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思うことでさえも罪深い
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「おや?これは、これは、珍しい」
「元気してる?」
覆木(おおうき)は聞いてくる。
「ええ、元気ですよ」
「嘘でしょ」
「まあ、嘘ですが、そんなもの気にしなければいいでしょ」
「イヤだ」
「わがままだな」
「俺がわがままなのは知ってるでしょうに」
「知ってますが、それでも改めて言われますとね」
「諦めてよ」
「それを真顔で言いますか」
「そりゃあね」
「ひどい人だ」
「そんなに酷いとは思わないんだけども」
「自覚はないのでは?」
「あんまりない、というか気にしない」
「やっぱり酷い」
「君が気にしすぎだと思う」
「そこをつかれると弱い」
「でしょ?だから俺は悪くない」
「こういう話をするために来たんですか?」
「そうだよ」
「…」
「その顔、意外なの?」
「意外ですよ、そういうことをするようには思いませんでした」
「マメよ、俺は」
「それは誤解されません?」
「でもマメだということは大事じゃない?」
「…」
「顔を見たかったし」
「見に来てどうするんですか」
「見て、今、どうしているのか、君の口から聞きたいじゃないか」
「面白いこといいますね」
「そんなに面白いかな」
「面白くないですか?わざわざさのために時間をかけてくるんですよ」
「その価値があるからここに来ているんだよ」
「おモテになる人は違いますね」
「そうかな」
「そうでしょ、まっ、心配されましたか、そちらにもそろそろこっちの噂話が回っているのかなとは思いましたが」
「その前に聞いたって感じ、今は情報に力をいれているものだからさ、ここで会えるとしたら、今日しかなかったんじゃない?」
「そうですね、しばらくは籠るでしょうね」
「そうなったら、次はいつになるか、そうなる前に話をしておきたいからな」
「ご心配をおかけしたようで」
「強い子なのはわかってる、わかっているけども、さすがにこの件は、おかしすぎる」
「おかしいでしょうね、何故か書類が受理されてなかった、何故か窓口に記録が残されてなかったとか、おかしすぎてましょ」
「この件はこちらでも預かっておく」
「ただ本腰はまだ入れないでくださいよ、探っていることが気に入らないことをしているに、たぶん繋がる」
「やだね、そういうのって」
「本当にそう思いますよ」
「それでと俺はがやれることをやりたいってところかな」
「あっちこっちに相変わらず干渉をなされているようで」
「もうこれが生き方だからしょうがないよ」
「だから嫌われたりもするんですよ」
「知ってる」
「全く」
「悪いね」
「悪いねじゃないですよ、悪いねじゃあ、まあ、こっちと大きく動けないことには変わりはありませんが」
「なんかいい手ある?」
「えっ?それも私が考えるんですか?」
「いい案が浮かんでいるんじゃないかなって思ってさ」
「瀬旭(せきょく)さんじゃあるまいし」
「その言い方はけっこうショックなんだけども」
「最近似てきてません?」
「どこが?」
「でも、元々理解できることが同じじゃなかったら長く仕事なんてできないでしょうし」
「それはそうだね、どうしてもこれは相容れないことっていうのは一致しているからな、それがうちの事務所、今いる人間の強みかもしれない、気づくまでにすごい時間がかかったし、俺らも頑固だから認められないのよ」
「これから年を重ねるたびに、もっと頑固になりますよ」
「それ聞くと年を取るのが怖いよ、やっぱり柔軟に物事を考えておきたいじゃない」
「あっ、そういえばナイフはどうですか?」
「最近はなかなかいいものがなくて」
「覆木さんが持ち歩きたくなるようなものって、そこらのものじゃないですしね」
「そうかな」
「こだわりすぎますから、水芭(みずば)さんは別の意味で大変でしょう」
「呆れられないようにしなきゃね」
「そうですよ、呆れられたら事務所はそこで終わりになるんじゃないんですか?」
「みんなそれ言うんだよな、今は新人も入ったわけだけども」
「上手くやれているならなりよりでは?」
「その言い方だと、新人さんたちってそんなに育ってないわけ?」
「ええ、それこそ順調なのは覆木さんぐらいじゃないかな、というか、意外とあの人はヘタレだったというか」
「ヘタレ?」
「組合の」
「ああ、はいはい」
誰のことかわかったようだ。
「彼は彼で一生懸命遣っているんじゃないかな」
「その割には先日の件、自分から動かなかったかなと」
「それが不満?」
「こういうときに立場がある人が動かなきゃダメでしょ?」
「そういう考えで、その立場にいる人ではないんだよ」
「そう割りきっている方が怖いんですけど」
「そう?」
「そうですの、なんです?大人の余裕ですか?」
「言われても出来ない、直せないはあるから、俺らも大分注意を受けたことはあるし」
