浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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今は仕事中ですよ

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「あなた、そこで何をしているの?」
「ケットシーがですね」
「えっ?それはボスじゃないわ、猫の方よ、弟の方よ、そんなことより…」
螺殻(らがら)ミツは猫を抱き上げながら、この家の女主人に説教をもらい。
「すいません、すいません」
「あなたは本当に使えないわね」
そういって女主人は本日開催される大きなパーティへ、参加するために準備を始めるのだった。
(でもそのパーティは中止になっちゃうんだけどもね)
「ニャー」
心の声は弟猫の方には聞こえているようだった。
「ミツさん」
「水芭(みずば)さん」
「準備ができましたので、こちらでのお相手も終わりです」
「わかました」
そういって弟猫を撫でてから優しく離すと。
「では行きましょう」
瀬旭(せきょく)と覆木(おおうき)に合流するためである。
「正直…」
その移動中。
「どうしました」
「ミツさんが潜入するところは、もっとマシなところを選んであげたかった」
「構いませんよ」
「すいません」
「お仕事ですから」
そう微笑むが、水芭は怒鳴られているのを知っていたし、それでも他人のふりをしなければならないのがとても辛かったのだ。
スッ
レールが路面から浮き上がる。
それを見ると。
「急ぎましょう」
「はい」
予定より早く事が始まったことがわかったからだ。

「あ~これはバレちゃったね」
雨宿りのように安全地帯の建物を盾にする二人。
「でもこれは予定通り、少々早いけどもさ」
「そうね、でも問題はこの先なんだよね」
この二人はもちろん、武装中だし、体の温まり具合から、もう何人か敵の数も減らしていると見える。
「運を天に任せるか」
「そんなものに任せるなら俺に任せろよ」
「そりゃあいいね」
「ただいま着きました」
「おお、ミツも水芭も無事?」
「そちらは」
「いや~大変だよ、この数だろう」
「ただミツさんは潜伏先で大分イビられてましたから、切り上げてきました」
「それぐらいなら…」
と覆木がいったところに。
「ミツ、なんてシンデレラなの、さぁ、これからみんなでお城の舞踏会よ!」
瀬旭がふざけだしたのに。
「そしてみんな忘れておしまい!」
覆木が何故かのった。
レールで運ばれてきたコア、これを四人でそのパーティ会場となる、街の中心、古城に運ぶことになる。これは今後のこの異世界の街の命運を決める技術、住人の産業を変えるために導入されるが、それを面白く思わない人間たちは多い、そのために改革派はこういったときに頼りになると評判と、信頼する人間の紹介により事務所に依頼してきたのだ。
そこに一般車両が通るが。
(ん?何か今のって)
見覚えがなかったか?と瀬旭が頭を捻るが。
「瀬旭さん」
「あっ、悪い」
「じゃあ、一分後出るぞ」
タイミングは決まった。
しかし相手のスコープに四人の姿をさらすことにはなるのだが。
「それを許すわけがないじゃない」
作業車が現れて視界を塞ぐのである。
「いつの間に用意したのよ」
「誰かさんが体力で無理しようとするから、先手を打ちました」
そうおそらくここからやってくるという場所を次々と塞ぐが。
「これもお前の策、いや、それっぽくないな」
これはまるで…
「みなさん、こっちです」
「えっ?」
四人が進むルートを守っている人間がいた、えっ?は瀬旭の声である。
「なんでいるの?」
「覆木さんからうちに依頼があったんですよ」
「こちらは無事に四人が来ました、次の指示をお願いします」
瀬旭の顔見知りの二人であって。
「まさか」
ということは…
『今は仕事中ですよ』
事務所の四人にもその声は耳に聞こえていた。
(誰だろう)
ミツは聞き覚えがない声だ。
「こちらの準備ができましたら、二人が乗った車両を走らせますからで、ぴったり一分で全部揃うとはさすがです、ありがとうございました」
『それが仕事ですので、後ろは我々に任せてください』
「ありがとうございます」
「来てたの知らなかった」
「さっきお二人がいた建物の三階にいたんですよ、あそこからだと、こちらもよく見えますから」
「そんな顔して、これからお偉いさんにあうんだから、しっかりしろ」
「わかったよ、本当はもっと話したいけども、じゃあいってくるよ」
「すみませんが水芭さんお守りお願いします」
「わかってますよ」
「久しぶりだが元気そうで良かった」
そのやり取りで長い付き合いが見てとれた。
覆木とミツが前を、瀬旭と水芭が後ろという構成になっていたのだが、交戦はたどり着くまでに考えられていた。
が、バックアップのチームはそれらに巻き込まれる可能性は少ないとされていたが。
そのバックアップチームを誘うように、相手は住人を射つ。
そこを救出、避難させるために、先程まで四人が進むルートを安全確保していた二人が動いた、それは釣りだ、本命は見せしめ、八つ当たりその二人に狙いを定める前に。
瀬旭と水芭が相手を撃ち落とし、そのまま立ち止まった距離を取り戻すように走ったのだった。
「相変わらず…すごい」
「真面目にやってればあんなもんだし、水芭くんも前より早いというか、息があってきたな」
そう、この二人を狙った相手たちを瀬旭も水芭も同じ相手を狙ったら、撃ち漏らしたということで、バックアップの二人のどちらかが撃たれていただろう。
それが今回起きないのがまずすごいのだ。
「しかし、意外ですね」
「何が?」
「瀬旭さんがあんなにビクっとする相手っているんですね」
「俺で止められないときは、頼むに限るよね」
覆木さんは笑っていた。
「えっ?まさかそのために呼んだんですか?」
「瀬旭、後で報告書はお前が中に入って書いてね」
「なんでだよ」
「向こうさんと打合せして作れってことさ」
最近溜まっていたストレスを覆木はそこで解消に来たらしい、すんごい笑顔で瀬旭にいうのである。
そのままコアを運び込むと。
「あれ?同じものが2つあるように見えますが」
「こっちはコピーね、まあ、同じことできるから実質コアが2つあるようなもんだけどもさ」
「奥の手ですか」
「それもそうだが、こっちのコアも一つだけだと完璧じゃなかった、こうして2つ揃うことで、両輪揃って回ることになるのさ」
複製した魔法使いは急ぎの仕事過ぎて終わったあと介抱されたという。

