浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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映画館では映画のようなことが起きている

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まずここにいい感じのサメを用意します。
「サッ?」
いいですね、そこのあなた、いいですよ。
サメの独特の魅力、ラインが素晴らしい。
「サッサッ」
性別は「メ」より「サ」の方がいいでしょう。
ええっと、それってなんなのか?といいますと、この春に表記変わったんですよ。前まで男女のどっちかに丸をつける形なんですが、それはあくまで人間の基準なんで、河川ザメだし、「サ」か「メ」で表記して管理の方が、サメが見ても一目瞭然というか、わかりやすいわけです。
人間たちにとっては、河川ザメ(サ)は身近な存在であります。
その川に橋がない場合、向こう岸に渡る場合は、しきっているサメにお金を渡して通らせていたとか、川に流れてくる木材、流木ですね、乾燥させたものを薪として売ってました。今はその産業は廃れ、趣味程度でやっているものはまだいますが、基本的には日向ぼっこしたり、適当に水の中に潜ったりして一日を暮らしています。
釣りや生物を探して網を持ってくる人間がやって来ると、興味本意でこっちを見ます。
その程度で済むのは、河川ザメが強いからですね。
人間より小さいですが、力はあり、打たれ強さも持ちます。
仲良くなると、顔を見せるたびに、向こうから来てくれたりします。
だいたいこれが河川ザメ(サ)です。
河川ザメ(メ)の方はどうかというと、同じ群れの同性と一緒にいることが多く、人が見かけたりすると、そそくさと姿を消してしまいます。
そんな理由で、人と交流がある河川ザメというのは、「サ」の方が多いんですね。


『新作映画本日公開』

映画を見る趣味はこの映画館だからだと思う、朝から暑いのだが、映画館はモーニング上映セットなるものを発売している。
映画館の前を通ってきたので、掃除しているサメたちのお兄さんを見かけたりした。
この映画館からちょっと遠い所に住んでいるので、朝から少しばかり早起き、プロテインを飲んでから、映画館がある商店街にやってきた。
もう営業しているお店もある、この辺は個人店ばかりだが、朝から営業しているお店や夜も遅くまで営業しているお店と住み分けができていた。
モーニング上映セットは、食事つきである。
それこそチケットを見せるとモーニングが食べれるのだが、最近忙しかったので、ここはちょっと贅沢がしたい。
+いくらで、色んなものが食べれるのだが、それこそ、スペシャリティーコーヒーだの、郷土の名産品だの、毎回は無理だが、この値段ならばかなりお得ではないかと言うお店もある。
焼きたてパンのチーズトーストを食べたい、あれは旨いし、高カロリーである。
今日ぐらいは高カロリーに浸り、映画館でたぶん…サメ…映画を見るのだ。
このサメ…映画なのは、シークレット上映という回が本日行われる。

