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感情的なダンジョン
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「腰木さん、今、戦闘許可証の受験者増えているって知ってます?」
「なんで?」
「ほら、未経験の人が受かったじゃないですか、だから自分にもチャンスがあるんじゃないかって」
「へぇ~いいんじゃないか?」
「あれ?反対とかしないんですね」
「なんでするのさ、人足りないわけだしさ、きちんと受かってくれる人ならば増えてもいいんじゃないの?」
いつも組んでいる秋澄が療養のため、他の職員と組んでいる。
「じゃあ、私が受けるとして、何が足りないから落ちてるってわかりますかね?」
「う~ん、悪いな、俺はやっぱりそういうのは専門じゃない、まだ秋澄に聞いた方が納得出来る答えが出るんじゃないかな」
「秋澄さんですか?」
その職員はなんで?という感じ。
「あっ、本部に連絡してくれ」
「どうかしましたか?」
「この近くにダンジョンがある」
「ダンジョンですか!」
聞くとその職員は怯えた。
「不味いな、歌が聞こえる」
「えっ?全然聞こえませんよ」
「こういうのは歌が終わると、完成するから、どうする?一緒に行くか?」
「いえ、本部の応援を待ちます」
「…そうか、じゃあ、俺は中に入って確かめかめるから、後は頼んだわ」
そういって走り出すと、ある地点でフッ!と腰木の姿が消えた。
そこに転移地点があるのだろう。
「比較的新しいのだな」
人工の建築物のような、それこそ、レンガで作られた通路のダンジョンで、奥から歌が聞こえる。
(歌詞から破滅願望がありと)
動画で公開されたら、特定の層には再生回数が伸びそうなのだが、まずいことにここはダンジョンである。
(正しい道を進むと、歌の音量が多少上がるのか)
素直な人間がダンジョンマスターなのだろう。
感情的ダンジョンと計画的ダンジョンの二種類があるとしたら、これは感情的なダンジョンである。
悲しみや苦しみが奥には眠って、それが破裂しかけているから、王子様の如く迎えに行くというのが解決のひとつの方法であって、
逆に計画的ダンジョンは、奥に見られたくないものがあるから、徹底的に妨害される。
(最終的に見られるぐらいならばって自爆するパターンもあるから)
腰木は一度そのダンジョンに遭遇してしまい、とんでもない目にあった。
(よく生きてたなって我ながら思うよ)
人によって見られたくないものは違う。
これだけは誰にも知られたくはない、そこにダンジョンが憑く。
ダンジョンも魔物のようなものだ。
人の心を餌とする、だからダンジョンは憑くと表現された。
そのままフラッと、奥にいた少年を確保して、ダンジョンから出ようと引き返したところに、KCJからの救援と合流できた。
「ダンジョンはこれから封印作業をしますが、他に人はおりましたか?」
「会ってないから、いないと思う」
誰かを巻き込むことなく悲しい歌は終わりを迎えた。
「えっ?一人でダンジョン潜ったの?」
「緊急だったしな」
秋澄のお見舞い、旬のフルーツの皮を剥きながら、腰木はその話をした。
「やっぱり吸血鬼だな、いいもの贈ってくるぜ」
つまみ食いしながらも、残りを秋澄に渡した。
「相変わらず、よくダンジョンに一人で」
「それはお前もじゃんか」
「私の場合は慣れたところしかいかないですよ」
「同じようなもんじゃねえ?」
「遭難したらどうするんですか」
「その時はナリタツさんでも呼んでくれればいいさ」
「あのね…そういう問題じゃなくて」
「言いたいことはわかるんだがな、慣れた場所では手に入らない経験もあるし、そこまでしないと俺はすぐに戦闘許可証取れなくなると思ってるし」
「そこまでこだわることなくないですか?」
「そこは意地よ、見栄と維持はこっちの世界じゃ大事なんで」
「痛い目あってからじゃ遅いですよ」
「早く復帰してくれや、そうしたらそんなこと言われなくてもすむだろ?」
回復魔法の使い手はいないわけではない、探せば組む相手は見つかるし、見つからないならお金を払えばいい。
「俺はね、こっちの世界にまだいたんだよ」
だが腰木のような人間と組める相手は、金を積んでも断られるだろう。
彼は自分に才能がないことは知っていて、こちら側に居続けたいと思っている人間だから。
「はっはっはっ、集会まで現場には出ませんから」
「やること積み上げて復帰をお待ちしております」
