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私はただの出戻りですから
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何年かぶりに実家に戻ったところ、色んなものがずいぶんと変わっていた。
それこそ道路が広くなったり、新しいものができたり、まだこの店あったんだといった驚きに満ち溢れていた。
「そういえば新しい神さんも来たんだ」
そう父はいったので、一度ご挨拶を兼ねてお参りをすることにした。
「始めまして」
「こちらこそ始めまして」
この地に増えた新しい守り、その一役を担うための神の名は新蝶(しんちょう)様という。
「この辺もずいぶんと変わったんで驚くことばかりですよ」
「私は最近こちらに来ましたので、昔の写真を見せてもらったりしながら、みなさんからお話を聞くことが多いですね」
どうもずいぶんとこの神は仕事熱心なようだ。
「いい神さんが来てくれたよ、働き者ならば間違いないさ」
父はそう誉めていた。
ある時社から笛の音が聞こえた、それこそその音はみなが聞き惚れ、音が止まれば夢から覚めるほどの腕前であった。
「前にこちらから笛の音色が聞こえてきましたが、あれは新蝶さまが演奏なさっていたんですか?」
「ええ、そうです」
「ずいぶんとお上手なのですね」
「祝い事に歌か楽器を披露しなければならないのですが、私は歌がダメなんですよ」
「でも新蝶さまはいい声ですよね」
「ありがとうございます、でも習ったことは習ったんですが、笛を教えてくれた御方はどちらも上手な方だったので、ふしょうの教え子ですよ」
「そんなことないですよ、それに比べたら私なんて見てくださいよ、ただの出戻りですから」
そう自虐的にいったところ。
「そんなことないさ、あんたは美人じゃないか」
「えっ?」
「失礼しました」
いつもの口調とは砕けたものを見たのは、これがはじめてであった。
「それでは私は務めがありますので、この辺で」
「はい、それでは私も」
それこら、笛の音が聞こえるたびに、あの時のやり取りを思い出しては、赤面してしまう。
あれは社交辞令だ、そうに違いない。
「元気?」
「顔を見に来たよ」
瀬旭(せきょく)と覆木(おおうき)は社を訪ねてくる。
「お二人ともお元気そうで」
「そっちもね」
「顔ぐらいは見に来るさ、君の方からうちを訪ねてくるわけにはもう行かないからね」
「それにこの中は安全だしね」
「そっ、内緒話にはぴったり」
「はっはっはっ、何か重要なことを話してるんじゃないかって、あなたたちを気になる奴等がたくさんいるみたいですよ」
「吸血鬼かな?」
「ですね」
「あらあらどうしましょうか」
「社はそんなものに入られるほど柔ではありませんが」
「でも周囲はそうはいかないね、君はもう神様なんだからさ」
「はい」
「若い身空でこの仕事に身を捧げるのは早すぎたと思うよ」
「そうでしょうね、でもどうせ病は体を蝕んでいましたし、命の使い方を好きにさせてもらったってことで」
「でもね、俺らとしてさ君が人であったときに救いたかったよ」
「本当にお節介ですね」
「それも今さらさ」
プチ
「おおっと、あいつら手を変えてきたみたいですね、ネズミを使うようです、よっぽど話の中身を知りたいんでしょう」
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
「ネズミ退治しながらね」
「またお会いしましょう」
「ああ、またな」
「バイバイ」
変な臭いがする。
(ん?)
