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見境なしのピオニー
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「水芭(みずば)さんは何を美味しいものを作ろうとしているんですか?」
螺殻(らがら)ミツが聞くと。
「ケーキだよ、イタリアという国のズゴットってやつ」
「あっ、あのサメくんへの注文なんですね」
「お子さまランチを喜んでくれてね、その時の写真を見せてもらったんだ」
お子さまランチを見て喜ぶサメと、食べて目が輝くサメと、お子さまランチを食べちゃったということでがっかりするサメである。
「食いしん坊さんなんですね」
「河川ザメはよく食べるから、むしろ人間と仕事をするのは食事のためが大きいと思うよ」
感染症が流行し、飲食店が窮地にたたされたりもした話はよくあるが、サメの行き付けの店に関しては、えっ?いつもは注文の制限があったり、サメはダメだったりするのに?
「お好きなだけ頼んでください」
とお店の方がいいだしたので、衣食住、全て川で住むサメたちの溜め込んでいたお金をうならせた。
「さすがに限度はあったみたいだけどもね、彼ら彼女らはびっくりするほどお金持ちだよ」
やはり、三日に一度はエステに行きませんと、肌の艶が違いますからね。
ふっふっふっ
「そのうちうちの事務所もサメさんたちにお仕事取られるんですかね?」
「そうか、そういうのは考えてなかったな」
「軽く言っただけですから、そう真剣に悩まないでください」
「体力じゃ負けちゃうし、KCJの整備は行ったことはあるとは思うけども、あそこサメも今はいるから」
「どういうお仕事なんですか?洗車とか?」
「洗車もだも、元々戦力として参加してたサメたちの、一部が結婚退職して、洗車もそうだし、彼らこの世界ではまだ許可は取れてないから運転はできないけども、他の世界では運転するからね」
エンストなどの走行不能の場合、人ならば後ろから押したりする必要がありますが。
「サメって、車をヒョイって持ち上げて歩くぐらいは一匹でできちゃうから」
「力持ちだ!」
よく訓練されたサメだとそのまま走ることが出来るそうです。
「ただ陽気な性格もそうだし、彼ら彼女らはきまますぎるから、指示するのは大変だよ…ミツさん、何かあった?」
「ああ、そのですね、そんなつもりはないのに、人を困惑させてしまったんですよね」
「ミツさんがそういう人ではないということはよく知ってるから、そんなに落ち込まなくてもいいんじゃないか?」
「それでもその、仲良くなりたかったですね」
「旧校舎の?」
「新しく来た人たちがいまして、はい、出来ればだったんですが、はい…」
「そこで失敗に気づいたんだからえらいよ」
「そうですかね」
「俺は話がね、下手だから、怒らせるのは上手いみたい」
「そんなことはないとは思いますが」
「ここにいると、瀬旭(せきょく)さんと覆木(おおうき)さんがいるから、気にならないんだけさ、あの二人はいろんな人と、それこそ初対面の人たちとどんどん話すし」
「それはそばでよく見ますけども、私たちと話しているのとはまた違いますよ」
「どんな風にだい?」
「ファンの女の子のみなさんがいるじゃないですか、そういう人たちの前では、ここでするような楽しい話、ノリよくずっと話を続けるって感じじゃないんですよね、なんというか、求められている振る舞いをしてるのかなって、ただ対応に困ってるだけかもしれないですが」
「はっはっはっ、それは少しあるかもね」
水芭は自然と笑った。
(こういう風に笑うのは始めてみたかもしれない)
「特に覆木さんは、女性にはマメに振る舞うから、あれでキャー!って喜ぶ人たちは多いし」
「たくさんいますもんね」
(覆木さんから、傘目先生も女の子紹介しようかって言われたら、覆木さんが紹介する女性は、毎日頑張らなきゃならないからすいませんって断っていたもんな)
「なんかこう、覆木さんのそばにいる女性のみなさんは、才色兼備っていう言葉はこの人たちのためにあるのではないかと思ったんですよ」
「持ち上げるのもわかるけども、ミツさんだって十分才色兼備であると思うよ」
