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良くも悪くも欲に弱い
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河川管理の部長ヒロシといえば、厳格で仕事ができる男とされている。
「部長、お呼びでしょうか?」
「今日の分の書類はもう目を通してある、他にはあるかね?」
「いえ、ございません、こちらでも確認させていただきますので失礼いたします」
「何かあったら連絡してくれ」
パタン
誰もいなくなった室内、だが部長の視線は一ヶ所に、ソファーに座っているほぼ原寸河川ザメのぬいぐるみである。
(いい…)
いつ見てもサメは良いものである。
ヒロシも最初は平均的な職員、いや、平均以下の職員だったかもしれない。
「あの頃は思い出したくはないが、本当に仕事が出来なかった、慣れない環境が辛かった、言い訳にしかならないが」
そんな疲れている毎日でサメと出会った、いや、思い出したというか、子供の頃家族で旅行、その時に見たやけに愛嬌がいいサメ、これは現在では浄水センターのおっちゃんだとわかっているのだが、楽しかった思い出は辛さを支えて、真面目に頑張り出すことに繋がった。
そしてヒロシは気づいた、サメが視界にいると、サメに見られている、恥じない自分にならないといけないと、努力が苦ではなくなるということを。
ここまで来ると、それならサメを常に視界に入れておけばいい、さすがに本物はダメだが、何か代わりになるものを…その時はキーホルダーなどであった。
しかし、そんなサメの力を借りても、大きな問題がやってきてしまった、そう螺殻(らがら)ミツが瀨旭(せきょく)や覆木(おおうき)、水芭(みずば)の事務所に行くことになったきっかけの事件。
洗脳能力としては強くはない、だから警戒はそこまでではなかったが、そいつには話術があった、スルスルっと持ち上げられて、入り込まれ、気づいた時には中枢がどうなっているのか把握も出来ない状態、これは外部からの応援が必要でそうでなければこの街は今のような形すらも保てなかっただろう。
何しろ目的は金や権力の欲しさ、あの強欲ぶりではこの街は何年か先には搾り取られていただろう。なんというか、そういうのを平然とやる、やってきた人間に目をつけられた。ならば手慣れているのを出そうと、商業組合のお偉いさんが信用おける人間に依頼したということで、協力してほしいとヒロシに打診があった。
そして現れたのは瀨旭、ヒロシは名前なら見てわかる通り、日本に影響されてつけられた名前である。もっというとこの街は結構日本とも交流があった、そのために日本風の名前がついている人はそちらの縁者と思っていい。
ここで少し気になるかな?
では螺殻ミツはどうなのか?と、彼女は両親共に日本人でこちらで生まれて育っている、両親は幼くして亡くなっているので、そこからはお金がなくても入れる訓練学校、お堅い職員になるために頑張って入局している。
「勉強や仕事というのは人間関係と違って、努力がまだ報われるんですよね」
水芭がそういうと。
「そうなんですよね、資格とかいくつか取ってるからこの事務所に来るのがスムーズだったんですが、あの頃の私はそれしかなかったというか、お金もなかったから、勉強と気分転換と運動を兼ねての掃除ぐらいしか思い出がないですもん」
椅子があまりよいものではなく、座ってると疲れてくるので、安くていいクッションはないかと探したり、それでも長時間座ると辛いので、その時に体を動かす、全身運動として掃除していた。
「掃除って遊びに行くより安く上がるんですよね」
「それはわかる」
「確かに最初に揃える時はお金かかるけども、というかこちらに来て思ったんですが、洗剤の種類が多くてビックリしましたよ、しかも買える値段でそろってるんですもん」
「そういえば向こうはアルカリ、酸性の強いのしかなかったとか」
「そうなんですよね、それに比べれば、この小さいので大丈夫なのかなって思ったら、使ってみたら便利すぎましたよ」