「おはよう諸君」
「我々だ」
サメ兄弟である。
「退屈な人生に、我々は一石を投じようと思う」
「モーニング上映セットを今回はシークレット映画でご招待さ」
最近そういえばいってないな、行くか!とこれを見て決めた。
食事を終えて、映画館に向かおうとすると、ふらふら誰かくる?酔っぱらい?いや、ゾンビナースである。
(昨日お祭りがあったから、そのまま勢いで過ごしちゃったのかな?)
ゾンビナースの背中には『感染注意、手洗い、マスク、距離をとってください』とある。
ああ、なるほどそういうことね。
最近また増えてきてるし、ああいう感じで啓蒙してるんだな。
映画館に行くと、チケットカウンターがセルフになっていた。
サメの形をしており、口を開けて、歯が鋭そうな作りをしてて、その中に端末の読み取りがある。
『当たりが出ると噛まれる場合があります』
ガブ!ってか。
いいな、噛まれたいな。
この映画館に何度も通うのは、よく訓練されたサメ映画とサメ兄弟のファンです。普通の人は真似しないでください。
ピッ
あっ、ハズレだ。
噛まれなかった。
他のお客さんもいるし、エレベーターはどんどんお客さんを運んでいる。
ドンドンドン、ドンドン!
何の音だ?
シアタールームの一つからである。
「助けてください、助けてください、ここを開けてください」
中から女性が叫んでいる。
スタッフは来ないが。
「なんかイベントだって」
シアタールームの入り口にはただいまイベントの準備中とある。
そっか、イベントなんだ。
本当にそうなら、スタッフさん、あのサメ兄弟が映画の邪魔をするのを許さないと思うんだよね。
この扉の封印の文字も達筆だな。
「これ弟さんの字だよ」
他のお客さんが連れと話している。
「タカミってそんなに字がきれいなの?」
「モーニング上映セットのパンフレットあるじゃん?あれで珈琲店が、ええっと純喫茶の、あそこ行ったことある?あそこのメニューがタカミが書いたって」
長兄とサメ兄弟三人の母の仕事の一つが、デザインの仕事である。
母から習い、その技を継いだのがタカミ。
(あのヒレでどうやって筆を握っているんだろうか?)
ふっふっふっ、サメのヒレは意外と器用なんですよ。
そんな中、奥のスタッフオンリーから、サメ兄弟二匹バン!と扉を大きな音と共に開けて現れた。
ロビーにいるものは釘付けになるが、サメ兄弟は何かを背負い、そのまま階段を降りていった。
「あれ?なんなの?」
「イベント中?」
「昨日お祭りあったから、酔っぱらいが汚したんじゃない?」
「ああだから兄弟は、乾湿用の掃除機背負ってたのか」
アナウンスがそこに流れる。
『モーニング上映のお客様はコントゥブルーシアターにお越しください、ただいまから開場いたします、なお上映が終わるまではシアターからは出れませんので、トイレなどの方は…』
特にそれ以外は普通だなと思っていたら、上映時間がくると。
『ただいまより、シアタールームは上映終了まで封鎖されます』
ガラガラガラとうるさい音を立てて、シャッター等がおりていった。
『内部で起こる非常事態は想定はされてますが、想定外の事も考えられます、その場合はシートの』
避難訓練のようにシートには緊急用のバック、その中にきちんと中身が入っていることを確かめさせられてから、上映となった。
これはこれでイベントとして成立するから、やっぱ。この映画館は面白いな。

「見つけたぞ」
「こっちだ」
商店街にはサメ兄弟だけではなく、何人か見たことある顔が、KCJの戦闘許可証持ち達がいるではないか。
網がアーケードから飛ぶ、パサリとかぶせた先にはゾンビナースがいる。
「はい、確保」
「うーあ~」
ゾンビナースは声にならない、空気がもれた音を出している。
「国産のものじゃないな、これ」
「後始末は我々が」
サメ兄弟がゾンビナースの残骸を掃除機で吸い込んでいる。
「しかし、大変なことになったもんだな、スクリーン経由でゾンビ達が這い出して来ちゃって」
「今回は楽な方ですよ」
「そうなの?」
「逃げ出したの五体ぐらいで、これだ最後ですし、ゾンビ召喚のシアターは封印してますから、外から強制帰還できますし」
「ああ、それは便利だな」
「あっ、なんか声真似したやついたらしいです、助けてくださいって」
「封印は開けられなかっただろうな?」
「それは大丈夫です、映画館のお客さんはイベントだと思ってますから」
「でもこれで間違いないな」
「情報来ました、この人たちデスゲームの被害者らしいです、簡単に稼げますよっていって集められて、騙されて」
「それでゾンビに、嫌だな」
「声真似るのは、それこそ、誰かをゾンビにすると、綺麗なパーツをもらえるからっていう」
「そこまで行くともう被害者じゃねえよ、強制帰還させて正解だ、遅くなるが行政の人たちも後でくるから、それまでに報告書まとめておくぞ」
「わかりました」
それにしても性質が悪い、お祭りで盛り上がりお酒を飲んでいる人たちも多いだろう、みんなリラックスしている日を狙ってくるのだから、映画館では映画のようなことが起きている。
しかし、それを許すわけにはいかない。

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