「私なんてとてもとても、包丁の使い方一つにしても、水芭さんの方が上手いですし、たまねぎ、なんであんなに細かく切れるんですか?」
「練習」
「練習か」
「今は包丁じゃなくても道具があるから」
「でもですね、格好よくありません?こう…水芭さんみてて思うんですよ」
くるりと玉ねぎの皮を向いて、包丁の尖端で繊維を断ち切りみじん切りを作っていく。
「これと卵の割り方がね、水芭さんは格好いいんです」
「卵?」
カンカンカシャなのだが、当たり前ように片手で割ってる。
「そうそれです、それを忙しいと水芭さんは左でもやるんですが、おお、これは格好いいと思うんですよ」
「特にその時は考えてないんだけどもな」
右手が塞がっているから、左手で割っているだけである。
「出来るって感じに私もなりたいものです」
ここら辺がファンの女性たちとは違う目線である。
「片手で卵割るとき、どこを失敗するの?」
「たまに力を入れすぎて、殻が入っちゃうところですかね」
「生地で卵をたくさん使うとき、ちょっと練習してみるといいよ」
「いいんですか?」
「そのぐらいならば問題ないよ」
この練習のためもあり、サメ君用のデザートは毎日追加されることになった。
「いいんですか?」
「サメは一杯食べるし、本当はね、デザートはもっと作りたいところはあったんだけども、barだとあんまり出ない」
そして最近は差し入れで大量注文が出るのだが。
「あそこはご飯もの中心だし」
色味としては茶色のおかずがほとんどです。
「それでも作ることは作るんだけども」
何を食べても美味しいですというコメントだけだと、水芭のモチベーションはなかなか上がらないものらしい。
「うちのサメは食にはうるさいぐらいですからね」
実際にズゴットを持ち帰ったところ。
「サッ」
恵比寿かぼちゃ?恵比寿かぼちゃの匂いがする、これ好きなんだよ、ホクホクしてて、それでケーキにしちゃったか、あ~どうしよう、だんだん幸せになってきちゃったよ、どうするよ、どうする?じゃあ、食べなくちゃしょうがないよね!
といってるのだが、直接伝えるのは抵抗があったので。
「前に北海道のかぼちゃをいただいたんですよ、ただその時は調理しないでそのまま噛ってまして」
ボリボリボリ
「とても美味しいかぼちゃで箱に何て書いているのかって聞いてきましたので、教えました」
そこから恵比寿かぼちゃの文字を見ると、裾を引っ張ってねだるときもあるという。
「ただ河川ザメは舌も越えてますからね、海に住んでいる河川じゃないザメってイルカとテリトリー共有するんですが、逆にイルカは味に無頓着なので、サメが美味しいものをほとんどたべたりするんですよ」
「へぇ、そうなんだ」
会話が弾みそうな文章に直して、水芭に話をしたという。
(おお、これが会話上手さんというやつですね、いいな、こんなに上手だったら友達がたくさん出来るんだろうな)
そんな顔がミツにでてしまい、それは旧校舎にいても消えなかった。
「どうしたの?」
同級生に聞かれた。
「なんかね、この間見学に来た人に挨拶したりしたら、うまくいかなくて」
「それで落ち込んでたんだ」
「落ち込んでるよ、なんか仲良くなりたかったからこそかな、落ち込んじゃうの」
休み時間。
「先生」
「どうしたの?螺殻くん」
傘目(かさめ)先生にもこの話をすることにした。
「それは難しいね、誰とも仲良くしたいという気持ちはとても大事だと思うけども」
「はい、私ってたまにこういうの気づかないんですよね、相手が困惑してしまってるのに」
「う~ん、でも螺殻さんは他の人とはきちんと人間関係作れていたりするから、こういう場合もあるっていうことではあるけども」
「落ち込みがね、止まらないんですよ」
(そういうこともあるって瀬旭さんが言ってたんだよな)
テレパシーでも送ってこんなときどうすればいいの!って聞きたかったが。
「仲良くしたいはわかったけども、そこでよく話を終えたね」
「これ以上話しても嫌われるだけかなって」
「えらい、えらい、だいたいの人はそこで深追いして、修復不可能にまでなるもんだからね、そうじゃないなら、どこかでつながる、かもしれない」
「人に嫌われるの苦手なんですよ」