「というわけでお疲れ」
覆木はそうはいうが、さっきから電話で瀬旭が、「はいはい、そこはわかりました」「わかってはいるんだけどもさ」と相手はおそらくバックアップのチームの指揮を担当した人なのだろう、苦手がわかりやすく出ている。
「それでミツ、ミツが潜入した先の家なんだけども、あの家あの後すぐにケットシーに見放されたそうだよ」
もうこの家はダメですニャー。
「そういうことってあるんですか?」
「ケットシーも猫も人を見抜く力があるんで」
「けども瀬旭さんのあれは大丈夫かなんでょうか」
「罰ゲームみたいなもんだから」
「それってもしかして」
「ストレス発散?いや違うよ、危険なことをして仲間を負傷させていたかもしれないから、そこね、注意っていうか」
物はいいようである。
「というか、本当に血の気は引いたのは確かだよ、問題はなかったかもしれないが、危うい、そしてあそこまでいくと、何かあったとき俺らは助けにいけないかもしれないから」
「それはとても怖いことですね」
「そうさ」
「しかし、他のチームに依頼ということは、今回は赤字だったんじゃないんですか?」
「それがね、まだ現金は残っているんだよね」
「お金持ちだ」
「ボーナスの説明はしたけどもね、あれはあぶく銭、臨時収入っていうかね、現金以外でも依頼料として受けとることがあるの、そういうのが値上がりしたりするもんだから、換金するとね、とんでもない額になったりするわけよ」
「それを聞くと、そっちだけで食べていけそうですね」
「食べていけるよ?ミツはその方がいいかい?」
「いえ、それは…」
「なんで?」
「うちの事務所らしくない」
「そうだね、うちの事務所はこうでなくちゃダメなのさ」
いい匂いがしてきた。
「瀬旭は最後まで投げ出さずにまとめてくれよ、俺らは先に食事しているから」
「えっ?あっ?はいはい、ちゃんと聞いてますって」
「本当に頭上がらないって感じですね」
「水芭、今日は何を作ったの?」
「今日はですね」
先に三人で食事を取り、会話が盛り上がっているところに瀬旭がやってきた。
「ようやく終わった、俺の分ある?」
そういうとミツは瀬旭の椅子を引き、水芭はカウンターから食事を運び。
「はい、お疲れ」
そういって覆木は瀬旭のグラスに冷たいお茶を注いだ。




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