と思ったところ、物陰から大きなネズミ達が姿を見せ、我が物顔で走り出してすぐに。
「お前ら、誰の縄張りだと思ってんだよ」
怒声と共に新蝶さまが現れた。
「大丈夫」
「ダイジョウブデス」
新蝶様って怒ったりすると、感情的になって口調が変わるみたいだ。
「ネズミはもうでないと思うけども」
「こういうのも神様のお仕事の一つなんですか」
「そうなんだよ、けど本当に大丈夫?噛まれたり、何か齧られたものはない」
「ありません」
「家まで少し距離があるから送っていくよ」
「そんな、え?」
お姫様抱っこで空を飛ぶなんて、どこの夢物語だろうか。
(この日の思い出だけで一生生きていけそうな気がする)
「今日は空が綺麗なんだな」
「そうですね、この時期は夕焼けがいつも綺麗で…新蝶様は空が好きなんですか?」
「人であったときは窓から眺めれるものが空しかなかったから」
「どこか悪かったのですか?」
「うん、今は新しい治療薬が出ているから治るけど、私が人であった頃は不治の病とされていたよ」
「じゃあ、神様になったら好きなところ行けますね」
「仕事があるから、そう簡単にはいけないよ」
「神様のお仕事も世知辛いですね」
「でも長くこの地にはいることになるから、ここに生きる人たちが幸せであればいいと思ってるよ」
「新蝶さまはプラネタリウムに行ったことあります?公民館の」
「いや、ないよ」
「じゃあ行くといいですよ、昔からあるところなんで古いですけども、星空が綺麗で、ほら今は明るくってあんまり星が見えませんから」
「それはいいね」
「じゃあ、次の月曜日に行きましょう」
「わかった」
勢いは怖い、この約束は勢いがなければすることができなかっただろう。
『ピアノの演奏と季節の星空』
このプログラムまだやってたんだ、懐かしいな、子供の頃にもみたやつだ。
平日だったせいか、お客様は二人だけ、新蝶様は見終わった後子供みたいな顔してた。
「すごく楽しかった」
「私は懐かしかったですね、また見に来ましょうか」
「うん、そうだね」
そして何故か並んで歩いて、そのまま公民館から出るまでの間無言だった。
公民館から出た後に。
「俺は改めて誓うよ、この地を、あなたが生きるこの地をしっかりと守るとね」
そういって手を握ってきた。
「えっ?あっ、うん、でも私なんてただの出戻りなんですから」
持ちネタのように自虐的にいうと。
「そんなことはないさ、あんたは美人じゃないか」
顔を赤くして、新蝶様は必死で否定した。
それこそ道路が広くなったり、新しいものができたり、まだこの店あったんだといった驚きに満ち溢れていた。
「そういえば新しい神さんも来たんだ」
そう父はいったので、一度ご挨拶を兼ねてお参りをすることにした。
「始めまして」
「こちらこそ始めまして」
この地に増えた新しい守り、その一役を担うための神の名は新蝶(しんちょう)様という。
「この辺もずいぶんと変わったんで驚くことばかりですよ」
「私は最近こちらに来ましたので、昔の写真を見せてもらったりしながら、みなさんからお話を聞くことが多いですね」
どうもずいぶんとこの神は仕事熱心なようだ。
「いい神さんが来てくれたよ、働き者ならば間違いないさ」
父はそう誉めていた。
ある時社から笛の音が聞こえた、それこそその音はみなが聞き惚れ、音が止まれば夢から覚めるほどの腕前であった。
「前にこちらから笛の音色が聞こえてきましたが、あれは新蝶さまが演奏なさっていたんですか?」
「ええ、そうです」
「ずいぶんとお上手なのですね」
「祝い事に歌か楽器を披露しなければならないのですが、私は歌がダメなんですよ」
「でも新蝶さまはいい声ですよね」
「ありがとうございます、でも習ったことは習ったんですが、笛を教えてくれた御方はどちらも上手な方だったので、ふしょうの教え子ですよ」
「そんなことないですよ、それに比べたら私なんて見てくださいよ、ただの出戻りですから」
そう自虐的にいったところ。
「そんなことないさ、あんたは美人じゃないか」
「えっ?」
「失礼しました」
いつもの口調とは砕けたものを見たのは、これがはじめてであった。
