浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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酒は不用である

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「おや?あちらにお引っ越ししたんじゃなかったんですか?」
知己の商人、KCJ表購買裏にリーダーは姿を見せるとそんなことを言われた。
「こっちから通ってますよ」
「最近お姿が見えませんから、てっきりね、良かった、やっと新しい生活に向かう気になったのかなって」
「それはどういう風に見られているんですかね」
「あなたの周囲の人間関係を知るものとしてはね…」
「そこを言われると弱い」
「で、今日は何をお求めに?」
「手帳ってあるかな?」
「ありますが、誰になんの?」
「うちのパーティーに魔法を使えるのが二人いるんだ」
「ああなるほど、そういうもの、でしたら、お求め安いものがありますが、湿気の多い日本だと紙の質が合わないときがありますが、あちらですと、気にはなりませんからね」
「男性と女性で」
「ああ、それならば、尚更、プリームスウルティムムでよろしいでしょ」
手帳のブランド名らしい。
「春が遅く、嘆く農民の前に、春を喜ぶ詩を口ずさみ、春を呼んだとされる偉大なる詩人がおりましてね、その詩人が書き留めるにふさわしい手帳というコンセプトで、ちょうど二冊、重厚なものがディルクムム、細身のがアウローラなので、まずはこちらをお渡しになってみてください、趣味が合わないようでしたら、どういうのがいいのか聞いていただけたのならば、安いときに探しておきましょう」
「ありがとう」
先日、パーティーメンバーの一人に鯛を渡したので、今度は残り三人の分であった。
「リーダー、私は保存食がほしい」
「保存食?」
「山から兄さんたちが町に来ているから、山の方だとね、作物はあんまり育たないからね、狩猟とかなんだよね」
それでどんどん聞いたのならば。
「鹿は食べる?」
「うん、ごちそう」
「ちょっと待ってね」
連絡してみると、駆除された鹿肉が安く出ているところだったので。
「レッドノーズが仕留めたもので、同じぐらいのならば、あっ、うん、それで」
話は終わり。
「乾燥したもの一頭分でいいかい?」
「ありがとう、リーダー大好き!」
となった。
それで他の二人にもということで、魔法を使う場合の消耗品でもあり、持ち物のクラスによっては値踏みされるとのことなので、手帳などはどうかと思っていたのだが。
「それでいいと思うぞ」
話の聞き役であるメンバーからそういわれた。
「あの二人、その辺はあんまりいいもの持ってないというか、俺はいいとは思うが、その持ち物でいじられているの見たことはあるから」
ずいぶんと古くさいものを使ってますね。

もっといいものが、あっ、買えませんものね。

「リーダーのことだから、そこそこ良いもの選んでくるだろうし、とりあえずそこにして見たらどうだ?」
そういって鹿肉の受け渡し待ち、みんなが集合する時に合わせて手帳を用意したのである。
「おったな」
「リーダー、ごきげんよう」
「こっちだ、こっち、じゃあ、リーダー、早速あれ」
「二人に渡すものがあって」
そういってディルクムムとアウローラを渡すと。
渡された二人は固まった。
「あれ、もしかして趣味に合わなかった?」
「いや、これはそうじゃない、良いもの過ぎて驚いているってやつだな」
コミュニケーション力が高すぎる仲間はこういうとき通訳に入ってくれる。
「手に取るのも惜しいぐらいなんだが」
「そこまで高いものではないよ、向こうの国の、海の向こうからのものだけども」
「貴族の持ち物か!」
「うれしいけども」
「二人に用意したんだ」
「ほら、俺のところの鯛もそうだし、鹿と同じぐらいって比べればいいだろう」
「ありがとう」
「ああ、その鹿なんだけどもね、もう二頭来ることになってさ」
「鹿、そんなにいるの?」
「畑に現れて、モッシャモッシャ食べているらしいよ、それで農家さんが絶対許さねえってことで」
「農家は食べんのか?」
「食べないね、顔もみたくないっていうよ、それで最初に頼んだのはもう乾燥させてたんだけども、残りの二頭はそれじゃあ間に合わないから、急いで薫製にしてもらったんで、あとでみんなには1人一足分腿の燻製を渡せます」
「いいのかよ」
「いいよ、いいよ、その燻製の一頭と、残りの一頭の腿以外の部分は後日また運んでもらうことにはなるけどもどうしますか?って聞いたら、持って帰るそうなんでさ、その間預けることになったよ」
本当にリーダーはいい人である。
だからこそ、この後顔を出さなければならない場所に行くのは憂鬱であった。
が、いかなければならぬ。
早速リーダーからいただいた手帳を出すことになったのだが、そこで目をつけられた。
「あら、お姉さま」
そう、こういう人間関係。
「珍しいですわね」
「ちょっとね」
「そうなんですか?あらあら、お姉さま、良いものをお持ちで、自分でお買い上げになりましたの?」
これは誰からも贈られたりしませんものねという嫌みだ。
「今、一緒に組んでいる方からよ」
「それなら私にもいただけませんこと?」
こういう人間である。
「難しいんじゃないのかしら?」
「そうですか?それは残念、それじゃあお姉さま、私にそれをいただけませんか?」
「これはもう私が使っているわよ」
「そこは破りますから」
とんでもないことを言い出したところに、本日のゲスト、独身の身なりのいい若者たちが現れたので、話はそのままでその娘は向こうにいってしまった。
「実はそういうことがあってね」
さすがにリーダーに報告すると。
「そういうのは無理に付き合わなくてもいいし、手帳は手放したくないと思ってくれているならば、できれば側に置いておいてくれるととてま嬉しい」
「わかったわ」
「人生にはそういうこともあるからさ、もしこれがダメなら他の方法を探していってほしい、言ってくれれば、そこを迂回して別の方法をこちらを考えるよ」
リーダーは、実際に冒険してないときの方が忙しいんじゃないのかな、なんてそこで思ってしまった。
燻製の鹿二頭がこの後届けられたのに合わせて、またパーティーメンバーは集まるが、鹿肉を故郷に持って帰る兄たちの姿も見える。「リーダーさん、これはいい鹿ですよ、香りが全然違うじゃありませんか?」
「お酒の樽で燻製したそうなんですよ」
「なんだとそれは旨いに決まっとるな!」
「モモ肉一本で我慢しておけよ」
「それはそうなんだが」
「妹をよろしくお願いします」
「こちらこそ、長くお世話になります、あっこれ、その樽につめてたお酒なんですが、一本だけ手に入りました、強いそうなので水で薄めて飲んでください」
こうして鹿肉は分けられた。
「酒はないのか?」
「別の酒は用意はしてあるけども、それは次に結果を出してから」
「明日サンゴックにでも行くか」
「それはいいけどもよ、なんか違うのもよくねえ?」
「違うのって何よ」
「私は面白いなら、なんでもいいよ」
「はいはい、ちゃんと計画たてるから、待ってて、とりあえず今日はご飯食べてから解散するから」
このパーティーは酒を挟まずによく飯を食う、理由はこれからの話をするので、酒の酔いが邪魔なのだ。
希望に満ちた話をするとき、酒の酔いというのは些か暗い影を落とす。
「気になったら、全部教えてくれたら嬉しい」
こういう方針なので、この場では酒は不用である。
が…
「飲まないわけではないよ」
職業柄安全な場所でしか飲まないだけと言うやつだ。







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