浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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九奏竜

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「この街すごいですね」
「電波塔に竜がとぐろ巻いて寝ていたりすると迫力があるよね」
KCJに転職し、すぐに赴任となったので、見知らぬ街の駅についたところ、先輩職員が車で迎えに来てくれた。
「こっちの支部は一つの町みたいなもんだから、敷地内から出ないで生活をする職員もいるんだよ」
「せっかくなので観光も楽しみたいかと思います」
「そりゃあいい、KCJの職員は金払いがいいから、喜ばれる」
「そんなに景気悪いんですか?」
「そりゃあね、ため息が出るぐらいさ」
はぁ~
こっちの話が聞こえているのか、とぐろを巻いた竜のため息が聞こえた。
「九奏竜(きゅうそうりゅう)に気に入られたみたいだな」
「頭が9つあるんですか?」
「数えればあるよ、重なっているから数えるの難しいけどもね」
敷地内の社宅も用意されたが、独り身に一軒家は広い。
「庭も家庭菜園も自由だし、物足りないなら、社員農園もあるよ」
元々畑だった場所で、放棄するのでKCJさんどうだろうとお話があり、そこもKCJのものとなった。
「職員の子供さんやお孫さんやサメなんかが、勉強のために色々と育てたりしてるね」
「そういえば一軒家は一人だと大変だからって、定期的にサメの家政サービスでしたっけ、頼んでくれって言われました」
「あれ、本当に便利だよ、この間風邪ひいたんだけどもさ、いつもならば元気になったあとに、片付けとかしてたんだけども、そういうのしなくてもいいし、冷蔵庫がちゃんと食べ物入ってたから、ありがたいよ」
ああ、サメちゃんありがとう!
「じゃあ、俺はここまで、前の仕事で業界としては知ってるだろうし、たぶんそこよりはKCJは楽だよ」
そういって家の鍵を渡された。
仕事内容としては本当に楽、案内してくれた年下の先輩が前の職場の名前聞いてから、KCJが楽っていったが、本当に楽だった。
(前の仕事がブラックだとも言うが)
そう、気にはしてなかったが、あそこはブラックといえる。
人員が健康上の理由にバンバンやめて、生き残ったのが私一人で、それじゃあ、その部署は仕事にならない、さあ、どうしようか?と思ったときに。
『KCJにあなたも転職しませんか?』
が目についた。
なんでここにこんなものが?いや、しかし、こういうものらしい、人は探していると普段からあるのに、まるでそこに初めて存在していたかのように思うものだ。
そこから何件か転職の案内を見たが、一番気になるものから受けてみよう。
「ようこそ、KCJへ、それでいつからこれます?赴任という形ならばいつでもいいですよ」
あれ?
「ご家族はおられますか?お一人?では家政のサービスをつけますので、これで生活も安心ですね」
あれ?
「もう決めていいんですか?」
「いいんじゃないですかね?そのためにお越しになられたのではありませんか?」
「デハオネガイシマス」
「はい、わかりました。それで戦闘職の許可証はどうしますか?」
「どうしますかね?」
「前職で戦闘経験がおありになるそうですが?」
面接官は履歴を確認しながらいう。
「子供の頃から関わってましたからね、それこそ小さい頃はお使いを頼まれたり」
「それは…よく騙されませんでしたね」
「この話するとだいたいその反応をされます」
「でしょうね、戦闘職の許可証を取りますと、毎月と出撃の毎にも出ます」
こんなもんですと、職員の平均金額を見せてくれた。
「金銭感覚狂いませんか?」
「負けないでくださいね」
ああ、これは前職とは違った意味で厳しい職場である。
戦闘職許可証も楽に取れた。
「その魔法で体を覆い方、誰に習ったの?」
「特に誰に習ったというわけではないですかね」
覆っている状態だと触った方がダメージを受ける状態、これで距離を詰めたり、離れたりして間合いを管理している。
「君、何かしら運命みたいなもの背負っているんじゃないか?」
「まだそういうのわからないんですよ」
「勝手に割り当てられる恐れあるから、適当なところで決めた方がいいよ」
高望みをするとろくなことにならない相らしい、代わりにほどほどにすると大吉を引けるとの話。
「そういうものなんですか?」
「ああ、ごめん、何の話してたっけ」
聞き返すと、そんな感じだったので、美味しいランチの店はどこですか?なんて無難なことを聞いた。
(大変だな、神格方面からのメッセージ受けとるって)
体に負担が大きいようで、そのまま医務室に行くと行ってた。

まさか一発で取れるとは思わなかったので、落ちたときを考えてとっていたスケジュールは、観光に費やすことになったのだが。

その日竜が歌っていたんだ。
♪♪
なんか?
♪♪♪
増えてない?
♪♪♪♪
やっぱり増えている。
♪♪♪♪♪
電波塔の竜が気になって見に行くと、女性がふらふらと向かうように歩いていた。
♪♪♪♪♪♪
あっ、この人のために竜は歌っているのか。
♪♪♪♪♪♪♪
しかし、すごい合唱だな。
♪♪♪♪♪♪♪♪
9つの頭が重奏するから、九奏竜か。
♪♪♪♪♪♪♪♪~~♪
その旋律に最後の竜が加わった瞬間。
フラッ
耐えれなくなった女性が、倒れそうになった。頭から落ちそうになったので急いで体を支える。
支えながら竜を見上げたら。
ゴメンね!
そんな気はありませんでしたと申し訳なさそうな顔をした竜がいた。
イタズラして反省したケットシーみたいな
顔を竜もするんだな。
「あれ、私は?」
「大丈夫?」
「あなたは」
「これは申し訳ない」
「倒れる前までは覚えているわ、助けてくれたのね」
「どうなっているか教えてくれる」
「歌っているわねって、それでどんどん歌う竜が増えていって、九匹目で、あっ、これはダメだわって、体に力が入らなくなって倒れるまでは覚えてる」
「頭から落ちるところだった、そしたら大怪我してたよ」
「怖いわね、いつもならば怖いともっと感じるんでしょうけども、そういう恐怖心が今、歌のせいかふわふわしてる」
「悪気はないと思うよ」
「たぶんね」
「それはわかってるんだ」
「だってあの竜を子供の時から見てるのよ、あなたにもあの竜は見えてるの?」
「見えてるよ」
「博物館にある九奏竜の絵があるの、あっちは少し格好よく書かれているのよ」
「へぇ~それはみたいな、今度案内してくれる?」
「覚えていたらね、悪いけど、もう起きてられない…」
この後始末のため、ここで休日は終わってしまう。

次の日。
コンビニのお得なキャンペーンが今日から始まるので、KCJ最寄りのコンビニにいくと、みんな考えていることが同じだったため、買えなかった。
しょうがない、午後に外回りがあるから、その時に別のコンビニで買い物しよう。
そこで
「○○円になります、ありがとうございました」
コンビニから出たところで。
「初めまして」
意味深な挨拶を何故かしたところ。
「初めましてですか?」
「…」
「…」
沈黙。
「あれ?昨日のこと覚えているんですか?」
「覚えてましたよ、今度は博物館に行きませんか?って」
「そうです、嬉しいです」
「もしも私が覚えてなかったらどうするつもりだったんですか?」
「その時はもう一回誘ってましたよ」
この男、調子がいいこといってると彼女は思っていたのだが、それで実際はどうでしたか?本人に直撃したところ。
そんなことなんで聞くのさなんて、赤くなりながら。
「そんなことはなかったです」
だ、そうです。







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