「それでは私は務めがありますので、この辺で」
「はい、それでは私も」
それこら、笛の音が聞こえるたびに、あの時のやり取りを思い出しては、赤面してしまう。
あれは社交辞令だ、そうに違いない。
「元気?」
「顔を見に来たよ」
瀬旭(せきょく)と覆木(おおうき)は社を訪ねてくる。
「お二人ともお元気そうで」
「そっちもね」
「顔ぐらいは見に来るさ、君の方からうちを訪ねてくるわけにはもう行かないからね」
「それにこの中は安全だしね」
「そっ、内緒話にはぴったり」
「はっはっはっ、何か重要なことを話してるんじゃないかって、あなたたちを気になる奴等がたくさんいるみたいですよ」
「吸血鬼かな?」
「ですね」
「あらあらどうしましょうか」
「社はそんなものに入られるほど柔ではありませんが」
「でも周囲はそうはいかないね、君はもう神様なんだからさ」
「はい」
「若い身空でこの仕事に身を捧げるのは早すぎたと思うよ」
「そうでしょうね、でもどうせ病は体を蝕んでいましたし、命の使い方を好きにさせてもらったってことで」
「でもね、俺らとしてさ君が人であったときに救いたかったよ」
「本当にお節介ですね」
「それも今さらさ」
プチ
「おおっと、あいつら手を変えてきたみたいですね、ネズミを使うようです、よっぽど話の中身を知りたいんでしょう」
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
「ネズミ退治しながらね」
「またお会いしましょう」
「ああ、またな」
「バイバイ」
変な臭いがする。
(ん?)
と思ったところ、物陰から大きなネズミ達が姿を見せ、我が物顔で走り出してすぐに。
「お前ら、誰の縄張りだと思ってんだよ」
怒声と共に新蝶さまが現れた。
「大丈夫」
「ダイジョウブデス」
新蝶様って怒ったりすると、感情的になって口調が変わるみたいだ。
「ネズミはもうでないと思うけども」
「こういうのも神様のお仕事の一つなんですか」
「そうなんだよ、けど本当に大丈夫?噛まれたり、何か齧られたものはない」
「ありません」
「家まで少し距離があるから送っていくよ」
「そんな、え?」
お姫様抱っこで空を飛ぶなんて、どこの夢物語だろうか。
(この日の思い出だけで一生生きていけそうな気がする)
「今日は空が綺麗なんだな」
「そうですね、この時期は夕焼けがいつも綺麗で…新蝶様は空が好きなんですか?」
「人であったときは窓から眺めれるものが空しかなかったから」
「どこか悪かったのですか?」
「うん、今は新しい治療薬が出ているから治るけど、私が人であった頃は不治の病とされていたよ」
「じゃあ、神様になったら好きなところ行けますね」
「仕事があるから、そう簡単にはいけないよ」
「神様のお仕事も世知辛いですね」
「でも長くこの地にはいることになるから、ここに生きる人たちが幸せであればいいと思ってるよ」
「新蝶さまはプラネタリウムに行ったことあります?公民館の」
「いや、ないよ」
「じゃあ行くといいですよ、昔からあるところなんで古いですけども、星空が綺麗で、ほら今は明るくってあんまり星が見えませんから」
「それはいいね」
「じゃあ、次の月曜日に行きましょう」
「わかった」
勢いは怖い、この約束は勢いがなければすることができなかっただろう。
『ピアノの演奏と季節の星空』
このプログラムまだやってたんだ、懐かしいな、子供の頃にもみたやつだ。
平日だったせいか、お客様は二人だけ、新蝶様は見終わった後子供みたいな顔してた。
「すごく楽しかった」
「私は懐かしかったですね、また見に来ましょうか」
「うん、そうだね」
そして何故か並んで歩いて、そのまま公民館から出るまでの間無言だった。
公民館から出た後に。
「俺は改めて誓うよ、この地を、あなたが生きるこの地をしっかりと守るとね」
そういって手を握ってきた。
「えっ?あっ、うん、でも私なんてただの出戻りなんですから」
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