浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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5月20日

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「はい、お父さんにお耳を見せてね」

「いい子にするのよ」

男の子は父親からの耳掃除にじっとしていた。

これが終わったら、遊びに行くことにしているため、おとなしくした方が早く終わると思ってるようで…

「たくさん、耳の中に入っているよ」

「あなたは、本当に耳掃除上手ね」

「そう?」

「そうよ、よく奥まで見えると思っているし、耳掃除上手さんね」

「そう…言われると弱いかな」

お父さん、すんごい頑張るから、この取りにくい細かい欠片も、へばりついているこのくっついちゃったるのだって、痛くなくきちんと取っちゃうぞ!

「はい、おしまい」

「ありがとうございました」

「この後、イチイくんのところに行くんだろう?」

「行くんだったらこれね」

「あっ、干し柿マンションだ」

干し柿マンション、干し柿を作るための柿を一個一個収納するためのケース、先日これで干し柿をイチイからもらったので。

「お返しに、柿のお菓子がこうして入っているの」

そういってマンションの扉をあけて見せてくれた。

柿の形をした和菓子がそれぞれ干し柿の代わりに納められている。



「イチイくん、何をしているの?」

昼から出勤してきた松灰は、サメのイチイに聞くのだが。

「サッ」

言葉はわからなくても何をしているのかはわかった、クリスマスツリーの飾りつけをしているのだが、飾りが干し柿なのである。

「斬新すぎるね」

柿も干せて一石二鳥なのかもしれない。

「おはようございます」

「奥さんは大丈夫なんですか?」

「ちょっと体調悪かったみたいですが、家を出るときには元気になってましたね、しかし、すいませんね」

「構いませんよ、今日みたいな日でしたら、ご家族を優先してください」

「それではお言葉に甘えますね、そういえばイチイくんがクリスマスツリーを飾り付けていたりするんですが、サメはクリスマスツリーの飾りは柿なんですか?」

「あれは絵を見せたら、ちょうどいいものがあったってことで柿に、イチイくん、レッドノーズになる前は柿は食べるだけだったみたいなんですが、仲間に干し方を聞いたみたいで」

これはクリスマスぐらいまで干せば甘くなる、ならば飾ってクリスマスの日に食べればいいのではないかという発想らしい。

「イチイという名前はあんまりサメっぽくない名前ですよね」

「最初に覚えた人間の言葉が、オイチイだったらしいんですよ」

それでサンタが、「美味しいか、もっと食べなさい」から、ずっとォイチイと答えていたので。

「こいつの名前は…イチイだな」

サンタ特有のシンプルな発想で決まった。

「先日も予防接種には行ってきたんだけども」

人と暮らすサメは予防接種類が義務なのではあるが。

「痛くなきゃ嫌だっていって」

そう、サメは痛くて辛い予防接種の方が好き。

「人間なら真逆なんですがな、痛くもなく、辛くもない予防接種の方がいいのに」

予防接種で初めて痛いや辛いを知ることができるサメも多いので。

「サッ」

「生きていることを実感するだそうです」

「サメ発想だな、あっ、お昼作りますが、これうちの奥さんがくれたんですが」

それはチーズ。

「奥さん、早めのお昼をとったときに、玉ねぎの味噌汁作ってきたんですが、せっかくなのでこっちでも作ろうかなって、体調が悪いときなら玉ねぎは柔らかく煮るから、チーズは使わないことが多いんですけど、チーズを乗せるととっても美味しいんですよね」

美味しい、その言葉に反応して、いつの間にかイチイがソファーにいた。

「イチイくん、午後から遊びに行くんだろ?カバー忘れないでね」

「カバー?」

「これです」

羊の着ぐるみのようなカバー。

サメホッと株式会社より発売されている、あなたの大事なサメを守る、サメカバーの昨年からのヒット商品、サメも人も守るサメカバー(羊である)

「触るとサメ肌で切れちゃうから」

「ああ、それは必要ですね」

「そうでなくても」

「サッ」

「あっ、来ちゃったかな」

「えっ?遊び相手ですか?」

「いや、これは」

フサァ

サメカバー(羊)をかぶってないのに、かぶっているかのように被毛に覆われた。

「なんですか?これ」

「異界で食事をしたサメの1割に起きる状態」

異界での食事はこの世とは成分が違うため、サメにもその影響が起きる場合があります。その一つがこのように毛が生えたりすることで。

「これならカバーはしなくてもいいかな、明日洗って、剃った毛を提出かな」

「なんです?研究所か何かにですか?」

「未知の物質だったりするから、その分析、ただこのイチイくんの場合、いやサメに生える毛というのは、人間の髪を再生させるための手がかりって感じなんだよね」

覚えてますか?ロングヘアーシャーク、オサゲちゃんのことを…

「だからこの毛は、研究材料でもあり、実際に分解して、毛穴の奥まで届くほどのサイズしたものが含まれている溶液を、塗布すると、毛髪の再生が可能という話」

「医学ってすごいな」

「その毛穴の奥にまで届くほどのサイズにするのに、お金がかかるから実用的ではないとされているけども、気になる人は大金を積んでもほしいんだよ」

他にも薬効成分がある角の生える個体もいる。

「サッ」

「こういうことになったんで、イチイくんは元レッドノーズなんだ、結婚退職以外ではこういう理由でやめるサメも多いよ」

異界で、ただ飯を食べるのにお金までもらえちゃう、そんな仕事につくことになります。

「ただサメは戦うのが好きなんで、そういうのばっかりだと飽きるって顔してくるから、イチイくんの場合、戦う時々ただ飯ぐらいのペースにしているね」

個体によってどのぐらい現場に行きたいかはやはり違うのだが、そこはレッドノーズにまでなったサメ。

たまに山にいって、熊に間接技をかけているところが目撃されていた。

「熊出没マップなんかあるけども、今回熊多いでしょ?あれで全く目撃例ない地域は、サメかケットシーの縄張りかってことで、調査が入るらしいよ」
熊が全くでないのはこのどっちかが考えられる。
そして、その調査協力にはKCJからサンタに声がかかった。
「我々を見れば、サメがいるなら必ず仕掛けてくるはずだ」
強いものが好きなサメには購えない魅力がある強者、それがサンタではあるし。
各種流派を修めた先輩達が、後輩たちのために作った河川ザメを素手で捕獲するための研修を身につけたものたちが、ずらりと並んだ。
「下手にレッドノーズをつれてくると、それこそ喧嘩になり、クリスマス前に大ケガをするからな」
それゆえに河川ザメと対峙するサンタは、サメを傷つけないながらもその力を身に付けるほどの技術を見せなければならない。
この技をサンタは日めくりカレンダーにすることで、日々の練習に役立てるように促している、またこれは人気のためサンタ以外も購入するのだが。
「なんでこの日めくり、5月20日のままなんですか?」
「鮭狩りさんのヒレ捻りは芸術的なんだよ」
捻った尾びれを挟みながら、サメに己の力を見せつける、これこそがサンタなのである。
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