浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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アマゾネスのお姫様

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忍ジャメにはいわゆるクノイチもいる。
兄弟子が都会では純喫茶を中心とした食事に夢中だが、姉弟子の中には街を歩くだけでもとても楽しい、じゃあ散歩に行ってくるねと出かることにした。
あまりサメを見かけない地域ならば歩いているだけでも、チラチラと見られたりして、落ち着かないものだが、この町は何件か、いや、何件も物騒な事件をサメが体を張って未然に防いで、ありがとう、ありがとうと古くから住む人たちには感謝されている。
とある店頭が気になった。
爪を可愛く、また綺麗に飾り付けたネイルサロンの店である。
サメには爪はないので、これは何のお店なのだろうか?と思っていたら。
「サメちゃんも気になるの?」
お店の人が声をかけてきた。
「これ私の自慢のデザインで、カワイーでしょ!」
そこでサメもニコッと笑うと。
「えっ、サメちゃんって笑うと可愛いじゃん、ここうちのお母さんと美容院も一緒にやってて、なんていうの、結構古い」
「結構古いは余計」
「あっ、ごめん」
店には母親もいたようだ。
「サメの…女の子、ごめんなさいね、私はあまりサメはよく知らないなら、みんな男の子だと思ってた」
「メッ」
「あっ、なんか調べたら、サメって女子だと、メッって声らしいよ、面白いね」
「もう、彼女たちは防犯のお仕事もあるんだから、あまり飾り立てれないでしょうし」
「でもさ、可愛いって大事じゃん、ヒレだとデコれないか」
するとサメはどこからか、爪、ヒグマの爪を一本出した。
「なんか小学生男子が持ってそうなやつ、カシャンつけて、トウ!みたいな」
「もう、彼女たち、熊も退治できるんだから、熊の爪は持っててもおかしくはないわよ」
「熊もいけんの、スゲー、猟師みたいに?」
「メッ」
「ニュースで言ってたわよ、体当たりしたり、あっ、そうそう」
お客さんが見るための新聞を思い出して。
「ああ、これ、この間なんでこのコンビニには熊がでないのかっていう記事が載ってたの」

熊が出ないコンビニ

私は農道の側を車で走っていたが、この辺りは熊が出るので、熊が出たら嫌だなと思いながら走り、コンビニが見えたので、立ちよることにした。
ふと思ったので会計の際に。
「こんな熊が出るようなところでコンビニやってて怖くないの?」と店長らしき人に聞くと。
「ここは熊がでないんですよ」
「いい熊避けでも置いてあるの?」
それならば是非にほしいものである。
「いや、うちの目の前川でしょ?コンビニ狙うならどうしても川を渡らなきゃいけないけども、その川、サメの川なんで、熊が近づいたら、水底に連れていかれちゃいますよ」
「そりゃあ怖いね」
なんて笑って、駐車場に戻ったら。
バチャバチャバチャ
水音が凄まじい音を立てた。
「あっ、お客さん、さっきいってたやつだよ、熊だよ、熊がサメに水底に連れていかれているんだよ」
そういって川を見にいくと、黒いかたまりが、おそらくあれが熊なのだろうが、一部見え、覚えれているように見える。
だんだんと水音が静になり、そのまま黒いかたまりが見えなくなった。
「お客さんね、一度サメと友達の釣り人が熊に襲われてから、この川を熊が近づいただけでああなのよ、だから熊警戒地域のそばにあるんだけども、川の向こうであるこっち側で商売しているうちは大丈夫だし、後でサメたちにはお礼も持っていくから」
店長は熊から守ってくれたお礼にコロッケを揚げているという、今では熊を締め上げるとコロッケをもらえるとサメは学んだらしく。
「懐中電灯片手に夜は土手を巡回してるって、可愛い過ぎると思うんですけど」
読んだ娘は大ウケした。
「絶対可愛いでしょ、ひゃはははは」
「物騒な事件とか、熊までなんとかしてくれているらサメのお嬢さんなのよ、あっ、せっかくだからお菓子とか食べていかない?お客さんからいただいたのよ、なかなか減らなくって、たくさん食べていって」
食べさせてもくれたし、お土産としてもお菓子を持たせてくれた。

それを忍ジャメ同士で分けて、この街はいい人が多いねなんて話したりもしたという。

だから…

隙を見て、ヒグマ爪を装着したヒレで事件に介入するのも厭わない。
「本当にやりにくいな、マジでサメなんだもんな、あ~サメ切るの大変なんだ」
サメを切ったことがある手練が相手であるとしてもだ。
スッ
剣の軌道に残像が乗るほどの緩急。
ああ、これは止めるのが精一杯だ。
後ろから誰か来る、弟弟子たち、援軍だ、気配だけ、目はあいつに集中しないと、逃げられるか、致命傷を負うことになる。
援軍はおそらく銃、ならば…
弟弟子たちは気づくかはわからないが、負担は増えるの承知で相手の目を奪う、思考の負荷を増やしてやる、距離を取る。
出来れば早くこれに気づき、この緊張感を終わらせる何かを起こしてほしい
こいつ…普通の人間の精神を持ち合わせてない、サンタのように非日常的になると、楽しくなってくるタイプだ。
それならばやはり私が…
詰め寄るかと思い、ヒレをあげた瞬間、爪を掠めて、斜め上から掩護射撃がやってきた。
「ちょっと風に味方されなかったな」
瀬旭(せきょく)の声だ。
弾丸は当たらなかったが。
「こんなの反則だろ」
手の甲に赤い線。
弾丸がヒグマの爪削り、その欠片が手の甲を傷、いや、あれは爪の欠片埋没してるだろう。
「今は戦闘でハイになって痛み感じねえだけだ、それが終わればすげぇ痛いし、ちゃんと治療しないとお前、その剣握れなくなるぞ」
「うるせぇよ」
明らかに冷静さが失われた。