それでも注意書はあるので、ミツは自分の家のはこう試していってるという話をする。
「もうわかりやすくいうと、酸性、中性、アルカリ性、中性ってローテーションで回してますね、でも酸性やアルカリ性の洗剤の日でも、今日は疲れたなっていう時は、中性の汚れを汚れするものも足して使って終わらせますけども」
疲れたらで、そのまま寝たりしないんだ、それだけで本当に尊敬する。
「それでも間に合わないときは家事代行に頼むから、その時はこっちに言ってね」
「えっ?事務所で出すんですか?」
「ミツさんは物件を任せられる人間だけども、そうじゃない人間の方が多いし、俺も全部見てられるわけじゃないからさ」
その場合はミツをこっそりと守っている、河川ザメのシイさんの身内が来てくれることになる。
理由は違う川から来ると喧嘩になる可能性があった。
「瀨旭さんや覆木さんもサメのみなさんにですか?」
「覆木さんは自分でできるし、瀨旭さんは定期的に俺がやっている」
「それは知らなかった」
今はミツがいるから水芭の負担はかなり減っているのだが、それでも水芭に何かあったら事務所は止まる。
「今、ここでいうのは卑怯かもしれないけども、水芭がやめたいっていったら、止めないで、この事務所も終わっていいかなって思ったりもする」
「やめてどうするんですか?」
「田舎に帰るなんてどう?」
「俺はそういうのありませんから」
「そっか…」
「まあ、でも一応はうちの事務所が何かしらの理由でターゲットにされたらった考えているんですね」
「まあね、だって、どう考えても権力がほしい人が組合の幹部にいたら、そういう人たちばかり集まってくるじゃないか」
「あれは治りませんよ」
「そう思う、そして向こうは力をつけ終わったら、たぶんこっちを潰しに来るよ」
「来ますね、ただ幸いにも上手くは言ってないようですが」
「おかしいんだよな、ミツが来てくれたのも奇跡だと思うんだけども、何でそろそろこっちに仕掛けて来ないのかなって」
「覆木さんは相手にも好敵手であってほしいと思ってるかもしれませんが、そういう人間ばかりではありませんよ、なんというか、良くも悪くも欲に弱い」
「でもさ、ミツが許可証を取得する前に襲撃すれば俺ら痛手食らっていたと思うんだよね、だから来るのかな、来るのかなって、それでシイさんにも頼んだのにさ、来なかったし」
「あの時パワハラ焼き肉した関係者がいたんですよ」
「えっ?何それ」
「KCJさんから書類いただきました」
「何々…パワハラ焼き肉して損害賠償を求められて、それをこっそりと処理しようとしていた、そのために大きく動くことが出来なかった、あっ、うちに襲撃させるとそれが漏れる可能性があったから、その賭けに出なかったのか」
「こちらは話し合いで、最初は渋ったのですが、他に話が出るのを恐れて口止め料も追加で支払ってと」
「でもKCJの耳には届いてたと」
「あそこの情報はどこにいるかわからないですし、問題があるところは、ずっと気にかけてますからね」
「情報ソースが家族のにゃんこからはあるって話だからな」
ケットシーから家族のにゃんこの証言、または地域にゃんの聞き込みは行っているらしいのがKCJ。
「そういえば探偵事務所にも同じようなやり方をしてるところあったな」
「あそこは今は娘さんも調査員ですよ」
主にいなくなったペットを探す、ぺったん、娘さんはその関係で「ぺったんこ」と呼ばれている。
「俺も年をとるわけだ」
「どうか長生きしてください、もちろん現役でね」
「できるだけ頑張るけどもさ」
「最近ますます夢女のみなさんに好かれているようで」
「そうだね格好悪いところは見せれないからね」
覆木さんも結構そこは単純なところがある。
誰かに期待された目で見られていたいし、またそれを失うのが怖い、そう思っているから頑張る。
「本当に腹立つ生き方だな」
「何かおっしゃいましたか?」
「いいえ、何も、気のせいじゃないですかね」
「ならよろしいのですが…」
