「そうなんだ」
「そうですよ、その裏があるんじゃないかと、思うぐらいあなたは良くしてくれましたから」
「こちらの我が儘を通したんだから、そのぐらいはね」
「生活が安定したと、喜んでた話を知ってますか」
「そっか良かったじゃないかな」
「他人事だな」
「でももう離れるから、何度も言ってた通り、私がいなくてもやっていけるようにっていう話だからね」
「そんなことは言われても、誰も、本当にいなくなるまで、信じてませんでしたから」
「そうなの?」
「そうですよ、最初に来たのはあなたが居なくなったじゃなくて、お前さんのところにあの子はいるんじゃないか?でしたから」
「それはあれか、隠してると思われたとか?」
「それか、新しい契約者として疑われていたんじゃないですかね」
「まあ、そうか、元々今回の契約自体が意外な人間って言われてたからな」
それこそあなたの女運はどうなってるんですか?と古くからの知り合いが言ったぐらい、接点が二転三転して決まったようなものであった。
「でもたぶんあなたまでならば許せたんじゃないかな、それでも不満はあったでしょ」
「そうでしょうね、俺ならばまだ納得を頑張ってしてもらえた」
「難しいもんだね…ちょっと失礼」
端末で情報検索中。
「あっ、やっぱり先日空に戻るところ撮影されているね」
「綺麗でしたからね」
「思わず撮影したくなる夕焼けだったから、撮影されたか、まあ、しょうがないが、そこでもう私がいないと思われたのか」
「噂は出てました、もしかしたら…みたいな」
「なんで?ああ、禁則踏んだってことか」
「そこからでしょうね、でもあなたはどちらを選ぶかわからなかった、このままもしかしたらいるのかもしれないっていう意見も多かった」
「あ~なんかそういうのよくあるよ、私は、なんかさ、何をやっても許してくれるみたいなさ」
「ないでしょ、それ」
「ないんだけどもね、勘違いされるんだよね。禁則破るというのはそのぐらい重いことだし、本当に今回は話聞いたときフリーズしたからね」
えっ?えっ?
「その後笑ったが、おいおい、まさかだろう、まさか破るなんて…それこそ少し前だっけ、類似の例があったばかりでしょ?」
「はい、あれは…もっと酷いですが」
「このまま行けば安泰だっただろうに、それを要らなかったのか、あっ、じゃあ、私もここにいる意味ないなってことで、さっさと出てきた、ただ整理して出てこなきゃならないなって思ったら、そこはやってくれるって言われた」
「そっちから足はつきそうなんですか?」
「書き記したものがあったから、あれは場所を移させてもらったんだけども、本を隠すなら本の中ってことで、書庫にしたら、本好きにさっそく目をつけられて、ただその人は使われていた文字を読めなかったから、アプリかな、あれを使う手続きをしている間に別の場所にしたんだよね、本をさ、表紙から読んだからバレてないんだ、あれは後ろから読もうとしたら、誰があの装丁を贈ったのか、それは名前入りだし、今の人でも読める文字だから、そこから割り出されるところだったんだよ、そういう意味では運が良かった」
もう人の手に取られることはないんだよ。
「時間ですね」
「ええ、お元気で」
「私は楽しかったですよ」
最後にその人がいつも呼ぶ名を使った。
「まだその名前ですか」
「知りませんでしたか?あなたはもうずっとそうなんですよ」


ピンボーン
来客であった。
「はい、あっ、お世話になっております」
そういって客人は、この度は急にこのようなことになりまして、と挨拶の応酬をしてから、顔を見せるのだった。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
「こういう形で会うとは思わなかった」
「私もですよ」
そこで冷たいお茶が出てきた。
「何かありましたらお呼びください」
「ごめんね」
そういって応接室には二人だ。
「で、いきなり居なくなったわけだけどもさ」
「どこまで話は聞いてます?」
「世間一般程度にはね、ただね、こちらにも君がどこに行ったのか知らないかと、もしかしてそちらにおられますか?っては聞かれたよ」
「どうも探しておられる方がいるようですね」
「それについては?」
「う~ん、特には今はそんな気はないんですがね」
「だろうね、もしもそれならば俺たちに頼むとか、いろんな方法があったと思うんだけども、それをしなかったから、来てませんし、知りませんよって答えた、その後に君から今日の日取りの話があったんだ」
「じゃあ、改めてお伺いしていることはしないのですね」
「知らないね、でも知りたいだろうね」
「でしょうね、どうも熱心な様子」
「それについてはな、俺としてもな、気持ちはわかるし、本来ならば俺がもっと…もあるから」