「それ、好きな人っている?俺はいないと思うよ」
「先生はどうして、たまに自虐に走って話を盛り上げようとするのですか?」
「…螺殻さんって実はすんごい見てるよね」
「いえ、少し気になっていたというか、みんなが笑っていたけども、私は笑えないだけかもしれません、そんなときに限って、先生ってニコッって笑ったりするでしょう」
「なんかデリケートなところザクザクくるね」
「ああ、すいません、もう言いませんから」
「いや、気にしてくれる人がいなかったから驚いただけ、そうか、君にはそう見えるのか、道化を気取ったつもりはないけども、手っとり早いから気取ったってところかな、ほら、俺、剣士なんだよ、流派では他の流派に使者として遣わされる、宣誓の剣っていうのを預かってる」
「先生と宣誓はもしかして」
「かけてる、自分ではかけたらおもしろいねって思ったけども、特にみんな反応もないままで」
「それは」
「そこには不満はないさ、ただまあ、こういう笑いとかを意識してないと、俺は顔が強張って来るらしいんだ、まあ、剣を握れば手加減は出来ないって習い、それを体現するからしょうがないんだけどもさ」
「先生は強いですよ」
「戦闘許可証の参考書会社からお仕事頼まれるぐらいは強いよ」
「あの参考書、まさか先生が解説とか作ってるんですか!」
「そうだね、むしろあれが本業じゃないかな、ミツさんもそのうち受けるんでしょ?」
「はい、その予定です」
「銃と?」
「捕縛術ですかね」
見てくださいよ、この二の腕で捕まえてやりますよ。
「メインは銃だろうね、捕縛するには相手が悪い、相性が悪い」
そしてたぶん性癖が加わるが考えられた。
傘目は知らないが、最近一人いるから、そこで目覚めちゃった前職同僚カガヤキくん。
「先生だろうと、油断しないこと、どこで誰が見てるかわからないし、変質者というのは常識で考えるよりもストライクゾーンが広いんだからさ」
何を投げてもストライクになる、それが本物の変質者さ!
「気を付けます」
「はい、そうして頂戴」
するとその時、傘目は目付きが代わり、何かを切った。
ポトッ
「芍薬?」
花が落ちた。
不思議そうにみる傘目。
「ああ、それ水芭さんのピオニーさんです」
「ピオニーさん?」
話を聞くと頭を抱えた。
「俺と螺殻さん、どっちに飛んできたかにもよるんだけども…」
そこに傘目あてにどんどん連絡が来る。
「ああちょっと待って、なんか大変なことが起きたっぽいから」
連絡をしていくと。
「わかったよ、今のこれ、水芭さんの料理を食べたやつを狙って来たらしくて、うちの道場のやつらが、絶対許さねえになってる」
「みなさん、水芭さんの料理、美味しい美味しいって食べてますもんね」
「そう、しかし、ここまで不用意というか、見境なしなの、芍薬さん命知らずというかさ、これもうダメかもしれないけども、うちの道場の連中で、返り討ちにしてやろうとか考えてそう」
「そこまでですか」
「血気盛んなのが多いんだよ、まあ、あくまで仮定なんで、いたら、連絡することにはなるとは思うから、俺からも先に伝えておくけども、螺殻さんの方からも水芭さんにフォローお願いね」
「わかりました」
先程の見境なしのピオニーからの嫌がらせ、対処は出来たが犠牲の唐揚げが出てしまったので。
「俺は止めても行くからな」
「待てよ、俺も付き合うぜ」
何人かが黙って追いかけ出しているということを道場の上役たちはつかみ損ね。
「KCJなんですが、おたくの門下のかたが」
警備に職務質問されて、発覚し、大目玉を食らった。
螺殻(らがら)ミツが聞くと。
「ケーキだよ、イタリアという国のズゴットってやつ」
「あっ、あのサメくんへの注文なんですね」
「お子さまランチを喜んでくれてね、その時の写真を見せてもらったんだ」
お子さまランチを見て喜ぶサメと、食べて目が輝くサメと、お子さまランチを食べちゃったということでがっかりするサメである。
「食いしん坊さんなんですね」
「河川ザメはよく食べるから、むしろ人間と仕事をするのは食事のためが大きいと思うよ」
感染症が流行し、飲食店が窮地にたたされたりもした話はよくあるが、サメの行き付けの店に関しては、えっ?いつもは注文の制限があったり、サメはダメだったりするのに?
