浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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未浄の財

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一般人が魔法だの、サメがサッサッと飛び回る世界に立ち入るきっかけになるのは、おそらく金銭的な理由じゃないだろうか。
誰でもというわけではないが、結構な人達が食べることが出来ることができるので、学費のためか、はたまた家族のためか、そんな理由で足を踏み入れる。
「そろそろお金の問題解決しそうなんですよ」
彼女がそんな話を切り出したのは、二人で冷麺を食べているときだった。
「ジャガイモのはやっぱり美味しいよね」
「そうですね」
そのまま冷麺を食べ続ける。麺が伸びる心配もないのだが、ここはなんとなく、麺が伸びちゃうからなんてものを理由にして、すぐの返答、会話を避けた。
「ごちそうさまでした」
「やっぱり暑いときは美味しいよ…で支払いの目処がたったの?」
「たちましたね、ようやくというか、長かったかな」
「長いよ、君と知り合ったばかりの頃から数えたら…やっぱり長いし、色んなことがあったな…で終えたらどうするの?帰るの?」
「それが向こうがどうなっているのかんからないんですよね、話だけは聞いていたんですが」
「じゃあ、帰らなくていいじゃん」
目を背けていってきた。
「…」
「それとも酷いことをする家族のもとに帰りたいの?」
「いや、それは…それはないんだよな、でも、籍としてはあっちにあるんで、どちらにせよ一回帰らなければというか、帰って確認するのが嫌ですけどもね」
「あんまりさ。言いたくはないけども、不快なものを目にすると思うよ」
「それはわかってるんですが、向こうからこちらに関した書類に判を押してないっぽいというか、押した、受理したが来てないので」
「ということは君をご家族が利用する気、まだあるってことだよ」
「前とは違う部分もあるんですけどもね」
「そこで十分じゃないってことは、まだ問題は起こると思うんだよ」
「あ~やだやだ」
「モナさんさ、いっそのことこっちでずっと暮らせば?」
「えっ?」
「こっちに来てからさ、仕事も順調、友達とか人間関係も良好ならさ、ずっと居ちゃえばいいのに」
「はぁ」
これは、はぁ、そうですかの、はぁだろう。
「それともさ、ずっとこっちにいられない理由もあるの?」
「理由…」
「確かにちょっと危険は多い部分はあるけども、ちゃんと危険手当ても高いし、分類されているから」
KCJ分類の危険手当の等級(人・サンタ・サメ)
「何か不満なことあるの?」
「幸せでいいのかな?っては思いますね」
「何さ、それ」
「私は偶然というか、事件の目撃者になってからこっちの世界を知ったわけですけども、最初はなんてついていないんだろうって思ったんですよね」
生活のために都市部に来たら、いきなりさ…
「そのまま、良くしていただきましたからね、その時故郷で話したら、そんないい話あるはずがないっていってましたが、あの人たちはそれで生活できているって状態になれたのは、わかってなかったみたいですから」
「他の親戚たちもそれで考え方が変わったんでしょ?モナさんがお金送ったから、あの額ぐらいは分家でも送れるんだからってことで」
「逃げた親戚もいましたね、それはしょうがないと言えますがね、あれは正確にはわけありのお金というか、自分で使えない縛りのお金で渡してましたが」
いわゆる浄財の前の段階のやつ。
「確かに金銭ではあるけども、最初にかわした約束通りに使わないと、あれは色んなこと起こすからな」
こっちの世界がお金ある理由が実はこれだったりする。
「俺は昔からそんなもんだろうしなって思ってるし、モナさんも気にせずに使えているけどもさ」
「だって今日は面倒くさいから、もっと安いスーパーに行きたいけども、このぐらいで妥協しようかぐらいならば何も起きないんですけどね」
ただし今日はポイント五倍デー、妥協点もしっかりしている。
「だから最初に連絡をもらったとき意味わからなかったですね」
仕送りで遊んでたし。
「遊び相手の借金払ってましたから」
「それは君の親としてどうなの?」
「すいません、あの親しか知らないんで」
