浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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頼むよマイフレンド

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「波里さん」
「あっ、どうしました?」
支部に顔を出したら、他の職員に呼び止められた。
「ちょっと聞きたいことがありまして」
わけありかなと思ったので、食堂の喫茶部に向かう。
「視るってどうやるんですか?って」
波里の瞳は生きているものの芯を捉える浄玻璃の目である。
「そういう修行でもするんですか?」
この職員はそういった生来のものは持ってなかったはずだ。
「あったら便利だなっていう好奇心ですか?」
「好奇心ではないですよ、ほら、先日他のところで職員が襲われたんで、そういうの聞いちゃったら、自分も警戒とか上手くなった方がいいかなと」
「ああ、そういうことでしたか」
それならば多少は話をしても問題ないだろう。
「ということは私以外にもこの話は聞いてますよね」
「はい」
どこかに所属しても、こういう能力には個人差というのが出てしまうので、この辺は本人の努力で探すのは昔から有効である。
「そうですね、もしもそういうのを身に付けたとして」
「身に付けれると思いますか?」
この人は一般職である。
「誰でも身に付けれるというものを教えてるところありますから」
ただしそういうところは高い。
「安くはないですね、そうですね、習得するまでどのぐらいかかるかわからないなら、裏購買の裏で身代わり○○なんて置いている時がありますから、それ一つ買うといいと思います、値段は手頃ですし、お金持ってるところの子女がこっちの世界に関わるとき、親がそういうの渡すんですよね」
「裏購買の裏」
「行ったことありません?」
「ないです、それならば私より詳しい人、管理の名伏せの人ならば間違いないんですが、そうじゃないのならば…この支部だと誰だろう、そういえばこの間ナリタツさん見かけたんですが、ナリタツさんがいたらナリタツさんかな」
「襲われた職員、ナリタツさんと一緒だったんですよ」
「それならすぐに頼めないか…」


「いきなり連絡してすいません」
「構わないよ、どうしたんだ?お前の方から連絡するだなんて」
ナリタツは相談できる相手、今は寿退社している先輩に連絡をした。
「…自分の判断でそれがベストだって思っているのならばそれでいいわけだし、そこは自分を追い詰めないでさ、周囲と合わせたらどうだ?」
「それが出来たら苦労はしませんよ」
「わかってるって、そういうこと出来なくて意地張っちゃう、格好つけるのがお前だもんな、俺はそういうところいいと思うよ、生きて帰ってきてるからこんな話で済むんだぞ、葬式でバカヤローって叫ばさないでくれよ」
「はい…」
「その秋澄ちゃんに責任を感じるのはわかるけども、まだやめるとか、そういう話も出てないんだろ、出てから悩め、これが基本。でもまあ、今の状態ならばどの選択肢になったとしてもわりと動ける状態にしておけ」
「はい」
「仲良くできるうちは仲良くやっておけの、命かかってる仕事だとさ、そういうのやっていけないって思われたら、すぐ解散になっちゃうんだからさ」
「後ですね」
「どうした?」
「現在サラリーマンの方が戦闘許可証をとりまして、今色々と教えることになって」
「いいんじゃないの?それ詳しく教えろよ」
長電話が終わると、ナリタツはすっきりした顔をしていた。

先に合流してから現地に向かえば良かった。
それならこんなことにならなかっただろう。
腰木は反省をする。
ヴァンパイアはオールドもニューも、マンハントには長けている。
彼ら彼女らは人の生命力を食らうので、人の命を増幅や補完する回復技能持ちは美味しいのだという。
「全部の個体がそれわかるわけじゃないんで、たまたまわかっているか…」
「わかってるか?」
「情報が漏れたかな?って」
「そういう気配ありました?」
「戦闘許可証持ちって誰でも取れるから、あの場にあっちと繋がっているのがいてもおかしくないし」
「でも秋澄もナリタツさんも知ってる人そこまでいないですよ」
回復も討伐も二人の扱いは地味な部類にある。
「だからどっからか情報出たんだと思う」
「それはこう…弱そうに見えた、いけるとか思ってるんですかね」
「いや、逆だよ悪くない相手だと思われたんだよ」
「まぁ…それなら」
「なんでお前が得意気になるんだよ、大問題だからそれ」

「君は昔から幹事が旨かった、財をなす前に君のような人間に会えたことは幸運と言える」
「まさか魔物と取引することになるとは思わなかったよ」
「人はやめたが、そのぐらいしか変わりはないよ。それに嫌ならば断れば良かったのに」
「そうだな」
「あれかな、断ったら暴力を奮われるとか思ったとか?」
「そんなもので商売人が務まるとでも?」
「そうだね、そうだね、昔の方が血生臭かったものね。それでもなんで引き受けてくれたのか謎だよ」
「それは私にも不思議だし、お前から話が来る前にちょっと絶望してたんだよ」
「君は人が良すぎるから、それこそ裏切られるなんてたくさんあったじゃないか」
「それでもさ、何年か経過してからお前が声をかけたのならば断ってただろうが、そうだな、今回ばかりは人が嫌いになりそうだよ」
「たぶん俺と組むと取り返しがつかないよ」
「それでもまだマシなことがある」
「へぇ~、じゃあ頼むよマイフレンド、本当ならば後20年ぐらいは人間のフリをするつもりだったんだ、そうでなければ長生きしている奴等の裏はかけないと思っていたからね」
「わかった、それでわかっていると思うが、私はお前と同じようになれないから、私が死んだら、それで終わりだ」
「それはわざわざ言うことはないんじゃない?俺が人間だったとき、同じ穴の狢に間違われたりもしたけどもさ、君は私と違って苦行の修行僧といっていい。俺と取引しても特に高くはつけなかった、だからこそ札束ではたいたりしたんだけどもね、あれは面白かった」
「そういえば金に興味が無くなったという話だったが?」
「ああそれは本当、あんなに前はお金大好きだったのに、自分でも不思議だな…今は時間をもて余してる感じ、なんだいこの時間というやつは、なかなか過ぎないじゃないか、君に暇潰しにちょうどいい相手を見つけてもらわなければ、これじゃあ生きてるのか死んでいるのかわからなくなっているところだったよ」
人をやめるにも実はコツがある。
コツがわからないでやめた場合は、このように恐るべき考えを持ち、驚異と化す。

「何が起きたか覚えてますか?」
「はい」
車に乗っていたんです。
私は助手席だったんですけど、先に降りて、外を確認しようとして。
ドア閉めてから、見回して、運転席のアキタツさんがシートベルトをはずしながら、こっちを見ていたら、アキタツさんの表情が変わって。
「頭は打ちましたか?」
「髪は地面に触った感じはありましたけども」
体が浮いて、倒れるなとわかったときには咄嗟に腕で守っていた。
「あっ、髪、短くなってますね」
「すいません、治療が必要でしたので」
「髪はまた伸びますし」
「ただ切り揃えたわけではありませんし、まだお風呂に入れませんから、特別にこちらの方をお呼びしました」
外で待っていた春隣が顔を見せ、一礼して入室してきた。



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