「お好きなだけ頼んでください」
とお店の方がいいだしたので、衣食住、全て川で住むサメたちの溜め込んでいたお金をうならせた。
「さすがに限度はあったみたいだけどもね、彼ら彼女らはびっくりするほどお金持ちだよ」
やはり、三日に一度はエステに行きませんと、肌の艶が違いますからね。
ふっふっふっ
「そのうちうちの事務所もサメさんたちにお仕事取られるんですかね?」
「そうか、そういうのは考えてなかったな」
「軽く言っただけですから、そう真剣に悩まないでください」
「体力じゃ負けちゃうし、KCJの整備は行ったことはあるとは思うけども、あそこサメも今はいるから」
「どういうお仕事なんですか?洗車とか?」
「洗車もだも、元々戦力として参加してたサメたちの、一部が結婚退職して、洗車もそうだし、彼らこの世界ではまだ許可は取れてないから運転はできないけども、他の世界では運転するからね」
エンストなどの走行不能の場合、人ならば後ろから押したりする必要がありますが。
「サメって、車をヒョイって持ち上げて歩くぐらいは一匹でできちゃうから」
「力持ちだ!」
よく訓練されたサメだとそのまま走ることが出来るそうです。
「ただ陽気な性格もそうだし、彼ら彼女らはきまますぎるから、指示するのは大変だよ…ミツさん、何かあった?」
「ああ、そのですね、そんなつもりはないのに、人を困惑させてしまったんですよね」
「ミツさんがそういう人ではないということはよく知ってるから、そんなに落ち込まなくてもいいんじゃないか?」
「それでもその、仲良くなりたかったですね」
「旧校舎の?」
「新しく来た人たちがいまして、はい、出来ればだったんですが、はい…」
「そこで失敗に気づいたんだからえらいよ」
「そうですかね」
「俺は話がね、下手だから、怒らせるのは上手いみたい」
「そんなことはないとは思いますが」
「ここにいると、瀬旭(せきょく)さんと覆木(おおうき)さんがいるから、気にならないんだけさ、あの二人はいろんな人と、それこそ初対面の人たちとどんどん話すし」
「それはそばでよく見ますけども、私たちと話しているのとはまた違いますよ」
「どんな風にだい?」
「ファンの女の子のみなさんがいるじゃないですか、そういう人たちの前では、ここでするような楽しい話、ノリよくずっと話を続けるって感じじゃないんですよね、なんというか、求められている振る舞いをしてるのかなって、ただ対応に困ってるだけかもしれないですが」
「はっはっはっ、それは少しあるかもね」
水芭は自然と笑った。
(こういう風に笑うのは始めてみたかもしれない)
「特に覆木さんは、女性にはマメに振る舞うから、あれでキャー!って喜ぶ人たちは多いし」
「たくさんいますもんね」
(覆木さんから、傘目先生も女の子紹介しようかって言われたら、覆木さんが紹介する女性は、毎日頑張らなきゃならないからすいませんって断っていたもんな)
「なんかこう、覆木さんのそばにいる女性のみなさんは、才色兼備っていう言葉はこの人たちのためにあるのではないかと思ったんですよ」
「持ち上げるのもわかるけども、ミツさんだって十分才色兼備であると思うよ」
「私なんてとてもとても、包丁の使い方一つにしても、水芭さんの方が上手いですし、たまねぎ、なんであんなに細かく切れるんですか?」
「練習」
「練習か」
「今は包丁じゃなくても道具があるから」
「でもですね、格好よくありません?こう…水芭さんみてて思うんですよ」
くるりと玉ねぎの皮を向いて、包丁の尖端で繊維を断ち切りみじん切りを作っていく。
「これと卵の割り方がね、水芭さんは格好いいんです」
「卵?」
