浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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耳垢デナクナール

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「あっ、店長、その…耳が凄く、汚いんだけども、申し訳ないんだけどもさ、耳掃除をお願いできないかな」
それこそ自分の耳にコンプレックスを持っている人間が、理容ルームにお願いにやってくる。
これはやはり店長がサメだから、それゆえの強みなのだろう。
「泣き言をいうのはなんだけどもね、本当に、耳が汚いんだよ」
「サッ」
大丈夫、どんな耳でもサッパリきれいにしてやるぜ。
そうはいうが、お客はやはりまだビビっているというか、自分の汚い耳なんかに、耳掃除なんかしてもな…でもやらないと綺麗にならないしといった、葛藤が見えた。
ええい、その迷い、耳掃除の力で消してくれるわ。
店主も気弱な方なのだが、こういうお客さんを見ると、自分はそんなお客さんに勇気や元気など、ポジティブなものを与えなければと頑張れる。
これは店主の父の教えだ。
店に来たお客さんには気持ちよく帰ってもらえ、その心を思い出せた。
こういう耳掃除だけの、予約が少ない時間帯のお客さんというのは、すがるような気持ちで、この店に来ることも多い。
この店の耳掃除はすごいらしい、そんな期待を込めた人もいるし、愛らしいサメちゃん店主を見たい人もいる。
耳の中を覗くと、こびりついた固い、変色した垢が見えたので、それをまずカリッとはずしてやる。
うん、いい大きさだ。
このお客さんの耳の形は掃除をしにくい形をしている、だから耳垢が溜まりやすいし、本人が嫌だなと思ってしまう耳の状態になってしまう。
お客さんは、自分でできない耳掃除、すごい汚いのを頼んでしまったという申し訳なさでいっぱいだし、他のお店に頼めないのは、笑われるに違いない、そういう怖さがあった。
しかし、サメなら、サメならば大丈夫ではないか、うん、この店主は愛され店主、むしろサメとしては優しすぎるというか、川にはもう戻れないだろうなと思われている、人間社会が長いサメであった。
「本当はもっとマメに、耳をね、綺麗にしたいんだよ、これでも自分で出来るだけやってさ、頑張って奥の方までやろうとしても、片手じゃ難しいんだよ」
耳を引っ張って覗く必要がある耳なので、片手だけだと、狭い部分に耳かきが引っ掛かってしまう。
「大人になってからさ、あるとき、自分でもビックリするような大きくて、汚いやつが出てさ」
「サッ」
こういうのかな。
「それは見せないでください」
お客さんの要望なので包んですぐ捨てる。
「自分の耳から生まれたものではあるんだけどもね、出来れば見たくない」
耳の中の感覚だけで掃除するのはいいが、どうしてもすくいとったものを見なければならない。
乾燥系ではあるが、溜まってくると、べたっとしたものが耳にへばり着く。
そういうのが本当にいや、ティッシュの上でトントンしても、落ちないんだもん。
「ちょっと耳掃除の期間あいたな、このぐらいならばそこまで汚れ…そこで大きいのがゴロンってとれるとね、なんてものを耳の中に詰め込んで生きてたのかなってなるよ、耳掃除をしなくてもきれいな耳が羨ましいし、しかもさ、最近、その…毛が生えてきてない?」
「サッ」
生えてますね、こう…びっしりと。
「最悪だね、なんでここで毛まで生えちゃうの?思春期なの?」
「サッ」
耳が思春期ですか?面白いことをいいますね。
「頑張っておもしろく持っていかないと、心が折れそうなんだよ」
「サッ」
この毛は剃りますね。
「耳の中も自分で満足できるぐらい深剃りしたいもんだよ」
「サッ」
カミソリですか?ちょっと自分じゃ無理ですね。
「怪我するよな、カメラとかあるじゃん」
「サッ」
うちにもありますが。
「いや、見せないでね、見たくないし、自分でもしやるならばカメラで覗きなからなんだろうが、もうそこまでもしたくないんだよな、耳垢デナクナールとかないのかな」
「サッ」
あったら、うちの店無くなっちゃいますよ。
「それはそれで嫌なんだけどもね、先に耳の中に塗っておけば勝手にソトニデールでもいいんだけどもさ」
「サッ」
動かないで、ちょっと奥のを抜き取ります。
隙間からサジを入れて、引っ掻け落とす。
「今、かなり大きいの取れたんじゃない?」
「サッ」
見ますか?
「見ないよ、見てもしょうがないよ、落ち込むから、汚くて」
「サッ」
でもそういうもんですよ。
「そうなんだけども、なんか嫌悪感は生まれちゃってるんだよね」
毎日耳掃除をすると傷ついてしまうから、毎日はできない。
「汚くなりかけぐらいで耳掃除すればいいんだけども、ゆっくりお風呂に使った次の日ぐらいじゃないと、それがまちまちなんだよね」
明日は休みだ、ゆっくり湯につかって、体をしっかりあたためて、気持ちにいい!でぐっすりと寝た後に。
「耳掃除を次の日辺りにはしないと、耳垢が固くなったりするんだよ」
二度寝したい、でも耳掃除をしないと大変になる、でも寝たい。
「サッ」
それはどっちが勝つんです?
「勝率は半々だよ、ケースバイケースだよ」
今回は負けたので来店。
「サッ」
じゃあ、黒綿棒しますね。
そういって黒綿棒で拭き取っていくが、一本、二本、三本…
「綺麗にしてくれるのは嬉んだけども、同時に何本必要とする汚さなんだろに落ち込んでくるから」
「サッ」
全部で…
「言わなくてもいい!」

お客さんは最初から最後まで、こんな汚い耳を掃除させてしまって、本当に申し訳ないとずっと謝っていた。
そんな耳の泣き言もこぼせるのは、サメが店主のこの店の強みである。
「あの店じゃないと、ダメなんだよ」
という何かしらの事情を抱える耳の持ち主が固定客の理容ルーム、今月末までは耳マッサージとのセットがお得となっております。
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