浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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誰か砂浜で亀でも助けた?

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KCJの戦闘許可証が一般に広まる前は、どういう状態だったかというと、それぞれが派閥で組合を作っていた。
それらがどのように世の中にあるべきか、その姿勢を決めていたのである。
今日はいくつかある組合の中でも、そこそこ大きいもの、その会合の日である。
覆木(おおうき)と螺殻(らがら)ミツの二人が事務所から代表して参加となった。
「珍しい顔がいるな、その子が新人さんか?」
「はじめましてよろしくお願いします」
年齢層は高め、ベテラン揃いだが、若手も混ざっていた。
「やっぱり礼儀正しいっていいよな、はぁ~そっちになんかあったら言ってくれよ、うちにすぐ移籍させるから」
「そんなことあるわけないでしょ」
「わからねえぞ、そう思ってるのはお前だけだったりするし」
「えっ」
「動揺するなよ、冗談だっての、お前、本当にその子、そのうち弱点になるぞ」
「わかってるさ、それでもいいからって事さ」
「おっかない保護者がついてら、でもこの時期に新人が見つかるなんてついてるというか、不思議なもんだな」
「ああ、うちは不参加ってことで、組合に支払うつもりだったからな」
「ちゃんとした子が来てくれるなら、そっちの方がいいさ」
話はミツも事前に聞かされていた。
「どこもかしこも後継者不足なわけよ、それはわかっていたが、とうとうこれが最後のチャンスではないかってことで、組合に所属している団体や事務所なんかに新人育成を義務づけようって話になったの」
今日がその選挙の日らしい。
「もちろんただ新人をいれるだけじゃだめ、お飾りじゃ困るってわけよ、もしもなんかあったときに仕事を引き継げる実力があるかってことで」
「私、頑張りますから」
「ミツはもう最初の関門突破しているから」
「えっ?そうなんですか?」
「この間のあれ、報告書出したらそりゃあ一発よ、何しろ瀬旭(せきょく)を先導、同行、殿務めれたわけだし」
「あれはたまたま運が良かっただけですよ」
「その運の良さも込みでクリアってことで、一緒に来てもらう理由としては、うちの事務所には螺殻ミツという可愛い子がいますよ、手を出したら許さないよっていうことなんでさ」
「はぁ」
「まぁ、本当は水芭(みずば)に言われるまで、届けるの変更忘れてただけなんだけどもね」
(意外とうっかりさんなのかな?)
「パパはこういうところがあります」
「でもまぁ、それでいいんじゃないんでしょうか、最初にお会いしてからすぐは完璧な人だと思ってましたね。それこそ自他共に厳しいような、でも仕事以外のお話をしてからでしょうかね、そのイメージは変わったと言いますか、そこに安心します」
「安心か、そういわれることはあまりなかったかもしれない」
そのまま天才肌で来ちゃったタイプである。
それこそ瀬旭と知り合わなければ、誰ともわかりあえなかったのではないか、それぐらい人を寄せ付けない何かはあった。
「瀬旭とは射撃訓練所であったの、あいつの周囲は俺と違って、いっつも人がいたんだよ」
射撃は資格がなければ訓練も出来ないの、しかしどうしても訓練所ともなれば、場所を選ぶので、遠方からでも人はやってくるのだ。

「見たまえ、オレはこんなことも出来るんだ」

「なんだよ曲芸かよ!って思ったね、けどもさ、それで他のやつより早かったの」
そしたら何故か勝負することになって。
勝負は0.1、0.2秒単位で次々と決まっていった。
そうなれば観客はお祭り騒ぎだ。
「なかなかやるじゃないの」
「お前、もっと真面目に取り組んだら」
「気が向いたら、俺は瀬旭」
「覆木だ」