カンカンカシャなのだが、当たり前ように片手で割ってる。
「そうそれです、それを忙しいと水芭さんは左でもやるんですが、おお、これは格好いいと思うんですよ」
「特にその時は考えてないんだけどもな」
右手が塞がっているから、左手で割っているだけである。
「出来るって感じに私もなりたいものです」
ここら辺がファンの女性たちとは違う目線である。
「片手で卵割るとき、どこを失敗するの?」
「たまに力を入れすぎて、殻が入っちゃうところですかね」
「生地で卵をたくさん使うとき、ちょっと練習してみるといいよ」
「いいんですか?」
「そのぐらいならば問題ないよ」
この練習のためもあり、サメ君用のデザートは毎日追加されることになった。
「いいんですか?」
「サメは一杯食べるし、本当はね、デザートはもっと作りたいところはあったんだけども、barだとあんまり出ない」
そして最近は差し入れで大量注文が出るのだが。
「あそこはご飯もの中心だし」
色味としては茶色のおかずがほとんどです。
「それでも作ることは作るんだけども」
何を食べても美味しいですというコメントだけだと、水芭のモチベーションはなかなか上がらないものらしい。
「うちのサメは食にはうるさいぐらいですからね」
実際にズゴットを持ち帰ったところ。
「サッ」
恵比寿かぼちゃ?恵比寿かぼちゃの匂いがする、これ好きなんだよ、ホクホクしてて、それでケーキにしちゃったか、あ~どうしよう、だんだん幸せになってきちゃったよ、どうするよ、どうする?じゃあ、食べなくちゃしょうがないよね!
といってるのだが、直接伝えるのは抵抗があったので。
「前に北海道のかぼちゃをいただいたんですよ、ただその時は調理しないでそのまま噛ってまして」
ボリボリボリ
「とても美味しいかぼちゃで箱に何て書いているのかって聞いてきましたので、教えました」
そこから恵比寿かぼちゃの文字を見ると、裾を引っ張ってねだるときもあるという。
「ただ河川ザメは舌も越えてますからね、海に住んでいる河川じゃないザメってイルカとテリトリー共有するんですが、逆にイルカは味に無頓着なので、サメが美味しいものをほとんどたべたりするんですよ」
「へぇ、そうなんだ」
会話が弾みそうな文章に直して、水芭に話をしたという。
(おお、これが会話上手さんというやつですね、いいな、こんなに上手だったら友達がたくさん出来るんだろうな)
そんな顔がミツにでてしまい、それは旧校舎にいても消えなかった。
「どうしたの?」
同級生に聞かれた。
「なんかね、この間見学に来た人に挨拶したりしたら、うまくいかなくて」
「それで落ち込んでたんだ」
「落ち込んでるよ、なんか仲良くなりたかったからこそかな、落ち込んじゃうの」
休み時間。
「先生」
「どうしたの?螺殻くん」
傘目(かさめ)先生にもこの話をすることにした。
「それは難しいね、誰とも仲良くしたいという気持ちはとても大事だと思うけども」
「はい、私ってたまにこういうの気づかないんですよね、相手が困惑してしまってるのに」
「う~ん、でも螺殻さんは他の人とはきちんと人間関係作れていたりするから、こういう場合もあるっていうことではあるけども」
「落ち込みがね、止まらないんですよ」
(そういうこともあるって瀬旭さんが言ってたんだよな)
テレパシーでも送ってこんなときどうすればいいの!って聞きたかったが。
「仲良くしたいはわかったけども、そこでよく話を終えたね」
「これ以上話しても嫌われるだけかなって」
「えらい、えらい、だいたいの人はそこで深追いして、修復不可能にまでなるもんだからね、そうじゃないなら、どこかでつながる、かもしれない」
「人に嫌われるの苦手なんですよ」