「そこは気にしなくてよいのでは?」
「親亀こけると、みんなこけるって奴だよ」
「あ~」
イメージしたのか納得した後に。
「なるほど大変だ」
「天使ちゃんはさ、それを壊せるんだもん、そりゃあ、執着もするし、今回の件は、もしかしたら自分でも良かったんじゃないのかと思わせてしまうから、余計にじゃないの」
「でもそういうつもりでもないんで」
「そうかもしれないけども、そう捉えられるってやつさ」
ニンゲンムズカシイ
「ただ楽しいだけじゃ上手くいかないんだな」
「でも楽しいということはとても大事だから、そこはバランスさ」
「これまでの日々はとても楽しかった」
「それは良かった、笑顔が増えていってホッとしたのを覚えているんだけどもね…」
表情が暗くなった。
「このまま知らないで通してくれればいいですよ、加護の方は倍にしておくんで、手切れってことで」
「手切れにしては気前がよすぎるよ」
「こんなことしかできないし、たぶん、お三方ならばそのぐらいでもぶり返しは来ないと思われます」
「今回ってもしかしてそれも来ちゃってた」
「たのかな?って邪推はしましたが、考えすぎかなと、だって強い力の取り扱いをずっと学び、経験も実際に積んできた人が…ですから」
「残念だね」
「ん~よくあることかな」
「そういう表現はちょっと寂しい」
「そうですね、でもそう考えないと落ち込んでしまうかな…」
「それならばしょうがない、君はこうして最後の挨拶をすることによって、終わらせようとしてるわけだからね。しばらくは休んでさ、新しいことを見つけなよ」
「それがですね…」
その反応から…
「えっ?まさか?」
「あっ、ええっと何から話せばいいか、声はかけられてます」
「天使ちゃん、モテモテじゃない」
「いや、そういうのじゃないんで、断ってますよ」
「それで断るような相手ではないでしょ」
「そうですけどもね、なんか面倒見てやってくれみたいな話も出てますが、こういうのって、そういうもんじゃないですから」
「そうね、他の人はどうのこうの言ったとしても、やっぱり本人同士っていうのかな、気持ちが優先されるべきかな、あっ、その話はしてもいい?先に俺の方から」
「恥ずかしいな…まあ、お任せします」
「えっ?だって、こんなにすぐにね、どういう感じの男性なの?」
「ああ」
見せた方が早いなと写真を見せた。
「イケメンじゃない、えっ?どういう感じのお仕事を」
「ええっと実は…」
そこでどういう存在か話すと。
「そのまま話に乗っていいんじゃない?」
「そういうものでもないでしょうよ」
「そうだけどもさ、でもさ…」
話を聞いた方は乗り気であるし。
「ちょっとちょっと見てよ」
そういって家族に写真と、その話をすると。
「いいんじゃないですかね、あら、こんなことって起こるんですね」
と夫妻で喜ばれた。
「いや~やっぱり写真を見たら、気に入ってくれたよ、しっかりしてそうだし、君を一番に守ってくれそうだし。…こういうことがあったわけだからさ、幸せは掴んでほしいと思っているよ」
「なれますかね」
「なれるさ」
「もうそこまで期待しませんよ、なれたらいいな、そのぐらいの感覚で捉えておきますから」
「君の良さを知ってる、わかっている男のそばにいることが一番いいと思うよ」
「前の時も、それは感じたんで」
「えっ?でも全然タイプ違う、似てないでしょ?」
「恋している時はね、良く見えるものですから、いえ、十分に良い人ですよ」
「これで何も問題起こしてなきゃ良かったのにね」
「本当にそれです」
それだけが全てを帳消しにしてしまった、そういってしまっていい。


「こんにちは」
「来ると思ったけども」
壁に飾られている時計を見ながら。
「やっぱりちょっと早いよ」
「早く終わらせたい気持ちはあります」
「それは残念、俺は少しでも長く話したい」
「相変わらずだな」
「それが俺なの、知っているでしょ」
「知ってはいます、知ってはいますが…やりにくい」
「そこは諦めてよ、そして最後だしさ」
「ああ、そうですね」
「自分から最後という言葉を使ったけども、本当はそんなことはしたくはない、他の奴らはどうか知らないけども、少なくとも二人はそうじゃないかな」
「だといいです」
「さっきまで色々とメッセージを送りあっててね、それこそ君がきっかけでなかったら、ここまで意思の疎通は取らなかった、長いこと知り合いでも、きっかけがなければそんなもんだったりするんだよ、何て言うの、子は鎹(かすがい)、うちの子は可愛いって奴」
「そういう感じだったんですか?」
「そういう感じだったんだよ」
「すいません」
「謝ることはないし、なんで謝るの?」