このぐらい言い合える相手、秋澄でなければ腰木と組み続けるのはおそらく難しい。
「なんで?」
「ほら、未経験の人が受かったじゃないですか、だから自分にもチャンスがあるんじゃないかって」
「へぇ~いいんじゃないか?」
「あれ?反対とかしないんですね」
「なんでするのさ、人足りないわけだしさ、きちんと受かってくれる人ならば増えてもいいんじゃないの?」
いつも組んでいる秋澄が療養のため、他の職員と組んでいる。
「じゃあ、私が受けるとして、何が足りないから落ちてるってわかりますかね?」
「う~ん、悪いな、俺はやっぱりそういうのは専門じゃない、まだ秋澄に聞いた方が納得出来る答えが出るんじゃないかな」
「秋澄さんですか?」
その職員はなんで?という感じ。
「あっ、本部に連絡してくれ」
「どうかしましたか?」
「この近くにダンジョンがある」
「ダンジョンですか!」
聞くとその職員は怯えた。
「不味いな、歌が聞こえる」
「えっ?全然聞こえませんよ」
「こういうのは歌が終わると、完成するから、どうする?一緒に行くか?」
「いえ、本部の応援を待ちます」
「…そうか、じゃあ、俺は中に入って確かめかめるから、後は頼んだわ」
そういって走り出すと、ある地点でフッ!と腰木の姿が消えた。
そこに転移地点があるのだろう。
「比較的新しいのだな」
人工の建築物のような、それこそ、レンガで作られた通路のダンジョンで、奥から歌が聞こえる。
(歌詞から破滅願望がありと)
動画で公開されたら、特定の層には再生回数が伸びそうなのだが、まずいことにここはダンジョンである。
(正しい道を進むと、歌の音量が多少上がるのか)
素直な人間がダンジョンマスターなのだろう。
感情的ダンジョンと計画的ダンジョンの二種類があるとしたら、これは感情的なダンジョンである。
悲しみや苦しみが奥には眠って、それが破裂しかけているから、王子様の如く迎えに行くというのが解決のひとつの方法であって、
逆に計画的ダンジョンは、奥に見られたくないものがあるから、徹底的に妨害される。
(最終的に見られるぐらいならばって自爆するパターンもあるから)
腰木は一度そのダンジョンに遭遇してしまい、とんでもない目にあった。
(よく生きてたなって我ながら思うよ)
人によって見られたくないものは違う。
これだけは誰にも知られたくはない、そこにダンジョンが憑く。
ダンジョンも魔物のようなものだ。
人の心を餌とする、だからダンジョンは憑くと表現された。
そのままフラッと、奥にいた少年を確保して、ダンジョンから出ようと引き返したところに、KCJからの救援と合流できた。
「ダンジョンはこれから封印作業をしますが、他に人はおりましたか?」
「会ってないから、いないと思う」
誰かを巻き込むことなく悲しい歌は終わりを迎えた。
「えっ?一人でダンジョン潜ったの?」
「緊急だったしな」
秋澄のお見舞い、旬のフルーツの皮を剥きながら、腰木はその話をした。
「やっぱり吸血鬼だな、いいもの贈ってくるぜ」
つまみ食いしながらも、残りを秋澄に渡した。
「相変わらず、よくダンジョンに一人で」
「それはお前もじゃんか」
「私の場合は慣れたところしかいかないですよ」
「同じようなもんじゃねえ?」
「遭難したらどうするんですか」
「その時はナリタツさんでも呼んでくれればいいさ」
「あのね…そういう問題じゃなくて」
「言いたいことはわかるんだがな、慣れた場所では手に入らない経験もあるし、そこまでしないと俺はすぐに戦闘許可証取れなくなると思ってるし」
「そこまでこだわることなくないですか?」
「そこは意地よ、見栄と維持はこっちの世界じゃ大事なんで」
「痛い目あってからじゃ遅いですよ」
「早く復帰してくれや、そうしたらそんなこと言われなくてもすむだろ?」
回復魔法の使い手はいないわけではない、探せば組む相手は見つかるし、見つからないならお金を払えばいい。
「俺はね、こっちの世界にまだいたんだよ」
だが腰木のような人間と組める相手は、金を積んでも断られるだろう。
彼は自分に才能がないことは知っていて、こちら側に居続けたいと思っている人間だから。
「はっはっはっ、集会まで現場には出ませんから」
「やること積み上げて復帰をお待ちしております」
このぐらい言い合える相手、秋澄でなければ腰木と組み続けるのはおそらく難しい。
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