「で、そいつは結局どうなったかというと、逃げられちゃったわけだけどもね」
覆木(おおうき)は語る。
あの傷じゃどうしようもないからというのと、そしてこいつは単独犯じゃない、いわゆる用心棒だったので、そっちを優先した結果なのである。
「組合と合同でっていうのはわかるけども、うちのミツに変なあだ名をつけたやつ出てこいよ!」
瀬旭は怒ってる。
「でも知らないとそうかもしれませんけど」
絞め技、確保術があまりにも力強いということと、瀬旭、覆木、水芭(みずば)たちが姫扱いしているので。
「いきなりあなたがアマゾネスのお姫様?って言われるのはびっくりですよね」
「それを面と向かって言う、その神経が俺にはわかりませんがね」
水芭は誰がいったか顔も名前も知っている人なので、たぶんその顔を思い浮かべながら、この言葉を言ってる。怖い。
「姫は姫でいいのよ、それは間違いないから、うちではお姫様なのよ」
「そこで否定しないから、ミツがあだ名つけられていたってことだからね」
実際は前職でかなり仕事ができるので、逆に驚かれたりはしたし。
「女性が現場では少ないから、警護の対象者はありがたいっていってましたからね」
一人でも珍しいが、二人だとどこから人員集めてきたのというレベル。KCJの人?なんて聞かれたりもした。
「その辺は個人事務所と組織の差だよな」
KCJは戦闘スタッフ以外にも医学や魔法を習得している人間を、警備に所属させているぐらいなので。
「お金あるところはそりゃあ、そこはケチらないよ」
そのため車両などもほぼ毎回ピカピカで、タイヤももちろんお仕立てで準備はされる。
「整備部がほとんど走ってない中古のタイヤ安く売り出せるのってそこがあるからだからね」
これにはもう1つ理由があって、保険が絡んでいた。命を預かる車両などが新しいパーツならば保険をかけ、もしもの時にお金が出る。そうでないなら保険すら断られたりするので、みんなKCJに頼むときは、保険をかけられる状態でみんな用意する。
「交通事故でもそうじゃん、任意保険に加入してなかったからの悲劇。KCJに至ってはそこも保険会社じゃなくて自前、情報部が安全と危険を算出し、異世界やダンジョンというニッチな業界、そこで堅実にやってるから強いんだよね」
「そこはうちも見習いたいぐらいですよ」
事務所もKCJもどっちもわが道を走ってはいるが、KCJの方がお金に関しては軍配が上がるというもの。
「そうだね」
「あれ?覆木さんどうしたんですか?」
「あいつね、今日は何もなかったらクゥちゃんのお別れ会に行くつもりだったはずだったんだよ」
「クゥちゃん?ああ、あの車のことですね」
「うん、ミツにも乗ってもらったあの子、最近ね、海外とはお金の価値が変わってきてね、KCJの整備部の車がね、どんどん売ってくれないかってお話が来てね」
覆木は代車として乗っていた車が新しい家族に迎えられるのはうれしいが。
「お客さん同士でね、今日ね、お別れ会をしようって思って、俺は寸前まで行く気だったから、でも人の命には変えられないから」
それでも落ち込んでいるのはよくわかる。
「でもそういう人に愛される車は素敵ではないですかね」
「そう?」
「だって前にも乗せてもらいましたが、その時に整備の人が、燃費はあまりよくないはずなのに、覆木と乗るとなんか調子いいのかよく走るって、それは車からも好かれているってことですよ」
「だよね」
「覆木さん、チョロくありません?」
「ありませんよ、瀬旭さん、愛を感じるというのはそういうことです」
「はいはい、夜の仕込みがあるので、手伝わないなら出ていってくださいよ」
そういって瀬旭だけが追い出された。


「アマゾネスの姫ですか?その話は知らないな」
「あなたが振り撒いた噂からではないと?」
「そんな噂で俺の元にたどり着かれたら?あまり面白くないことになると思いません?」
「失礼しました、それでは現場に戻ります」
パタン
「今の話は本当なんですか?」
気配が薄い、今までそこにいたのかもよくわからない男が声をかけてきた。
「話を聞いていたんじゃないんですか?本当に知りませんよ、そんなところで覆木さんたちと険悪になったら、肝心なときに向こうはこちらを潰しに来るでしょ?そうなったら怖いじゃありませんか」
「かもしれませんが…」
「そりゃあ確かにね、私はあの人たちは嫌いですよ、モテるし、とても格好いい生き方をしている、そういうところがすごく嫌いです、何しろ自分にはありませんからね」
「そうですか」
「意外ですか?」
「はい」
「手に入らないものってね、眩しいか、嫉妬するか、そういうものなんですよ、私はそこら辺の感情が整理つかないものなんです」
「ではわざわざうちの派閥の事務所も含めた合同の案件にあちらを招いた理由は?」
「私の知り合いが車がほしいといってましてね、それで珍しいものならばと紹介したら、見事に話がまとまりました、その車は非常に人気で、覆木さんもお好きだったとか、今日はそのお別れ会だったみたいですし、受けてくれるかわからないけども、向こうは受けてくれましたね」
スッキリとした顔でいうのだ。
「こちらで経費の持ち出し、急だから二倍ぐらいまでは出してもいいからっていう、必死さも伝わったのかもしれません」
「本当にそうお思いで?」
「ええ、本当ですよ」
「なるほど、わかりました」
「それではおしゃべりはここまでにして任務に戻っていただけますか?誰かが聞いていたら、やけに大きな独り言に聞こえてしまいますからね」
そういって男は書類仕事にとりかかるのであった。



  
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