「心が沈んだのが見えたから」
「それはこちらこそ、ごめん、君に気を使わせる気は本当にないんだ。困ったな、綺麗にお別れするつもりなのに、どうもそうは行かなさそうだ」
「なんでです?別れなど、たくさん迎えて来たのでは?」
「結構特別な立ち位置にいたってことだよ」
「あ~」
思い当たる節はある。
「加護のことも聞いているとは思いますが、増やしてはおきますから」
「ありがとう、でも気分としては竹取りの翁だよ。自分の代わりに不老不死の薬を置いていきますって言われている、あんな気分だ」
「不老不死はちょっと、さすがに私にはそんな力はない」
「例えだよ、まさかそんな気持ちを味わうとは思わなかったってことさ」
「どうかお元気で…」
「ああ、もちろん。それで話は変わるけども、君を口説いている奴ってどういう奴?」
なんかちょっと機嫌が悪いぞ。
「えっ?どういうって、私もあんまりまだ、いきなりでしたからね」
「へぇ~そうなんだ、ただね、段取りとかちゃんと踏んでくれない男はろくなもんじゃないからね、もしもそうじゃないならやめておきなさい、困ったら、俺に連絡してきなさい」
「えっ?あっ、はい」
そこで返事をした後に。
「あのこれで最後にするはずなんですが」
「この件に関してはダメ」
笑っているけども、笑ってない。
「そこは引かないから…本当は季節の便りぐらいはもらえたらな、は、考えていたんだけどもね、この話を聞いたらね、どうしてもダメだった」
「ええ」
困惑する。
「いいかい?男は獣なんだから」
(あれ?もうどういう存在か知ってるのかな?)
さすがに前回の、この一つ前の挨拶の時もそこまでは話していないから。
(さすがだな、博学だわ)
と事実ではないことを信じた。
「結婚するときは教えてね、むしろ出席などはするから」
「気が早すぎますよ」
「いいんだよ、これぐらいで、俺は一番に君を大事にしてくれるのならばいいとは思ってるよ」
「まだそうなのかもわからない相手ですから」
「そうか、まだか…俺も気が早いな、でも出来ることならば、俺が生きているうちにお願いしたいものだな」
「そうですね、住んでいるところが違いますから、死んだらお会いできませんからね」
「えっ?そうなの?」
「そういうものでは?ええっと私からも死後はお会いする気はないので」
「冷たい」
「そうですかね」
「冷たいよ、それは…」
「そこは決めているんですよね、人の世に関わりすぎてしまったからこそというか、本当はね、私みたいななのは人に触れてはいけないんですよ」
「そんなことはないさ」
「ありますよ、本性に戻ったときに、人は私に触れてはいけませんからね」
病気になるよ。
「ただワクチン技術の応用で、これから無効化されるみたいですがね」
「医学の力ってすごいね」
「はい」
そういうしかない。
「そうなってしまったら、君はどうなるの?」
「別に変わらないですよ、私は私のままだろうし」
「本当にバカなことをしてくれたものだ、君にそんな顔をさせるなんてな」
「ん~でも、よくあることでは?」
「かもしれないけども、悲恋は俺の趣味じゃない」
「どこにも喜びも悲しみもあるものですから…」
「なかなか言うね」
「あなたの言葉の影響は受けてますよ、何しろこちらに来るきっかけになったのですから」
「あれは…秋か」
「秋でしたね」
「いきなり現れて、風のように消える」
「消えたら、もっと心に残っていたのでしょうが、残さずに消えることを選びましたので、みなさんに挨拶をすることにしました」
「悪い女になったね」
「なりましたかね」
「なったさ、男心をくすぐるくせに、理解してないもところなんか、最悪と言っていい、君に惚れた男はみんな大変だ、別れた後もたまに思い出す」
「それはないでしょ」
「まっ、それはこれからわかるだろうし、その前にさ、新しい契約を求められているのは驚いたというか」
「探している人はいるというのは聞いてますが」
「人達だよ」
「えっ?そんなに契約したい人達いるんですか?」
「君の力が俺らへの加護でわかったから、それこそ何人かで割っていた加護を、みんな切ったと思っているから、それを自分に向けてくれたらってことだよ。そうなるとね、人はよく深く願ってしまうものだよ」
「あ~でも、実際はそのままだし、何なら増やしているんですがね」
「その話を俺らからするわけないじゃん」
「口が固いなって、まあ、不思議と人というのは自分の利益になることは、他の人には話さないんで、今回私がいなくなって始めて、外に出た話もあると思うんですよね」
「それはそうだよ」
それで総合したのと、性格的にチョロそうということで、契約者になりたいと目をつけられたというやつ。
