浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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救済の鍵

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「娘さんも連れていくのかい?」
「これでもうちの子は強いんだぜ」
「私、頑張ります」
瀬旭(せきょく)の依頼に、螺殻(らがら)ミツを同行することになったのだが、現場でそんなことを言われてしまったのである。
「そうか、じゃあ、気を付けてな」
今日はカマキリの駆除である。ただし想像の二倍ぐらいはでかい奴、そいつの巣を破壊し、飛び出し、巣を壊した奴に対して怒りをぶつけてくるようなタイプ。
「それをこちらに近づかれる前に撃ち落としていくってやつ」
平然と瀬旭はいうのだが、そのカマキリは人の指ぐらいならば切断しちゃうので、普通の人間には対象はできないものだし、飛び出してきたカマキリを近づく前に撃ち落とすなんて、そんな真似をできるやつが銃器武装の人間で何%いるかであるを
「まずはやってみて、サポートは俺がやる」
元々瀬旭が一人でこなしていた仕事、だからこそ見学として同行というよりは実践経験を踏ませるにはぴったり。
「片付けはいつもさっきの人がやってくれるから、そうだな、距離を半分まで詰められたものは俺がやるってことでいいかな」
「はい」
こんな感じでルールを決められはするが、自分の命がかかっている中で精確な射撃というのは難しく。
いつもは躓かないところでも、もたもたしてしまうものだ。
だが。
(思ったよりはいいんだよな)
臆すことなく、狙っていくし、もたついても、そこで諦めない。
(俺がミツぐらいの頃ってどうだったかな?)
ふと思い出してみる。
(適当にやりすぎだったか)
生意気な口ももちろん叩いていた。
(だからもあるか)
そう、だからこそ、真面目に挑んでくれる人間というのは嬉しいのだ。
しかも、自分の技術を吸収しようとしてくれる、物真似ではなく、こう…なんというか、影響を受けているとか、目標を受けてくれている。
(これが親心というものなのか)
「瀬旭さん、ごめんなさい」
弾倉の切り替えの間は、「任せてよ」と代わりに当てていく。
「もしかして、カマを狙ってます?」
「足でもいいんだけどもさ、やっぱりあいつらが怖いのはカマだから、ほら人間だってそうでしょ?刃物を持ってたら危ないよね」
こんな動き回るカマキリのカマをよくもまあ、きちんとあてていくじゃないか。
「どうやったらそんなことできますか?」
「相手をよく見て、その後は練習だよ」
笑っていた、そこにミツはよーしと奮起して、冷静に狙い始めた。

「お仕事はどうでしたか?」
水芭(みずば)の音声が車内に流れる。
「が、頑張れてたと思います」
「はい、ミツは後部座席で少し休憩しなさい 
「すいません、お言葉に甘えます」
「カマキリだけどもさ、例年より巣が大きくなっていたよ、やっぱり気温が高くなってるせいなのかな?」
「ちょっと待ってください、…ああ、そうですね、大きさから一週間から10日ぐらい経過した大きさになってますね」
「来年もっと大きくなったりして」
「それなら一人ではお願いできませんよ」
「やっぱり例年の10日前ぐらいに一度見に行ってもらって、ってことになるんじゃないかな」
「そうですね」
車は走り出した。
「そっちはどうなのさ?」
「こちらも無事に終わりました」
「本当に最近はいやだね、こっちが苦手なことを探るようなことをしてくるんだもん」
「それは王道的な手では?」
「そうだけどもさ、そうなんだけどもさ、あんまり好きじゃないよ、来るならさ、真っ正面からヘイカモーンってはいかないのかね」
「そうしたら蜂の巣に向こうはなりますよ」
「蜂の巣にしちゃうね、そっか向こうもバカじゃないってことか」
「バカだと思います?」
「バカだと思いたいよ、こっちも構えてばかりじゃ大変でしょ」
「うちは楽な方では?」
「そうだね、白万(はくまん)いるから、ここは確実に安全であるってところを確保できるとね、一息を確実にここで入れるっていうのはわかるわけじゃん」
「はい、そうですな」
この事務所の人間は身内や仲間を大事にするが、身内の時だけ事務所の内装が本来のものに変わる。それは魔法の使い手である白万が、組み立て抜いた理論的な構築で出し入れしているからだ。
「ピースが揃わないと答えは登場しないって、本当に上手く考えたと思うよ」
カケラ、ピースが何かは秘密だが、それらが揃わないとそこへの道は開かない。事務所併設のbarに、白万は倉庫から現れるように、色んな仕掛けがあるのだろう。
その鍵を預かるのが水芭である、瀬旭が銀の弾丸、覆木(おおうき)が魔弾の射手のような名前としては、そこにちなんで「救済の鍵」を持っている。
「でもこれはね、他の意味も含んでいるから定着したんだよな」
「えっ?それってなんなんですか?」
ミツが覆木に質問すると。
「水芭はお酒を鍵をかけて守ってるから」
俺を癒すのは酒だけだ、救ってくれるのも酒だけだ、だから水芭さんお願いします、お酒を、お酒を出してください。
「だから救済してくれるお酒をかかってる鍵で、救済の鍵」
「ええ~」
言葉としてはラテン語由来のものなんだが、ここではそのお酒の意味の方が強くなってしまってる。
「最初は冗談半分だったんだが、今はお酒に鍵が筆ようになったからな」
「事務所の襲撃でお酒がダメになるって奴ですよね」
「そうそう、今日も暑いじゃん?こんな日に近かったある日に、barに入った奴がいてね」
日本酒を温度設定きちんとしたところから勝手に持ち出して飲んで、そのままカウンターに置いてありました。
「もう匂いから、変質しているのがわかりましたからね、まあ、そうでなくても廃棄ですけども、どこの誰かは知りませんが、怒りがさらに増しましたね」
「キャー、水芭さんが怖い」
これは瀬旭の悪ふざけ。
「なんですか、それ」
「ちょっと穏やかな気持ちを取り戻してもらおうかと思ってね」
「それでは取り戻せまんよ」
「そうかな?俺は悪くないと思うよ」
「はいはい」
「また、それだ、便利かもしれないけども、もっとコミュニケーションとろうぜ、そういうの大事だぜ」
「この辺の話はふざけられるのはちょっと、うちの事務所への恨みなのか、酒を狙ってくるのかでも防犯体制変わるんで」
「えっ?恨みじゃなくて、お酒を狙われるんですか?」
これはミツだ。
「うち、かなり珍しいのも揃っているんだよ」
視線によって促すと、ミツもそっちを見る。
「ミツ、そのお酒持ってると是非飲ませてくれって言われるのは、上の棚の左から五番目、中段の右から二本目、下の段は…あれ?俺も見たことないのがあるけども」
「これですか?復刻版のブレンドなのですけど」
「それは出してもらえるの?」
「今はまだ、飲み頃として半年ぐらい先ですかね」
ヒヤッとした空気がカウンターに流れてくるが、それでも室温調整は完璧を維持できるという。
「はいはい、これ以上見ると目に毒ですよ」
「え~もっと見たい」
「お客さんも来ますから」
「わかってるよ」
その時景色が由来だ、本日一人目のお客さんが来たらしい。
「こんばんわ」
「いらっしゃいませ」
「あれ?みんな今日は揃っているね、仕事だったのかい?」
そういってお客は、カウンターを選ぶと、たぶん今日しかメニューに登場しないだろうなを選んだ。
(このお客さんできる!)
ミツから見てもわかるぐらい、たまたまセールだったとか、安く買えたでなければ、水芭が作ることはない、手間と食材がたっぷりと使われているものだけそのお客は選んだという。
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