「そうはいうけども、モナさんは感性は普通というか、ああいうのに嫌悪感をきちんと持ってるから、すんごい不思議」
「やめてっていってもやめてくれるわけがないんで」
「バカだな、それはいい関係性ではないよ」
「最初はこっちに来て働こうとするのも大変だった」
「そりゃあ、そうでしょうよ」
「あの最初の事件の目撃者になったことで、全部運を使いきったのかなって」
「そう?」
「そんなもんですよ、そのぐらいは残酷といいますかね、引っ掛かったので、話をして行くと、闇がとても深い話で」
「目が離せなくなったらダメだよ、そういうのはあんまり良くない」
「そうですね、でもあそこまでのものだとかえって落ち着いて見れる、なんというか、歪んでいるのでしょうが、あなたも傷があったのね、私にもあるのよと、見せたくなるような」
「君は自分のことを汚いと思っているようだけども、俺にはそうは思わない、そういう俺の意見を好きではないかもしれないけどもさ」
「うれしいですよ、そんなこといってくれる人はいませんでしたから」
「そう…だとしたら、他の男は見る目がないね」
「化け物のように見えているのかも」
「ふ~ん、そういう風に拗ねるのはいいけどもさ、俺にはその手は効かないんだよな」
「へぇ~なんでです?」
「煙に巻こうとしている、まあ、そこから踏み込むやつはいなかったから、今まではそれでおしまいだったんだろうけどもね、俺はそうじゃないから」
屈託もない笑顔でそんなことをいう。
「騙されても知りませんよ」
「どう騙してくれるの?」
「私はそんなことしたくありません」
「真面目さんだね、そういうところがとてもいいんだけどもさ」
「今日はよくしゃべりますね」
「お腹一杯だからじゃない?」
「お腹一杯だとそうなるんですか?」
「いつもは口に出さないけどもさ、さっき帰ろうと思ってる話聞いたら、上手くいかなくてもいいから、ちゃんとしゃべろうと思ってさ」
「なんですか、それ」
「そのまんまだよ、俺としては行かないでほしいし、ずっとこっちで暮らせばいいんじゃないかなってある、そのぐらいたまにこうしてごはん食べたり、喋ったりするのが、俺には大事なんでだと思うけどもね」
「そうなんですか?」
「そうだよ、でもモナさんが抱えているものの重さもわかっているつもりだ、未浄の財を最初の約束として使わなかったことで起こることは、昔からこの界隈で生きているやつは間違ってもやらないことだし、だからこそ大義名分ができたことで浄化されたお金をまとめて使ったりするんだけどさ」
だいたいそうなる古い流派や口伝守っているところなんかは、形に残るような、耐久財、質の高くて丈夫ないいものや、いつも使うものをまとめ買いしたりします。
「ああいうの知らなきゃ、なんでこういうときに買うのかわからなかったと思う」
「理由知らなきゃ節約しているって見られているんじゃないかな、実際にお金があるのにケチ臭いとはいわれたりするから、わからない人ほどそういうよ、ただあの時は君がそばにいてくれて良かったと思うよ」
「愛想笑いが引きつってましたからね、あなたのそういう顔は初めて見たんです」
だから話が終わった、その後もしばらくそこから離れなかった。
「あの時はいてくれてありがとうね」
「誰にでも弱いときはありますよ」
「誰にでもモナさんはああいうことするの?」
「しません」
「良かった、博愛だったらどうしようかと思ってたよ、勘違いしちゃうじゃん」
「?」
ニコニコしながらこっちを彼は見ている。
「モナさんの田舎ってどんなところ?」
「古い街ですよ」
「未だに因習があるものね」
「ありますね、女が生きていくのは面倒なところです」
「どうしてそんなことするのかな」
「さあ、たぶんもうそんな理由なんて忘れているし、都合がいいんですよ」
「そういうもんだ、それに逃げたとしても時代に合わないとダメなもんだけどもね、人口減は避けられないし、他の都市部と違って、こっちは治安に関してはサメちゃん達がいるから、平和そのものだからね」
この間も子供を誘拐しようとした事件の際にサメがいたので助かった。
「うちの子に何かしら、このサメは」
そういわれるとサメの目がだんだんとキツくなっている。
「あっ!いた!お母さんいたよ!」
連れ去られようとしている子のお姉ちゃんだろうか、そんな声をあげると、連れ去ろうとした犯人は慌てるが。
ヒレが犯人をつかんだ。
「助けて、私は何もしてないのに、サメが、このサメが!!!!」