「そうは言っても、あなた方とアレは違うと思いますよ、なんというか、こちらから見ても理解できないし、あちらから見ても理解しない、そんな関係じゃありませんか、世間体だけで成り立っているのならば、利害程度で壊れますよ」
「なかなか辛辣なこというね、というか、そこも心配だったわけ、立場的にどうしても話し相手が限られてくるし、君は失ったばかりだ」
「そんなに心配ですか?」
「心配だよ」
「一人で生きていけますよ」
「そんなに強い人間ってどこにいるんだよ」
「強くなくても、強くあらねばならないんですよ」
「知ってるけどもさ、それは寂しい生き方だ」
「君と話していると言葉というのはスゴいことも起こせるが、無力でもあることを思い知らされるよ」
「面倒くさいでしょ?だから話すのをやめたらいいんですよ」
「拗ねてるの?」
「拗ねてますね」
「拗ねてるか…」
もうこれ、どうしようかなって顔。
「だからしばらくは浸らせてくださいよ」
「思い出の中で生きるというか、思い出して生きるか…」
「いい人生じゃないと、少しで良かったことを思い出して、それを絶え間なく、ループして考えていかないとね」
「辛い?」
「どうでもいい」
「君の言葉のこういうところなんだよね、魅力を感じてしまう」
「そこで魅力?趣味がお悪い」
「そう?けっこう好きだからかもしれないが」
「いやいや、悪いですって、何を言っているんですか」
「こうして話しているうちに、気でも変わって、前向きに生きてくれないかなって思ってるわけ」
「そんなこと、いや~ダメでしょ、それは望んじゃダメだ」
「許せないのはわかるけどもね、ある程度はよ、その気持ちの強さも、自分の体を傷つけるようなことはやめたほうがいい」
「わかりました」
「納得してないくせに」
「納得はできないですよ、でもあなたの信頼を無視するのは何かちょっと違うと思う」
「それならまだ間に合うと思うよ」
「絶対じゃない」
「絶対を信じてたいの?」
覆木は笑いながら聞いてくる。
「そこは信じたい、けれど、それはないんですよ」
「ないね、ないって言われるとそうかもな、とも思えるし、不思議な気分だよ、俺は忘れてさっさと新しい道を歩むべきだ、そこは変わらない」
「私はそれが出来ないんですよ、やれたら、と思うことでさえも罪深い」
「罪深いね…」
「罪深いでしょうよ」
「そう思うのは勝手だよ、勝手だけども、そっちに行かないでほしい」
「…」
「君には幸せになってほしい、そうあることが俺の望みだ、じゃあ、また来るから」
「しばらくはいませんよ」
「それでも会いたいよ、じゃあね」
残らせれた方はそんな覆木には呆れていた。
「元気してる?」
覆木(おおうき)は聞いてくる。
「ええ、元気ですよ」
「嘘でしょ」
「まあ、嘘ですが、そんなもの気にしなければいいでしょ」
「イヤだ」
「わがままだな」
「俺がわがままなのは知ってるでしょうに」
「知ってますが、それでも改めて言われますとね」
「諦めてよ」
「それを真顔で言いますか」
「そりゃあね」
「ひどい人だ」
「そんなに酷いとは思わないんだけども」
「自覚はないのでは?」
「あんまりない、というか気にしない」
「やっぱり酷い」
「君が気にしすぎだと思う」
「そこをつかれると弱い」
「でしょ?だから俺は悪くない」
「こういう話をするために来たんですか?」
「そうだよ」
「…」
「その顔、意外なの?」
「意外ですよ、そういうことをするようには思いませんでした」
「マメよ、俺は」
「それは誤解されません?」
「でもマメだということは大事じゃない?」
「…」
「顔を見たかったし」
「見に来てどうするんですか」
「見て、今、どうしているのか、君の口から聞きたいじゃないか」
「面白いこといいますね」
「そんなに面白いかな」
「面白くないですか?わざわざさのために時間をかけてくるんですよ」
「その価値があるからここに来ているんだよ」
「おモテになる人は違いますね」
「そうかな」
「そうでしょ、まっ、心配されましたか、そちらにもそろそろこっちの噂話が回っているのかなとは思いましたが」
「その前に聞いたって感じ、今は情報に力をいれているものだからさ、ここで会えるとしたら、今日しかなかったんじゃない?」
「そうですね、しばらくは籠るでしょうね」
「そうなったら、次はいつになるか、そうなる前に話をしておきたいからな」
「ご心配をおかけしたようで」
「強い子なのはわかってる、わかっているけども、さすがにこの件は、おかしすぎる」
「おかしいでしょうね、何故か書類が受理されてなかった、何故か窓口に記録が残されてなかったとか、おかしすぎてましょ」
「この件はこちらでも預かっておく」
「ただ本腰はまだ入れないでくださいよ、探っていることが気に入らないことをしているに、たぶん繋がる」
「やだね、そういうのって」
「本当にそう思いますよ」
「それでと俺はがやれることをやりたいってところかな」
「あっちこっちに相変わらず干渉をなされているようで」
「もうこれが生き方だからしょうがないよ」
「だから嫌われたりもするんですよ」