「ついてこれるのがあいつしかいなかったから、一緒に仕事したらこのまま今になっちゃったって、それぐらいあっという間だったよ」


ホールには同業者達が並んで座っている、時間が来たので要職者のあいさつとスピーチが始まり、新人教育の投票は行われ、過半数を得たので可決された。
「じゃあ、戻るか」
「はい」
歩きながら。
「ただうちは組合から新人の教育費は受け取らないということにした」
「えっ?結構いいお金もらえるんじゃないんですか?」
「少し、きな臭いものがあってな、それこそ昨日まではもらう方針であったが」
「一体何が?」
「ミツ、車に乗るまではすまないが腰が低い新人さんったことで」
「わかりました」
何かあるのだけはわかった。
玄関は人の輪ができていた。
「本日はお越しくださいましてありがとうございます」
「君のような人間が継いでくれるのならば安泰だろうね」
「そういっていただけると嬉しいですね、あっ、覆木さんじゃないですか、そちらが噂の新人さんですね」
「はじめまして」
「僕も新人なので一緒ですから、そんなに固くならないでくださいよ、これからこの組合を盛り上げていきましょうね」
「微妙ながら、が、頑張ります」
「ごめんね、ちょっと緊張しすぎちゃって、休ませたいんだ」
「ああ、それは困りましたね、ではまた」
そのまま地下駐車場に行くが、覆木は飲み物は何か飲むか?と聞いてくる。
「お水か、お茶を~」
「わかった」
車に乗り込む。
「本当に緊張したのか?」
「はい、すいません、演技とかもっと出来ればいいんですが」
「ミツはそのままでいいさ」
フロントガラスごしに、横断する人が見えるが。
(あっ、サインかな)
横断しながら安全確認は出来たのサインをこちらに送ってくれたらしい。
「じゃあ行くか」
「はい」


「念には念をいれたが正解だった」
「私が知らない何かがありましたかね」
「お決まりの情報収集を仕掛けられそうになったみたいだ」
「同業者でも油断はできませんね」
「そういうこと、ある程度は仕方ないさ」
知名度があるということは、その首を狙う価値があるということだ。
「だけども、俺らを狙うその隙が一番の隙でね」
そこを思いっきり殴られると、あら不思議、格上でも倒せちゃう。
「うわ…」
「barにやってくる奴等はそうなんだよ、まあ、把握してないのもいるが」
「それで大丈夫なんですか?」
「そこで稼げるのならば、お腹いっぱいになるのならば、ずっと俺らにそうしてくれた方がありごたいって思ってるんだよ…ミツ」
「さっきの人ですか」
「ああ、ちょっとな、俺がきな臭いと感じたのはあいつなんだよな」
「丁寧な物腰でしたが…」
「正直、俺もどう転ぶかわからないよ、でもそういうときはいざというときは違う選択が出来る方が強いからね」