さっきの言葉は側にいるものには、誰に向けられたのかわからなかったが、何かを思い出して闇を噛み締めているのならば、この人の心の中は誰にも救えないぐらい空虚である。
「部長、お呼びでしょうか?」
「今日の分の書類はもう目を通してある、他にはあるかね?」
「いえ、ございません、こちらでも確認させていただきますので失礼いたします」
「何かあったら連絡してくれ」
パタン
誰もいなくなった室内、だが部長の視線は一ヶ所に、ソファーに座っているほぼ原寸河川ザメのぬいぐるみである。
(いい…)
いつ見てもサメは良いものである。
ヒロシも最初は平均的な職員、いや、平均以下の職員だったかもしれない。
「あの頃は思い出したくはないが、本当に仕事が出来なかった、慣れない環境が辛かった、言い訳にしかならないが」
そんな疲れている毎日でサメと出会った、いや、思い出したというか、子供の頃家族で旅行、その時に見たやけに愛嬌がいいサメ、これは現在では浄水センターのおっちゃんだとわかっているのだが、楽しかった思い出は辛さを支えて、真面目に頑張り出すことに繋がった。
そしてヒロシは気づいた、サメが視界にいると、サメに見られている、恥じない自分にならないといけないと、努力が苦ではなくなるということを。
ここまで来ると、それならサメを常に視界に入れておけばいい、さすがに本物はダメだが、何か代わりになるものを…その時はキーホルダーなどであった。
しかし、そんなサメの力を借りても、大きな問題がやってきてしまった、そう螺殻(らがら)ミツが瀨旭(せきょく)や覆木(おおうき)、水芭(みずば)の事務所に行くことになったきっかけの事件。
洗脳能力としては強くはない、だから警戒はそこまでではなかったが、そいつには話術があった、スルスルっと持ち上げられて、入り込まれ、気づいた時には中枢がどうなっているのか把握も出来ない状態、これは外部からの応援が必要でそうでなければこの街は今のような形すらも保てなかっただろう。
何しろ目的は金や権力の欲しさ、あの強欲ぶりではこの街は何年か先には搾り取られていただろう。なんというか、そういうのを平然とやる、やってきた人間に目をつけられた。ならば手慣れているのを出そうと、商業組合のお偉いさんが信用おける人間に依頼したということで、協力してほしいとヒロシに打診があった。
そして現れたのは瀨旭、ヒロシは名前なら見てわかる通り、日本に影響されてつけられた名前である。もっというとこの街は結構日本とも交流があった、そのために日本風の名前がついている人はそちらの縁者と思っていい。
ここで少し気になるかな?
では螺殻ミツはどうなのか?と、彼女は両親共に日本人でこちらで生まれて育っている、両親は幼くして亡くなっているので、そこからはお金がなくても入れる訓練学校、お堅い職員になるために頑張って入局している。
「勉強や仕事というのは人間関係と違って、努力がまだ報われるんですよね」
水芭がそういうと。
「そうなんですよね、資格とかいくつか取ってるからこの事務所に来るのがスムーズだったんですが、あの頃の私はそれしかなかったというか、お金もなかったから、勉強と気分転換と運動を兼ねての掃除ぐらいしか思い出がないですもん」
椅子があまりよいものではなく、座ってると疲れてくるので、安くていいクッションはないかと探したり、それでも長時間座ると辛いので、その時に体を動かす、全身運動として掃除していた。
「掃除って遊びに行くより安く上がるんですよね」
「それはわかる」
「確かに最初に揃える時はお金かかるけども、というかこちらに来て思ったんですが、洗剤の種類が多くてビックリしましたよ、しかも買える値段でそろってるんですもん」
「そういえば向こうはアルカリ、酸性の強いのしかなかったとか」
「そうなんですよね、それに比べれば、この小さいので大丈夫なのかなって思ったら、使ってみたら便利すぎましたよ」
それでも注意書はあるので、ミツは自分の家のはこう試していってるという話をする。
「もうわかりやすくいうと、酸性、中性、アルカリ性、中性ってローテーションで回してますね、でも酸性やアルカリ性の洗剤の日でも、今日は疲れたなっていう時は、中性の汚れを汚れするものも足して使って終わらせますけども」
