浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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剣士の好感度

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「とりあえず今日はもういいから、休め」
そう上司から言い渡された。

(これからどうなるんだろうな)
ぼぉ~としたが、いい考えが浮かぶわけなく。
(転職かな)
そう、転職のための情報誌などを手に取り、それを購入した。
自宅には戻る気はまだなく、静かで涼しいところを探していると、あぁそういえばあそこがあったな、なんてちょっと前まで行ってた店を思い出した。
「いらっしゃいませ」
良かった、今日も混雑はしていない。
するとだ。
「あれ?」
先にいたお客の一人がこちらの顔を見つけた。
あっ、どうもと、頭を下げると。
「どうしたの?この辺だったっけ」
「いや、そういうわけでは…」
そこで持ち物を見れられると。
「もしかして仕事の悩み?」
「出来れば見なかったことにしてください」
さすがに恥ずかしいからさ。
「ええっと、今もあそこに勤めていたんだっけ?」
「そうですが…」
「ふぅん」
「今、私が預かっている話があるんだけども、その~有能な人物を揃えたいっていうところで」
「それは嬉しい話ですが」
そういうところだと激務の可能性もあるから、最初はやんわりと返しておくのが無難である。
「今だと、後方も選べるよ」
「えっ?」
前衛だと危険な仕事だったりするが、後方となると、それこそ現場に出なくても良かったりする。
「確か君は現場の経験はあったし、それで後方に回るのも悪くはない選択だよ。現場を知らない人間が支える側に回るのは悲劇だしな」
「…」
「個室取ろうか、これ以上は…話だけでも損はさせないよ」
「わかりました、ではお話だけでもということで」


「松灰(まつばい)さん」
「なんですか?」
勾飛(まがとび)から呼び止められる。
「うちで働いてもらいたいという人がいて」
「えっ?あっ、いいことじゃないですか」
「それで我々と合うか面接してくれと」
「ああ、そういうことですか、どういう人なんです?」
年は二人よりも下で、現場の経験はあるが後方担当が出来ればいいという男性である。
「なかなか経歴ですが、一体どこからこのような人材を」
「う~ん、それは私にはなんとも、その、アイシスの人員って、松灰さんだけ枠が違いますからね」
「えっ?」
「私は居合わせたことがきっかけです、何のは聞かないでください。そして今回面接に来てくれる濡島(ぬれしま)さんに関しては、転職を考えているところにこれまた居合わせたと」
「なるほど、俺はそういうんじゃないですもんね」
勾飛が先にいたので、勾飛と組める人として、それこそ勾飛がこういう人ならば仕事しやすいと、先に条件を伝えて、そこからわかりました、それならばと現実的な募集や対象者を絞りこんでいったパターン。
「あれ?もしかして俺の待遇がいいのは?」
「そうですよ、その条件でこちらに来てもらうんですから、そのぐらいはしないと」
「思った以上に大事にされていた」
「サッ」
そういうのでいいのよ。とサメのイチイくんもいった。
「KCJの戦闘許可証をすぐに取得してくれるとは思いませんでしたし」
「あれ?まさか意外だったんですか」
「いい方にみんな驚きましたよ」

えっ?一年ぐらいかかると思ってた。

ここまでやってくれるならば、計画が多少じっくりでも問題ない。

『…』など。

「もしも松灰さんがKCJ戦闘許可証か、それに準じるものを現在持ってない場合、後方の募集はたぶんないでしょうね。うちに来る依頼的に難しい」
「こんなに人手不足の業界になるとは思いませんよ」
「本当にそれはそうなんですよ、私もここまできちんとスケジュールが埋められるとは思わなかった」
「しかも休みもしっかり取れるし」
「そこはね、あまり儀式が続くと、そちらの気配をまとってしまうから、人から離れてしまうこともあるんで、人の世にいるのも仕事のうちですよ」
なので儀式代行が終わると、二人は存分に俗世に浸る。
ちょうどニュースが聞こえた。
『夏休みに入り、サメの事故が起きやすくなっています』
「サメの事故?まさか…」
松灰はイチイくんを見るが、首を降る、我々は人に何かをすることはないという意味だ。
「あっ、その事故はですね」
勾飛が頭を抱えた後に教えてくれる。
「河川ザメというのは、見た目固そうに見えないでしょ?」
「そうですね、もっちりしている感じがありますね」
「それでさっきのサメによる事故というのは、そんなもっちりしたサメを川遊びとかしているときに見かけ、そのまま抱きついて怪我をするというものです」
飛び付いた後、痛ぃ!になる。
「特に小学生の男子とか多いですかね、たまに怪我をする大人もいますが…」
河川ザメのサメ皮は、別名皮金(かわがね)ともいう。
「サメが身近な地域だと、学校からお知らせが届いたりするんですけどもね」
「すいません、俺の地元だとサメいないんですよね」
その話イチイはショックを受けた。
サメがいない場所があるだなんて!
そんな顔をしていた。


