浜薔薇の耳掃除

ご機嫌な歌が出る妖精布

「いいか、近寄らせたらダメだ、声だして、近づかせないようにするんだぞ」
子供の頃からゴブリンだの魔獣がいるような世界に住んでいるので。
ガランガラングォー
「今の音は！」
「今の？ええっと整備部がいたら追いかけられそうな、整備不良の車両の、マフラーとか、エンジン音ですかね」
「そうか」
東司は慣れるまでそれを地元にいた雷狼が来たのかと思ったらしい。
「あいつは油断すると狩りを始めるんだ」
大きな声で鳴いて構えたりする場合は来ない、それに慣れてきて、油断をすると攻めてくるというとんでもないタイプである。
「狼の方が、狼少年ですか」
「ただまあ、雷狼も罠仕掛けるようになってからは安全にはなったんだがな」
東司が住んでいたのはドワーフの集落で、あいつらうるせえよと思っていたドワーフ達を本気にさせました。
足跡や歩幅からこんなのでいいんじゃねえ？と思い付く限りの罠を作り続けたところ。
「次に鳴くのはいつだろうとか、誰の罠にはまるのかな賭けようぜって」
キャインキャイン
罠にはまると情けない声ですぐにわかった。
「賭けで勝つと気前よく奢ってくれたりしたからな」
雷狼は他でも悪さをしていたので、罠が売れるようになりました。
その時他の地域から色んなものを買ってくるので、特にドワーフは布に目がない。
「こっちに来てる河童山もそうなんだが、自分が作れない素晴らしいものっていうのに弱いんだよな」
「確かに産業革命とか起きる前なら、布は納税に使われたりしてますからね」
「昔、そういう市場に行ったが、ＫＣＪの裏購買行くと懐かしく感じるよ」
そう、ＫＣＪの裏購買というのは許可制の市場スタイルなのである。
それこそ、異世界からこちらに在住している人が、本業そっちのけ、趣味で色んなものをだしていたりするので、楽しめるスポット。
店の数は平日よりも休日の方が多く、はじめての人が見て回るのならば、戦闘許可証の試験が開始される間がおすすめ。
終わるとそちらで合格した人が、買い物に来て込み合う。
裏購買は、戦闘許可証持ちはフリーパス、一般人もツアーとしてならば入れる、在異世界人もフリーパスでいけた。
ので、東司の長年の知己である河童山は、浜薔薇出張所より、こちらで見かけることの方が多い。
「最初はこっちでも妖精布買えるのかって思っていたぐらいなんだが、地元で買うより安くてな」
「それは趣味もありますから」
この店主さんのご家族に妖精がおりまして、家にその妖精の故郷にあったタイプの機織を作りましたところ、歌いながら織っているそうだ。
「ご機嫌な歌が出る妖精布は高けぇからな」
そこに河童山の縫製技術が入りました布の小物を。
「お兄さん、このエコバックいくら」
「お姉さん、どうしたの？大丈夫？」
「ああ、ちょっとそこで転んじゃって、いつものことよ」
普通のフリマで売ることがたまにあるんだが。
「50円安くするわ」
「ありがとう」
今のお客さんと出会うために呼ばれたんだろうなと思ったという。
「災いが振りかかっているのが長いことあれは続いたやつだな」
それを努力でなんとかしようとしていた、付き合っていたことが。
ここから、福に転じだす。
「普通のフリマで売ってる場合、お客さんからこっちが見えてないのかなぐらい人気ねえから、そこでこっち見えるってことはなんかあるもんよ」
確実にこれだなが河童山にわかるものらしい。
「商売はそう好きではないが、こういう役回り任されることが多いから、悪くないと思っているさ」
そういって河童山は店じまいを始めた。