「お帰りなさい」
水芭はグラスを磨いていた。
「留守中は何かあったか?」
「特には何も、何か飲みますか?」
「ああ、それじゃあ…」
「遅かったじゃないの」
瀬旭である。
「拗ねるなよ、猫じゃあるまいし」
「にゃー」
「そんなことして可愛いと思ってるの?あざとい」
「そういう可愛さもある!」
「どこ狙いだよ」
「本当に覆木さんは瀬旭さんと一緒になると、途端に男子になりますよね」
「心はいつでも小学生のままよ」
「もう少し大人としての自覚を持ってください」
「水芭のマジレスは心に刺さるよね」
「そりゃあどうも」
「水芭さん、私も手伝います」
「じゃあ、向こうから…」
ミツがいない間に。
「ミツが俺らの弱点になるって釘を刺されたさ」
「んなことはわかってて入れたんだけども」
「本当に意外だったんだろうな」
「意外ね、オレはあんまりそう思わないよ」
「どうしてです?」
「なんだろ、守るものがいた方が強くなれるじゃないな、なんかこう…」
「ノリと勢いじゃ失うだけだぞ」
「いや、なんというか、ミツってなんかあるんじゃないかなって」
「何かとは?」
「仕事しやすくない?」
「それは手伝ってくれるとか、気遣ってくれるとか、そういう意味合いではなくて?」
「そう、この仕事って、それこそ色々あるでしょ、良いものもあれば悪いものもある、オレも結構長く生きてきたつもりなんだけどもさ、ミツが来てから、動かなかったものが色々と動いているような気がするんだよね」
「気のせいではなく?」
「そこが気のせいならいいよ、オレの勘が悪いだけなんだが、なんかお前は心当たりはある?」
「たぶん俺よりはまず気づくのはお前だと思うんだよね」
「それはありますね」
「人をワイルド生まれ、ワイルド育ちみたいな言い方をして」
「そこは事実では」
「そうだけどもさ」
田舎に帰ると、実家の柿の木に無言で登って柿を収穫するタイプ。
「小学生のままだな」
「ですね」
「キー!とまあ、ジョークはこの辺にしておいて」
「前置きが長いですね」
「水芭さ、この間面会しにいったあいついるじゃない、あれって、ミツはどこまで絡んでいた」
「ミツさんですか…あれは、あの時留守を任せて、いつもならば出歩かない時間に」
「途中何かあった」
「何か…ですか、特別なことはないとは思いますが」
「注意はこれからして」
「わかりました」
「これがミツなのか、ミツじゃない何かなのかか」
「そう、オレがちょっと変じゃないかなって違和感あったの、この間病院いった時からなのさ」
「変な顔してましたもんね」
「そう、居心地が悪いというか、早めに切り上げた方がいいというか」
「虫の知らせか?」
「それならもう届いているはずなんだよ、そうじゃないからすんごい困るの、こんなの初めてなんだよ」
「地震前のワンニャンシーみたいですね」
「やっぱりお前、ワイルド生まれワイルド育ちじゃん」
「ふー!」
威嚇のポーズ。
「はいはい、で、ミツさんはこれからどうするんですか?」
「組合の新人の様子見ながら育てる」
「それが一番いいだろうな」
「目立たない方が今はいいでしょう」
「手柄取りたがる奴はどうしても出るし」
「功を焦ってどういうことをするか、それを見てから動いても、うちは困りませんからね」
「そういうことよ」
「そういえば、コバンザメに新しい奴がいるの知ってるか?」
「ああ、なんかそうらしいですね」
情報の売買、その経歴からであるが。
「うちを狙おうとする奴は山ほどいるから」
「けども、どうも金目的というより義理で動いているやつみたいなんだよね、お金には手をつけていし、そいつらにかかった賞金の支払いもしてないから」
「誰か亀でも砂浜で助けた?」
「助けた覚えはないですね」
「そういうことができそうな亀って助けなくてもよくない?」
「保留っと」
「まあ、そうだな」
「若い男らしいですが」
「まさかミツ目当てとか?」
「いや、それはないでしょ、接点どこにあるんですか?」
「わからないよ、どこで一目惚れしたのか、お嬢さんを僕にください!って言い出してきたら」
「眉間かな」
「肝臓でしょ」
「二人とも容赦ない」
「お前は?」
「肺」
「人のこと言えませんね、まあ、でもうちを狙う奴が未遂で終わってくれるならばそれでいいかなと」
どうしてもゼロにはならないのと。
「前に取って置きのウイスキーやられちゃったもんね」
「今は閉鎖された醸造所のウイスキーですよ、それをあんな飲み方して」
「すいません、頼まれたものこれで全部ですかね?」
ミツがカートに補充の飲料をつけて運んできた。


「よぉ、兄ちゃんさ、俺たちにちょっとばかり優しくしてくれよな!」
その声をかけられた瞬間、その喉をナイフがかき切る。
喉をかきむしりながらちょっかいをかけた男は倒れた。
(今日は数が多いな、これがあの事務所に向かったら大変だろう)
その時脳裏に、バリバリとした音を立てて砕けたガラスの上を歩く記憶が甦った。
「そしたら、大変なことになるじゃないか」
幽鬼はとあるグループが事務所を狙いそうなのを知った、だから昨日から少しずつ彼らの数を減らしていった、酒を飲んでいるところを狙ったり、金の回収中に襲撃したり、この件が彼の仕業だと大騒ぎにならないのは、彼が仕留めたあと、名前の知らない誰かが目撃し、その金銭を狙ったからである。
(ここら辺だと金銭をそのままにしておくと、こういうことを勝手にしてくれるから楽でいい)
ここはそういうところだ。
だからこそ、この男の行動理由が、瀬旭や覆木、水芭に何かあったらあの子が悲しむだろうからという、人には理解されない理由、その行動で翻弄できるのだと思う。
そしてそれに浸っている時にだけ幽鬼は、生者たちへ思いを馳せることができる、これが彼には楽しくてしょうがないのである。

彼の時は流れていない、ぐるりぐるりと同じ場所を踊ってる。





  
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