「初めまして、濡島といいます」
「私が勾飛で、こちらが…」
「松灰です、よろしくお願いします」
三者の面談は始まり、それぞれ聞いてみたいことを質問することになった。
「儀式代行の仕事に興味はないかと聞かれたとき、正直びっくりしましたね、その自分の中ではあれは、地域の住民が執り行うものであって、それこそ他の地域の人たちが触れられない部分だと思ってましたから」
「よく言われますね」
「実際のところはどうなんですか?その閉鎖的なイメージがあります、そこに赴くわけですから」
「今のところは問題ないですかね」
「はぁ」
「ええっと詳しくいうと、うちはまだ知名度がないからこそ、実力で依頼が求められているんですよ」
「実力で、ですか…」
「はい、どこも人手不足、これはお分かりになると思います」
「はい、消滅する市町村の話とかよくニュースで見かけるようになりましたし」
「この先の事を見据えて、もう動いている人間がいて、その人たちは総じて有能なんですよ」
今ならばこの予算で依頼を受けてもらえる。
これ以上になると、アイシス以外の選択肢さえもない。
あっ、もしもしアイシスさん?その私、聞いてないんですけども、アイシスさんへの依頼をしないことにしたって決めたとか、嘘ですよね?えっ?本当……、すいません、また後で連絡します。

「最後の人、大丈夫なんですかね」
「大丈夫ですよ、その方とは別途契約結びましたから」
父方だからって理由で、付き合い持っていたけども…、元々権力ほしさに当代になったとしてもさ、それまで執り行っていたものを面倒くさいからとか、あれ金かかるからっていう理由でやらないことにしたら、どうなるか…えっ?お前はいつも口うるさい、文句があるならいなくなれ。あっ、はい。
「そこで喜んで、母方の実家に戻って、そちらでも若手がいない、ということで手伝うことになりましたね。それで祭りの負担軽減にアイシスさんにお願いできないかということで」
「それなら良かった」
「逆にこの場合、他の役職についてなかった場合は、問題起きてから呼び出される場合もあるんで、今がダメならば、他で上手くやっていくのが一番いいし、現代ならばそれが可能ですから」
「それを考えると、悪くないお話だと思いますね」
「濡島さんは現場の方は?」
「自衛ぐらいならば」
「サッ」
「サメさんは何とおっしゃられているんですか?」
「サメは好きかと」
「普通ですかね」
サメは好きとか嫌いではない、ただ存在するもの。
「サッ」
「イチイくんは何て言ってますか」
「禅だねって」
「サメさんに禅を説かれるとは思わなかった」
(イチイくんの好感度も悪くないな)
人によってはサメの好感度が取れない場合もある、その場合は姿を見せてくれない、心を許さないなどが起きる。
「こちらが聞きたいことは以上になりますかね」
「今日はお忙しいところありがとうございます、面接を受けていただいたというお礼の方は後日振り込ませていただきますので、もしも縁がありましたらその時はよろしくお願いします」
「事前に聞いてましたが、面接に謝礼金という形で本当に出るんですね」
「そのぐらいアイシスは本気だと思ってください」
濡島が帰った後に。
「どうでしたか?」
「私は悪くないとは思います」
「俺もですね、こちらの業界の経験もあるし、確かに携わっている分野は違いますが、あれならば慣れてもらいやすいのではないかと」
「松灰さんは協調性をやはり重視しますか」
「しますね、やはりそこまで俺は強くないですから、一人で全部やっていくことが出来るのならば、この考えには至りませんよ」
「私には耳が痛い、私はそれこそ、そんなのを考えないで来てしまったからな」
「そういう自信は必要ですよ」
「どうしても越えられない壁があるのだと、それこそ長年の愛刀を破損してしまったときに思いました、文字通り折れたんですよ、私の心が」
「それは悪いことではありませんよ、むしろそういう限界に挑むという姿勢は大事で、勾飛さんの美徳でもあります」
「なんでも言ってくださいね、ある程度は松灰さんのためにはしますから」
「そこら辺が本当に剣士だな」
「諦めてください」
「であるのならば、どうぞご自分を大切に、何があっても自棄を起こさずに、冷静に対処をする、それが勾飛さんの怖いところなんですからね」
「サッ」
みんなも気を付けよう、剣士の好感度を上げるということはこういうことだよ!
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