疲れたらで、そのまま寝たりしないんだ、それだけで本当に尊敬する。
「それでも間に合わないときは家事代行に頼むから、その時はこっちに言ってね」
「えっ?事務所で出すんですか?」
「ミツさんは物件を任せられる人間だけども、そうじゃない人間の方が多いし、俺も全部見てられるわけじゃないからさ」
その場合はミツをこっそりと守っている、河川ザメのシイさんの身内が来てくれることになる。
理由は違う川から来ると喧嘩になる可能性があった。
「瀨旭さんや覆木さんもサメのみなさんにですか?」
「覆木さんは自分でできるし、瀨旭さんは定期的に俺がやっている」
「それは知らなかった」
今はミツがいるから水芭の負担はかなり減っているのだが、それでも水芭に何かあったら事務所は止まる。
「今、ここでいうのは卑怯かもしれないけども、水芭がやめたいっていったら、止めないで、この事務所も終わっていいかなって思ったりもする」
「やめてどうするんですか?」
「田舎に帰るなんてどう?」
「俺はそういうのありませんから」
「そっか…」
「まあ、でも一応はうちの事務所が何かしらの理由でターゲットにされたらった考えているんですね」
「まあね、だって、どう考えても権力がほしい人が組合の幹部にいたら、そういう人たちばかり集まってくるじゃないか」
「あれは治りませんよ」
「そう思う、そして向こうは力をつけ終わったら、たぶんこっちを潰しに来るよ」
「来ますね、ただ幸いにも上手くは言ってないようですが」
「おかしいんだよな、ミツが来てくれたのも奇跡だと思うんだけども、何でそろそろこっちに仕掛けて来ないのかなって」
「覆木さんは相手にも好敵手であってほしいと思ってるかもしれませんが、そういう人間ばかりではありませんよ、なんというか、良くも悪くも欲に弱い」
「でもさ、ミツが許可証を取得する前に襲撃すれば俺ら痛手食らっていたと思うんだよね、だから来るのかな、来るのかなって、それでシイさんにも頼んだのにさ、来なかったし」
「あの時パワハラ焼き肉した関係者がいたんですよ」
「えっ?何それ」
「KCJさんから書類いただきました」
「何々…パワハラ焼き肉して損害賠償を求められて、それをこっそりと処理しようとしていた、そのために大きく動くことが出来なかった、あっ、うちに襲撃させるとそれが漏れる可能性があったから、その賭けに出なかったのか」
「こちらは話し合いで、最初は渋ったのですが、他に話が出るのを恐れて口止め料も追加で支払ってと」
「でもKCJの耳には届いてたと」
「あそこの情報はどこにいるかわからないですし、問題があるところは、ずっと気にかけてますからね」
「情報ソースが家族のにゃんこからはあるって話だからな」
ケットシーから家族のにゃんこの証言、または地域にゃんの聞き込みは行っているらしいのがKCJ。
「そういえば探偵事務所にも同じようなやり方をしてるところあったな」
「あそこは今は娘さんも調査員ですよ」
主にいなくなったペットを探す、ぺったん、娘さんはその関係で「ぺったんこ」と呼ばれている。
「俺も年をとるわけだ」
「どうか長生きしてください、もちろん現役でね」
「できるだけ頑張るけどもさ」
「最近ますます夢女のみなさんに好かれているようで」
「そうだね格好悪いところは見せれないからね」
覆木さんも結構そこは単純なところがある。
誰かに期待された目で見られていたいし、またそれを失うのが怖い、そう思っているから頑張る。
「本当に腹立つ生き方だな」
「何かおっしゃいましたか?」
「いいえ、何も、気のせいじゃないですかね」
「ならよろしいのですが…」
さっきの言葉は側にいるものには、誰に向けられたのかわからなかったが、何かを思い出して闇を噛み締めているのならば、この人の心の中は誰にも救えないぐらい空虚である。
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