「それ、好きな人っている?俺はいないと思うよ」
「先生はどうして、たまに自虐に走って話を盛り上げようとするのですか?」
「…螺殻さんって実はすんごい見てるよね」
「いえ、少し気になっていたというか、みんなが笑っていたけども、私は笑えないだけかもしれません、そんなときに限って、先生ってニコッって笑ったりするでしょう」
「なんかデリケートなところザクザクくるね」
「ああ、すいません、もう言いませんから」
「いや、気にしてくれる人がいなかったから驚いただけ、そうか、君にはそう見えるのか、道化を気取ったつもりはないけども、手っとり早いから気取ったってところかな、ほら、俺、剣士なんだよ、流派では他の流派に使者として遣わされる、宣誓の剣っていうのを預かってる」
「先生と宣誓はもしかして」
「かけてる、自分ではかけたらおもしろいねって思ったけども、特にみんな反応もないままで」
「それは」
「そこには不満はないさ、ただまあ、こういう笑いとかを意識してないと、俺は顔が強張って来るらしいんだ、まあ、剣を握れば手加減は出来ないって習い、それを体現するからしょうがないんだけどもさ」
「先生は強いですよ」
「戦闘許可証の参考書会社からお仕事頼まれるぐらいは強いよ」
「あの参考書、まさか先生が解説とか作ってるんですか!」
「そうだね、むしろあれが本業じゃないかな、ミツさんもそのうち受けるんでしょ?」
「はい、その予定です」
「銃と?」
「捕縛術ですかね」
見てくださいよ、この二の腕で捕まえてやりますよ。
「メインは銃だろうね、捕縛するには相手が悪い、相性が悪い」
そしてたぶん性癖が加わるが考えられた。
傘目は知らないが、最近一人いるから、そこで目覚めちゃった前職同僚カガヤキくん。
「先生だろうと、油断しないこと、どこで誰が見てるかわからないし、変質者というのは常識で考えるよりもストライクゾーンが広いんだからさ」
何を投げてもストライクになる、それが本物の変質者さ!
「気を付けます」
「はい、そうして頂戴」
するとその時、傘目は目付きが代わり、何かを切った。
ポトッ
「芍薬?」
花が落ちた。
不思議そうにみる傘目。
「ああ、それ水芭さんのピオニーさんです」
「ピオニーさん?」
話を聞くと頭を抱えた。
「俺と螺殻さん、どっちに飛んできたかにもよるんだけども…」
そこに傘目あてにどんどん連絡が来る。
「ああちょっと待って、なんか大変なことが起きたっぽいから」
連絡をしていくと。
「わかったよ、今のこれ、水芭さんの料理を食べたやつを狙って来たらしくて、うちの道場のやつらが、絶対許さねえになってる」
「みなさん、水芭さんの料理、美味しい美味しいって食べてますもんね」
「そう、しかし、ここまで不用意というか、見境なしなの、芍薬さん命知らずというかさ、これもうダメかもしれないけども、うちの道場の連中で、返り討ちにしてやろうとか考えてそう」
「そこまでですか」
「血気盛んなのが多いんだよ、まあ、あくまで仮定なんで、いたら、連絡することにはなるとは思うから、俺からも先に伝えておくけども、螺殻さんの方からも水芭さんにフォローお願いね」
「わかりました」
先程の見境なしのピオニーからの嫌がらせ、対処は出来たが犠牲の唐揚げが出てしまったので。
「俺は止めても行くからな」
「待てよ、俺も付き合うぜ」
何人かが黙って追いかけ出しているということを道場の上役たちはつかみ損ね。
「KCJなんですが、おたくの門下のかたが」
警備に職務質問されて、発覚し、大目玉を食らった。
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