浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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笑うときもサッサッサッサッ

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モグモグ
俺よりサメの方が良いものくってやがる…
すれ違い様腹がぐぅー~となった。
「サッ」
サメが食べていたサンドイッチの残りを差し出した。
腹は減っていたが俺は手を伸ばせなかったのは、たぶん恨みのせいだ。
「?」
「いや、いいよ、お前が食べなよ」
やせ我慢、まあ、そんなところだ。
家に帰ってから、これからどうしよう、あそこでやっぱり食べてれば良かったななんて思いながら、寝た。

いい匂いがした。
「朝御飯ですよ」
「サッ」
引き戸があくが、うちには引き戸はなかったはずである。
目を開けるとそこは、俺の知らない部屋、客間であった。
「えっ?どういうこと」
「サッ」
「昨日のサメだよな」
「お若いの、うちのサメがすいませんね」
ご老人だ。
「飯を食ってない人間がいるからと、勝手につれてきてしまって」
「勝手に?俺は部屋で寝てたよ」
「…お前たち」
『サッ』
サメの声が合唱で聞こえた。
「ええっと、体も危ない状態でしたから、ここは一つ穏便に願います」
老人は頭を下げ。
「まずは食事からどうでしょうか?軽めのものを用意しています」
炊きたてのご飯に、汁物に、焼き目のついた切り身。
「お口に合えばよろしいのですが」
「すいません、すいません」
そういって食べた。炊きたてのご飯なんて久しぶりだ、本当に本当に久しぶりだったんだ。
「おかわりは…いえまず、体を元の調子に戻した方がいいでしょうね、ここは部屋もありますから、ゆっくりと静養なさってください」
「アパートはどうすれば」
「サッ」
サメが報告書を差し出す。
「このぐらいでしたら、こちらが肩代わりしましょうか」
「そこまでしてくださるなんて、その…」
「あなたは自棄になりかけていた、その自棄を爆発させたら何が起こるかわからない、それを事前に止めれるのならば、安いものではないでしょうか」
「何故にそこまで」
「私たちはあの街の治安も管理させていただいているので」
「サメがですか?」
「はい、こちらはこの山で育った忍者のサメ、忍ジャメなどと言われてますね」
「そういえばなんか事件が起きると、サメがお手柄とか、表彰されてましたが…」
「あの地に彼らの弟弟子がいるんですよ、弟弟子が腕をきちんと磨いているか、兄弟子、姉弟子が見に行くといってはいるのですが、そういう理由で街中を楽しんでまして」
この言葉に忍ジャメ達は全員ギクッっとなった。
「交代で街中に、何しろこっちには喫茶店があるにはあるが、洒落たものではありませんから、あの街はそれに比べたら都会だから、すっかりと忍ジャメ達はあそこが気に入ってしまってね」
人間が対応しづらい事件なども、忍ジャメからすると、体当たりぐらいで終結できる。
「あそこで刃物をちらつかせて、人にいうこと聞かせようとしても、忍ジャメに忍び寄られて倒されて終わりますからね」
それでも発生事態は減っているわけではないが、忍ジャメがいることで被害はほぼゼロに抑えられる。
「夏辺りに、嘱託として契約しようか迷っているところですな」
つまり?
忍ジャメがあの街公式の存在になれる。
「そうしたらますます安全になります、おや、どうしました」
「俺はこのままいったら、愚かなことを起こしていたかもしれません」
「そうですか、良かったですね、踏みとどまれて」
「はい」
「人間には時々一風変わった運命というものがあるものですよ、特にサメが関わると人間なんて小さいものと感じますよ、私もサメたちに人生を変えられた人間です」
そのまま隠居生活だったのではないかと、今でも思っている。
「ああ、そうそう、あなた、あの街は長いですか?」
「生まれ故郷ではありませんが、それなりに」
「それならば忍ジャメ達をあの街で手伝ってもらえませんかね」
どうせやることもないのだから、その話は受けることにした。
忍ジャメ達は一階が喫茶店のビルの二階に、拠点を置いている。
窓の外を見ながら他のサメと話したりしていた。
俺はというと、その時は一階の喫茶店から注文したものを受け取って、コンコンと入り口をノックする。
中からがちゃりとサメが開けてくれる、持ってきたワゴンに乗っているクリームソーダを見ると、一瞬だけ笑顔を見せた。
喫茶店のメニューを食べるためのテーブルは、質素倹約シンプル・イズ・ベストな忍ジャメの部屋のなかで唯一特別なもので、それこそ一階の喫茶店をイメージしたものを弟弟子の知り合いに頼んで用意してもらったらしい、なんかbarをやってるとかいってが、そこで今日の花なんかを飾りながら、注文したものを食べ始める。
あまりサメの言葉はわからないが、喫茶店のメニューを食べているときだけは、どうも雑談になるらしく、サメの表情も違うし。
「サッサッサッサッ」
たまに笑う。
サメって、笑うときもサッサッサッサッなんだ、足音もサッサッサッサッなんだよな、微妙に音は違うが、人にはそう聞こえた。
電話連絡が来た。
「はい、こちらは…ああ、KCJさん、いつもお世話になっています、破損したヒグマの爪についても、はい、わかりました」
メモしたものを忍ジャメたちに改めて伝える。
「KCJの警備に出動要請かかっているあの件で、先に忍ジャメが解決したということで、あの時使ったヒグマの爪、あれが破損した分はKCJが持つそうなんで、書類をお願いしますと」
ヒグマの爪は、忍ジャメ達の隠し武器である。並みの事件ならば忍ジャメもそのまま対応するが、KCJが出るような手練になると、ちょっと危ない、それゆえに、ヒレにヒグマの爪を装着して、応対するのである。
「サッ」
ヒグマの爪はいくらなんだろう?
山で取れたてを加工したものなんで値段というのがよくわからない。
こうなると、妥当な金額を算出するために、KCJと打ち合わせをする必要があり、これは忍ジャメたちでは難しい。頭領や他にも猟師から値段を聞いて、それで書類を作り。
「後はお任せします」
そういってKCJの管理にも書類が回って、ヒグマの爪は、ただのヒグマの爪ではなく、忍ジャメ特製ヒグマ爪という名前で処理された。
「サッ」
いや~兄さんかいてくれて良かったよ。
「サッ」
本当だね、そのお陰でこっちは仕事に専念できるよ。
「逆にこっちは飛んだり跳ねたり忍んだりはできませんから、楽させてもらってますよ」
そういってサンドイッチをパクっと食べた。
冷めても美味しい卵焼きサンドだが、俺はあたたかいうちが好きだな。
こうして俺はあの時、腹がなったお陰で、忍ジャメと知り合い、その仕事についたのだが、どうも頭領は嘱託の話は俺がいたから受けることにしたらしい。
「あそこで嘱託するということで、人を雇うということを発生させなければ、お前さん、確実に人に見切りをつけていただろうしな」
俺はそんなわけで頭が上がらないのである。
「あっ、弟弟子さん、こんにちは」
すると兄弟子達は、急に食べるのをやめ、テーブルセットも片付け始めた。
「サッ」
おおどうした、何の用だ。
忍ジャメはどうもこの街の弟弟子の前では、さっきまでののんびりとした状態から真面目に戻る。
これが兄弟子、姉弟子のけじめらしいが、普段を知るものからするとなんだか、とっても愛らしく感じるのである。



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