『メッ』


川魔法、サメに及ぶものはないが発動した。効果としては相手に恐怖を与える、魔法をかけられた人はこれからサメを見るたびに恐怖となる。
魔法をかけられた本人はペタリとその場に座り込んで、何かぶつぶついってた。
「サメが、サメが、サメがやって来るのよ」
そして連行されるのときに。
「私をサメがやってこない場所に閉じ込めて、そうね、格子があるならばいいわね、丈夫な、サメが中に来ないような」
などといってた。


「やりすぎじゃないって言葉もあったけども、その後調べたら全然やりすぎじゃなかったってやつでしょ」
「そうそう、その犯人は引っ越してきたばっかりだけども、前に住んでいたところでは有名だったとかでさ」
「なんかこの街は因習持ちがあちらこちらからやって来ているのに、平和よね」
「愛されているからじゃない、何かあったら嫌じゃん」
「それはいいことだと思う」
「あっ、それでいつ帰るの?」
「とりあえずチケットとれ次第だけども、しばらく休みをとる感じで」
「そんなに長くいるの?」
「いえ、確実に不快なことがあるから、戻る前に、温泉地によって、そこで何日か過ごしてから戻ろうかと」
「不快なことがあるのはもう決定なんだ」
「今まで不快じゃなかったことがない」
「そこまでか、それなら俺も一緒に行こうかな」
「えっ?」
「いい仕事するよ、前にさ、名産品とかまとめて買ってくる時に一人だとほしいものがあっても無理だったって話してたじゃん?俺、そういうのも得意だよ」
「あっ、お姉さんいるものね」
「姉さんに鍛え上げられた荷物持ちのスキルは結構高いから、使えると思うし、それならば俺に未浄財のお金使えるわけだしさ」
お仕事か、それなら…
「ではお願いします、ただ本当に不快よ」
「なんて言われるかはわからないが、そうしたら飲み会のネタにすると思います」
そうしてお願いしたところ…

(酷いね、人のことをなんだと思っているんだろう、身なりも合わせて来て良かったな)
汚れるとわかっても下手の良いものを身に付けたため、そこも威圧になってる。
モナを下に見ているので、付き添い兼運転手で来ている彼の身なりを見て。
「この女のどこがいいんだ、そんな女よりうちの娘はどうかね?」
など話を持ってきたり。
「私の方が可愛いと思うんですが?」
本人から直接アプローチしてきました。
(話に聞いてたけどもすごい土地柄)
(年齢と身なりで目をつけられましたね)
(出来るだけそっちも一人にならないようにしないでね)
(それは私よりあなたの方がですよ)
(俺、君に何かしようとしたらサメぐらいの反射速度見せるよ)
「申し訳ありません、こちらは向こうではお世話になってる方なので」
「それはわかるがこちらの顔も立ててほしい」
「それでしたら、正式にこの方よりも上役のかたにお伺いをたてていただかないと」
「わかった」
(立てれるの?)
(直接知らないと思うし、都市部側になると頭を下げるしかこの人たちはないんだよ、交流がこの人たちの代で切れたというか、切ったというか)
(いろいろあるのね)
(そっ、あの都市部に私が働きに行けたのはその昔は交流があったからなんだよ、途切れてもまだ実際に交流している人達が生きていたのならば、それなりの繋がりがね、名産品とか送ってたんだよね)
(なんでそれをやらなくなったの?)
(そこまではわからない、お金がないわけではないんだけどもね、んでもって、そこを境に向こうからの文化やマナー類が入ってこなくなったから、一番大変なのは品物を買ってもいいが手入れも、修理もできなくなったことだよ)
その技術を持っていた人が生活ができなくなった。
「すいません、お時間がありますので、本日はここで失礼いたします」
と切り上げた後に。
「代わりにこちらの山海のものは都市部に出回らなくなったから、商売が成り立たなくなったんだ、お金があれば変えるじゃなくて、気に入ったら売るみたいなさ」
「それは未来がないね」
「そうだね、まっ、しょうがないところなんだよ」
彼女は痛々しく笑った。
「モナさんはずっと仕事したからな」
「休みなんてあるのかな?って生活をやっとあの街に行ってからかな、ある時気づいたよ、あっ、洗剤買うときに値段に迷わず買えるようになったと、気づくのちょっと遅かった」
「そんなことないさ、時間だったらさ、アンチエイジングするなら俺もするから、そしたら長生きしても知らない人ばかりゃないでしょ」
「長生きがいいことばかりじゃないさ」
「後悔することもあるとは思うよ」
「でしょ?」
「だけどもね、俺としては…ってところだよ」
「あなたは本当に人がいいのね」
「誰にでもってわけではないさ」

未浄の財というのは、きちんと手順を踏んで浄化させると、それまでの不運が考えられなくなるほど幸運に恵まれるということもある。
どうかこの二人に幸せな未来あれ!
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