「手を出そうとしても、リスクが少ないしね、その罰則の無さが災いしているといってもいい、俺らがいるから抑えが利いている状態だが、そうでなかったらという奴だ」
「お世話になったところから、是非とも推薦してもらいたいとか来たら、断りにくいですもんね」
「そうだよ」
「でも公式的には私はここにいませんし、次に公式の場に出る話も実はあって」
「えっ?そうなの?」
「それこそさっき話をしたお相手と、立食、私はしゃべらなくてもいい、微笑まなくてもいい、謎のパートナーとして参加することにはなりそうなんですよ」
「その話詳しく」
「それこそあの方は、妻帯者じゃないですから、…それも帰ってきてからこんなことがありまして」
新しく奉られる、奉られたい、奉った方がいいと中。
「奉られ方を知らないって結構あるんですよ」
「それは困るね」
「はい、でもせっかく奉ってくれる人達がいるのならばそれを逃す手はないということで、今回担ぎ上げられるのはいいですが、そこで、その間に入る存在がいないから、そうなるとね、長らく奉られるは上手く行かないもんなんですよ、それこそ私が聞いたときには準備もなにもなかったから、その場で必要なものを書き出して渡して、でも本当に最低限でしたから、大丈夫かな…なんてね」
あれ?なんか落ち込むつもりが、落ち込む暇なんてないっぽいぞ。
そんな感じになりました。
「そうしたら、こんな私に声をかけてくれている方から、気持ちは答えてくれるとかはまだいいから、正式にこういう方面では関わってほしいってね、それで来賓で呼ばれる際の同行者ですよ」
「お相手君は本気だよ、適当な相手をお呼ばれするところに連れていくわけないじゃないか 
「そうはいいますが、間を取れる役回りがいないっていうのが実情ですからね」
形としては非常勤の儀式アドバイザー。
「私は別に、こんなことを言うと起こられるかもしれないけども、何か一つのことをやると、守ると決めたのならば、他のことは犠牲になるかもしれないということはわかって選んでほしいし、それでも私にそばにいてほしいというのは、ちょっと虫がいいかな」
「それを相手に伝えたことはあるの?」
「ないかな」
「そこは伝えなきゃ」
「最近、戻ってきてからわかったんですよね」
「ごめん」
「いえ、それはまあ、もう少し現実を見た方が良かったというか、夢など見なければとは思いますね」
「恋する相手に夢を見てはいけないのならば、それは残酷なことだよ」
「そうは思いますが、やっぱり何かを背負っていくのならばね…途中でこんなことになるのならば、最初から選ばない方がいい、でもまあ、生活のためにはしょうがないのかなって、言われましたけどもね、それでも上手くやってってる者はいるって、そういわれたら、あっ、それもそうねでした」
「なんか俺としては複雑だよ、落ち込んでいるかって思ったから、どんな風に声をかけようかなんてしんみりしてたのに、一回お話させてくれる?俺もどういう感じなのか、知りたいし」
「ええ…」
「これはね、きちんと話をした方がいいと思うんだよね、君を任せられる相手なのか」
「前はそんなことしませんでしたのに」
「前のことがあったからだよ」
「すいません」
「謝ることはない、つい俺も声をあらげてしまった」
「…」
「どっちがいいか悪いか、複雑かもしれないが、君の心の支えになってくれそうな、実際に気にかけてくれる男がいるのならば、その方が絶対にいい、前のことは前のこと、どこかで忘れなければならないんだから」
「でも早すぎるんじゃないですかね」
「それは確かになんだけども、一人で泣きそうな顔をされるよりかは遥かにいいんだよ、俺じゃ愚痴は聞いてやれるけども、涙はたぶん止めてやれないからね。ただそれにしても、俺が会いたいというのだけは伝えておいてくれる」
「…すぐには言えませんが、機会を見て」
「どうして」
「どうしてって…何を聞くんです?」
「えっ?あのこの子のことはどう思っているのかな?って」
「プレッシャーですよね」
「そこははね除けてくれないと、というか、傷ついている時に変なのだったらいない方がいいよ」
笑顔が怖い。
「ちよっと待ってくださいます?」
もうどうにでもなれと、そのままを端末からメッセージを送信した。
すぐに見て、返事がきました。
「お話は聞いておりましたので、都合のいい日に一度お食事と、こちらが今後の連絡先とのことです」
「ありがとう」
このやり取りに、人の身で、それ以外の存在に約束を取り付けれるのは、もうそれだけで特別だと思うし。
これぐらいでなければ上手くやっていくことなんて出来ないだろう。
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