浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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出来れば最後まで今の言葉を言ってください

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「俺、死んだのか?」
何しろ会いたかった君がいる。
でもおかしいと思ったので場所を確認、ここは野営地、いつもの寝床、そこでごろりと寝転んだところになんで彼女が。
「こんばんわ」
「こんばんわ」
「お久しぶりです」
「えっ?いや、ちょっと待って」
起き上がろうとしたら、頭を打った。
「大丈夫?」
「痛い、ここは狭くてさ、来たばかりの頃はよく頭をぶつけていたんだよね」
「ここかしら」
指先の体温が伝わってくる。
「本当に、君なんだな」
「ええ、さすがにご結婚なされていたのならば、そのまま帰りましたがおられないようでしたので、あっ、でも彼女はいますか、それならばごめんなさい、すぐに帰ります」
「いません」
「そうですか、でもそういって実はいましたとか言われたら、ショックかな」
「そこで嘘をいってどうするのさ」
「そういう人にナンパされて」
「そいつの名前、教えてくれる?焼いてくるから」
「あなたが焼いたら灰も残らないのでは?」
「だろうね、たぶん加減もできないと思う」
「ちょっとびっくりしました、あなたがそこで怒るだなんて」
「怒ったらダメなのか?自分が未だに好きで忘れられない人を…」
そこで我に変える。
「出来れば今の言葉を最後までいってください」
「意地悪だな」
「ダメですか?」
「考える時間をください」


「というわけで、無事に再会してきましたわ」
彼女の指には指輪が光る。
「それはおめでとう」
その報告を受けて、覆木(おおうき)は素直に祝福した。
「ありがとうございます、けど覆木さんたちとは彼よりも長い付き合いだものだから、普通の男の人はそんなに口説き文句をきちんと言えないものだということを忘れてましたわ」
それこそ彼と出会う前から覆木や瀬旭(せきょく)水芭(みずば)の名前だけは知っていた、そのぐらいの付き合い。
「それって俺が悪いの?」
「あっ、ミツさんちょっと!」
「ご注文ですか?」
螺殻(らがら)ミツを呼び止める。
「注文としてはこのカクテルをお願いね、ミツさんならわかると思うけども、覆木さんってすぐに勘違いさせるような言葉を使わない」
「はっはっはっそうですね」
「えっ?俺、ミツにまでそう思われているの?」
「自覚がないのも困り者ですね、これだから年に何人か本気に受け取られたりするんですよ」
「それはありそうですね、だってこうドキドキすることいいません?」
「そう!そうなのよ、こんなに女心わかっている男っているの?ぐらい上手いのよ」
「瀬旭さんはあちらには混ざらないんですか?」
「白万(はくまん)さんとだと、俺は話がそんなにはずまないんだよね、覆木はそういう意味では女性相手させたらすごく上手い」
「それは同意します」
その後覆木から、白万が指輪をしたところ、どうも事務所の協力者疑いのリストから外れた話をされた。
「理由としては、自分の彼氏より事務所を優先することはたぶんないだろうとかそういうことなんだろうけどもさ」
「それもまた」
「女性だからという理由でしょうかね」
水芭はため息をついた。
「それもあるんだけども、もう一個大きい理由、彼女が不機嫌になりながら話してはくれたんだけも」
どうもあなた方を気にくわないと思っている人たちが、今どういうものかって調べていたら、彼のいる部隊にも影響していたのがわかったの。
あの人、とんでもないところで寝起きしていたんだけども、それがそいつらのせいでね。
「三年、三年もよ、三年もあの生活していたのよね、だから滅ぼさなきゃならないのよね」

「うわ…」
「虎の尾を踏みましたね」
「というわけで、実際にやって来たやつはしょうがないとしても、俺らに嫌がらせしてくるようなタイプには八つ当たりしてくれるそうだから」
「それは御愁傷様」
「あっちこっちに穴が空くんでしょうね」
「もしもはないとは思うけど、コーティングをいくつか張り直すか」
「とりあえず、明日には一枚重ねておきますね」
そう水芭がさっさとやってくれたことが良かった。
ゴォォォ
窓を揺らす轟音。
「何ですか」
「ミツさん、外に出ないで」
「おっ、どんなバカが喧嘩してやがるんだ」
「いや、待て、これ白万だぞ」
証拠の書類に載っていた名前、そいつを追いかけていたそうだ。
「お騒がせしました」
静かになってすぐに事務所に顔をだした。
「もう少し穏便に」
「この人こういうものをばら蒔こうとしてましたね、小遣い稼ぎでしょうか?」
それは螺殻ミツの前職時代の身分証明書の写真である。
「髪が短い」
「これはこれですごい可愛い」
「この一枚だけ?」
「いえ、後はこちらに」
回収したものを魔法で見せる。
「一枚はそちらで持っていてください、こちらは処分しましょう」
そこで狭間にかき消えた。
「こういう情報を小口でバラまこうとしているところが、うちの事務所って敵が多いんだなっては思っちゃうよ」
「手口としては男だろうな」
「男ですか」
「あれか、俺らがやってること何やっても気にくわないやつなんだろうな、そいつはさ」
「それは嫌ですね」
「たぶんずっと我慢してきたんじゃないか、自分にはそれができないからとか、そんなくだらない理由で権力もつと、俺らみたいの消したくなるんだよ」
「きっと可哀想なやつなんだよ」

その哀れみもこの先に決定的な死地を産み出すことに繋がるはずだったが、白万に指輪を渡していることで彼女によって防がれている。

   
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