「知ってる」
「全く」
「悪いね」
「悪いねじゃないですよ、悪いねじゃあ、まあ、こっちと大きく動けないことには変わりはありませんが」
「なんかいい手ある?」
「えっ?それも私が考えるんですか?」
「いい案が浮かんでいるんじゃないかなって思ってさ」
「瀬旭(せきょく)さんじゃあるまいし」
「その言い方はけっこうショックなんだけども」
「最近似てきてません?」
「どこが?」
「でも、元々理解できることが同じじゃなかったら長く仕事なんてできないでしょうし」
「それはそうだね、どうしてもこれは相容れないことっていうのは一致しているからな、それがうちの事務所、今いる人間の強みかもしれない、気づくまでにすごい時間がかかったし、俺らも頑固だから認められないのよ」
「これから年を重ねるたびに、もっと頑固になりますよ」
「それ聞くと年を取るのが怖いよ、やっぱり柔軟に物事を考えておきたいじゃない」
「あっ、そういえばナイフはどうですか?」
「最近はなかなかいいものがなくて」
「覆木さんが持ち歩きたくなるようなものって、そこらのものじゃないですしね」
「そうかな」
「こだわりすぎますから、水芭(みずば)さんは別の意味で大変でしょう」
「呆れられないようにしなきゃね」
「そうですよ、呆れられたら事務所はそこで終わりになるんじゃないんですか?」
「みんなそれ言うんだよな、今は新人も入ったわけだけども」
「上手くやれているならなりよりでは?」
「その言い方だと、新人さんたちってそんなに育ってないわけ?」
「ええ、それこそ順調なのは覆木さんぐらいじゃないかな、というか、意外とあの人はヘタレだったというか」
「ヘタレ?」
「組合の」
「ああ、はいはい」
誰のことかわかったようだ。
「彼は彼で一生懸命遣っているんじゃないかな」
「その割には先日の件、自分から動かなかったかなと」
「それが不満?」
「こういうときに立場がある人が動かなきゃダメでしょ?」
「そういう考えで、その立場にいる人ではないんだよ」
「そう割りきっている方が怖いんですけど」
「そう?」
「そうですの、なんです?大人の余裕ですか?」
「言われても出来ない、直せないはあるから、俺らも大分注意を受けたことはあるし」
「そうは言っても、あなた方とアレは違うと思いますよ、なんというか、こちらから見ても理解できないし、あちらから見ても理解しない、そんな関係じゃありませんか、世間体だけで成り立っているのならば、利害程度で壊れますよ」
「なかなか辛辣なこというね、というか、そこも心配だったわけ、立場的にどうしても話し相手が限られてくるし、君は失ったばかりだ」
「そんなに心配ですか?」
「心配だよ」
「一人で生きていけますよ」
「そんなに強い人間ってどこにいるんだよ」
「強くなくても、強くあらねばならないんですよ」
「知ってるけどもさ、それは寂しい生き方だ」
「君と話していると言葉というのはスゴいことも起こせるが、無力でもあることを思い知らされるよ」
「面倒くさいでしょ?だから話すのをやめたらいいんですよ」
「拗ねてるの?」
「拗ねてますね」
「拗ねてるか…」
もうこれ、どうしようかなって顔。
「だからしばらくは浸らせてくださいよ」
「思い出の中で生きるというか、思い出して生きるか…」
「いい人生じゃないと、少しで良かったことを思い出して、それを絶え間なく、ループして考えていかないとね」
「辛い?」
「どうでもいい」
「君の言葉のこういうところなんだよね、魅力を感じてしまう」
「そこで魅力?趣味がお悪い」
「そう?けっこう好きだからかもしれないが」
「いやいや、悪いですって、何を言っているんですか」
「こうして話しているうちに、気でも変わって、前向きに生きてくれないかなって思ってるわけ」
「そんなこと、いや~ダメでしょ、それは望んじゃダメだ」
「許せないのはわかるけどもね、ある程度はよ、その気持ちの強さも、自分の体を傷つけるようなことはやめたほうがいい」
「わかりました」
「納得してないくせに」
「納得はできないですよ、でもあなたの信頼を無視するのは何かちょっと違うと思う」
「それならまだ間に合うと思うよ」
「絶対じゃない」
「絶対を信じてたいの?」
覆木は笑いながら聞いてくる。
「そこは信じたい、けれど、それはないんですよ」
「ないね、ないって言われるとそうかもな、とも思えるし、不思議な気分だよ、俺は忘れてさっさと新しい道を歩むべきだ、そこは変わらない」
「私はそれが出来ないんですよ、やれたら、と思うことでさえも罪深い」
「罪深いね…」
「罪深いでしょうよ」
「そう思うのは勝手だよ、勝手だけども、そっちに行かないでほしい」
「…」
「君には幸せになってほしい、そうあることが俺の望みだ、じゃあ、また来るから」
「しばらくはいませんよ」
「それでも会いたいよ、じゃあね」
残らせれた方はそんな覆木には呆れていた。
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